第五十一話 《エビルウィンド》
そのとき――空間が歪んだ。
外部からの干渉。敵がコア領域へのアクセスを試みている。白い空間の端が、黒く染まりかける。
「……来るか」
ネオが呟いた。
光が、静かに言う。「……ここへの干渉は、私が感じてた。でも――今は、止まってる」
「止まってる?」
「さっきまで来てたのに――急に、来なくなった。向こうが、止めたのかも」
ネオは《マスターリスト》で外部の状況を確認した。干渉の波が――確かに、引いている。潮が退くように、静かに。
「……なぜだ」
「分からない。でも――今は、それより」
光が、空間の奥を見た。「……ここに、まだボスがいる」
「まだいるのか」
「うん。コア領域を守るための番人。外部の干渉が本物の敵だとしたら――こっちは、内側の敵」
「……どんな姿だ?」
「嵐、かな。形がない。コア領域全体を侵食しようとする、悪いデータの塊」
その言葉と同時に――空間に変化が起きた。
白い光が、黒く染まり始める。端から、じわじわと。ノイズが走る。音がしない嵐が、内側から押し寄せてくる。空気が腐っていくような感覚。
「……来た」
ネオが立った。カイとリリィが構える。
「光――下がってくれ」
「でも――」
「俺がやる」
ネオは嵐に向かった。
《シフト》で渦の中に入る――ノイズがHPを削る。
中心に、核がある。渦の奥に、固まりがある。ここが根だ。
止める――《ピグマリオン》。
「止まれ」
渦が――わずかに、鈍った。
今だ。
「閉じろ!」
開けるのではなく――嵐を、内側に押し込める。封じ込める。逆方向の《マスターキー》。
ガチャン、と重い音がした。金属が噛み合うような音が、音のないはずの嵐の中に響いた。
渦が内側に縮んだ。圧縮される。そして――
爆発した。
白い光。全員が吹き飛ばされる。
「……!」
着地する。HPが削れた。しかし――ノイズは消えていた。黒かった空間が、また白く戻っていく。
視界にログが走る。
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【Master Authority Fragment Detected】
【マスター魔法:《エビルウィンド》取得】
全プレイヤーを強制ログアウトさせる
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「……全員を、強制ログアウトできる」
リリィが息を呑む。「使ったら――全員が出られる?」
「そうだ。でも――使い方を間違えると、データが壊れる可能性もある。だから――最後の手段だ」
光が、ネオに近づいた。「……怪我は?」
「ない」
「嘘だ。HP、見えてる」
「……かすり傷だ」
光が、少しだけ呆れた顔をした。「音央は昔から、そうだった」
「……うるさい」
リリィが、その様子を見て――小さく、笑った。




