第三十四話 《ピグマリオン》の逆用
「ネオ、何するの」
リリィが後ろから警戒する。
「実験だ」
「実験って……」
ネオは兵士の前に立った。距離、一メートル。兵士は反応しない。立っているだけ。
止めるのではなく――意識を注ぎ込む。空洞を、満たす。
《ピグマリオン》を――逆回しにするイメージ。固定するのではなく、解放する。
手を伸ばす。兵士の胸部に触れる。
「……」
何かが、通った。
兵士の目に――かすかな光が宿った。
「……え?」
カイが息を呑む。
兵士が――ゆっくりと、頭を動かした。ネオを見た。目に、焦点が生まれた。
「……指示、を」
声が出た。低く、機械的だが――確かに声だ。
「この集落を守れ」
ネオは一瞬だけ考えて、そう言った。
兵士は少しだけ間を置いてから――振り返った。集落の外周へ向かい、守護の姿勢を取った。
リリィが呆然とする。「……今の、何したの」
「空洞に、意図を入れた。《ピグマリオン》の逆方向――使うものに、使われるものを決めさせる」
「それって、命令できるの?」
「今のところは単純な指示しか通らない。でも――番兵として機能するなら、十分だ」
カイが感心したように言う。「敵の駒を、味方に変えたな」
「駒だから、使い方次第だ」
視界のログが、静かに一行流れた。
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「……創造的だね」
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「それが仕事だ」
ネオは残りの兵士に向かった。一体ずつ、意図を入れていく。
やがて――集落の外周を、かつての番兵たちが守り始めた。向こう側を向いて、外からの脅威に備えて。




