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そうだ、オリュンポス行こう  作者: くらうでぃーれん
3.泥と林檎と狩猟の女神
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3-4

「悪いね、人の子。期待させたけど、やっぱり兄ちゃんの助力は無し。キモいから」


 アルテミス様は口元を歪めて言うが、正直僕には先程のやり取りのどこにキモさがあったのか理解できなかった。そのくらい、僕とソフィの間では当たり前の挨拶なのだが。


「んじゃ、人の子。いつでも連絡取れるようにコレ貸してあげる」


 言いつつ、アルテミス様はポケットからまた別の謎板を取り出し、僕の手に押し付けてきた。2人が使っているものによく似ているがよく見ると違う形をしていて、その違いにどういう意味があるのかはよく分からなかった。


「あ、ありがとうございます‥‥。ていうか、コレなんですか?」

「知らないの? スマゴよ。スマートゴッド」

「何でもかんでもゴッドつければいい風潮やめませんか?」

「こまけぇこたぁいいんだよ。ほれ、とりあえず最低限の機能だけ教えてあげるから」


 アルテミス様がぽんぽんとソファを叩いて、僕は真隣に座らされた。アルテミス様が僕に押し付けたスマゴを覗き込む形となり、距離が近くて思わずドキリとしてしまう。


「ま、ツウィッタとラウィンくらい知っとけば十分でしょ」


 アルテミス様が丁寧に使い方を教えてくれて、とりあえずラウィンってのはすぐに把握できた。これを使えば即座に書面でのやり取りと同じことができ、また遠く離れた相手に声を飛ばすことも出来るらしい。


 スマゴという板はなんとも不思議な物で、板面に文字や記号が刻まれていて、表面を叩いたり撫でたりすることで表記されている物が刻々と変化するのだ。


 一緒に説明を受けるため、ソフィは現在僕の背中に張り付いて肩越しにスマゴを覗き込んでいる。背中でソフィの温もりを感じることにより、神様たるアルテミス様の隣にいるにもかかわらず僕の緊張の9割は緩和されていた。


「で、ツウィッタってのが、使ってる神がしょーもないことを呟いてるツールなの」

「しょーもないならどっちでもいいんじゃないですか‥‥?」

「基本的にはね。でもその人がどこにいるかとか、なにしてるかとか、断片的な情報から色んな推測が出来るの。たまに便利な情報を教えてくれたりもするしね。情報収集も出来るし、上手く使えば追跡も可能よ。気が付けば朝から晩までツウィッタ眺めて一日が潰れることもあるけど、これも大事な仕事のうちだから仕方のないことなのよ」


 なんだか、単純なようでとても複雑なツールらしい。僕はわずかに緊張して、アルテミス様の説明を受ける。


「まずこれがあたしのアカウント。ここに表示されるのはあたしの情報だから、あんたは気にしなくていいし、触る必要もないわ」


 アルテミス様が示す場所には「テミつん」という謎めいた名前のような何かが表示されている。

 そこにはつらつらと日々の出来事が綴られているようで、一番上には「サブ垢のガチャ運ヤベェw メインで出ろしwww」という暗号めいた文言と共に、なにやら可愛らしい少女の絵画のようなものが添えられている。やたら眼の大きなその少女の背後はキラキラと虹色に輝いており、まるで後光のようだ。もしかすると、僕の知らない何かの宗教的絵画なのかもしれない。


「で、ここを押したらあたしの知り合いのアカウントが見られるから、見たい子の名前をタップすればその子の近況が知れるわ」


 アルテミス様のお導きにより「アテナ」という名前に触れると、証明写真みたいに真面目なアテナ様の絵画が現れ、その下に「十二神の一柱を担うアテナです。知と戦の神をしています。アテナイにお越しの際は是非パルテノン神殿にお立ち寄り下さい。お仕事の依頼はコチラから」という説明があり、同様に綴られている一番上には「近日、近くのアゴラでお祭りが開催されるそうです。露店もたくさん出るようなので、気になる方は足を運んでみてはいかがでしょう」と丁寧な文章と共に、開催地らしき地図が載せられていた。


「アテナさあ、どっかの公式垢なの? つーかコレ一週間前の投稿じゃん。もうちょっとくらいアホなこと呟けよ」

「だって報告するようなことがないもの」


 アテナ様はツウィッタにはさほど興味がないらしい。


「ま、いいけどー。んで、こっちが兄ちゃんのな」


 続いて「アポロン兄ちゃん」という名前に触れると、超笑顔のアポロン様と思しき男性が、アルテミス様と並んでピースサインをする絵画が表示され、「アルテミスは俺の妹! 世界一可愛い妹に近づく輩は、お前もオリオンにしてやろうか!」と謎の脅迫文めいた文言が表示されている。えっ、僕めっちゃ物理的に近づいてるんだけど大丈夫かな。


 そして一番上には、「1分前」という表示と共に「アルテミスが電話をかけてきてくれたよ!超幸せ!」と書かれていた。死ねって言われただけな気がするけど、妹の声が聞けただけでも嬉しいもんね。分かる分かる。


「で、ほら、例えばこういうの見れば何気にコイツの情報を知れたりするわけ」


 アルテミス様が指すのは、数日前の呟きの1つ。そこには「アテナイのアクロポリスでエロスたちとサッカーしてた。あいつ上手すぎヤバー」と書かれている。


 末尾に付与されている記号は僕が見ると冷や汗を垂らす人の顔のように見えるが、実際はいったいどんな意味が込められているのだろうか。


「これは分かりやすいけど、写ってる建物とかから場所を突き止めたり個人情報掴んだり、一枚の写真がキッカケで人生終わったりすることもあるからね」

「えっなにそれコワイ」


 アルテミス様はしばらくアポロン様の情報を眺め、「兄ちゃん、ホンっトしょーもない呟きばっかだなー」などと馬鹿にしつつ、口の端が少し緩んでいた。


 あ、今ちょっとだけ癒されたぞ。この表情、ソフィが僕のプレゼントとかを見返している時とよく似ている。可愛さはソフィのほうが格段に上だけど。


「ま、とりあえず連絡用の説明はこんなもんかな‥‥」


 アルテミス様はぽちぽちとスマゴをいじって機能を見返し、納得したようにひとつ頷いた。

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