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そうだ、オリュンポス行こう  作者: くらうでぃーれん
6.大神と香辛料と霊峰の神々
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6-4


 オリュンポスを登るには、リトホロという麓の町を経由して行くことになる。オリュンポスへの入口としてはそこが一番踏み込みやすくなっており、神々に最も近い町とされ、神の町とも呼ばれている。


 昼過ぎにリトホロに到着した僕らは、軽く腹ごなしだけすませてすぐにオリュンポスに向かうことにした――のだが。


 ここに来て、僕はとても重大なことを失念していたことに気付かされる。

 僕らの目的は、オリュンポス山に行って、そこにいるソフィを取り戻し、ゼウスをボコすこと。簡潔に述べるとそんな感じだ。


 そう、簡潔に述べると。


 つまり、詳細に述べれば道中でやらなければならない細かなことはたくさんあるのだ。いや、中には目的と直結していないだけで、細かくないことだって含まれている。


 ――例えば山登りとか。


 そう、オリュンポスは山である。しかも人類未踏の霊峰だ。数々の山男たちが挑み、その多くが帰らぬ人となってきたこの山を、僕はめっちゃフツーの格好で登ろうとしているのだ。はっきり言って狂気の沙汰である。


 登山といっても登っているのは先程も言った通り、人類未踏の山。登山と言われて思い浮かぶような、「登山道はこちら↑」という看板が立っていて丁寧に舗装された道を家族連れが楽しそうに騒ぎながら、みたいな光景では決してない。


 そもそも、登山道がない。そこにあるのは道ではなく、山である。階段とか坂とかそんなゆとりロードが用意されているわけがなく、目の前にあるのは鬱蒼とした森林。だから草木をかき分けて進まなければならず、しかも足元が悪く傾斜も半端ない。所々登山ではなくクライミング状態ですらある。


「あの、アテナ様‥‥これ、上まで登るんですか?」

「何言ってるの、当たり前でしょう」


 アテナ様は涼しい顔をしてザクザクと山を登ってゆく。その足取りに迷いはなく、無理をしている様子もない。ちょっとお庭をお散歩してきますわ、くらいのノリである。


「えっと、馬車とかないんですか」

「あるわけないでしょう。この道のどこを馬が走るのよ」

「ですよねー。じゃあ、もっとちゃんとした登山道とか」

「人類未踏の地にどうして道があるのよ。道があったらすでに到達しまくってるじゃない」

「ですよねー。じゃあ、神様用の便利な乗り物とかないんですか」

「神とドラ〇もんを一緒にしないでくれる? 22世紀とか未来すぎてワケが分からないわ。せめて産業革命くらいは通過してから言ってもらえないかしら」

「ですよねー。ところで、マウント・フジでは五合目くらいまで車で行けるらしいですよ」

「私はニポンの神じゃないから知らないわ。確かアルテミスがクッシーとかいうジャパン・ゴッドと仲が良かったはずだけど。フジに行きたいならまず山ではなく海を目指しなさい」

「ですよねー」


 どうやら、自分のアンヨに頼るしかないようだ。


 僕はアテナ様が通った後に続いて、即席の獣道みたいな場所をかき分けて進む。いや、獣道はさすがに失礼か。ここは暫定的にゴッド・ロードと呼んでおこう。字面だけ見るとなんかすごいことをしてるみたいだ。


 ゴッド・ロードを突き進むことしばらく、草木に覆われていた地面は少しずつ地表を見せ始め、草をかき分けて進む必要はなくなってきていた。しかし傾斜は緩やかになるどころか険しさを増し、凄まじい勢いで僕から体力を奪ってゆく。


 木々が姿が消すと寒々しい岩と砂利の大地が広がり、そして表現としての意味でなく、本当に寒い。登れば登るほど気温が下がってきて、吐く息は白く指先が痛い。山頂付近は常に雪が積もっているほどだから当然なのだが、こんなことになるなんて思っていなかったから防寒なんて出来てないし、汗をかいていたせいで体温の下がり具合が尋常ではない。


 そんな僕の様子を見てさすがに放っておけないと感じたらしいアテナ様は、僕を囲うように指先で円を描いた。すると、ふわりと白いローブのようなものが現れ、ふぁさぁ、と僕を包み込む。


「‥‥うわ、めっちゃ暖かい」


 ただの薄い布にしか見えないそれを羽織っただけで、嘘みたいに外気が遮断され内側に熱が蓄えられる。文字通り寒さに震えていた僕だったが、あっという間に身体は平静を取り戻してくれた。


「あ、ありがとうございます‥‥」

「人の子って不便ね」


 それだけ言ってアテナ様が再び歩き出すのを、僕は慌てて追いかける。


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