第二十一話 《ジャンプ》
座標ではなく――存在に、飛ぶ。
ネオは暗闇の中で考えた。
《シフト》は自分の身体を、指定した座標に移動させる。だから目視範囲内でしか使えない。
だが――もし、座標ではなく「対象」を指定できたら? 存在そのものに向かって動けたら?
「カイ。あのNPCの子供――名前は分かるか」
「ラフと言うらしい。さっきセナが教えてくれた」
「ラフ、か」
ネオは目を閉じた。NPCの識別情報。名前。存在。この世界に存在する、ラフという個体。
ラフ、という存在が――今、あの光の場所にいる。
イメージする。名前ではなく、存在そのもの。
そこへ、飛ぶ。
何かが、指先で引っかかった気がした。細い糸のような感覚。ラフという存在へと繋がる、見えない線。
「……あった」
その線を、掴む。手繰り寄せるのではなく。その線を、辿る。
《シフト》とは違う。座標ではなく、存在へ向かう動き。もっと直接的な何か。
「いく」
一歩、踏み出した。
視界が――飛んだ。
気づいたときには、暗い森の中にいた。足元に、小さな存在が丸まっていた。
「ラフ!」
子供のNPCが顔を上げる。年齢にすれば五、六歳に相当するくらいの、小さなアバター。目が赤くなっている。
「おにいちゃん……?」
「猫だけどな」
「……ねこ?」
「そう。迷ったか?」
ラフはこくりと頷く。「……光が見えたから、ついていったら、帰れなくなっちゃった」
「光?」
「きれいな光。でも――消えちゃった」
ネオは周囲を見回す。モンスターの気配はない。ただ――木の間に、かすかにノイズが漂っていた。
「連れて帰る。掴まってろ」
「……ひっかく?」
「しない」
ラフは恐る恐る、ネオの背中にしがみついた。小さな手が、毛並みを掴む。
ネオは《ジャンプ》を使う。今度は、カイへ向かって。
瞬間移動。
カイの目の前に、ネオとラフが現れた。
「……え?今どこから」
「飛んだ」
「飛んだ!?」
「そう。《シフト》とは違う。存在に向かって飛ぶ」
視界にログが走る。
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【マスター魔法:《ジャンプ》取得】
特定のプレイヤーまたはNPCの元に瞬間移動する
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「……なるほど。射程、ないのか?」
「存在が分かれば、どこでも飛べる。たぶん」
「たぶん、か」
「今試したとこだからな」
カイは笑った。「強くなったね、また」
「まだ足りない」
ラフが、ネオの背中から顔を出す。「おにいちゃん、ありがとう」
「猫だって言ってる」
「……ねこにいちゃん」
カイが噴き出す。ネオは一瞬だけ表情を崩して――また、真顔に戻った。
「集落に帰るぞ」
三人は、森を抜けた。




