第三十二話 《ピグマリオン》
それは――人形だった。
等身大ではない。三メートルはある、木製の巨大な人形。関節が金属の蝶番で繋がれ、目の部分には赤い宝石が嵌まっている。天井から透明な糸が垂れ、それが人形の各関節に繋がっていた。
「マリオネット型ボスか……」
ネオは素早く状況を読んだ。足元に糸の跡がある。天井から垂れた透明な糸が――この人形を操っている。糸は見えないほど細いが、確かにある。
「糸か。切ればいい?」
カイが問う。
「糸を切っても、また繋がる。この手のタイプは――操作源を断たないと倒せない」
「操作源って?」
「……どこかに術師がいる。または――術式そのものが核になっている」
人形が動き出した。両腕を広げ、ゆっくりと――だが確実に近づいてくる。木の軋む音。金属の摩擦する音。
「逃げる?」
「逃げない」
ネオは《シフト》で人形の背後へ。《マスターキー》を構える――が、引っかかりがない。
鍵穴がない。閉じているものじゃない。
《ドロー》で引き寄せを試みる――人形は引っ張られない。固定されている。
カイが石壁に飛び乗り、高所から叫ぶ。「ネオ!糸、見えるか?」
「見える!」
「天井の――中心部。糸が一か所に集まってる場所がある」
ネオは仰ぎ見た。確かに――天井の中央に、糸が束になって繋がっている点がある。そこだけ、空間が「固まって」いる。
あそこが核か。
しかし高い。《ジャンプ》で飛べる距離ではない。
「リリィ!」
「なに!」
「足場を作れるか!?防御バフでもいい、踏み台になるやつ!」
「……やってみる!」
リリィが詠唱する。魔法陣が床に浮かぶ――光の足場が現れた。一段、また一段。
「《ジャンプ》――《シフト》――」
ネオは跳んだ。足場を踏み台に、さらに高く。天井まで、あと三メートル。
その瞬間――人形の腕が伸びた。直撃コース。
「カイ!」
「任せろ!」
カイが壁を蹴って飛ぶ。人形の腕を――身体で受けた。衝撃。HPが削れる。
「……行け!!」
ネオは最後の一歩。手を伸ばす。核の点へ。
「開け」
カチリ。
天井が――光った。糸が一斉に千切れる。人形が――ガクン、と崩れた。関節が外れ、木のパーツが床に散らばる。轟音の後、静寂が戻った。
「……倒した?」
カイが咳き込みながら立ち上がる。「……倒したな」
「無茶するな」
「お前が言うな」
リリィがカイに回復魔法をかける。「二人とも、本当に……」
ネオは、床に散らばった人形の残骸を見た。木の破片。金属の蝶番。赤い宝石が、光を失って転がっている。
そして――視界にログが走った。
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【Master Authority Fragment Detected】
【マスター魔法:《ピグマリオン》取得】
対象を人形化し、一定時間行動不能にする
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「……なるほど」
ネオはその魔法の感触を確かめた。人形化する。動けなくする。操ることはできない――ただ、止められる。
「使い方によっては……相当厄介だな」
リリィが眉をひそめる。「自分で言う?」
「事実だから」
視界の端で、ログが一つ。
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「……いい魔法、手に入れたね」
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「だろ。これで――少し、動きやすくなる」




