第十二話 見えない壁の正体
ヴェルナルに連れられて街の北側へ向かうと――確かに、あった。
何もない空間。しかし、そこで足が止まる。前へ進もうとすると、見えない何かに押し返される。空気の抵抗ではない。もっと固く、確実に存在する何かが、そこにある。
「……なるほど」
ネオは手を伸ばす。指先に、微かな抵抗を感じる。透明な壁。ガラスよりも薄く、しかし鋼鉄よりも固い。
「触れるのか」
カイが試してみる。同じだった。手のひらが、空中で止まる。
「完全な不可視の壁ね」
リリィが分析する。「どの角度から見ても、何もない。でも確かにある」
「鍵で開けられないか?」
カイがネオを見る。
「試した」
ネオは短く答えた。「《マスターキー》を当てても、カチリとも言わなかった。これは――閉じているものじゃない」
「じゃあ何だ」
「壁だ。扉じゃなくて、壁」
沈黙。
「……違いは?」
「扉は開く前提で作られてる。壁は、そもそも通れないことが前提だ。『閉じている』という概念すら持っていない」
「じゃあどうするの」
リリィが聞く。ネオはしばらく、その壁を見つめた。指先で触れながら、質感を確かめた。
「抜ければいい」
「抜ける?」
「開けるんじゃなくて――通り抜ける」
ヴェルナルが、静かに言う。「……昔、こういう話を聞いたことがあります。設計師の伝承で」
「設計師?」
「この世界を作った方の、話です。『壁は壁のままでいい。ただし、壁の意味を変えれば――壁は壁でなくなる』と」
ネオの眉が、わずかに動いた。
「壁の意味を変える――」
視界の端に、ログが流れる。
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「面白くなってきた」
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「……お前、知ってるな」
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「知らないよ。でも、ネオが考えてる方向は、たぶん合ってる」
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「答えを教えてくれる気はないか」
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「ないよ」
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「だよな」
ネオは笑った。それから、もう一度壁に向かった。
壁の意味を変える。壁は遮るためにある――ならば「遮る対象」を変えれば。
何を遮っているのか。物体か。プレイヤーか。あるいは――どちらでもない何かか。
ネオはゆっくりと考え始めた。




