第十五話 引力という名の力
引っ張る。距離を縮める。呼び寄せる。
ネオは考えながら動く。《シフト》でゴーレムの背後に回る。ゴーレムが振り向く。ネオはさらに逃げる。
《シフト》は俺が移動する魔法だ。相手を動かすものじゃない。
では――何が「引っ張る」に近い?
ゴーレムが追ってくる。ネオは路地を曲がる。もう一体が別の方向から来る。挟み込む気だ。
待て。ゴーレムは今、俺を追っている。俺に向かって来ている。それは――俺が引っ張っているのと、構造として同じことではないか?
そうじゃない。今は俺が逃げているから追ってくるだけだ。俺が止まれば、ゴーレムも追わない。
でも――もし俺が「目標」として、ゴーレムを固定したまま、俺だけ移動できたら?
目標を俺に固定したまま――俺が移動することで、ゴーレムを誘導する。
それは操作か。引力か。
違う。もっとシンプルだ。
引っ張るというのは――距離が縮まることだ。
ネオは立ち止まった。ゴーレムが迫る。リリィが叫ぶ。「ネオ!?」
「大丈夫」
ネオは右手を上げた。ゴーレムを見る。距離を測る。
来い。
イメージする。ゴーレムと俺の間の距離が――縮む。俺が動くのではなく、相手が動く。
何かが、指先で引っかかった。
「……!」
ゴーレムの動きが、わずかに前のめりになった。
ある。
もっと強く。もっとはっきりと。来い、ここに。距離を縮めろ。
ゴーレムが――引っ張られた。
「なっ!?」
カイが驚く。一体のゴーレムが、まるで見えない綱で引かれるように、急加速でネオの方へ滑った。
ネオは即座に《シフト》で横へ。
ゴーレムが――もう一体のゴーレムに、正面から激突した。
轟音。石が砕ける。二体は互いに崩れ、倒れ込んだ。砂塵が舞い上がる。
静寂。
「……何した今」
カイが呆然とする。
ネオは砂塵の中から歩き出す。「引き寄せた」
「引き寄せた?」
「距離を縮めた、と言った方が正確かもしれない。相手との距離を、こちらの意図で変えた」
「そんなことできるの?」
「できたから言ってる」
視界にログが走る。
```
【Master Authority Fragment Detected】
【マスター魔法:《ドロー》取得】
対象を引き寄せる
```
リリィが近づいてくる。「……また増えた」
「ああ。今度は引き寄せる系だ」
「使い方は?」
「さっきやった通り。引っ張る、と意図する」
「意図だけでいいの?」
「今のところは。もっと訓練すれば、精度も上がるだろう」
カイが崩れたゴーレムを見ながら言う。「でも、その操ってたやつはどうする?」
「次に会ったとき、考える」
「楽観的だね」
「楽観じゃない。今は情報が足りないから、今できることをやるだけだ」
そのとき。ログが一行。
```
「《ドロー》、面白い使い方してたね」
```
「……そうか?」
```
「うん。引き寄せるって、もっと直接的に使うものだと思ってた」
```
「直接的に、か」
ネオは《ドロー》を握り直した。引き寄せる。ぶつける。それ以外の使い方も、あるかもしれない。




