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ソフィの方が可愛いと思います、という言葉が反射的に出かかったが、どうにかそれを飲み込んだ。それが疑いようのない事実とはいえ、今アポロン様と争うのは得策ではない。
それにアポロン様からすれば、妹補正という強大なフィルターによって実際よりもアルテミス様が輝いて見えている可能性も非常に高い。妹というのはそれほどまでに絶対的な愛おしさを擁しているものなのだ。僕には分かる。
「よし、いいだろう。やっぱりキミたちに協力することにしようじゃないか。同じ兄として見過ごすことなんてできそうにないからな。そもそも兄妹仲を引き裂くだなんて、この世のどんな悪事よりも許されがたい、吐き気を催す邪悪だ!」
アポロン様が握り拳を作って熱く語る。全くもってその通りだ。
「良かったね、ソフィ。僕らの愛の力だね」
「うん、お兄ちゃん大好き!」
「ぬああああっ! 最高だ完璧だアメぇィジングだ! よーし、俺はキミたちに全面的に協力しようじゃないか! そして俺もアルテミスとイチャイチャしたくなってきた!」
言うが早いか、アポロン様はスマゴを取り出して電話をかけ始める。通話口から『なに?』と不機嫌そうな声が聞こえると同時、アポロン様は最高の笑顔で叫んでいた。
「アルテミス! 俺はアルテミスを愛してるよ!」
『死ね』
ぶつっ、と通話が途切れる音が聞こえる。アポロン様はスマゴを耳に押し当てたまま動かない。
やがてゆっくりと空を見上げると、その瞳から一筋の涙が零れ落ちた。
「‥‥綺麗な声だ」
ごく自然なその反応に、アテナ様はなぜか口元を苦々しくひん曲げていた。
「それさえなければ、あなたは素敵な神なんだけれどね」
「何を言っているんだいアテナ。妹が好きじゃない兄なんて存在するはずないじゃないか」
「残念ながら、私の兄は単なるクズよ」
「ああ、そう言えばアテナは兄妹仲が悪いんだったかな。変わってるね」
「変わってるのはあなたの脳ミソの具材でしょう」
アテナ様はげんなりとしてから、得意げな笑みを浮かべてアポロン様の肩を叩いた。
「なんにせよ、あなたの協力が得られて良かったわ」
「そうか、なるほど。アテナは俺が彼らに手を貸すって分かってたのか。まんまとハメられたといいたいけど、こればっかりは不可抗力だね」
アポロン様は清々しい笑みを浮かべて、あっさりと負けを認めてしまう。
そこで僕のポケットのスマゴがぶるぶる震えたかと思うと、アルテミス様からラウィンが届いていた。
「兄ちゃんと会ったろ」「くそうぜー」「あたしの代わりにバカって言っといて」と立て続けにメッセージが送られてくる。アテナ様に「はいはいツンデレ」と返され、可愛らしい少女が「なんでやねん!」と突っ込んでいるスタンプが即座に送られてくる。
「――ん? そのスマゴはアルテミスのサブ垢用二号機じゃないか。人の子、なんでそれをキミが持っているんだ? 詳しく説明してくれるかな?」
気付けば、物凄い至近距離でアポロン様が僕のスマゴと瞳を覗き込んできていた。アポロン様の細く繊細な指が僕の肩を掴み、痛まない程度に、しかし決して振りほどくことが出来ない絶妙な強さで心身ともに僕を拘束する。
「なあ人の子、今度俺のペットのサソリも連れて海水浴に行かないか? 空を仰いで海を眺めて眠るってのはどうだい?」
その瞳の奥に殺意の波動が灯り始め、ヒュンっと玉がヒュンする音が聞こえた気がした。先日感じたアルテミス様の体温が、死の香りを伴って僕の首を締めあげる。
あわや尻の穴から魂が抜けるのではと思われた寸前、アテナ様がアポロン様の首根っこを掴んで僕から引き剥がしてくれた。
「ここに来る前にアルテミスに会ってきたのよ。あの子も協力してくれてるから、彼に貸しているだけよ」
「えっ、アルテミスも協力してるの? おいおい、早く言ってくれよ。それなら俺が断る理由なんかあるはずないじゃないか」
「分かってるわよ。けど、HP満タンからの一撃必殺は面白くないでしょう」
おどけた調子で朗らかに笑うアポロン様。しかし先程のほんの一瞬のマジな殺気は、確実に僕の心の奥底に恐怖の芽を植え付けていた。
ほんのわずかでもアルテミス様って良い匂いするなーと思ったことは、墓まで持っていかなければならない。
「というか会ってきたってことは、もしかしてアルテミスも近くまで来てる?」
「ええ、昨日はテバイのスタゴにいたわよ。明日か明後日くらいまではまだこっちにいるんじゃないかしら」
「なんてこったい。こりゃ、明日はデート決定だな」
一方的に予定を確定させてから、アポロン様はこちらを振り向いて爽やかスマイルを浮かべた。




