トラブルメーカー
夜の森に風を切って疾走する3人。
「走れー!」
「来るぞ!ブルース撃ち落とせ!」
「分かりました。ファイヤーボール!!」
追ってくるナイトクロウに当たりドドンと爆発音がする。
ナイトクロウとはカラスのモンスターで、闇夜に紛れて襲ってくる。
昼間にも出現するのだが、主に夜の方が活動的である為ナイトクロウと呼ばれている。
このモンスターの厄介なところは、気配察知に引っ掛からない程のステレス能力を持っているのだ。
普段は1匹~4匹で襲ってくるのだが、現在、クロスとアルフレッドとブルースの3人は30匹ものナイトクロウの大群に襲われていた。
なぜこの様な事になったのか、それは森に入って暫くの事である。
*****
「ふう、これでクエストは全て達成ですね。後は報告するだけです。」
「だな。今から戻って丁度良い時間になるから、ここら辺できりあげるか。」
そう言ってる2人の側に、アップルトレントにトドメを刺したアルフレッドが戻って来る。
「2人とも何話してんだ?」
「クエスト達成したからそろそろ戻ろうかって話してたんだよ。」
「ああ、なるほどね。うん、そうだな、戻るか。」
今日はこれで終わりという事で来た道を引き返していく3人。
「いやぁ、パーティーだと楽ですね。昼間、ソロでやってた時とは大違いです。」
「そりゃそうだろ。こっちだって魔法で援護してくれるからおもいっきり突っ込めるしな。けど、アルは突っ込み過ぎだな。援護が届かない所まで行くのは危険だぞ。」
「仕方ないだろ。血が騒ぐんだ!」
「アホか。1人の勝手な行動がパーティーを危険に晒す事があるんだからな!注意しろよ。」
「分かってるって!俺がどれだけこの手のゲームをしてると思ってるんだ?その位、常識だって!」
「その割には全然、出来てないがな!」
クロスはチームで行動する上でのスタンドプレーは危険だという事を身をもって戦場で知っているのでアルフレッドに軽く注意をしておく。
とはいえ、しょせんゲームなので実際に死ぬわけでは無いので『遊びでもマナーやルールは守れよ?』的な意味を込めて言う。
「あははは、でも、前で敵を止めておいてもらえると魔法が撃ちやすくなりますね。ソロでやってた時は、近づかれたら杖で殴ってたんですけど、ダメージが1しか入らなかったんで大変だったんですよ。」
「それは大変だな。そういえば、クロスに弓を売る前は弓を持ってただろ?使わなかったのか?」
「いえ、使おうとはしたんですが、弓が装備出来なかったんですよ。」
「それは、おかしいな?エルフなら重武器以外は使えるはずなんだが?」
「重武器ですか?なんですかそれ?」
「重武器っていうのは、ハンマーとか両手剣・大剣・戦斧・メイスみたいな重量級の武器って意味だ。武器のステータス画面には重量は載ってないがそういうカテゴリーがある。あと、軽武器ってカテゴリーがあって、軽武器ってのは軽量級の武器の事で、弓・短剣・レイピアとか杖、あと鞭な。それで、そのどちらにも属さない武器が片手剣・刀・槍・棍等、それらは中級武器ってカテゴリーになってる。それから、防具もこの3つのカテゴリーで分けられてる。」
「へー、そうなんですか。って話が逸れてますよ!」
「あっ・・・なんだったっけ?」
「エルフは重武器以外は装備出来るって話じゃなかったか?」
クロスが先頭で索敵を使い周囲を警戒して進みながらも、2人の会話にはしっかりと耳を傾けていた。
「そうだった。だから、エルフが弓を装備出来ないのはおかしいんだが・・・」
そこまで言って、アルフレッドは何かを考えながら進む。
暫くして、アルフレッドがブルースに尋ねる。
「なあ、ブルース。お前、本当にエルフなんだよな?」
改めて確認するまでもなくブルースの姿は、尖った耳に白い肌、まごうことなきエルフである。
「ええ、エルフ族のセイントエルフです。」
「やっぱりか~。でも、それで説明がつく。」
「何か分かったんですか!」
「焦んなよ。今、説明するから。まず、エルフ族に格があるのは知ってると思うが、その中で一番格の高いのがハイエルフなんだ。でも噂では更にその上があって、それがセイントエルフって言われてる。で、そのセイントエルフなんだが、レアアバターなんだ。」
「へ~、そうなんですか。で、それが何か関係があるんですか?」
「ああ、レアアバターってのは他のアバターと比べて初期ステータスが高いんだ。高いんだけど、扱いづらいデメリットがあるって話を聞いた事がある。」
「じゃあ、弓が装備出来ないっていうのは?」
「多分、そういう事だろう。俺の予想じゃあ杖以外は装備出来ないと思う。しかも、魔法超特化型じゃないか?杖で殴ってダメージが1しかなかったって言ってただろ。普通ならそんなことは無いからな。もしかしたら種族説明とかに載ってるかも知れないぞ。」
ブルースはそう言われて自身のステータスを開くと、【格 セイントエルフ】の項目を開き種族説明を読む。
そこには、
セイントエルフ
全てのエルフの始祖であり源流。
始まりのエルフとも呼ばれている。
現在はその数を減らし、世界に10人しか存在しない。
魔法が得意で普段何をするにも魔法を使って生活している為、杖以外の武器は使用する事はない。
と書いてあった。
「アル兄さんの言った通り載ってました。はぁ、最初にここ見ておけば無駄な買い物しなくて済んだなぁ。」
ブルースはガックリと肩を落として夜の森を歩く。
その話を聞いたクロスは、後で自分の種族説明を見ておこうと心の中でひそかに思う。
そうやって雑談をしながら、時々遭遇するモンスターを倒して進む。
「そういえば、クロス先輩って鬼人族ですよね?その姿は鬼ですか?」
「俺か?俺は『グシャ!!』―――」
「「グシャ?」」
何かを踏み潰した様な音がしてその方向を見ると、アルフレッドが気持ち悪そうな顔をして足を上げていた。
よくよく見ると、その足に黒い欠片とネバッとした液体が着いており地面から糸を引いていた。
「うわっ!なんだこれ?気持ち悪っ!」
アルフレッドはそう言うと近くの木に足を擦り付ける。
「一体、何を踏んだんですか?もの凄く嫌な予感がするんですけど?」
「ちょっと鑑定してみる。」
クロスはアルフレッドが踏んだ謎の液体を鑑定すると、
割れたナイトクロウの卵
昼夜を問わず活動するカラスのモンスターの割れた卵。
主に夜に活動が活発になる為、ナイトクロウと呼ばれている。
闇夜の暗殺者とも呼ばれるカラス。
殻の色は黒く卵はとても美味で高値で取引される。
見つけても手を出したり傷つけたりしてはいけない。
もし親のナイトクロウに見つかれば親の所属するコロニー全羽で襲ってくる。
と書いてあるのを、声に出して読む。
「ゲッ!見つかる前に逃げ「「「「「カーーーー!」」」」」――」
森全体にナイトクロウの鳴き声が響き渡る。
「走れー!」
「来るぞ!ブルース撃ち落とせ!」
「分かりました。ファイヤーボール!!」
走り出していたブルースは、振り向かぬまま狙いもつけずに魔法を撃つ。
それでも追ってくるナイトクロウに当たり、ドドンと爆発音がする。
「「「「カーーーー!カーーーー!」」」」
走る3人にナイトクロウ達が体当たりをしてきたり爪で引っ掻いたりと攻撃を仕掛けてくる。
「ダメだ!気配が無いうえ、夜で見えにくいから何処から襲ってくるかが分からねぇ!」
気配察知を使っていたクロスが、困った様に叫ぶ。
「クロス、魔力感知を使え!それで分かるハズだ!」
アルフレッドに言われてクロスは、新しく覚えた魔力感知、それに加え魔眼を使う。
「ぐっ!」
「どうしました?クロス先輩、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。ちょっと頭痛がするだけだ。」
スキルを発動させた瞬間に、鋭い痛みがクロスの頭に走り顔をしかめる。
それもそのはず、現在のクロスは最初から使っていた気配察知・索敵・天空の目に加えて魔力感知と魔眼を使ったのだ。
その情報量の多さに脳が対応出来ず、負担が掛かり頭痛を引き起こしていた。
ズキズキと痛む頭を無視して、魔力感知で捉え、魔眼で見える様になった相手の姿をブルースとの取り引きで手に入れた弓矢で射落としながら走る。
「アル、来る途中に見つけた木の虚に隠れるぞ!」
「そうだな。そうしよう!ブルースもそれで良いか?」
「そうですね。このままじゃ街に戻る前に殺られてしましますから、そこに立て籠って脱出するチャンスを待ちしましょう。」
3人はそのまま走り続け、見つけた木の虚に飛び込む。
「ブルース、魔法で入り口を塞げ!但し、弓が射てるように穴を開けてくれ。それから、アルは石でも投げてろ!」
そう言うとクロスは、アイテムボックスからカンテラを出し明かりをつけ、ポーションを飲む。
「不味くはないが美味くも無いな。」
ポーションを飲んで体力を回復させたクロスはそう呟き、ブルースが魔法で創った岩壁の側に立ち、アルフレッドの隣でブルースが矢狭間の様に開けた隙間から矢を射る。
「ブルース交代だ。今のうちに体力と魔力を回復させておけ。アルは投げる石が無くなったらブルースと交代しろ。」
クロスが指示を出すが、2人は文句も言わずにその指示に従う。
昔からこういった非常時にはクロスが2人に指示を出して巧く切り抜けていたので、今回もその様にしていたのだ。
但し、どこかの馬鹿が余計な事をしなければであるが。
暫く矢を射っていたが、残りの矢の数が少なくなってきたのでブルースに窓を塞がせてカンテラの側に胡座をかいて座り、アイテムボックスから矢羽と鏃を取り出し木材を加工して矢を作り始める。
(さて、ここからどうしようかな?)
クロスは矢を作りながらこれからどうするか考えている側で、アルフレッドは自分のアイテムボックスを開いて使えるアイテムを探して考えていた。
「クロス先輩、木工のスキル持ってるので手伝いますよ。」
「ん?壁の方は大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。削れてきたら、かけ直しますから。」
「そうか、じゃ頼む。」
そう言って矢の材料を半分渡す。
それからは3人共、一言も話さず黙々と自分のやる事をやった。
名前 クロス 性別 男 職業 侍 Lv8→11
種族 鬼人族 格 酒呑童子
冒険者ランク F
スキル 刀術Lv4 弓術Lv1(New)→4 格闘技Lv8 投擲Lv4 気配察知Lv10→13 気配遮断Lv4→6 魔力感知Lv1(New)→2 魔力操作Lv1 索敵Lv10→13 威圧Lv8→9 暗視Lv1→5 魔眼Lv1(New)→2 天空の目Lv1(New)→5 裁縫Lv9 料理Lv1
EXスキル 鑑定Lv―




