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マスターネオはネコまない ―黒猫GMのマスター魔法奪還ログ―  作者: Master NEO
第一章 奪われたマスター魔法

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第二話 勝てない敵と、ズルい手

「助けてくれぇぇぇ!!」


 森に、裂けるような声が響いた。


 ネオは足を止めた。


 視線の先、初心者装備のプレイヤーが全力で逃げている。ぼろぼろの革鎧、頼りない短剣。それでも必死に走っていた。その後ろから迫るのは――


「ワイバーン、だな」


 小さく呟く。翼を広げた体長が、木々の梢をかすめている。あり得ない配置だった。ここは低レベル帯の森だ。本来ならスライムか、せいぜい小型のウルフが出るはずの場所。それが今、空から降りてきたのはレイド級モンスター。しかも――


「挙動がおかしい」


 ワイバーンは低空を滑るように飛び、一直線にプレイヤーを追っている。通常ならヘイトの分散や警戒範囲の制限があるはずだ。だが今は違う。まるで最初から、そのプレイヤーだけを殺すと決めているかのような、ぶれない追尾だった。


「絶対に殺すって決めてる動きだな」


 プレイヤーが転ぶ。石に足を取られたのだろう、地面に倒れ込む。その瞬間、ワイバーンが口を開いた。ブレスが来る。当たれば即死。


 ネオは一瞬だけ自分の身体を見下ろした。黒い前足。巨大な体。


「見た目だけボスで、中身は一般プレイヤーか」


 苦笑する。今の自分のステータスでは――正面から戦えば絶対に勝てない。


 だが。


「普通にやれば、の話だけどな」


 ネオは動いた。プレイヤーに向かってではなく――横へ。大きく、回り込むように。


「え?」


 プレイヤーが戸惑いの声を上げる。


 ネオは地面を蹴り、太い幹に飛び乗る。さらにそのまま枝へ枝へと跳び移り、ワイバーンの進路より高い位置を確保した。


「この辺り……確か」


 記憶を辿る。GMとして何度も確認したデータの一片が浮かんでくる。ここは、開発初期に当たり判定が甘かったエリアだ。


「まだ残ってるか?」


 ワイバーンがブレスを吐く。プレイヤーを焼き尽くす軌道で、炎が迫る。その瞬間、ネオは叫んだ。


「そこから一歩も動くな!!」


 プレイヤーが本能的に硬直する。ブレスが直撃――したはずだった。


 だが。


 ダメージが、入らない。


「……は?」


 プレイヤーが呆然とする。炎に包まれているのに、HPバーが微動だにしない。ネオは静かに息を吐いた。


「やっぱりな。当たり判定、ズレてる」


 ブレスは視覚上は直撃している。しかし内部の当たり判定システムでは――わずかに外れている。開発段階で修正し忘れたバグが、今も生きていた。


「昔のバグが残ってるとか、笑えないな」


 ワイバーンが怒りをあらわにし、ネオへとターゲットを変更する。


「さて、と」


 ネオは枝の上で構えた。


「ここからが問題だ」


 攻撃力が足りない。HPを削れない。つまり――正規の手段では倒せない。


 だが。GMだった頃の記憶が、ゆっくりとよみがえってくる。この世界の初期マップには、いくつかの「仕様漏れ」が存在する。開発途中で放置された座標のズレ、当たり判定の同期ミス。そして――


「……当たる場所と、当たらない場所がある」


 ネオの目が細くなった。


 そのとき、ログが割り込んだ。


```

【System Notice】

再調整を行います

```


「来たな」


 ワイバーンの身体が歪む。ポリゴンが崩れ、再構築される。そして――さらに巨大化した。見上げるほどの体躯が、さらに一回り膨れ上がる。


「は?」


 プレイヤーが絶句する。


「強化入れるか、普通」


 ネオは苦笑する。「ほんと性格悪いな」


 続いて、ログが一行追加された。


```

「もっと足掻いて」

```


 ネオの動きが、一瞬だけ止まる。


「……その言い方」


 小さく呟く。どこか、引っかかる。聞いたことがある気がする。この声の質が。


 だが――


「ま、いいか」


 すぐに思考を切り替えた。「いいね、そういうの。じゃあ見せてやるよ」


 ネオはあえて動かない。ワイバーンが翼を振る。ネオの位置が強制移動させられそうになる。だが――同じ座標に引き戻される。移動先のパターンが、繰り返されている。


「思ったより単純だな」


 ネオは地面を転がった。ワイバーンの巨大な足がネオの身体を踏み抜く。しかし――すり抜けた。


「なっ――」


 ネオは笑う。「地形だけじゃない。当たり判定、全部ズレてる」


 開発初期の仕様漏れ。判定が一部同期していない。つまり、見た目上の命中と、実際のダメージ処理の間に、微妙なずれがある。


 ネオはワイバーンの懐に潜り込む。一点を狙う。バグの狭間、当たり判定がきちんと機能している場所を。


「ここだ」


 前足を叩き込む。今度は――確実に当たった。


 ワイバーンが苦鳴を上げる。HPがわずかに削れる。


「よし」


 微量だ。だがゼロじゃない。


「削れるなら、勝てる。時間かかるけどな」


 ネオは笑った。その目に、諦めの色はない。


 戦いは続く。泥臭く、地味で、だが確実に。


 その様子を眺めながら。どこからともなく、ログが一つ流れた。


```

「……そう来るんだ」

```


 ほんの少しだけ。楽しそうな気配が、文字の向こうに混じっていた。


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