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そうだ、オリュンポス行こう  作者: くらうでぃーれん
4.歌と妹と予言の神
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4-6


「なんてこったい。こりゃ、明日はデート決定だな」


 一方的に予定を確定させてから、アポロン様はこちらを振り向いて爽やかスマイルを浮かべた。


「さて、さっきも言った通り、俺はキミたちに全面的に協力させてもらう‥‥つもりではあるんだけど‥‥」


 言って、困ったように眉尻を下げて気まずそうに頬を掻いた。


「正直、俺はアテナほど戦には優れていないし、わざわざアテナに同伴するほどの能力も持ってない。要は、アテナがついてる時点で俺が出来ることなんて限られてるんだよね」


 神が2人も居てくれればそれだけで何でも出来そうな気もするが、相手も神である以上、そこまでの万能さは望めないようだ。


「とはいえ協力すると言った以上、俺に出来ることはさせてもらうよ」


 しかしすぐにアポロン様はにっこりと微笑んで僕の前に立つ。


「ここデルポイには、巡礼者は何を求めて来ているかは知っているかい?」


 言われて、僕はアポロン様がしようとしてくれていることに見当がついた。


「――神託、ですか」


 僕の答えに、アポロン様は「その通り」と満足そうに頷いた。


 神託とは、神のお告げ。神によって与えられる予言であったり、迷える人に行動の指針を与えてくれるものだ。様々な土地で様々な神の神託は行われているが、先述した通りここデルポイの神託はよく当たると口コミで話題になり、幅広い世代に大人気のスポットである。


「相手は主神ゼウス、あまりにも強大な敵だ。だから俺が、立ち向かうためのヒントをあげよう。正攻法じゃあ勝つのは難しいだろうからね」


 アポロン様はわずかに身を屈めて、僕の瞳を覗き込む。

 澄んだ赤い瞳が目の前に迫り、僕はなぜだか不思議な気分になってしまう。


 なんだろう、僕、オトコノコなのに‥‥、どうしてアポロン様の瞳を見ていると、こんなにドキドキしてしまうのかな‥‥。


「ふむ、アポニコね。需要はありそうだわ」

「お兄ちゃんが受け‥‥ごくり‥‥」


 アテナ様とソフィがなにやら謎の感想を呟いている。


「安心して、人の子。気持ちを落ち着かせるんだ。俺の心臓の音に集中して」

「大丈夫です。ここからでもソフィの心音は聞こえてるのでそっちに集中します」

「気が合うね。俺もいつどこにいてもアルテミスの息遣いは聞こえてるよ」


 だけど僕らにソレはあり得ない。なぜなら妹を愛している気持ちが揺らぐことはないからだ。


「さあ、俺の意志がほんの少しだけキミの中に入るけど、恐れることはないよ」

「は、はい‥‥。くっ、アポロン様が、僕の中に‥‥」

「力を抜いて。しっかりと気持ちを解しておけば、決して痛くはないから」

「うっ、すごい‥‥アポロン様の、熱い‥‥!」

「俺は一部、太陽神としての力も持っているからね。集中してごらん、温かいだろう?」

「なんだか、ふわっとして、変な気分になってきます‥‥」

「ああ、それでいいんだよ。さあ、その気持ちに身を委ねて、幸せなことだけ考えて」

「ああっ、ソフィ、ソフィ‥‥! 可愛いよソフィ愛してるよソフィーー!」

「んあーっ! 人の子なんかじゃなくアルテミスの中に入りてェーー!」


 僕らの想いが絶頂へと辿り着いた瞬間、ずるりと体の中心からナニかが抜け出るような感覚を得、同時に全身の力が抜けて思わずその場にへたり込んだ。


「お、お兄ちゃん大丈夫‥‥?」


 即座にソフィが駆け寄って肩を支えてくれる――が、その口元にはなぜか緩んだ笑みが浮かんでいた。


「え、えへへ、ゴメンねお兄ちゃん‥‥。危うく新しい扉が開いて蝶番が弾け飛ぶところだったよ‥‥ふへっ」


 ハァハァと荒い息遣いで、瞳には見たことのない光が宿っている。何が起こったのかは分からないが、ソフィの表情は全部可愛かった。


 顔を上げると、アポロン様はアゴに指を当ててしばし黙考し、やがてぽつりぽつりとそれらの単語を漏らした。


「聳え立つ高き壁、親しき者、穴穿たれる‥‥」


 どうやらそれが、神託の内容らしい。どういう意味なのかを考える前に、ソフィがキラリと瞳を輝かせた。


「お兄ちゃんが、親しい人の穴を‥‥!? やったぁ!」

「待ってソフィ多分それ違う。‥‥――今はまだ、ね」

「ふへっ‥‥お兄ちゃんに全てを捧げたい‥‥!」


 早くも神託の内容が右から左に抜けようとしている僕らと違い、それを聞いていたアテナ様は引きつった表情を浮かべていた。


「アポロン、それってもしかして‥‥」

「さあ、俺は人の子の未来の断片を見ただけからね」


 深刻そうなアテナ様と、アポロン様もどこか困ったような笑みを浮かべている。


「それに、これは攻略本のとある1ページにすぎない。定められた運命だなんてつまらないことを言うつもりは無いよ。分からなくて抗えるから、未来ってのは面白いのさ」


 どうやら2人は先程の神託に関して、限りなく確信をもってその真意を悟っているようだ。

 僕もその神託の意味を考えてみるが、やはりその意味は漠然としていて掴めない。


「あの、アポロン様‥‥」

「俺の神託は、存在が神に近いか、世界の運命を大きく変える者ほど明確に与えることが出来るんだ。つまり人の子であるキミの未来は、曖昧にしか読み取れないんだよ。ま、神託なんて参考程度で、キミはキミの思うようにするといい。キミが妹を想う気持ち、そこに偽りがないのなら俺はあまり口出しをしたくないからね。他の兄妹に下手に関わるのは、野暮だろう?」

「そう、ですね。ソフィは僕だけの妹だし、アルテミス様はアポロン様だけの妹ですもんね」

「そういうことさ。さすが、兄としての自覚は十分なようだ」


 僕とアポロン様は、瞳で通じ合う。人間と神という違いはあれど、同じ兄として妹を想う気持ちに違いなどないのだから。

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