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AIが運営するVRMMO  作者: ケイ
12/19

ヒカリ

AIオンライン バージョン1.0

・対人可能区域以外でも一部のアイテムによって引き起こる状態異常でプレイヤーが攻撃ができてしまう問題がありました。一般区域でのアイテム効果による状態異常がプレイヤーに対して発生しないよう修正しました。


――――――――――――――――――――――――――――――



「見つけた!」


毒を叩きつけられて街に強制送還された時、彼の顔を一瞬だけ見ることができた。

じっと見つめると彼の頭上にコバトというキャラクターネームが一瞬だけ表示されたのだ。

それを頼りに街に戻ると黒髪短髪のキャラクターに対して片っ端からキャラクターネームの確認をしていたのだ。


彼は外套をそそくさと木陰で外したところだ。

外套は光となって消えた、彼のアイテムストレージに戻ったのだろう。


これで見た目は初期装備の職業なしの状態そのものになった。

やはり彼は今までで確認されていない新職業なのだろう。


尾行を続けると彼は教会、冒険者ギルド、商店街と街中を確認しながら歩いているようだった。


もしかしてレベルの低い初心者なのだろうか?

それでもあれだけの速度で移動ができるのだ。

現状最強キャラである騎士と組んでダメなのだ。すがるものがなかった。


「ちょっとあん…君!」


薬師ギルドから出てきた彼を呼び止めた。

危なかった。

ギリギリで初めての相手をあんた呼ばわりするのは回避した。


「え?何?俺悪いことした!?」


「そーゆーわけではないけど…いや、したか…」


毒を叩きつけられたわたしはすぐに街に戻ってしまったのだ。

彼からすれば一瞬、顔もサソリのせいで確認はできなかっただろう。

彼をじっと見ていた私ですら一瞬しか名前を確認できなかったのだ。


「…毒瓶」


ボソッと呟くと彼は顔を青ざめた。そんな顔もゲームなのにできるのかというくらいに。


「ご、ごめん!悪気はなかったんだ!ただシーク…俺の連れと戯れに使ってた毒瓶をたまたまその時手に持っててつい…」


「…まぁいいわ。どうせやられて街に戻ろうかと思ってたとこだったし。それより、お願いがあるんだけど」


きょとんとする彼を逃がさないよう返事を聞く前に手を引っ張ってタイムアタックダンジョンのあるヴァルハラから北の平原へ向かった。


―――――――――――――――――――――――――――――――


「ここがタイムアタックダンジョン!通称TADよ!」


目の前には横穴式の洞窟があった。洞窟の上にはフワフワとランキング掲示板が浮かんでおり、周囲にはタイムアタックに挑戦しようという猛者達が今か今かと現在進行形でダンジョンに挑んでいるプレイヤーの帰還を待っている。


「あぁ、案内してくれたの?ありがとう。それじゃ!」


街に帰ろうとする彼の背中を思いっきり引っ張った。


「私は観光ガイドじゃないわよ!」


「ぐえっ!じゃあなんでしょう?俺こんなのやったことないですよ?」


「説明が省けて助かるわ、わたしは…頭上のプレイヤーネーム見れば分かるか。ヒカリよ。弓使いのギルドマスターなの」


「おぉ、よくそんな競争率高そうな名前つけられたなー」


「そーなのよもー名前だけじゃなくて見た目も1発でこの見た目になったのよ凄くない?金髪のツインテールよ!?胸だって現実よりこんな…」


胸を弓の弦から守る胸当てにスリットの入った短いスカート。その下には黒いスパッツが履かれている。ヘソも出ているので少し露出も多いが個人的には可愛いので気に入っている。

腰にまで届くツインテールをフリフリさせその場で一回転くるりと回ってから…


「何言わせんのよ!」


「お前が勝手に話し出したんだろ!?てかこの見た目ってあの鏡の場所で変えられないのかよ!最低だなこのゲーム」


最初こそ丁寧な言葉を使っていた彼だがノリで話している内にそんなメッキは剥がれたらしい。


「あら、あんたも1発でその見た目ってなかなか引き運いいじゃない?クールな感じでキリッと決め台詞言ってみなさいよ」


え、マジ?って表情になった彼、コバトは少し髪をかきあげながら空をゆっくりと見上げ…


「…風が啼いている」


『スクリーンショットを撮影しました。メニュー画面にアルバムの項目を追加しました。この映像はメニュー画面のアルバムに保存されます』


ヘルプの音声が二人の間に響いた。


「お願いします。消してください…」


話はだいぶ脱線したが、彼が逃げられない状況は作り出せたらしい。


「で、話は戻るけどダンジョンに私とパーティーを組んで一緒に挑んで欲しいのよ」


「話はまぁ分からんでもないけどなんで俺なので?さっきは流してたけど弓使いのギルドマスターならもっと強い人と組めばいいだろうに」


私は周囲に他のプレイヤーがいないことを確認して、彼に言った。


「コバト、あなたの職業は分からないけど凄く速く移動できるのよね?」


コバトもそれを聞いて周囲を見渡し、人がいないことを確認した。


「確かに足が速くなるスキルはあるけど、そのTADってのは速くゴールするだけじゃなくて相手を速攻で倒す火力もいるんだろ?」


「えぇ、道中に出てくるモンスターは量は一定だけど種類はランダム。それに最後の一本道にはボスモンスターも出るわ」


「それなら申し訳ないが俺じゃ無理だよ。移動速度には自信があるけど騎士並みの火力は出せないよ」


「…そう」


分かってはいたことだ。仮に彼がいくら早くても結局のところ私が遅ければ意味がない。敵を全滅させた後に()()()()()()()()()。それが条件なのだから。


「こう言っちゃなんだけどサービス開始してからまだ数日だぞ?まだこの手のコンテンツは手を出さなくてもいいんじゃないか?」


「それは…そうだけど」


最初はたまたま誘われて始めたことだった。数秒単位で縮められていくタイムとそれでもたどり着けない目標にお互いイライラとした感情が重なって言い合いになってしまった。引けなくなってしまった。認めたくなかった。


せっかくこの世界で弓使いのギルドマスターになったのに、特別な人になれたと思ったのに。


役立たず扱いを受けたこと。もうお前はいらないと言われたこと。


そして実際に私は、役にたたなかったという事実。


負けたくない人ができてしまったのだ。自分を貶されたままじゃ終われない。だけどそれは目の前のこの人には関係のない話で――――――。


「おやぁ~?そこにいるのは弱い弓使いさんじゃないか?」


遠くから声がした。振り向くとそこには元私の相棒だった騎士の男がそこにいた。

ニヤついた顔で私の姿を確認するとこちらにゆっくりと歩いてきた。


「タイムアタックを諦めて今度は初心者の案内かな~?レベルの低い俺に結局タイムアタックで負けるくらいだからなぁ?弱職業はタイムアタックなんて諦めてとっととレベルでもあげにいったらどうだ?もしかしたら40レベル差くらいあれば…あぁ、すまんすまん。いくらレベルが高くても足が遅いんじゃ一生タイムアタックダンジョンじゃ騎士に勝てねぇなぁ~」


プルプルと声が震えることを、涙が出そうなほどの悔しい表情をこのキャラがしないよう懸命に耐えた。


最初はただ目立ちたいだけだった…だけど今は違う。

目の前の…他職を見下すようなこの男に負けたくない。

言い返したい…言い返してやりたいけど。


「―――ごめん。ちょっと街に行ってくる」


「あ、ちょっと待っ…」


コバトは止める間もなく足早にヴァルハラのある方向に行ってしまった。


「あれぇ~?もしかしてさっきのあいつとタイムアタックする気だったのかな~?逃げられちゃったけどお前みたいな実力もない我儘じゃ当たり前だわな?」


目の前の男が口笛を吹くとその場に魔方陣と共に馬が召喚された。それに乗った男はこちらを見下ろすと…。


「ごめんなさいって目の前で土下座して今後俺の言うことに服従するならタイムアタックにまた付き合ってやってもいいぜぇ?」


「ひっ…」


男は舐めるような視線で私の身体を見ていた。嫌悪感で思わず隠すように両腕で身体をかき抱きしめた。

身体が震えるのが止まらない。

ここがPvエリア(対人戦可能区域)ではないことを忘れ、ただ目の前の男が怖くて動けなかった。


「ぺっ!分かったら二度と俺の前に出てくるんじゃねぇぞ」


私の怯える姿をみて溜飲が下がったのか男はそれだけ言うと馬に命令しその場を去っていった。


「―――――あぁ」


しばらく私はその場で座り込んで動くことなく考えていた。

誰もいない。平原の真ん中で…


「負けたくない…負けたくないけど…」


勝てないよ――――私が心の中で諦めかけたその時。


「あぁぁ…急ぎすぎて疲れたぁぁ!」


コバトが転がり込んできた。

例の足が速くなるスキルとやらをずっと使っていたのだろう。

MPが底をつきる寸前なのか疲れきった顔をしていた。


「何しょげた顔してんだよ?ほら立てよ。準備できたぞ?」


「何の?」


「何ってお前…」


メニューを操作して彼は装備をその身に纏った。黒い外套に…腰に2本の()()()()を装備して。


『プレイヤー コバト Lv42 暗殺者 よりパーティーへの加入を求められました。承認しますか?』


「タイムアタックダンジョンに遊びに行こうぜ!」


私はゆっくりと頷くと――――メニュー画面の承認ボタンに手を伸ばした。

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