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初めからそのつもりだったのだろう提案を、アテナ様が持ち出す。不敵な笑みを浮かべて父親にデュエルを挑み、挑まれた父もまた同様にニヤリと笑みを浮かべた。
「さすがは戦の神。主神に勝負を挑むとはいい度胸だ」
「話の通じない相手であれば、刃を交える以外方法はないでしょう? それで、受けてくれるのかしら」
挑発のようなアテナ様の問いに、ゼウスは鷹揚に頷いてみせた。
「いいだろう、乗ってやる。勝敗は?」
「負けを認めさせるか、完全に戦闘不能になったら、でいいんじゃない?」
「ははは、威勢がいいのは良いことだ。さあ、では――「あ、ちょっと待って」
槍を構えて戦闘態勢に入ろうとしたゼウスを制し、ずるーとゼウスがずっこける。
「私は別に、一対一だなんて言ってないわよね」
「えっ、なにそれズルい」
「問答無用! 利用規約をちゃんと読まなかった父さんの責任よ!」
強引な理論を展開させて、アテナ様がババッ!と仰々しく手を正面にかざした。
「魔法カード発動!」
なにやら中指と人差し指の間にカードが挟まれており、それを見せつけるように謎の言葉を叫んだ。そのカードには食べかけの林檎のようなマークが描かれている。
すると、アテナ様の目の前の地面に魔法陣のようなものが浮かび上がり、虹色の光を放ち始めたではないか!
「ニコの今夜の夕食を生贄に捧げ、神を召喚! 出でよ、必中の矢を抱きし純潔なる月の神!」
溢れ出す虹の奔流が強さを増し、光の中心に人影が浮かび上がる。するとアテナ様は反対の手にさらに別のカードを掲げ、腕を伸ばして光の中に差し入れる。そちらにはなにやら、色鮮やかな三角形のマークが描かれているように見えた。
「さらに魔法カードを発動! 強化の追加効果を付与!」
虹の光がさらに勢いを増し、巨大な渦となって大気を揺らす。中心の人影が地響きのような雄叫びをあげると、奔流が弾けて大地を抉り、衝撃が収まった頃には辺り一帯を砂埃が包み込んでいた。
顔を庇っていた腕をどけて目を凝らすと、白く霞んだ世界の向こう、アテナ様の前には彼女よりも頭一つ分ほど背の低い人影が佇んでいた。
「――問おう、貴女が私のマスターか」
その人影は鈴を鳴らすような清涼な声で、なにやら意味不明なことを宣った。
「世界の破壊を防ぐため、世界の平和を守るため、愛と真実の神を貫く、ラブリー&キューティーな慈愛の女神――アルテミス、ここに推参! 月の女神がお仕置きよ!」
まあ、そんな気はしてたけど、アルテミス様だった。なんかやたらと嬉々として謎のポーズを取っている。
「ふはははは! さすが、良く分かってるじゃないアテナ! 虹の光で呼び出すとか、なんかUR演出みたいでテンソン上がりますわー!」
「ええ、あなたはこういうの好きかと思って」
「大好き! 満足した!」
いや、来ただけで満足しないで欲しい。
アルテミス様は腕を組んでゼウスに向かい合い、謎の自信を溢れさせていた。
「さーて、来たはいいけど、戦闘の真っ最中って感じ?」
「いえ、今から始まるところよ」
「マジかよ、もうちょい秘密兵器的な扱いして欲しかった」
唐突に現れたアルテミス様に、ゼウスは半端な表情を浮かべて今更引き下がれないという感じを醸しながら立ち尽くしている。
「じゃ、とりあえず先制攻撃しかけりゃいい感じ?」
「いい感じ。カッコよく召喚してあげたんだから頑張って」
「ふふふ、あたしの実力を見せてあげるわ」
自信満々に胸を張ってアルテミス様が手を正面に掲げると、その手の中にどこからともなく月のように仄かに光り輝く大きな弓が現れた。長さは持ち主の身長ほどもあるが、細く滑らかでシンプルなデザインをしている。取り出したのは弓だけで矢を持っている様子はない。
アルテミス様がゼウスの正面に立って矢の無い弓を構える。ゼウスは諦めて展開を受け入れたようで、仁王立ちのままそれを迎え入れた。
「みんなには内緒だよっ!」
誰が誰に対して何を内緒にすればいいのかはさっぱり分からないが、アルテミス様が矢をつがえる動作をするとそこに輝くピンク色の光の矢が現れ、ゼウスに向かって解き放たれた!
「狩猟の章第一項、スライム! 承認せよ、我が名はアルテミス!」
続けて謎の魔法の詠唱のような文言と共に、仄青い光の矢が解き放たれる! 名前に反してそれはゲル状の矢ではない!
さらに続けて金色に輝く光の矢をつがえると、突如アルテミス様の周囲に無数の光の輪のようなものが現れ、その輪の中心から同じ数だけの光の矢が姿を現した。
「虫けらは虫けららしく、地を這ってあたしの前に平伏しなさい! 芸当舞バビロン!」
黄金の矢を放つと同時、周囲の無数の光の矢も同時にゼウスに向かって解き放たれた!
この間わずか2秒! 口上だけでけっこうな時間が経過していそうだが、アルテミス様の神の力によって周囲の時間の流れが緩慢になったとか、多分そんな感じだ!
3種の光の矢の波状攻撃。しかしゼウスは慌てることなく槍を構え、堂々たる態度で矢を迎え撃つ。
「無駄ァ!」ピンク色の内緒の矢を槍の一振りでかき消した。「無駄無駄ァ!」返す刃で青いスライムの矢もかき消してしまう。
だが続く黄金の矢の数は膨大で、叩き落とせるような数ではない。するとゼウスは槍を持ち直して両手で構え、凄まじい勢いで回転させ始めたではないか。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」
槍が円に見えるほどの勢いで回転し、バチバチと周囲にイカヅチを撒き散らしながら襲い来る矢を余すことなく消し去ってしまう。
やがて全ての矢が消え去ると、ゼウスは槍を立てて姿勢を直し、アルテミス様を見下した。
「さて、これで終わりかな?」
「うっわ、出た出た、なんかラスボスっぽい台詞。アテナさんどう思います?」
「不愉快ね。無駄に偉そうでとても不愉快だわ」
本人はカッコよくキメたつもりだったのだろうが、ボロクソだった。しかも言われたのが娘だから強く言い返せないのか、なんだかとても悲しそうな表情だった。




