↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空間魔導書と少年魔法使い  作者: atu78963254
月の潮汐の深奥へ編
90/91

第八章 林間仙境

一週間は瞬く間に過ぎた。


七里靴の魔力を頼りに、二人はすでに月の潮汐のはるか深部、その奥地へと分け入っていた。


道中に湧き出す不死者はますます狂暴になり、二人が遠ざかった後でさえ、生者の気配をたどって咆哮しながら追ってきた。そのためウェルズとサンドラは、苦戦に陥らぬよう、これまで以上に足取りを隠して進まざるを得なかった。


幸い、燭聖のあのランタンのおかげで、この死地にあってもなお安らかに眠り、英気を養うことができた。この灯りの庇護がなく、二人で交代して夜番をするだけだったなら、体力の回復も行軍の速度も、とてもここまでは望めなかっただろう。


だが、荒れ果てた石煉瓦の道で、徘徊するゾンビとスケルトンが再び行く手を塞いだ。


今度は先手を取って奇襲をかけることにした。少女は放たれた矢のように飛び出し、その剣は一筋の銀光となって屍の群れへ襲いかかった。


だが奇怪なことが起きた。本来なら狂暴なはずのゾンビたちが、抵抗の意志を欠片も見せなかったのである。奴らはまな板の上の鯉のようにその場に突っ立ったまま、なすがままに斬られた。サンドラが群れの間を駆け抜けると、その背後には胴を両断された十数体の残骸が転がり、黒い血がどくどくと流れ出した。


剣を収め、血を払い、彼女は訝しげに振り返った。


「この不死者たち、どうして私たちを襲わないの?今までこいつら、生者の皮を剥いで骨を抜きたくてたまらないって様子だったじゃない?なんでこんなに大人しくなったわけ?」


ウェルズにも訳が分からなかった。傍らに漂う半透明のバンシーへ顔を向ける。


「月の潮汐が不死者に及ぼす狂化の影響が消えたのか?」


「消えてはいない。今も、強烈な悪念が地の底から絶え間なく湧き上がってくるのが感じられる。望月城に近づくほど、あの狂暴な牽引力は大きくなっているのだ」バンシーは首を振った。虚ろな瞳に、真紅の幽光が浮かんだ。


望月城こそ大災厄の起点であり、そこにはきっと、不死者を呼び寄せている何かがある。


「じゃあ、この不死者たちはどうして動かなくなったの?」サンドラが尋ねた。


その問いに、ウェルズはすぐさま最も筋の通った推論を思いついた。


「一番単純で、一番あり得る理由はこうだ。高階の不死者が、俺たちを傷つけるなと奴らに命じている」彼は一拍置いて、説明を続けた。「心を持たない低階の不死者は、上位者の指令に百パーセント従う。今ここで俺が死者操作の魔法を放って自害しろと命じれば、奴らはそのとおりにする。この不死者どもは間違いなく、何者かの厳命を受けて、俺たち生者を傷つけることを禁じられているんだ」


「それがそいつに何の得になるっていうの?この手の不死者の戦団の領主なんて、世界中を滅ぼしたくてたまらない連中じゃない?」サンドラは腑に落ちないという顔をした。


彼女だけではない。少年もまた、そこが気になっていた。


「もしかすると……そいつは生者に友好的な不死者なのか?」ウェルズは大胆に推測した。「もし本当にそうなら、そいつから月の潮汐に関する鍵となる情報を得られるかもしれない。もっと奥まで進んで、奴らの限界を試してみよう」


「試してみる価値はあるわね」


二人は再び、さらに奥へと進んだ。今度出くわしたスケルトンとゾンビも、やはり木偶のように突っ立ったままで、二人が堂々と目の前まで歩み寄り、手を振って挑発しても、まるで動じなかった。


「どうやら本当に襲ってこないらしい。先へ進もう」ウェルズは訝しげに言った。


そのときバンシーが一体のゾンビの体に潜り込み、体操でもさせるように左右に体を揺すらせ、腰を伸ばさせ始めた。明らかに敵意のこもった振る舞いだというのに、周囲の不死者はやはりぼんやりと眺めているだけだった。


「もし連中が、大物を釣るためにわざと泳がせているだけだったら?」


「それでも構わん。せいぜい血路を切り開くまでだ」


こうして二人は、灰の積もった道を進んでいった。初めのうちこそ少女も幾らか気を揉んでいたが、奥へ進むにつれ、目の前の光景はますます荒唐無稽なものになっていった。


いつの間にか、大地を覆う灰色の荒廃がひそかに褪せ始めていた。崩れた石煉瓦の道も、もはや死に絶えたむき出しの姿ではない。翠緑の若芽が幾つか、崩れた煉瓦の隙間からしぶとく顔を出していた。紛れもなく、生命の息吹のしるしだった。


「禦死長城の内側に……生命があるなんて?こんな話を外でしたら、間違いなく世間の常識をひっくり返すわよ!ここは月の潮汐の深部なのよ!」サンドラは信じられないという様子で目を見開いた。


「俺たちはここまで深く入り込んだ最初の生者かもしれない。前代未聞の奇跡を目の当たりにしているんだ。教会きっての探検隊でさえ、せいぜい俺たちの半分の道のりまでしか到達していないだろう」ウェルズはすぐさまバンシーへ振り向いて尋ねた。「生命の気配は感じるか?」


バンシーは両目を閉じ、周囲のエネルギーの流れを静かに感じ取った。


「確かに、生命の気配が深部から絶え間なく放たれているのを感じる……」彼女の澄んだ声が響いた。「生前の記憶が幾つか浮かんできた。あそこはかつて栄えた大都市だったはず……林間仙境(りんかんせんきょう)と讃えられた、月の潮汐で最も住みやすい土地だった」


「物極まれば必ず反る、死地であればあるほど生機があるってこと?国ごと生贄に捧げられても、なお一片の浄土に生命が残っているっていうの?」サンドラは推し量るように言った。


「ここで当て推量をしても仕方がない。自分たちの目で確かめに行こう」


二人は決意を固め、足を速めた。


ほどなく、さらに呆気にとられるような光景が二人の視界に飛び込んできた。


壊れた煉瓦の大通りに沿って、荒れ果てた原野は次第に青々とした草地へと変わり、空には軽やかに飛ぶ鳥の影までよぎった。


「あ……あれ、雀?」サンドラは草むらに止まって餌をついばむ鳥を指さした。


「見間違いじゃない。雀だ」


「ウェルズ、あれは腐ったゾンビの鳥じゃない。正真正銘、生きている雀よ!」


少年は深く息を吸った。この奥には必ず、世界をひっくり返すほどの巨大な秘密が眠っている——彼はそう確信した。


さらに数時間進むと、一年中晴れることのない陰鬱な黒雲にさえ裂け目が生じ、幾筋かの陽光が降り注いだ。行く手に現れたのは、鬱蒼と茂る翠緑の針葉樹林だった。


針葉樹林を縫って進む間、二人はリスが枝の間を跳び、キツツキが幹を叩き、トンボが水たまりに尾を打つのを見た。そして森を抜けた刹那、この上なく奇怪な農村の風景画が、目の前にはっきりと広がった。


それは微風に揺れる黄金色の小麦畑だった。畑には澄んだ灌漑用の水路が掘られ、農地の中央には鳥を追い払う案山子まで立っていた。


麦の波をたどって目をやると、畑では数名の「農夫」が精を出して働いていた。身の毛もよだつことに、鍬を振るうその農夫たちは、一体残らず白々とした白骨のスケルトンだったのである!


奴らは枯れた骨の手で農具を握りしめ、ある者は荒れ地を開墾し、ある者は雑草を刈り、ある者は肥料を撒き、ある者は鎌を振るって収穫していた。奴らが纏う濃密な死の気配と、目の前で豊かにきらめく黄金の麦の波とが、あまりにも荒唐な対比をなしていた。


「これは……いったいどういうことだ?」ウェルズは呟いた。


「月の潮汐の影響はまだあるのか?」


「まだ退いてはいない」バンシーは首を振った。


ウェルズには信じがたいことだった。彼の陰影の天賦が、周囲に渦巻く負のエネルギーをはっきりと感じ取っていなければ、バンシーが自分を騙しているのではないかと疑ったところだ。


「彼女の言うとおりだ。ここは依然として月の潮汐の深部で、不死者を狂暴にさせるあの暗黒のエネルギーは、今も絶え間なく望月城から湧き出している。なら……なぜこのスケルトンどもは、ここで大人しく畑を耕しているんだ?不死生物が小麦を食う必要があるとでも?」ウェルズは問わずにいられなかった。


「小麦を食べるより、連中は間違いなく人を食べたがるわ。たとえばゾンビ。胃なんてとっくに腐り落ちて消化の機能なんて何も残っていないのに、それでも新鮮な血肉を腹に詰め込みたがる。肉の塊が自分の体と同じくらい腐るまでね」サンドラは眉をひそめて言った。


「なら奴らは何のために小麦を育てている?まさか教廷の属国と貿易でもするのか?」ウェルズは馬鹿げた推測を口にした。


「あり得ないわ。教廷が本当に不死者と商売できるなら、禦死長城なんて何のために築くのよ?」


疑念を胸いっぱいに抱えたまま、二人は澄んだ水路に沿ってさらに奥へ進んだ。


歩みを進めるにつれ、農地で育てられている作物の種類もますます豊かになっていった。


小麦のほかに、亜麻、綿花、牧草といった生活必需品が現れ、さらには贅沢品を醸造するための広大なぶどう園まであった。


「この灰ぶどう……法序王国の特産じゃない!ここにもあるなんて」サンドラは、自分が忠誠を誓う国の特殊な換金作物を見分けた。


「あのゾンビどもを見ろ。生きた人間みたいに身なりを整えている」


果樹園で働くゾンビたちは、生きているかのような偽の人の皮を身にまとっていた。ウェルズはひそかに窺秘の眼を放ち、魔法の霊光がすぐさま情報を返してきた——このゾンビたちには、ある戯法(キャントリップ)が恒定されている。


「恒定された保鮮術だ……ゾンビの肉体が腐って臭わないようにしている。しかも奴らは粗布の野良着を着て、日除けの麦わら帽子までかぶっている」


ゾンビたちは無表情に土を掘り返し、肥料をやり、害虫を捕らえていた。烈日が真上にあるというのに、その偽りの顔の皮には汗一滴にじまず、あるのは機械のような反復動作だけだった。


「この林間仙境で、なぜゾンビが農夫をやっているんだ?」ウェルズはますます困惑を深めた。


しかし、二人の常識を真に覆す衝撃は、数十分後に訪れた。


農地の果ての地平線に、ゆらゆらと立ち昇る炊煙が現れた。ぽつんと一筋二筋ではなく、優に数十筋の炊煙が絡み合って昇っている——あれは間違いなく、小さな都市の規模だった。


「ゾンビが畑を耕すだけでなく、都市まで築いて、生者の暮らしを真似ているのか?!」ウェルズは驚愕のあまり、かすかに口を開けた。


「行きましょう!早く行って確かめるのよ!この異常の元をはっきりさせたくて、もう待ちきれない!」サンドラは興奮して足を踏み出した。その目は輝いていて、まるで玩具屋へ買い物に行こうとしている小さな女の子のようだった。


煉獄騎士はもともと冒険者の精神を兼ね備えている。常に四方を旅しているからこそ、世の雑多な情報に通じているのだ。


ウェルズも慌てて後を追った。七里靴の加護のもと、わずか数十分で、空の彼方に見えていた炊煙はもう目と鼻の先だった。二人の目の前に現れたのは、そびえ立つ城壁を持つ雄大な都市だった。


「これは……」サンドラは呆気にとられて、分厚い城壁と、その向こうに整然と立ち並ぶ建物の群れを仰ぎ見た。


「これほど大きな都市なら……中には少なくとも数万人が住んでいる。城外のゾンビどもが昼も夜も耕しているのは、まさかこの都市を養うためか?」ウェルズはバンシーへ顔を向けた。「この中に、生きた人間は大勢いるのか?」


「そうだ。脆弱な生者が大勢いる。戦闘力は大半が取るに足らない凡人か、一階、二階の職業者だ。私が声を張り上げて歌えば、この者たちは瞬く間にばたばたと死んでいくだろう」バンシーは冷ややかに答えた。


「なら絶対に歌うな。まずは状況をはっきりさせよう」


二人は物陰に隠れてしばらく観察したのち、何食わぬ顔で城門へ向かった。城門の入口では、鎧をまとった数名の衛兵が背筋を伸ばして立哨していた。


「あの守衛たちは二階のスケルトン戦士だ」バンシーがひそやかに注意を促した。


ウェルズが目を凝らすと、果たして奴らは偽装をまとった死者で、目は虚ろ、表情は凍りついたように動かなかった。


「だが出入りしている市民は本物の生きた人間だ。見ろ、さっき通り過ぎた連中の顔には、心からの喜びの笑みが浮かんでいた」


「まさか、生者と死者が共存する奇跡の都市?」サンドラは思わず感嘆した。「真相がどうであれ、月の潮汐の深部に生きた人間の都市が隠れていたなんて!この情報を騎士団に持ち帰ったら、団長は顎が外れるほど驚くわよ!報告書に書いてやる。これで大儲けよ!」


「行くぞ。町に入って宿を探して、この都市の内情をじっくり探ろう」


「そのまま入って問題ないの?」少女が尋ねた。


「さっきあのゾンビの守衛を観察していたが……城外の脅威を防ぐより、奴らの注意はむしろ城内に向いているようだ。市民を都市から出さないよう、厳重に見張っているらしい」ウェルズは低い声で言いながら、この奇怪な細部を胸に刻んだ。


二人は肩を並べて城門をくぐった。敷居をまたいだその一歩で、腰に提げたランタンが一瞬暖かくなり、誰かが火に息を吹きかけたかのように、すぐにまた暗くなった。ウェルズはちらりとそれに目を落としたが、深くは考えなかった。守衛は二人に目もくれず、不思議なほどすんなりと通れた。奴らのぼんやりした様子は、ウェルズの推測を裏付けているようだった——この都市の守りは、外ではなく内に向けられている。


通りは賑わい、老若男女が行き交っていた。その大半は魔力の乏しい凡人で、穏やかな顔つきのまま、勝手知ったる様子で屋台を回っては必要なものを買い求めている。ここに根を下ろして久しいのは明らかだった。


「異常すぎる……不死者が生者を襲わないだけでなく、わざわざ自分の正体を隠しているとは」ウェルズは眉を固く寄せた。


「もしかしてこの都市を建てたのは、生者と死者の平和共存を求める理想主義者なのかしら?」サンドラは推測した。


「もし本当にそうなら、なぜあの死者どもは生きた人間に偽装する必要がある?」


そこが今のところ、二人にはどうしても解けない盲点だった。


「まずは落ち着ける場所を探しましょう」少女が提案した。


二人は親切な通行人を呼び止めて道を教わり、ほどなく城門近くの繁華な一角で「喜び」という名の宿を見つけた。ここに店を構えているのは、明らかに外から来た旅人をいち早く迎え入れるためで、この方角から町に入る者は誰もがまずここに腰を落ち着けるのだ。


「名前からして温かそうじゃない。少なくとも今夜は荒野で野宿しなくて済むわね」サンドラは満足げにマントの埃を払った。


宿の扉を押し開けると、澄んだ鈴の音とともに、快活な笑顔をたたえた女性の係員が迎えに出てきた。黒髪の少女で、可愛らしい制服とエプロンを身に着け、頭には真っ赤なリボンを結んでいて、いかにも元気いっぱいだった。


「いらっしゃいませ!お二人は外からいらした旅のお客様ですか?あたしはシルヴィです!この宿はあたしたち一族が代々受け継いできたお店なんですよ!」彼女は元気よく手を振って挨拶した。


「この娘は生きた人間だ。だが周りは……全部死人だ」ウェルズは声を落として相棒に言った。


「ええ」少女は頷いた。


「お客様、何をぼそぼそ言っているんですか?生きた人間とか死人とか?」シルヴィは首を傾げ、きょとんとした顔をした。


ウェルズは辺りを見回し、思わず背筋に冷たいものが走った。宿の一階のテーブルには旅客が何人も座っていたが、彼とサンドラを除けば、広間の客はなんと全員が人の皮をまとった不死者だった。この顔ぶれに野外で出くわしていたら、命がいくつあっても足りない遭遇戦になっていたに違いない。


不可視のバンシーがひそかにウェルズの耳元へ漂い寄り、冷たい気配とともに囁いた。


「円卓に座っているあの大男は、三階の不死者、画皮(がひ)だ」


「戸口にもたれているあの痩せた男は、二階の怨念の魂に取り憑かれたゾンビだ」


「隅でがつがつと肉を食っているのは、偽装した二階のグールだ」


「宿の客が全員不死者とは、裏に必ず何かある。だが奴らがまだ仕掛けてこない以上、当面は下手に動いて警戒させず、静観しよう」ウェルズはサンドラにしか聞こえない声量で早口に言った。


それから彼はシルヴィへ向き直り、朗らかに笑ってみせた。「なんでもありません。急いで来たもので少し寝ぼけていて、わけの分からないことを言っただけです」


「俺と連れに、一人部屋を一つずつ用意してください。ここは本当にいいところですね」


「お任せください!きっとご満足いただけますよ!」シルヴィは嬉しそうに身を翻して木のカウンターの奥へ走り、ずっしりと重い銅の鍵を二つ取って差し出した。


ウェルズはポケットを探って支払おうとしたが、紙幣しか持ち合わせていないことに気づき、ばつが悪くなった。


「まずいな。お前、金を持っているか?」


「あるわ。私は出かける時はいつも強い通貨を持ち歩いてるの」サンドラが金貨を取り出そうとすると、シルヴィが笑って手を伸ばし、それを制した。


「お代はいりませんよ!遠くからいらした旅の方を歓迎するために、うちの宿の宿泊費は全部、市政府が全額補助してくれているんです!」


「そんな棚からぼた餅みたいな話があるのか?」ウェルズはその異様さを鋭く嗅ぎ取った。


広間を埋め尽くす偽装した死者たちが、旅客に化けているだけでなく、無料で泊まってまでいるというのか?


「とにかく、ありがとう」ウェルズは顔色一つ変えずに鍵をポケットへしまい、それから何気ない風を装ってカウンターに寄りかかった。「ところでシルヴィ、君にいくつか訊いてもいいですか?」


シルヴィは目を瞬かせ、相変わらずの熱心さで答えた。「もちろんですよ!何をお知りになりたいんですか?」


「君はこの都市を出たことがありますか?」


「まさか!ご冗談がお上手ですね」シルヴィは口を覆ってくすりと笑い、それからいくらか畏れの混じった声で言った。「城壁の外は、徘徊する恐ろしい不死者だらけじゃないですか?城主様が何度もあたしたちに言い聞かせているんです、絶対に都市の庇護から離れてはいけない、さもなければ外の怪物たちに八つ裂きにされてしまうって!お客様のような強い旅の方だけが、終末の後の荒野を自由に渡り歩けるんですよ」


その口ぶりは、外来者への羨望と城主への信頼に満ちていた。


「城主?」


「はい!あたしたちのこの林間仙境の偉大な城主様です!尊号は『知識追尋者(ちしきついじんしゃ)』!あの方が林間仙境に残された自然の力を借りて、町全体を覆う広域魔法陣を築き、春沢万物の奇跡をもたらしてくださったからこそ、町の内も外も、住んで耕せる環境が保たれているんです。城外のあの広い牧場や農地も、全部城主様の傑作なんですよ!」


ウェルズはすぐさま鍵となる言葉を捉えた。真相を暴くことはせず、彼女の話に乗って尋ねた。「それなら、城外で精を出して耕している農民たちも、この町の住民なんですか?」


「違いますよ!あの農民たちは城主様が自らお作りになった全自動の耕作機械なんです。あの方のご指示に完全に従って、作物を育てたり家畜を飼ったりしてくれます。この不思議な機械のおかげで、あたしたち市民は重くて辛い畑仕事をしなくて済むんですよ!」


ウェルズはわざと驚いたふうに目を見開いた。「ほう?城主様はそれほどの力をお持ちなのですか。きっと極めて高い境地の魔法使いなのでしょうね?」


「もちろんです!城主様は言い伝えにある五階の大魔法使いなんですから!外の世界でも、万に一人の最高の使い手ですよ!」シルヴィは誇らしげに胸を張った。


「城主様のおかげで、あたしたち凡人はこの町で安らかに暮らし働けているんです。歴史書によると、大災厄が起きた後、土地は荒れ果て、不死者が暴れ回って、生きた人間はほとんど死に絶えそうになったそうです。城主様が立ち上がって、終末の中にこの避難所を築いてくださったから、あたしたち数万人の市民は命を保って、ここで安らかに子孫を残せているんです」


「君はその城主をとても敬愛しているようですね?」ウェルズは探りを入れた。


「この町の誰もがあの方に深く恩を感じています!あの方がいなければ、あたしたちはとっくに骨も残っていませんでした。それに城主様は民を我が子のように愛し、勤勉で怠ることなく、いつも心を尽くしてみんなの求めに応えてくださるんです!」


「たとえば、わざわざ外からぶどうや綿花なんかの種を取り寄せて、いろんな鳥や獣まで連れてきて生態を豊かにしてくださったんです。あたしたちがこんなに心地よい暮らしを送れるのは、全部城主様の恵みなんです!」


「なるほど、実に偉大な人物ですね。答えてくれてありがとう」ウェルズは頷き、さらに一言尋ねた。「それで、君はこの町を出て外の世界を見てみたいと思ったことは、一度もないんですか?」


「不死者が暴れ回る地域を抜けるには、少なくとも三階以上の強い魔法使いじゃないと無理なんですよ!うちの町にはそんなすごい人なんていません」彼女はため息をつき、自分の弱さを残念がった。「お客様は違いますよね。一目で分かる、超凡入聖の大魔法使いです」


「大袈裟ですよ。俺は聖と呼ばれるにはまだまだ程遠い」ウェルズは苦笑して手を振った。


最後に、少年は声を落として、最も肝心な問いを口にした。


「君から見て……この宿の他の旅客は、人当たりがいいですか?」


「ええと……」シルヴィはこっそり広間を一瞥し、小声で言った。「他のお客様は男の方も女の方も、みんなずいぶん冷たい性格なんです。お二人みたいにあれこれ尋ねたがる旅の方は、本当に珍しいですよ。あの人たちは頭の中が仕事のことか城主様に謁見することでいっぱいで、他のことにはまるで無関心みたいで」


「でも最近、お客様と同じように何にでも興味津々のお客様が一人いたんですよ!ものすごくきれいな、外から来た美少女で、女の人でさえ骨抜きにされちゃうくらい!あたし、何日もその人とおしゃべりして、もう親友になったんです。外の世界の面白い話もたくさん聞かせてくれました。残念なことに、数日前に急にいなくなってしまって、市庁が告示まで貼り出したんです、あの人が裏切り者とつるんでいたって……あたしは信じませんけど。あんなにいい人なのに」


「ほう?そんなことがあったんですか」ウェルズはどちらとも言わずに肩をすくめた。


「ともかく、急いで来たので少し腹が減っています。ここには何か看板料理はありますか?」


「ありますあります!お食事ですね?うちの店で一番自慢の看板料理は、『特選塩漬け生肉の薄切り』と『血醸(けつじょう)』です。旅のお客様みんなから大好評の絶品なんですよ!」


「ええと……まずは一皿持ってきて、見せてもらいましょうか」


名前を聞いただけで身の毛がよだつ。だが情報を探るという目的のため、それにどうせ金はかからないので、ウェルズは意を決して一皿注文した。


「はい!すぐにお持ちします!」


少女は手際よく厨房へ駆けていき、ほどなく大きな盆を抱えて出てきた。


「どうぞごゆっくり!」


彼女は真っ赤な肉の薄切りの皿と、暗赤色の酒の大ジョッキを木のテーブルに並べた。生の肉片には奇怪なほど青白い脂の筋がびっしりと走り、火を通した形跡などまるでない。そして「血醸」と称するその杯は、鼻をつく鉄錆の臭いと生臭い苦味を放ち、まるで血管から抜いたばかりの鮮血のようだった。


不可視のバンシーが再び少年の耳元へ寄り、肝を冷やすような口調で囁いた。


「あれは本物の鮮血だ。かつて生者の血肉に飢えていた死せる者として、私が嗅ぎ間違えるはずがない」


「あの皿の肉は?」ウェルズは胃がむかつくのを覚え、気づかれぬほどかすかに唇を動かした。


「一部は……人間から取った肉だ」


少年の心は一瞬でどん底に沈んだ。彼は不快感を必死にこらえ、遠回しにシルヴィに尋ねた。「この肉……全部生なんですか?ここの食習慣はずいぶん独特ですね?ええと、古の人間が獣より文明的だったのは、火の使い方を知っていたからでは?」


「そうですか?生肉を食べるのは普通ですよ!そのほうが食べ物の一番素のままの甘みが残るんです!生がとくにお好きなお客様はたくさんいますよ。町の他のレストランでも刺身とか売ってますよね?」シルヴィは無邪気そのものの顔で訊き返した。


「どうやら本当に何も知らされていないらしい」ウェルズとサンドラは重い視線を交わし、結局この残酷な嘘を暴かないことにした。


何しろ彼女は丸腰の凡人に過ぎない。こんなろくでもない場所で知りすぎれば、命取りになるだけだ。


「俺たちは胃腸が弱くて、こういう生ものは食べ慣れていないんです。君が普段食べている家庭料理を二人分、用意してもらえれば結構です。ああ、それと俺たちは野菜しか食べません」ウェルズは人肉を口にしないよう一言付け加えた。


「ああ、お二人は本当に変わったお客様ですね!この前の、こういうのは食べ慣れないって言っていた美少女のお客様なんて、何一つ口にしなかったんですよ!」


シルヴィは少しも気に留めず、また慌ただしく皿を抱えて厨房へ戻っていった。その仕事熱心な接客ぶりは見上げたものだった。


数十分後、彼女は野菜のタレ焼き、焼き茄子、それに熱々のニンニク風味のパンを何皿か運んできた。


ようやくまともな食べ物を目にして、少年はほっと息をついた。「ありがとう、シルヴィ」


「どういたしまして!何かあったらいつでも呼んでくださいね!」そう言うと、彼女は楽しげに脇へ下がり、空いたテーブルを拭きに行った。


「おかしいわ、何もかもおかしすぎる」彼女が遠ざかったのを確かめてから、サンドラはとうとう堪えきれずに声を落として呟いた。「どうしてあの子は周りが不死者だらけだってことにまったく気づかないの?隣のあのグール、人の肉をかじってるじゃない!」


「そうだ。この都市はどこもかしこも違和感だらけだ。この町の魔法使いたちはどうしている?奴らの偽装を見抜ける生きた人間が一人もいないのか?知識追尋者と呼ばれるあの城主は、いったい何を企んでいる?なぜ死地にこんな都市を建てた?」ウェルズの頭の中を、無数の謎が渦巻いていた。


「もし彼が私たちに手を下すつもりだったら?相手は五階の死霊系の大魔法使いよ!しかもおそらく、この都市中の不死者が彼の指図に従う。彼が私たちに敵意を抱いたら、羽が生えていたって逃げられないわ」サンドラはこの地の危険を骨身に感じ、手はすでに無意識に剣の柄へかかっていた。


ウェルズはしばらく冷静に考え込み、やがてその目に決意の色が宿った。「それでも会いに行かなければならない。俺たちの握っている情報は少なすぎる。事情を知る者の口からたとえ一言でも本当のことを引き出せれば、大きな助けになる」


「じゃあ、話が決裂したら?次の手は用意してあるの?」


「城外の人目につかない場所に、あらかじめ転送魔法陣を仕込んでおく。状況がまずくなったら、すぐに次元門を開いてお前を連れて逃げる。奴が死霊系を専門にしている以上、空間魔法にはそう深く通じていないはずだ。万一それでも駄目なら、俺たちのそばには五階のバンシーが一体いる。本当に決裂したら、彼女に牽制させれば、抜け出す機会はある」


「もちろん、戦わずに済むのが一番だ。俺たちは外来者で、奴が興味を持ちそうな外の情報を握っている。情報交換で奴を友好的なままにしておけるなら、俺もこの馬鹿げた都市がいったい何のために存在しているのか、はっきりさせたい」


二人は綿密に話し合った末、明日の晩に城主府へ赴いて謁見する計画を定めた。


シルヴィの腕は確かに良く、野菜ばかりとはいえ、香ばしい匂いが辺りに広がるほどよく焼けていた。二人はあっという間に夕食を平らげた。


ちょうどその時、満面の笑みのシルヴィが、切り分けた上品なケーキを二切れ運んでやって来た。


「食後のデザートまで出るんですか?」ウェルズは眉を上げた。


「今日だけの特別なおもてなしですよ!お二人とも、どうぞごゆっくり!」


「今日は何か特別な日なんですか?」


「あたしが役人の試験に受かったお祝いなんです!」シルヴィの両目は興奮に輝いていた。「役人になれば、正式に市政の仕組みに入って、この町のために力を尽くせるんです!それにお給料もすごく良くて、たくさんたくさんお金が稼げるんですよ!」


「それは本当におめでとう」


「これも全部、あのきれいな美少女のお客様のおかげなんです!あの人がたくさんの知識を教えてくれたから、試験で高い点を取って合格できたんです!正式に役人になってお給料をもらえたら、係員を何人か雇って宿の切り盛りを手伝ってもらえます。うちはきっとどんどん豊かになりますよ!」


未来への希望に満ちた少女の姿を見て、ウェルズは胸の内で声にならないため息を漏らすしかなかった。


「ところで、城主府がどこにあるか教えてもらえますか?俺たちは明日、城主様を訪ねるつもりなんです」


「お任せください!明日の朝お出かけになる前に、詳しい地図を用意しておきますね!」


「君の料理の腕は素晴らしい」ウェルズは心から褒めた。


「ありがとうございます!普段、市庁が大きな宴会を開く時にも、あたし、料理人として呼ばれるんですよ!」


楽しげに鼻歌を口ずさみながら、シルヴィは手際よく空いた皿を片付け、身を翻して厨房へ洗いに入っていった。


「本当に働き者で無邪気な、お人好しな子ね……」サンドラは片手で顎を支え、気怠げに、それでいて幾分の憐れみを込めて、その後ろ姿を見送った。


「早めに部屋へ戻って休もう。今夜は久しぶりに本物のベッドで眠れる」ウェルズは立ち上がり、広間で人の皮をまとい、ぎこちなく人間の酒宴を真似ている不死者たちに目を走らせた。


何も知らされぬまま幸福に暮らす市民、旅客に偽装して血を飲み肉を食う死者、城外で昼も夜も働く白骨の農夫……


「この荒唐無稽な幻夢の裏には、必ず驚くべき真相が隠れている」


ウェルズは窓の外、月光の中に眠る奇跡の都市を眺めながら、物思いにふけるように低く呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。