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マスターネオはネコまない ―黒猫GMのマスター魔法奪還ログ―  作者: Master NEO
第二章 マスターネオの奮闘

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第十七話 引き寄せてはいけないもの

 広場から北の通りを進むと、古い宿屋があった。


 《渡り鳥亭》と書かれた看板が、風に揺れていた。割れてはいない。中には入れそうだ。


「ここに何か?」


 カイが聞く。


「情報があると聞いた」


 ネオは扉を開ける。内部は薄暗い。窓に板が打ち付けられているためだ。しかし光が全くないわけではなく、ノイズの残滓がかすかな明かりを作っていた。


「……誰かいる」


 リリィが小声で言う。


 宿屋の隅に――影があった。人型の、輪郭が定まらない影。プレイヤーではない。NPCでもない。それとも全く別の何かか。


「(これは――)」


 ネオは近づく。影の輪郭が、より鮮明になる。人型。女性のシルエットに近い。空気を消費しながらも、そこに在り続けている。


 《ドロー》で引き寄せるか、と考えた瞬間――


```

「ダメだよ」

```


 ログが走った。


「……なぜ」


```

「《ドロー》は、意志のある相手を引き寄せる。でもあれは――意志が、ない」

「引き寄せたら、壊れる」

```


 ネオは手を止めた。


「意志がない、か」


 影は揺れ続けている。ここにいることも、どこかへ行くことも――できない。どちらにも向かえず、ただ漂っている。


「……どうしてやればいい」


 独り言のように呟く。


 返事が来た。ログではなく――ヴェルナルの声が、後ろから。


「……その方は、ここの常連さんだったかもしれません」


「ヴェルナル、ここまで来たのか」


「ついてきてしまいました。申し訳ありません」


 老人は影を見つめる。「……記憶が、残ってしまっているのでしょうか。帰れない、と思いながら――ここにいる」


「帰れない」


 ネオは繰り返す。「ログアウトできなかったプレイヤーの、残骸か」


「……そうかもしれません」


 しばらく、沈黙が続いた。


「ネオ」


 リリィが、静かに言う。「今は、どうにもならない。でも――権限が戻ったら、できることがあるかもしれない」


「……そうだな」


 ネオは影に向かって、一言だけ言った。


「待っててくれ」


 影は、答えなかった。ただ――揺れ方が、少しだけ変わった気がした。


 ネオは踵を返す。


「次へ行こう」


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