第十六話 ヴェルナルの記憶
市場を抜けると、街の中心部に出た。
かつての広場。時計塔が、傾いたまま立っている。その下に、ベンチが残っていた。割れているが、かろうじて座れる。
「少し休もう」
リリィが提案する。
「異議なし」
カイがすぐに賛同する。ネオも黙って座る。
ヴェルナルが、少し離れた場所に立っている。この老人のNPCは、どこへ行くときも少し距離を置いていた。遠慮しているのか、それとも別の理由があるのか。
「ヴェルナル」
ネオが呼ぶ。
「はい」
「お前は、どのくらいここにいる?」
NPCは少しだけ間を置いた。「……ゲームのサービスが始まった当初からです」
「初期NPCか」
「そう聞いております」
「記憶は」
「あります。この街がまだ機能していたころの記憶が。プレイヤーが毎日来ていた。騒がしかった。それが――」
言葉が途切れる。
「消えた」
「はい」
ネオはその顔を見た。NPCが感情を持つはずはない。しかし――この老人の顔には、何かが宿っていた。設定にはなかったはずの何かが。
「壊れたことで、変わった、か」
「先ほど、そうおっしゃっていましたね」
「ああ。世界が壊れたことで、NPCも変わり始めている。それはバグかもしれないし、設計師の想定通りかもしれない」
「設計師の方は――どんな方でしたか」
ネオは少しだけ考えた。「ああ、とても楽しい人だったよ」
「……会ってみたかった」
その言葉に、ネオは少し驚いた。
「NPCが、設計師に会いたいと思うか」
「はい」
ヴェルナルは静かに言った。「この街を、作ってくださった方ですから」
沈黙。
そのとき。ログが一行、浮かんだ。
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「……そうだね」
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いつもより、短い。そして、どこか柔らかかった。




