第二十五話 《メタモルフォーゼ》
鏡から出てきたのは――プレイヤーの形をした何かだった。
顔がない。身体の輪郭はある。装備も一応ある。しかし、内側が空洞だ。まるでアバターだけが動いているような、そういう存在。
「……なんだこれ」
「外部からの干渉が、形を持ったのか」
ネオは瞬時に分析した。「外部から操作されてる傀儡だ」
「倒せる?」
「やってみる。――《シフト》」
距離を詰める。一撃。しかし――相手は《シフト》で位置をずらした。
「……同じ魔法を使ってくる?」
「外部が、俺の魔法データを読んでる」
相手は《シフト》と同等の速度で動く。《ドロー》を使っても――相手も《ドロー》で引き戻す。
「コピーされてる……!」
リリィが叫ぶ。
「ネオの魔法を全部コピーされたら、どうするの!」
「コピーできないものを使う」
「何があるの!」
「……まだ持ってない魔法だ」
その瞬間――ネオの思考が繋がった。
《メタモルフォーゼ》――ステータスを変える。数値を変えるだけじゃない。自分の「在り方」を変える。
相手は今の「ネオ」をコピーしている。ならば――「ネオ」を変えてしまえばいい。
攻撃型の大型黒猫――ではなく。
ネオは鏡の破片を見た。そこに反射した自分の姿――巨大な黒猫。
これが今の俺だ。でも――別の俺になれるとしたら?
意図する。何に変わるか。目的は何か。
速度。最大限の速度。攻撃力は捨てていい。防御も要らない。ただ――速く。
ステータスが、変化する感覚。身体が――細くなる。小さくなる。
普通の、黒猫のサイズに。
「え?」
カイが呆然とする。
ネオは動いた。相手の動きが――追いつかない。コピーが更新されていない。
そうだ。コピーは今の俺を基準にしてる。俺が変わった瞬間――コピーはズレる。
相手の懐へ。一撃。
相手が《シフト》で逃げる。しかしネオも《ジャンプ》で追う――存在を捕捉して飛ぶ。
「!」
相手が初めて、反応が遅れた。《ジャンプ》のデータが、まだコピーに反映されていない。
「ここだ」
《ドロー》で引き寄せ、《マスターキー》で――その内側にある、外部の接続点を開く。
「開け」
カチリ。
接続が切れた。傀儡が、崩れる。光の粒子になって、散っていく。
静寂。
ネオは――元の大きさに戻った。
視界にログが走る。
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【マスター魔法:《メタモルフォーゼ》取得】
自由にステータスを変更する
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「……格好良かった」
カイが言う。
「うるさい」
「格好良かったって言ってるのに!」
リリィがため息をつく。「……この人、本当に素直じゃないよね」
「素直に生きてたら、GMなんてやってられない」
ネオはそれだけ言って、散った光の粒子を見ていた。
外部からの干渉。段々と、向こうも本気になってきている。
「急がないとな」
小さく、一人で呟いた。




