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マスターネオはネコまない ―黒猫GMのマスター魔法奪還ログ―  作者: Master NEO
第一章 奪われたマスター魔法

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第三話 開かないはずの扉

 ワイバーンは、まだ倒れていない。


「……しぶといな」


 ネオは息を吐いた。何度叩き込んでも、削れるのはわずかずつだ。致命打には程遠い。このペースで続けた場合、終わりが見えない。


「これ、普通にやったら一時間コースだな」


 軽く笑う。しかしその額にはじわりと汗が滲んでいた。ミスすれば即死。それは変わらない条件だ。


「お、おい……!」


 後ろから声がする。さっきのプレイヤーだ。なぜかまだここにいる。


「逃げた方がいいんじゃ……!」


「逃げても追ってくるぞ、あれ。しかも今の状態だと、多分エリア外まで来る」


「え……?」


「完全にバグってる」


 ワイバーンが再び突進してくる。ネオは横に転がって避ける。翼の風圧が毛並みをなでていった。


「ったく。倒すしかない、か」


 だが――そのときだった。


 ふと、違和感が走る。


「……ん?」


 ネオの視線が、森の奥へ向く。そこだけ、空気の質感が違う。木々の隙間に、何もないはずの空間がある。しかしその空間だけが――わずかに歪んでいる。揺れている。まるで水面に小石を落としたような、微かな波紋。


「……あー」


 ネオは目を細めた。「懐かしいな」


 開発初期にテスト用で作られた隠しエリア。本来は外部からアクセスできない領域。あのバグが今も生きているとしたら、まだ残っているはずだ。


 ワイバーンが迫る。しかしネオは、逆方向へ走り出した。


「おい!?どこ行くんだよ!」


「寄り道だ!」


 ネオはそのまま、歪みの中へ飛び込んだ。


 瞬間――視界が切り替わる。


「……ビンゴ」


 そこは、小さな空間だった。


 白い部屋と表現するしかない。何もない、色も質感もない空間。しかしその中央に――一つの扉があった。古びた、鉄の扉。重たく、閉ざされている。表面には錆が浮き、長い間誰も触れていないことを物語っていた。


「完全にデバッグ用だな」


 ネオは近づく。背後で、ワイバーンの咆哮が響く。ここにも入ってこれるらしい。バグの連鎖だ。


「侵入制限も壊れてるか。ほんと終わってるな」


 ネオは扉に手をかける。開かない。


「……まあ、そうだよな」


 この扉は管理者専用だ。そして今のネオは、管理者ではない。


「さて」


 ネオは少しだけ考えた。本来ならコマンドで開ける。だがそれは使えない。


「じゃあ、別のやり方だ」


 ワイバーンが白い空間に侵入してくる。距離が縮まる。もう猶予はない。


 ネオは扉を見つめた。


「『開ける』ってのは、何だ?」


 鍵があるから、開かない。なら――鍵を、開ければいい。「閉じている」というその状態そのものを、ひっくり返せばいい。


 その瞬間。視界の奥で、何かが「引っかかった」。見えないはずの領域。ロックされたコマンドの、ほんの端切れ。


「……そこか」


 ネオは手を伸ばす。空中へ。何もない場所へ。だが――確かに「ある」。指先に触れる感覚がある。


「開け」


 小さく、呟いた。


 カチリ、と。音がした気がした。


 次の瞬間。


```

【Master Authority Fragment Detected】

【権限:一部解放】

```


 ネオの目が見開かれる。


「……は」


 扉が、ゆっくりと開いた。軋む音が白い空間に響く。


「マジかよ」


 その瞬間――ワイバーンが突っ込んでくる。ネオは振り返る。


「ちょうどいい」


 開いた扉の向こうは――真っ暗な穴。奈落のような深さの、何もない暗闇。


「落ちとけ」


 ネオはギリギリで横へよける。ワイバーンが制動できずそのまま突っ込み――落ちた。巨大な咆哮が遠ざかり、遠ざかり、やがて音が消えた。


 静寂。


「……よし」


 ネオは息を吐く。


 そのとき。手の中に、何かが残っていることに気づく。いつの間にか、拳の中に収まっている。小さな光。鍵の形をしていた。


```

【マスター魔法:《マスターキー》取得】

あらゆる「ロック」を開閉する

```


 ネオはそれを見つめた。手のひらの中で、鍵が静かな光を放っている。


「なるほどね」


 口元がゆっくりと歪む。


「取り返せるってわけだ、マスター魔法を」


 マスター魔法――それはマスター権限をゲーム内で行使するための、プレイヤーには使えない特殊な力だ。権限を剥奪されても、世界の中に散らばった「かけら」として残っている。


 そのとき――ログが、また一行。


```

「それ、いいね」

```


 ネオは空を見上げる。白い空間の「上」を。


「……見てるな」


 そして、笑った。


「じゃあ次は、もっと派手にいくか」


 黒猫は、扉の奥へと足を踏み入れる。壊れた世界の、さらに深くへ。

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