第十章 都市を救う戦い
城主府のそびえ立つ大広間で、知識追尋者は主座に端座し、手にした分厚い古書を静かにめくっていた。
何の前触れもなく、空間に波紋が広がった。突如として開いた次元門が、二人の少女とウェルズ、そしてバンシーを一気に大広間の中央へと送り込んだ。
「邪悪なるリッチ、お前を討って、この都市の人々をすべて救ってみせる!」
フリーデが勢いよく剣を抜き放つ。長剣はたちまち陽光のごとき燦然たる金色の輝きを放ち、その切っ先が王座の死霊をまっすぐ指し示した。
顔を上げた知識追尋者の目の奥に、幽かな光がよぎった。少女の全身を巡る魔力を、それは一目で見抜いていた——この娘は、すでにウェルズと契約を結んでいる。
「まさか……お前たちが手を組むとはな。まったく思いもよらなかった。何もかもがこうも都合よく重なるものか。もしや私は、どこぞの何者かに謀られたのか?」
分厚い書物をゆっくりと閉じ、それはしわがれた声で嘆じた。
「だが、遠方から来た旅人たちよ、一つ、私の言葉を聞くがいい」
そう言うと、半リッチは自ら偽装を脱ぎ捨て、真の姿をさらした。
漆黒の魔法のローブをまとった、枯れ果てた骸骨。乾いてざらついた死灰色の皮が、骨にぴったりと張りついている。ゆっくりと立ち上がったその白骨の手には、人の頭蓋骨を嵌め込んだおぞましい杖が握られていた。
「邪悪なる不死者め、まだ何か言い逃れがあるの?」フリーデの金色の瞳に、凛冽な殺意が閃いた。
「お前たちは思い込みが過ぎる。不死者が必ず邪悪だなどと、誰が決めた?見るがいい、この都市の人々はみな穏やかに暮らしているではないか。彼らは私を暴君などと思っておらぬし、ましてや憤って刃向かってもいない」
「でもお前は彼らを欺いた!」
「統治の術というものだ。事実を半分だけ告げるほうが、血まみれの真相を暴くよりはるかに治めやすい。それに私は、外の世界には致命的な脅威があると、ちゃんと警告してやっているではないか。お前たち生者の国とて、嘘に満ちているのだからな。この少年が数時間前、自らの口で私に語ったのだ。帝国と連邦は民族とイデオロギーの嘘で戦争を煽って数百万人を殺し、教廷は宗教の嘘で人心を惑わしている、と。奴らの嘘は私のものよりはるかに巨大で、害した生者の数もずっと多いではないか」
「お前は黒を白と言いくるめて、話をねじ曲げているだけよ!」
「私がいなければ、ここの人々はとうに荒野でばたばたと死に絶えていた。この都市を育てたのは私だ。私は彼らの父母なのだ。私なくして彼らはない。生殺与奪の権を握るのは当然だろう。それでも私は、大多数の者が安んじて暮らせる道を選んだ。本当に話をねじ曲げているのは、お前たちのほうだ」
「大多数を守ることが、少数を害していい口実になんて絶対にならない!」
「生者の国とて同じ道を奉じているではないか!帝国は奴隷を捕らえてはプランテーションに押し込み、成績の悪い者を死亡率の高い重工業の鉱坑へ送り込んで苦役を課している。生者の国は強制的に兵を集め、罪なき少数の兵士を国のために戦場で死なせている。どれもこれも、大多数の利益のために少数を犠牲にしているではないか?」
「でも、お前に害された人たちは不死者になりたいなんて少しも思っていなかった。お前はあの人たちの意志に背いたのよ!」
「だが、不死者に転化された後は、みな幸せなのだ!」半リッチは両腕を広げた。まるで偉大な功績でも宣言するかのように。「確かに、不死者へ転化させる過程で、私が大量の苦痛と絶望の念を彼らに注ぎ込んだのは事実だ」
「だがそのおかげで、彼らは高階の強靭な不死生物へと生まれ変わった!亡霊騎士に、葬送のバンシーに、ワイト・チャンピオンに、蝙蝠天鬼に、憎悪に。凡人の身では十度生まれ変わっても届かぬ三階、四階の強者になったのだ!しかも生命を奪うことで、かつての苦痛を凌駕する無上の歓喜を得られる。殺戮と残虐のさなかに魂の底から湧き上がる激しい喜びは、退屈な肉の交わりより幾万倍も強烈なのだぞ」
半リッチは言葉を切り、嘲るように続けた。「お前たち生者とて、同じことをしているではないか?子供たちを監獄さながらの学校という檻に閉じ込め、残酷なまでに厳格な規律と冷酷な業績評価を課す。そして約束するのだ。学業を終えれば、その苦痛を償って余りある富が手に入る、と。お前たちのやっていることは、私と何ら変わらぬ」
「学校の子供は、卒業すれば校門から出ていける。教師を一生恨むことも、本を書いて制度ごと罵倒することもできる」フリーデは剣の柄を握りしめた。「でもお前の城門は、衛兵が内側を向いて立っている。この数百年、一人でも出ていった者がいるの?」
「帝国の鉱坑の苦役人も出ていったことはない。プランテーションの奴隷もだ」半リッチの眼窩で幽火が揺らめいた。笑っているかのように。「お前は、彼らの檻のほうを見慣れているというだけだ」
今度は、フリーデはすぐには答えなかった。
「私の治める林間仙境では、人々はもう辛い野良仕事をせずに済む。これほど美しい幻夢に、人々は自ら望んで溺れているのだ。なぜお前たちは、そのすべてを残酷にも暴き立てねばならんのだ?」半リッチは問い返した。
「あいつの言うことにも筋は通ってるし、非難にも一理あるわ。どっちがよりひどいかを比べ出したら、きりがないもの」サンドラは苛立たしげに武器を握りしめ、この哲学論争を打ち切った。「一番いい返事はこれよ。私は蛮夷だから、議論はしない!お前が気に入らない、それだけ。さっさと手を下して、私たちの信じる正義を執行しましょう!」
「それこそ俺が聞きたかった言葉だ。俺たちの正義を執行しようじゃないか」
ウェルズは声を立てて笑うと、すぐさま魔法書を開き、高らかに呪文を唱えた。
紺碧の光がひらめき、「増速致勝」が瞬く間にその場の仲間全員を包み込んだ。
この強力な増幅魔法が、戦いの始まりを告げる鐘となった。
半リッチは耳障りな冷笑を漏らすばかりだった。初めから、言葉でウェルズたちを説き伏せられるとは思っていなかったらしい。
「来い、私が丹精込めて育てた不死者の戦将たちよ。生者にお前たちの実力を見せる時だ!」
半リッチが杖を高く掲げると、大広間の空間が歪んだ。虚空に三つの暗い次元門が形を成し、凍てつくような死の気配とともに、四階の威圧を放つ三体の不死者がゆっくりと歩み出てきた。
自笞天使、高階の画皮、そして猟魂者である。
自笞天使は、極端に歪んだ変異ゾンビだ。己の血肉を生きたまま引き裂き、猛々しい血色の肉の翼を幾枚も編み上げている。猛獣の牙を思わせるその翼からは尽きることのない汚血が滴り、筋繊維をむき出しにした巨躯の内には無数の疫病が巣くう——まさに歩く疫病の源だ。何より恐ろしいのは特技「血腥復讐」で、自らを傷つけた者を呪い、攻撃者に同じだけの肉体の傷を負わせる。
攻撃しなければ致命的な疫病を撒き散らし続け、攻撃すればこちらも同じ傷を負う。そこへ恐るべき不死の再生能力まで加わるのだから、四階の不死者の中でも最も厄介な存在と言っていい。たとえジョージ本人でも頭を抱えるだろう。
着地するなり、それは咆哮を上げて最も近くにいたサンドラへ飛びかかり、膿瘍と傷口だらけの巨大な拳を振り下ろした。
悪臭を放つ疫病まみれの瘴気が鼻腔を直撃し、少女は思わず激しく咳き込んだ。その隙を逃さず、自笞天使の重い拳が流星のごとく襲いかかる。
だが攻撃の軌道はあまりに単調で、まるで動きの鈍い凡人のようだった。
サンドラは軽やかに身をかわし、返す刀で正確に斬りつけた。崩れかけた体に、たちまち大きな裂傷が口を開ける。
だがほぼ同時に、サンドラの腕にもまったく同じおぞましい傷が何もないところから走り、血が滝のように噴き出した。
それを見たウェルズは即座に『咫尺の書』から手を離して傍らに浮かせると、腰のジョージの神術書を抜いて治癒術を発動した。
神聖で穢れのない白光が書頁から迸り、天からの光となって少女に降り注ぐと、腕の傷は瞬時に癒えた。だが絶望的なことに、傷ついた自笞天使もまた、強靭な不死の再生力で同時に元どおりになっていた。
その頃、別の場所では、バンシーが猟魂者と対峙していた。
猟魂者——巷で語られる死神とほとんど瓜二つの姿をしていることから、低階の死神とも呼ばれる不死者だ。幽体の一種で、外見はぼろぼろの薄暗いマントをまとったスケルトン、手には巨大な戮魂の大鎌を握っている。空中を高速で滑空するばかりか、閃爍転移という厄介な能力まで備えている。
その大鎌は肉体を素通りして、人の魂をじかに両断する。それに殺された者の体には傷一つ残らない。刈り取った魂が多いほど強くなり、やがて聖階に至れば、一夜にして都市一つの魂を刈り尽くす刈り取り手となる。
バンシーにとって、こいつはまさに天敵だった。
戮魂の大鎌は鎧を透過して魂をじかに傷つけるうえ、純粋な霊体には致命的な威力を発揮する。階級では一つ上回っていても、バンシーは寒々とした光を放つあの大鎌を恐れずにはいられなかった。猟魂者が何より渇望する獲物こそ、彼女のような高階の純粋な霊体の生物だからだ。猟魂者にとって、彼女はまさに極上の滋養なのだった。
猟魂者は灰色の影と化してバンシーに執拗に食らいつき、重い大鎌が宙に死の弧を描く。
バンシーが頼みとする攻撃手段は、猟魂者にはまるで通じなかった。互いに死霊の生物である以上、負エネルギーによる攻撃は吸収されて治癒に変わるだけ。あの致命の哀嚎歌声も、とうに死んでいる猟魂者にはなおさら意味がない。
やむなく戦法転換を使い、空中で無様に右へ左へと逃げ回りながら、二階の「灼熱光線」でささやかな反撃を返すしかない。
五階のバンシーともあろう者が、天敵たる四階の不死者に追い回され、危うい場面が続いた。
高階の画皮はその名のとおり、二階の画皮の強化版だ。身の毛もよだつ不死者で、その本体は生者から生きたまま剥ぎ取った人の皮である。生きた人間に化けるのを好み、ゾンビに取りついてその体を操って戦い、ゾンビの特性の一部も手に入れる。
その相手となったのは、フリーデだった。
少女の動きは優雅で軽やかだった。空間の権能を帯びた剣光が、逆巻く波のように幾重にも押し寄せる。拙い武技しかない画皮にはとても受けきれず、ほどなくして宿主のゾンビはばらばらに斬り刻まれ、完全に使い物にならなくなった。
画皮はやむなく宿主を捨て、宙に漂う不気味な一枚の人の皮となって距離を取ろうとした。柔らかく強靭なその皮は、本来なら物理的な斬撃の大半を無効化できる。だが少女の刃に宿る、空間を裂く恐るべき権能までは防げず、たちまち穴だらけになった。現時点で、劣勢に立たされている不死者はこれだけだった。
それでも紙切れのようにひらひらと漂う飛び方のおかげで、しばらくはどうにか命をつなぎ、フリーデを足止めすることには成功していた。
「ふふふ、弱き生者どもよ、手を組んだところで何になる?」
王座の前に立つ半リッチが白骨の杖を立て続けに振るうと、漆黒の光が次々と三体の不死者に降り注いだ。
群体狂化、邪霊祝福、殺意具現、絶命驚駭、暗黒狂喜!五重の邪悪な法術を受け、三体の不死者の攻勢はますます狂暴かつ致命的になっていく。
「ウェルズ、私たちの敵を入れ替えて!」
激戦のさなか、フリーデは局面打開の鍵を一目で見抜いていた。
「分かった!」
少年はすぐさま呪文を唱え、三人の仲間それぞれの傍らに正確に次元門を開いた。少女たちとバンシーは迷わず飛び退き、門の中へと消える。
次の瞬間、フリーデは別の次元門から蝶のように躍り出た!
銀白の稲妻と化して、彼女は自笞天使へ一直線に飛びかかった。まばゆい金色に輝く長剣が審判のごとく振り下ろされる。空間を裂く威力を帯びた刃は、弾丸すら通さない疫病の厚い皮を豆腐のように断ち割り、自笞天使をほぼ縦一文字に両断した。
だが深手を負った自笞天使の腐った顔には、陰湿で獰猛な笑みが浮かんでいた。
目の前の花のように美しい少女が、「血腥復讐」の呪いを受けて皮が裂け肉がはじけ、悲鳴を上げて散っていく——その様を、それは今か今かと待ちわびていた。
フリーデが剣を引いたのとほぼ同時に、巨大な見えない斬撃が、彼女の純白無垢な体に跳ね返った。
少女の体は無残に引き裂かれた。だが、驚くべきことに——噴き出す鮮血も、白い骨肉もない。深く切り開かれた裂け目の奥には何もなく、ただ純粋で濃密な魔力の輝きが素早く織り合わさり、見る間に傷口を縫い閉じていく。
それを見た自笞天使は、驚きのあまり顎の腐肉をぼとりと床に落とした。
魔導構体であるフリーデの本体は、『咫尺の書』だ。純粋な魔力が凝り固まってできたこの体に、人間の弱点などそもそも存在しない。たとえ手足を斬り落とされようと、戦闘力には微塵も響かないのだ。
こうして、自笞天使が最も誇る絶対の技能、血腥復讐は、一瞬にして無意味な能力に成り下がった。
ウェルズが魔力を注ぎ続ける限り、彼女の修復速度は不死者の再生すら上回る。
傷こそ癒えつつあるものの、フリーデの怒涛の猛攻を前に、自笞天使の気配はすでに大きく衰えていた。拙い戦闘技術が命取りとなり、瞬く間にさらに数太刀を浴びて、汚血を激しく噴き上げる。
「人間ってのは、本当に脆いもんだな」ウェルズはしみじみと漏らした。痛みも感じず、血も流さず、体力も尽きない——完璧な戦闘機械のフリーデだからこそ、サンドラが手こずった相手をこうもたやすくあしらえるのだ。
大広間の別の一角では、バンシーの相手が高階の画皮に替わっていた。
彼女は武器を使わず、両の拳を固め、比類なく剛猛な拳法で、ひらひらと漂う人の皮に嵐のような連打を浴びせた。吸能の触で寿命を奪うことはできないが、五階のバンシーの圧倒的な力と速さは、四階の画皮ごときに耐えられるものではない。
重い鉄拳が空気を次々と炸裂させ、宙を上へ下へと逃げ回る画皮を追い立てる。画皮が誇る飛行の優位は跡形もなく消え失せていた。バンシーのほうが、速く、身軽に飛べるのだから!
残るサンドラは辟乱斬を繰り出し、ウェルズがすかさずかけた聖戦の刃と合わせて、猟魂者と危うい接近戦を繰り広げていた。
猟魂者は姿を消して不意打ちを狙ったが、少年の正確な光耀爆発をまともに食らい、隠しようのない蛍光の粉を全身に浴びた。ウェルズが次々と繰り出す魔法と神術の援護を受け、わずか三階のサンドラが四階の死神と互角に渡り合っている。彼女にとっては、敵を足止めできるだけで十分な大勝利だった。
局面は一瞬で覆った。それもすべて、ウェルズの鋭い戦術眼が、それぞれに相性の良い相手を完璧に割り振ったおかげだった。
「お前はただ次元門を頼みにしているだけだ。この程度の空間魔法なら、私にも使える!」
それを見て激怒した半リッチは、すぐさま杖を振るい、ウェルズに倣って空間転移で戦局を覆そうとした。
だが自笞天使を猛追していたフリーデは、とうに視界の端でそれを捉えていた。
剣を持たない左手を彼女が高く掲げると、虚空から無数の半透明の鎖が瞬時に飛び出し、華奢な腕に幾重にも巻きついた。その鎖ごと拳を握りしめ、半リッチのいる方向へ、離れたまま叩きつける!
「ガキィン——!」
鎖はすべて一瞬で砕け散り、拳の落ちた先の虚空がガラスの割れるような音を立てる。無数の空間の亀裂が、蜘蛛の巣のように猛烈な勢いで広がっていった。
半リッチは愕然とした。半ばまで唱えていた次元門の呪文が、強引にかき消されてしまったのだ。
これぞ空間の権能——空間乱序。
この一帯における聖階未満の転移能力を、彼女はことごとく封じたのだ。半リッチだけでなく、猟魂者の閃爍までもが、たちまち効力を失った。
「馬鹿な……お前たちが私の空間魔法に干渉できるだと!?これはまさか、五階の空間封鎖か?」
皮も肉もない半リッチのスケルトンの顔に、初めて驚愕という感情が浮かんだ。
次の瞬間、退路を断たれた自笞天使は、フリーデの何物をも断つ長剣に完全に両断された。
巨躯は真っ二つに裂けて石畳に重々しく倒れ込み、生臭い血を撒き散らして、永遠の眠りについた。そして最後の血腥復讐の反噬が少女を襲い、おぞましい裂け目を刻んで、その動きを数秒止めた。
魔力が素早く巡って傷を修復するや、少女は脱兎のごとく飛び出した。銀の稲妻と化し、長剣の切っ先を王座の半リッチへまっすぐ向ける。
「覚悟なさい!」
半リッチは慌てて杖を掲げた。急場をしのげそうな死霊系の法術が、いくつか脳裏をよぎる。
まずは裂骨。標的の骨格を内側から砕く法術だ。
「駄目だ、この魔導構体にはそもそも骨がない。効くはずがない!」
次に暗黒術。
「魔法視覚を備えている以上、目を潰しても無意味だ!」
さらに臭雲。人の胃をひっくり返す強力な制御系の法術で、激しい嘔吐によって詠唱も動作も妨げられる。
「駄目だ!胃すらないのだぞ、吐き気など催すはずがない!」
半リッチは絶望とともに悟った。目の前の魔導構体には、弱点と呼べるものがほとんどない。あの天才アレクシオスが心血を注いで造り上げた究極の傑作なのだ。たかが五階の自分ごときが、たやすく御せる相手であるはずがなかった。
瞬く間に、フリーデは眼前まで迫っていた。考える暇もなく、半リッチは本能的に二階魔法「鏡像残影」を放つ。
その姿が一瞬で十に分かれた。杖を持った瓜二つのスケルトンが十体、同じ動きで四方八方へ散り、一同を惑わそうとする。
「さすがは五階、一手で十の残影か!」
ウェルズは冷ややかに鼻を鳴らした。魔導書の頁が翻り、高温の「灼熱光線」が三条ほとばしる。正確な連撃が、瞬時に三つの鏡像を蒸発させた。
敵陣へ飛び込んだフリーデの勢いは、なおのこと止まらない。まず流星のような突きを放ち、続けて腰を軸に華麗な円を描く剣輪を斬り出す。荒れ狂う剣気が、たちまちさらに四つの幻影を切り刻んだ。
二人がいとも簡単に法術を破るのを見て、半リッチは慌てて反撃の法術を放った。
もし「戦法転換」を知っていれば、今頃フリーデと近接戦で数合は渡り合えたかもしれない。だが、この極めて稀な法術を半リッチは習得しておらず、杖をぎこちなく振り回して、鋭い剣先を無様に受け止めるのが精一杯だった。
後退しながら、半リッチは詠唱を急いだ。
「幽冥の深き闇よ、無辺の暗黒エネルギーをもって庇護の堅壁と化せ!」
五階魔法、護身黒刺!
強大な暗黒の波動が一瞬で半リッチの周囲に凝り固まり、実体を持つかのような漆黒のエネルギーの光の覆いとなって、その身をすっぽりと包み込んだ。
フリーデは臆することなく、怒りの一太刀を叩き込んだ。鋭い刃は光の覆いを破ったものの、粘りつく暗エネルギーが生き物のようにうねって素早く塞がり、それどころか刃を伝って這い上がり、燦然たる金色の輝きを汚して曇らせていく。
続いて、漆黒の覆いが卵の殻のように轟音とともに弾け、無数の鋭い黒い棘と化して、目と鼻の先にいる少女へ豪雨のごとく降り注いだ!
「陰影よ、その無辺なる闇の権能をもって、庇護を授けよ!」
ウェルズの援護は、いつだって間に合う。陰影法甲が瞬時に発動した。
深い黒の幽光が、銀白の少女を包み込む。フリーデは軽やかに後ろへ跳び、舞うように飛来する棘の大半をかわした。避けきれなかったわずかな棘は、鎧が完璧に受け止める。
着地と同時に、フリーデは爪先に力を込めて床石を踏み砕いた。
剣先で荒々しい雷霆の力がばちばちと弾け、目を射る雷光がほとばしる——突きの剣技「迅雷電光」!
奔雷のごとき速さのこの一突きは、少女の常軌を逸した瞬発力と相まって、かわしようのない必殺の軌道を描いた。
半リッチの鈍い骸骨の神経では、到底反応が追いつかなかった。
荒れ狂う雷の刃は分厚い魔法使いのローブを貫き、脆い死皮と胸骨をあっさりと砕いた。リッチのひ弱な術者の体質では、物理的な打撃にひとたまりもない。剣先で躍る高圧の電光が爆弾のように炸裂し、瞬時にその骨格を数十の黒焦げの破片へと吹き飛ばして、骨が四方へ飛び散った。
黒煙を上げる頭蓋骨が脇に転がり、虚ろな眼窩の幽火は完全に消えた。
これほどたやすく斬り伏せられたことに、フリーデはかえって少し戸惑った。
「終わったの?これで、都市中を苦しめてきた元凶を倒したっていうの?」
ゆっくりと長剣を下ろし、床に散らばった骨の破片を見つめても、どこか現実味がなかった。敵が動かなくなったのを確かめると、彼女はすぐに身を翻し、まだ戦っているサンドラとバンシーの加勢に向かおうとした。
「おかしい……奴の魔力の気配がまだ消えていない!フリーデ、後ろに気をつけろ!」
ウェルズは眉間に深い皺を寄せ、鋭く叫んだ。
その声が上がった刹那、大広間じゅうの漆黒の暗エネルギーが、百の川が海へ注ぐように王座の前へと猛然と押し寄せた!
散らばった骨が黒い霧の中で浮かび上がって組み合わさり、ほんの一呼吸のうちに、半リッチの体が無傷のまま再び姿を現した。白骨の杖が命あるもののように、ひとりでにその掌へ飛び戻る。半リッチが獰猛に笑って杖を一振りすると、周囲の床から無数の蒼白いスケルトンの腕が突き出し、少女の足首へ執拗に掴みかかった。
「そんな……!確かに殺したはずなのに!」
フリーデは驚愕し、とっさに空中を蹴って続けざまに後方へ宙返りした。長剣が幾筋もの剣光を描き、襲いかかる白骨の腕をことごとく斬り落とす。
古い文献の記述が、ウェルズの脳裏に閃いた。
「不朽だ!リッチの種族天賦の中で最も絶望的なやつだ。死霊術師はリッチへの転化の儀式で、献祭した内臓の数に応じて命匣を作る。普通は五つだ。稀少な戮魂殺の魔法を直撃させるか、命匣をすべて壊すかしない限り、リッチは何度でも体を組み直して、無限に復活する!」
「はっはっはっは!少年、賢いではないか。リッチたる私は、永遠に不朽の存在なのだ!」
傍若無人に高笑いする半リッチの魔力と気配は、なんと最盛期の状態にまで完全に戻っていた。これこそが不朽という能力の、どうしようもなく理不尽なところだ。似た能力を持つ不死鳥たる鳳凰が、真竜よりも殺しにくい聖階の生物と称えられるのも頷ける。
杖が重々しく床を打つと、完全武装のスケルトン兵が数十体、石畳を割って這い出してきた。今度は半リッチも学習したらしい。スケルトンの大軍の後ろに身を隠し、フリーデを決して近づけまいとしている。
「くそ、戮魂殺みたいに魂を狙う聖階魔法なんて、俺には使えない!いったん退くしかないのか?」
ウェルズは歯噛みした。もともと引き際をわきまえた男だ。魔力が尽きることなく、永遠に殺せない怪物を相手に無駄な消耗戦を続ければ、先に力尽きるのはこちらだ。
「怖がらないで!あれはただの半リッチよ!半リッチの命匣には距離の制限があって、本体の近くに隠さなきゃいけないの。完全体のリッチみたいに、次元界のどこにでも好きに隠せるわけじゃない!それに数だって、普通のリッチよりきっと少ないわ!」
猟魂者と激しく斬り結んでいたサンドラが、大鎌に肩を削られる危険も顧みず振り返り、この決定的な情報を叫んだ。
「簡単に言ってくれるな。このだだっ広い宮殿の中で、隠された命匣をどうやって探し出せっていうんだ?俺は霊魂学の大家じゃないんだぞ!」ウェルズはやるせなく口元を引きつらせた。
前方のフリーデは無言のまま、スケルトン兵を片付ける速度を上げた。
目にも留まらぬ連撃とともに駆け抜けるたび、スケルトンが一体、また一体と砕け散っていく。白い蝶が舞うような少女のしなやかな姿と、宙に飛び散るおぞましい白骨とが、死と生のせめぎ合う奇怪な絵巻を織りなしていた。
「思い上がりおって、蟻けらどもが。忘れたか、ここは私の宮殿だぞ!」
半リッチは怒号を上げ、杖を高々と掲げた。
大広間の四隅の暗がりから、墨のように黒い霧が堰を切ったように湧き出した。骨まで凍てつく暗エネルギーの霧は瞬く間に空間全体を呑み込み、視界を奪うばかりか、二人の人間を絶えず負エネルギーで蝕んでいく。霧の中にいるだけで、毛穴から生命力がみるみる抜けていくのがはっきりとわかった。
「奴があらかじめ仕掛けておいた法陣だ!五階魔法『漆黒迷霧』!」魔力の流れを一目で見抜いたウェルズは、急いで自分とサンドラに「負エネルギー抵抗」をかけ、さらにレンズを起動して暗視を得た。
フリーデは目を見張った。今しがた斬り砕いたスケルトン兵たちが暗エネルギーを吸って、霧の中で骨がひとりでに繋がっていく。そして再びよろよろと立ち上がると、錆びた剣を振り上げて彼女の背中へ斬りかかってきた。
「きりがない!」猛然と身を翻し、背後を狙ったスケルトン数体を胴から両断する。だが霧の奥からは、骨の擦れ合う音がさらにびっしりと近づいてくる。戦いは明らかに、リッチに最も有利な消耗戦へと引きずり込まれつつあった。
「くそ!いったいどうすればいい?命匣の場所さえ見通せれば……」
冷や汗を流しながら、ウェルズは必死に頭を回転させた。まさか本当に、この都市を見捨てて逃げるしかないのか?
焦りが頂点に達したその時、異変が起きた。
腰に提げた燭のランタンが、またひとりでに灯ったのだ。城門の前では、炎に息を吹きかけた程度にすぎなかった。だが今度は、ランタン全体が燃え上がっていた。
澄みきった神聖な光は五階の漆黒迷霧をやすやすと貫き、大広間を真昼のように照らし出した。そして、信じがたいことが起きた。
光に照らされた大広間に、ひどく目を刺す漆黒の霊光が二つ浮かび上がったのだ!一つは大広間左手の巨大な石柱の内部、もう一つは半リッチの足下、深い土の中に埋まっている。何もかもを呑み込みそうなほど深いその黒は、ウェルズが生涯で目にした中で最も純粋な暗黒のエネルギーだった。
「この密度のエネルギー……六階にも達している!まさかあの二つが命匣か?」
ウェルズの心臓が早鐘を打った。大当たりだ、と直感が告げている。相手の命匣は、本当に二つしかなかったのだ!
「馬鹿な……これはまさか聖階の邪悪探知か!?私の蔵物法陣を力ずくで貫いただと?」
灯りの放つ光を目にした半リッチの眼窩で、幽火が激しく震えだした。その声は、信じられないという恐慌に満ちていた。
「どうやら燭聖が俺にくれたのは、本当に聖階の神灯だったらしいな」すべてを悟ったウェルズは、口元に危うい笑みを浮かべた。
迷わず手を上げ、命匣の隠された石柱へ指先を向ける。唸りを上げて、爆裂火球が一発飛び出した!
それを見た半リッチは凄まじい悲鳴を上げ、狂ったように杖を振るった。十数体のスケルトン兵が死をも恐れず宙へ飛び出し、身を挺して火球を受け止める。轟音とともに砕けた骨と烈火が四方へ飛び散り、フリーデを囲む包囲の圧力は一気に薄れた。
「あれほど焦るってことは、あれが命匣で間違いない!」ウェルズは声を張り上げて言い切った。
「なら、私が撃ち抜く!」
フリーデはすぐさま意を汲んだ。深く息を吸い、残る魔力をすべて長剣に注ぎ込む。明るい金色の魔力が渦を巻いて刃へと猛然と集まり、激しく揺れる気流が銀白の長い髪をなびかせた。
両手で剣を握って石柱に狙いを定めると、空間をも砕く威力を込め、宙から渾身の力で振り下ろした!
狂暴な金の奔流が、レーザー砲のごとく轟然と放たれた。もはや半リッチに動かせる兵はない。止めようのない光の柱が堅牢無比な石柱を貫き、中に隠された黒い晶石を跡形もなく灰に帰すのを、ただ見ていることしかできなかった。
「やめろ!!」
半リッチは胸を引き裂くような悲鳴を上げた。
「無駄だ!二つ目の命匣には、お前たちごときが傷一つつけられるものか!大地の奥深くに埋めてあるのだ。土こそ物理にも魔法にも完璧な障壁。たとえ聖階の強者が自ら出向こうと、幾度も撃ち込まねばあの大地は掘り返せぬ!」
半リッチは王座の前に頑として立ちはだかり、最後の望みを地下に託した。実際、その言葉は正しかった。実戦で数十メートルもの岩と土の層を一瞬で撃ち抜き、宝石一つを正確に破壊するなど、ほぼ不可能に近い。
そのとき、大広間の外からはすでに、津波のような足音が押し寄せてきていた。都市のあちこちをさまよっていた不死者の大軍がついに城主府へ駆けつけ、己の王を援護しようとしているのだ。
門の外を黒々と埋め尽くす不死者の海を見て、半リッチの虚ろな眼窩に再び得意げな幽火が燃え上がった。一行が生きたまま引き裂かれる結末が、もう目に浮かんでいるかのようだった。
「私の不死の大軍が、じきにお前たち身の程知らずどもを完全に呑み込んでくれる!」
だがウェルズの目には、まるで違う光景が映っていた。戦いはすでに終幕を迎えつつある。勝利の曙光が見えただけではない。幾重もの厚い土を越え、敵の心臓をじかに撃ち抜く必殺の策を、彼はすでに思いついていた。
半リッチは再び暗エネルギー光線を数条放ち、フリーデを抑え込もうとした。何しろ今あの魔導構体を脅かせるのは、こうした最も純粋なエネルギーの攻撃しかないのだ。
フリーデは長剣を振るって光線を二条斬り砕いたが、残る暗エネルギーが肩をかすめ、氷のような冷気に一瞬動きが鈍る。好機と見た半リッチはすかさず新たなスケルトン兵を呼び出し、彼女を完全に封じ込めにかかった。
リッチの注意がすべてフリーデに向いた、その一瞬——ウェルズの目に鋭い光が爆ぜた。
「汝に授けよう、限界を超えし疾風を!」
素早く魔法書を開き、高らかに詠唱する。
燦然たる紺碧の霊光が空を裂いて飛び、離れた場所で格闘していたバンシーに寸分違わず降り注いだ。
一階魔法「逃げ足」(エクスペディシャス・リトリート)である。最も基礎的な加速魔法にすぎないが、増速致勝と重ねがけされたことで、もとより高速で飛べるバンシーの速度は、常識外れの域まで一気に跳ね上がった。
「バンシー!地の底へ潜って、奴の命匣を握り潰せ!」
ウェルズはリッチの足下を指さし、迷わず叫んだ。
バンシーは瞬時に意を汲んだ。猛然と身を翻し、虫の息まで追い込んでいた画皮を捨てると、蒼白い流星と化して、恐るべき速さで地面へまっすぐ突っ込んでいった。
画皮は転がるように逃げ出した。引き止める度胸も、力もなかった。
水面に沈むかのように、バンシーの姿は硬い石畳へとすんなり溶け込んだ。純粋な幽霊体の彼女に、物理的な衝突は意味をなさない。生者には堅牢無比な分厚い大地も、彼女にとっては自在に泳ぎ回れる海にすぎない。深く埋められたあの宝石へ迫る彼女を、いかなる生命も物理的な防御も阻めはしなかった。
「何!?馬鹿な……!」
その光景に、半リッチが誇る理性は完全に崩れ落ちた。幽霊の特性を完璧に突いた戦術に総毛立ち、慌てて杖を掲げると、法術でバンシーを地上へ追い出しにかかる。
「土よ、厚き堅壁と化して外敵を禦げ……」
「三階の防霊土壌だ!土が霊体を拒む術だ、バンシーが弾き出されるぞ!フリーデ、奴を止めろ!」ウェルズは鋭く警告した。
指示を受けるや、フリーデは身を翻して迫るスケルトンを斬り伏せ、両脚に力を込めて、白い鳥のように軽やかに宙へ舞い上がった。
空中で優雅に身をひねると、空間の威力を秘めた長剣を、投槍のごとくリッチの頭蓋めがけて渾身の力で投げ放つ!
鋭く空を裂く音に、空間を引き裂く雷鳴が混じる。半リッチの骨組みで、この一撃を受けきれるはずもない。何しろリッチの体質は、スケルトン兵とさして変わらないのだ。やむなく詠唱を中断し、無様に横へ転がってかわした。
足止めされたこのわずか一秒が、勝敗を分けた。
地の底深く、虚ろな影となったバンシーは、極限の悪意を放つあの黒い宝石をすでに寸分違わず捉えていた。細く蒼白い手を伸ばしてそれを掴み取ると、力いっぱい握り締めた。
「パキッ!」
乾いた破砕音とともに、最後の命匣は粉々に砕け散った。
半リッチが体勢を立て直し、ようやく最後の一音節を唱え終えたとき、地面にはじめて霊体を拒む土色の光が浮かんだ。強力な陣法の力で地表から弾き出されたバンシーは、宙で優雅に身を翻して着地する。
だが、もう遅い。命匣はすでに跡形もなく砕かれていた。
半リッチの顔に骨しか残っていないのが惜しまれる。そうでなければ、極度の絶望に歪んだその形相を、さぞ拝めたことだろう。
「馬鹿な……世の中にこれほど都合の良いことがあるものか!?私の設けた幾重もの防護が、ことごとく、よりによって信じがたいやり方で破られただと!?」
命匣をすべて失ったことで、あの畏るべき不朽の力は、ついにその身から完全に剥がれ落ちた。
「お前の罪悪に、終止符を打つ時よ」
フリーデの澄んだ声が、神の審判のごとく大広間に響き渡った。
少女が白い手を一振りすると、凝り固まっていた周囲の空間が、ガラスの割れるような微かな音を立てた。空間乱序の禁制を、自ら解いたのだ。
次の刹那、彼女の姿はその場から忽然と消えた。
再び現れたとき、彼女はすでに瞬間移動で半リッチの背後に回り込んでいた。投げ放ったはずの長剣も、いつの間にか手に戻っている。ためらいは一切ない。フリーデは逆手に剣を返し、背後から半リッチの胸郭を正確に刺し貫いた。
長剣が白骨むき出しの肋骨の間から突き出る。まばゆい金色の魔力が火山の噴火のごとく刃から迸り、神聖な光が烈火となってこの邪悪な骸骨を洗い清めた。
「ぐああああ——」
魂の底からの絶望に震えながら、頭蓋の奥の二つの幽火は幾度か激しく明滅し、やがてふっと消えた。
続いて、かつて都市一つの運命を握っていた白骨は、支えとなる魔力をすべて失い、ばらばらの積み木のようにがらがらと床へ崩れ落ちて、破れた黒い魔法使いのローブの下に埋もれた。王を自称したあの頭蓋骨はごろごろと何度も転がり、階段にぶつかってようやく止まった。
今度ばかりは、漆黒の暗エネルギーがその体を作り直すことも、不朽の奇跡が死から甦らせることもなかった。
こうして戦いは、ついに勝利で幕を閉じた。
半リッチの完全な死を見届けるや、ウェルズは空間の指輪から暗黒色の亡霊戦旗を取り出し、バンシーへと力いっぱい投げ渡した。
「半リッチに代わって、新たな不死者の支配者になれ!すぐに町の不死者を抑え込め。奴らに民を傷つけさせるな!支配できる不死者は全部、城外へ追い出せ!」
バンシーは戦旗をしっかりと受け止めた。五階の不死者たる彼女は、ただちに巨大な精神の威圧を津波のように都市全体へと解き放つ。
壁の外から大広間へなだれ込もうとしていた低階の不死者たちが、一瞬で足を止めた。バンシーに強く操られ、心を持たない動く屍どもはおとなしく向きを変えると、よろめきながら城門の外へと歩き出した。
だが、残った猟魂者や画皮のように独立した心を持つ高階の不死者には、この強制的な指揮に抗う力があった。
大勢が決したと見るや、真っ先に動いたのは霊体の猟魂者だった。灰色の影と化し、高階の飛行能力で広間を突き抜けて一目散に逃げ去る。一方、虫の息の高階の画皮は一拍遅れた。後を追って逃げようとしたところでウェルズとサンドラに退路を正確に断たれ、息の合った連携で跡形もなく絞り砕かれた。
「あの死神を逃がしたか。まあいい、独りになった奴に大した波風は立てられないだろう」
ウェルズは息をつき、素早くあたりを見回した。その目には冷静さが戻っていた。
「戦いは終わったが、本当に難しいのはここからだ。すぐに都市の治安を立て直さないと。町にはまだ支配の効かない知性ある不死者がかなり残っていて、あちこちで殺戮を続けている。市民に真相を伝えて、それから防護魔法陣を開き、全員をこの死地から撤退させる。どの一手にも何千何万の命がかかってるんだ。一分一秒も無駄にできない!」
「私が拡音魔法で真相を告げる!そのあとは機動力を活かして町を巡回して、まだ殺戮を続けてる不死者を鎮圧するわ!」フリーデは剣についた骨粉を振り払い、自ら名乗り出た。
「じゃあ、私は行政部門を押さえる。認めたくないけど、民衆を組織して撤退させたり秩序を保ったりすることにかけては、正規の課程で鍛えられた騎士の私の右に出る者はいないわ」サンドラは大剣を肩に担ぎ、きっぱりと言った。
「いいだろう。バンシー、お前はここに残って、戦旗で心を持たない不死者を操り続けろ。奴らを人々に近づけるな。俺はここの中枢を調べて、撤退用の次元門の魔法陣を組む」ウェルズは手早く最後の指示を出した。
四人は頷き合い、ただちにそれぞれの持ち場へ散った。
短距離の次元門を抜け、フリーデは城主府で最も高い塔の先端に忽然と姿を現した。
冷たい風が銀白の長い髪をなびかせる。軽やかな小鳥のように片足で塔の先端に立ち、彼女は広大な都市を見渡した。
偽りの平和という幻は、無残にも暴かれていた。遠くのいくつもの街区で火の手が天を焦がし、統制を失った不死者に襲われた多くの市民が、極度の恐慌と混乱に陥っている。
深く息を吸い、喉へ魔力を注ぎ込んで、高階拡音魔法を起動する。
「林間仙境の市民の皆さん、聞いてください!」
澄んだ、それでいて威厳ある声が、一瞬にして都市の隅々まで響き渡った。
「これまで皆さんを欺いてきた不死者の城主は、私たちが完全に滅ぼしました!その正体は邪悪な半リッチ!庇護の名を借りて、実際には皆さんを、高階の不死者を育てるための予備の素材と実験体にしていたのです!」
「どうか慌てないでください!残った不死者の怪物は、私たちが責任を持って滅ぼします。指示に従ってください。私たちはこれから皆さんを、この偽りの仙境から安全な人類の領土へ護送します!」
町じゅうへの宣告を終えるや、フリーデは息つく間もなく、数十メートルの高さがある塔の先端からそのまま身を投じた。
貴重な魔力を温存するため、空間転移は使わない。強靭な身体能力にものを言わせ、ひしめき合う家々の屋根の上を、平地のように軽々と疾駆していく。
通りを二本越えたところで、眼下から上がった悲鳴を彼女は鋭く聞きつけた。
屈強なワイト・チャンピオンが錆びた斬馬刀を振りかざし、隅にいる丸腰の市民を真っ二つにしようとしている。
一瞬の迷いもなく、フリーデは軒先から身を躍らせた。
月光の下、少女のしなやかな肢体が美しい弧を描く。凄烈な銀の剣光がひらめき、三階のワイト・チャンピオンは悲鳴を上げる間もなく、刀もろとも胴から両断された。
飛び散った黒い汚血が、少女の純白無垢な頬に、目を刺す墨のような染みをいくつか散らした。
怪物が倒れて、九死に一生を得た市民はようやく極度の恐怖から我に返った。震えながら身を起こし、武神の降臨かと見紛うこの少女に礼を言おうとしたときには、彼女はとうに剣を鞘に収め、残影となって通りの果てへ消えていた。次の救援先へと向かったのだ。
死神との競走ともいうべき救援は、一時間あまり続いた。
感知の範囲内に、脅威となる不死者がついに一体もいなくなったところで、フリーデはようやく疲れた足を止め、静かに剣を鞘に収めた。
少しずつ静けさを取り戻しつつも、なお悲しみと恐れの漂う通りを見つめていても、勝利の喜びはほとんど湧いてこなかった。
「それでも私は遅すぎた……少なくとも数十人が、私が間に合わなかったせいで命を落としたのよ」
手の甲で頬の血をそっと拭い、彼女は自分を責めるようにため息をついた。
戦うにも時間はかかる。駆けつけるにも時間はかかる。そうした避けようのない損耗の中で、生きていた命が一つ、また一つと失われていったのだ。
彼女は痛いほど思い知った。不死者の大半は、本質的には今なお生者を憎む殺戮者なのだと。
機会さえあれば、不死者は容赦なく生者を殺し尽くす。以前ウェルズが出会ったあの亡霊騎士や、傍らにいる、より高い志を抱くこのバンシーのような存在は、結局のところごくわずかな例外にすぎないのだ。




