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マスターネオはネコまない ―黒猫GMのマスター魔法奪還ログ―  作者: Master NEO
第二章 マスターネオの奮闘

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第十一話 廃墟の市街地

 地平線の向こうに、街が見えた。


 《ルーメン市街》――プレイヤーの拠点となる主要都市のひとつ。本来なら活気に満ちた商店街、行き交うNPC、至るところで飛び交う取引のチャット。掲示板に並ぶ依頼、食堂から漂う匂い。


 今は――廃墟だった。


「ひどいな」


 リリィが、小さく呟く。


 建物の半分は崩れ、道には亀裂が走っている。石畳は剥がれ、至るところにノイズの残滓が漂っていた。データの欠片が光の粒子になって、宙に舞っている。


「大規模イベントの煽りか」


 ネオは冷静に分析する。「エリアが崩れたあと、自動修復が働くはずなんだが――」


「働いてない?」


「管理者がいないからな」


 つまり、自分のことだ。ネオは一瞬だけ苦い顔をして、すぐに元に戻した。自責している時間はない。


 街の中心へ向かう。人影はない――はずだった。


「いる」


 カイが呟く。


 崩れた建物の影に、複数の人影があった。プレイヤーではない。NPCだ。座り込んで、動かない。


「NPCが残ってる……?」


 リリィが首を傾げる。


「普通、エラーが起きたら消えるか再起動するはずだが」


 ネオは近づく。NPCの一体――初老の男性の姿をした存在――が、ゆっくりと顔を上げた。


「……旅の方」


 声が出た。ネオは止まった。


「街が、壊れてしまいました」


 淡々とした口調。感情が設定されているのか、それとも――


「なぜあなたは残っているんだ」


 NPCは少しだけ間を置いた。


「……分かりません。消えようとしたのですが、消えられなかった」


 空気が変わる。リリィが眉をひそめる。「NPCって、普通そういうこと言わない……でしょ?」


「言わない」


 ネオは即答した。「NPCは状態を報告するが、自分の意志で『消えようとした』なんて言葉は持たない。それは設計の外側にある言葉だ」


 視界の端に、ログ。


```

「面白いでしょ?」

```


 ネオは空を見上げる。「……お前がやったのか」


```

「違うよ。世界が、勝手に変わり始めてる」

「壊れたから、変わった。それだけ」

```


 ネオはその言葉を、しばらく咀嚼した。


 壊れたから、変わった。バグの副産物か。それとも――意図されたものか。その境界が、もはや見えない。


 NPCの老人が、再び口を開く。「……旅の方。この街の奥に、入れない場所があります」


「入れない?」


「壁が――できているんです。見えない壁が。街の半分が、そこから先へ行けない」


 ネオは立ち上がる。


「見に行く。案内してくれるか」


「……はい。ヴェルナルと申します。お連れします」


 老人のNPCは、ゆっくりと立ち上がった。その動作は、プログラムの動きではなく、年老いた人間が立ち上がる動作そのものだった。

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