第四十話 最後の砦
廃都の北端に、砦があった。
廃都よりさらに古い。石の積み方が違う。この世界の「最初期」に作られたエリアだ。開発のごく初期、まだゲームの形が固まっていない頃の痕跡が、そのまま残っている。
「……ここは開発初期のエリアだ。テストで作って、そのまま残った場所」
ネオが説明する。
「放置された場所?」
「完成していない場所、とも言える。だから――ルールが、半分しかない」
「半分しかない?」
「完成したエリアは、ルールが整ってる。モンスターの出現、地形の挙動、アイテムのドロップ。でも未完成エリアは――」
「ルールが壊れてる」
「そうだ。逆に言えば――こちらのルールも、半分しか適用されない。魔法が効かない場合もある」
リリィが眉をひそめる。「それって……慎重に動かないと」
「試しながら進む」
砦の門は、崩れていた。入れる。
内部は――薄暗く、静かだった。しかし《マスターリスト》が、反応していた。この砦の中に――複数の存在がいる。プレイヤーでも、NPCでもない反応。
「……いるな」
「何が?」
「分からない。識別子が――空白だ」
「空白?」
「存在するのに、定義がない。そういう存在だ」
カイが小さく言う。「……俺みたいに?」
「……少し違う。お前には設計師のコードがある。でもこれは――本当に、何もない」
深部へ向かう。空気が重くなる。光が少なくなる。足元の石が湿っている。
そして――扉の向こうに、それはいた。




