表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貴族探偵ローシャとリオンのとある日々  作者: 千子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/24

起こらなかった第六の殺人

今、街では連続殺人が話題になっていた。

そのせいで夜まで開く店は少なく、人通りも少ない。

「遺憾だな」

「例の連続殺人事件か?」

「ああ。民衆が傷付くのは僕達の力不足だ」

「もう五人も殺害されているもんな」

リオンが神妙に頷いた。

「アーサー警部も気を揉んでいらっしゃる。……少し、状況を整理しようか。一つ、事件は夜中に起きる。一つ、被害者はとある店を訪れている。一つ、遺体は必ず同じ通りで発見される」

ローシャの言葉にリオンも同意する。

「そうだな。それで連続殺人と判定されているんだ」

「この犯人は条件に囚われている。この条件に当てはまって、殺されていない方を探してみよう。犯人の手掛かりになるかもしれない」

その言葉にリオンは瞳を瞬かせた。

「なんだ、ローシャ。今回は随分と積極的だな」

「それはそうさ。助けられる命があるなら僕は助けたい」

ローシャの言葉にリオンは微笑んだ。

「そうこなくっちゃな!じゃあ、とりあえず共通点の店に行ってみようぜ」

「待った。リオン、その店は夜中しか営業していない酒場だ。僕達じゃ入れないよ」

ローシャの言葉にリオンがため息を吐いた。

「そうか……。そうだった。ならどうすべきか」

「もし、条件に当てはまってしまい犯人に狙いをつけられたらと思うと他の人に軽々しく頼めない。アーサー警部も尋ねて教えていただけるかどうか」

「いいや、ローシャ。アーサー警部はお前を評価している。警察も手詰まりな今、尋ねたら教えてくれるかもしれないぜ」

ローシャは懐疑的だ。

「そうかなぁ」

「そうさ!」

押し切るようにリオンが言い切りローシャは肩を竦めた。

そうして二人はアーサー警部が所属する警察署に赴く。

「やぁやぁ、お二方。本日はどうされましたかな?」

アーサー警部は快く二人を出迎えてくれたが、用件を伝えると、厳しい顔になる。

「お二方。お二方は貴族のご子息。優秀なのは分かっておりますが、事件のことは我々警察にお任せください」

アーサー警部の言葉に二人は頷く。

「そうですよね、分かりました。突然の訪問申し訳ありませんでした。事件の解決を心より願っております」

「分かりました、アーサー警部。俺達に出来ることがあったら、いつでもお声掛けください」

ローシャとリオンが礼をして去ろうとすると、アーサー警部が少し躊躇った後、コホンと小さく咳をした。

「少し、こちらへ」

さっと手を差し出されて案内されるままに人気のない場所まで連れて行かれる。

アーサー警部はまた咳を一つすると語り始めた。

「これは独り言なのですが……」

ローシャとリオンはお互いに顔を見合わせて小さく笑った。

「連続殺人事件の被害者が訪れている酒場なのですが、そこで被害者達は全員同じ葉巻を愛好しておりました」

ローシャが腕を組んだ。

「なるほど、まだそんな接点が」

そこでアーサー警部はまた一つ咳をした。

「これは失礼。こちらもつい独り言が」

「いえいえ、こちらも四つの接点しか被害者になく、事件の仔細を掴みかねているのが現状です。同じ酒場に通うとはいえ、お互いになんとなく顔を見知っているという程度であまり特定の条件も見つからず困っているのです。お二方には酒場なぞまだまだお早いでしょうが、ここまでで何かお分かりになることはあるでしょうか?」

ローシャは申し訳なさそうにアーサー警部に向き直る。

「申し訳ありません、アーサー警部。それだけではまだなんとも。ですが、被害に遭わなかった方達にこそヒントが隠されているかもしれませんよ」

「そうだな、起こらなかった殺人があるかもしれないしな」

ローシャの言葉にリオンが便乗する。

「なるほど、被害に遭わなかったからこそのヒント。それもあるかもしれませんな」

アーサー警部は手帳を取り出してメモをすると、ローシャの続きを待った。

「はい。でも、被害者達が同じ葉巻を愛好していたのは大きな共通点だと思います。問題は、何故被害者達は同じ通りを通ったのか。新聞では、各人の自宅は別方向とのことではないですか」

アーサー警部はそれもメモをしながら頷いた。

「そうなのです。酒場の帰り道だとしても全員が同じ通りを通るとは限らない。なのになぜあんな辺鄙な通りを通って亡くなったのか」

ローシャが腕を組み直したのを真似してリオンも腕を組む。

「謎ですね」

「謎だな」

「謎なんですよ」

三人で頭を突き合わせても答えは出ない。

三人は、件の通りに向かうことにした。


通りは酒場街のせいか、昼間でも人通りが少なかった。

「そういえば、被害者達が吸っていた葉巻ですが、問題の酒場でしか買えない葉巻とのことですよ」

「特別な葉巻か」

ローシャはしばらく考えて道を歩く。

「ん?これは……」

「どうしましたかな?」

「この印、問題の酒場の印と同じでは?」

その言葉にリオンも注目して扉を見た。

「本当だな。新聞に載っていたものと同じだ」

「どれどれ……本当ですね!この店は通りの反対側なのになんでこんなところに印が?」

三人で扉を見詰めていると、扉が開いた。

「うわっ、びっくりした!」

扉から出てきた男性は驚いた様子で三人を見た。

三人も驚き目を瞬かせた。


「この扉は店と繋がっているんですよ」

男性は酒場の従業員だった。

「なるほど。捜査しに来た時は奥まった店だと思いましたがこんな方まで店舗が続いたのですね」

アーサー警部は扉から室内を見遣る。

「もしかして……」

ローシャは男性に尋ねた。

「ここのところの連続殺人事件の被害者は、この裏口から出て行ったことはありませんでしたか?」

「ありましたよ。帰り道に表通りから帰るよりこちらの方が近いからと、来た時には必ず裏口から出て行かれました」

「五つ目の接点」

リオンが呟いた。

「ああ。犯人は、この店特製の葉巻を吸っていて裏口から出ていく方々を狙って犯行に及んでいるんだろう」

ローシャの言葉にアーサー警部が相槌を打つ。

「そうなりますなぁ。しかし、以前聞き込みに来た時に被害者達がこの扉から出ていくなんて言わなかったでは無いですか」

ちらりと男性を見ると、男性は慌てた。

「だって、そんな、そんな人何人もいましたよ。表通りからこの裏通りまで距離があるから表の入り口から帰らずに裏口を使わせて欲しいってお客は」

「なるほど、では、事件はまだ続くということですね」

ローシャの言葉にリオンとアーサー警部にも緊張が走った。

「しかし、そんなに何人もここを通っているのなら他にも特製葉巻を吸っている方ぐらいいらっしゃっただろうに。殺された者と、殺されなかった者。その差はどこにあるのだろうか」

ローシャはまた腕を組んで考え始めた。

そんなローシャにリオンはあっけらかんと言い放つ。

「なんだ、そんなの。ローシャ、お前が言っていただろう?被害に遭わなかった方にこそヒントがあるって」

リオンの言葉にローシャがハッとする。

「そうか……。現在の被害者の接点は、夜中にこの酒場に通っていてこの酒場の特製葉巻を愛好しており、店の裏口から帰っていく。被害に遭わなかったのは、この条件を満たしていない者だ」

「つまりは、犯人はどういう人物になるのでしょうか?」

アーサー警部が尋ねると、ローシャは言った。

「アーサー警部。犯人はこの店の関係者ですよ。そんなに詳しい内情を知る者は店の関係者くらいしかいない。葉巻の製造に関わる人間しか知らない特徴、裏口を積極的に案内していた人物。これらはこの店の関係者しか知り得ないことです」

アーサー警部が頷いて、早速他の警官を呼びつけることにした。

ローシャとリオンは殺人犯の捕物劇に巻き込むわけにはいかないと帰らせられたが、翌日の街では、連続殺人犯が分かったと大騒ぎになっていた。

犯人は店の店主で、最初は自分の特製葉巻に難癖をつけた客と口論になり殺害してしまったが、それが快感になりその匂いを嗅ぐと衝動が抑えられず、人通りが少なく犯行がバレにくい裏道を通る客相手に犯行を重ねていったとのことだった。

裏通りの街灯が壊れており、余計に暗かったことも犯行に拍車をかけた。

店主は言った。

「この匂いが悪いんだ。人を殺したくなる、俺が作った唯一の傑作」

そう言って、その葉巻を吸って捕まる前に手近にあったナイフで被害者達と同じように首を切って自害した。

その前に一言。

「その少年たちに伝えてくれ。葉巻の在庫はまだある。大人になったら吸ってみてくれ。君たちがどんな反応をするのか気になる」

ローシャはそれを聞いた時、殺人を犯したくなる匂いとはどんなものか一瞬興味を覚えてすぐにやめた。

どうせ碌でも無いものなのだ。


「いやはや、今回もお二方にはお力をお借りしてしまい……」

アーサー警部がローシャの家に訪ねてきて頭を下げた。

「お二方だなんて、そんな。今回俺なんの役にも立ってませんもん」

リオンがむくれたように言う。

そんなリオンに小さく笑って、ローシャは民衆の安全が少しでも守れたことが少し誇らしかった。

「実はもう一人、同じ条件に当てはまる人物がいたのですが……その日は店に来なかったそうです」

アーサー警部の言葉にローシャは少し瞳を伏せた。

「それが起こらなかった第六の殺人ということですか」

「そのようですな」

「けど、犯人がわかって良かったな。これで夜も安心して民が出歩ける」

リオンの言葉にアーサー警部とローシャは苦笑した。

「いやはや。夜は早めに自宅に戻り鍵をかけて寝てくださった方が我等も警邏がしやすいというもの」

「まったくだよ。でも、事件が解決して本当に良かった」

ローシャの微笑みに、リオンが瞳を輝かせた。

「お!とうとう探偵をやる気になったか!?」

「ならないよ」

笑い合っている少年二人に、アーサー警部も思わず陰惨な事件を追う日々を忘れて笑っていた。

「もし彼がその夜、扉を開けていたなら——」

その後の言葉は誰も言わなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ