第七章 騎士の決闘
二日目の正午。陽光はこの灰暗の天蓋を貫けずにいたが、巨大な騎士競技場の中は煌々と灯りに照らされていた。
競技場の両側、斑に剥げた環状の観覧席は、観戦に訪れた不死者ですでに埋め尽くされていた。黒騎士、骸骨の魔法使い、バンシー、さらにはかすかな知性を宿す高階ゾンビまで……黒石城砦で心を持つ不死生物のほぼすべてがここに集い、生と死を越えたこの栄誉ある対決を見届けようとしていた。
競技場左側の待機区画では、ウェルズとサンドラが最後の準備をしていた。一方、右側の端には、完全武装の亡霊騎士が鋼鉄の彫像さながら、すでに静かに屹立していた。
極めて背の高いスケルトンの戦馬に跨り、光沢も鮮やかな漆黒の重い板金鎧が冷たい金属の輝きを放っている。その上には厚手で華麗な暗紅色のサーコートを羽織り、胸には生前の家門の栄誉ある紋章が精緻な絹糸で刺繍されていた。跨がる戦馬もまた幾重もの馬鎧に包まれ、面甲の眼窩の隙間から漏れる二つの幽藍の魂火だけが、これが疲れを知らぬ死の乗騎であることを無言のうちに告げていた。
一方ウェルズの側では、サンドラが相変わらず鮮やかな紅色の軽装の冒険服に身を包み、桃色の長い髪を下ろしていた。両手で印を結び、自分専用の召喚術を発動する。
硫黄の匂いを帯びた転送門が虚空に開き、全身漆黒で、暗紅色の火花を蹄で踏み散らす奇妙な生き物が、ゆっくりと歩み出てきた。
そのたてがみは燃える黄金のようにまばゆく、両の目は人を怯ませる金色の光を放っている。三階のナイトメアであった。
この魔獣の爆発力と突進速度は、陸上の乗騎の中でも稀に見るものだ。それだけではない。生き物の夢を見通してかき乱し、深い眠りに陥らせることもできる。高階のナイトメアともなれば夢と夢の間を渡り歩くことさえでき、市街戦での機動力は生物の頂点と言ってよい。
「三階のナイトメアか。生者よ、貴殿は忘れているようだな。我ら不死者は、夢など見ぬのだ」
数百メートル離れた向こうから、温度のない声が競技場の上空に響き渡る。そこには高みから見下ろす傲慢が滲んでいた。「生者よ、貴殿の切り札に意味はない」
「仕方ないじゃない。私だって、他に選べる軍馬なんてなかったんだから」サンドラはどうでもよさそうに肩をすくめた。
両側からゾンビの召使いたちがよろよろと進み出て、手際よくナイトメアに特製の軽い馬鎧を着せていく。中には重い女性用の騎士の全身鎧一式を捧げ持ち、サンドラに着せようとする召使いも数体いたが、彼女は丁重に断った。
「私はやっぱり、軽装で戦うほうに慣れてるから」
女性騎士の重鎧は、体に合わせて誂えたものでなければ、着ると胸郭を強く圧迫して呼吸に障る。それに今日の彼女の戦術は、もとより鎧に頼って力ずくで耐えるものではなかった。
馬の背に跨り、召使いの差し出す精鋼の騎槍と鳶形盾を受け取ると、腰の煉獄の大剣が鞘に引っかからないことを確かめて、サンドラは深く息を吸い込んだ。その眼差しが、一瞬にして鋭く研ぎ澄まされる。
「俺の番だ」
ウェルズが一歩進み出た。掌の中で魔力が荒れ狂うように湧き上がる。
凄まじい早口とともに、次から次へと高階の強化魔法が、流光のように少女の体内へ吸い込まれていく。
「力量増幅」「増速致勝」「邪悪防護」「高階法師護甲」「体能復甦」「霊巧増強」「疾病抵抗」「冷気抵抗」……
実に八つもの魔法の重ね掛けだ!ウェルズの魔力の大半が、ほぼ一瞬で搾り取られる。だが効果も覿面だった。サンドラの全身を色とりどりの魔法の霊光が取り巻き、その身体機能の数値はことごとく、亡霊騎士と雌雄を決するに足る水準まで強引に引き上げられていた。
「行け。計画通りにやれ。俺たちは必ず勝てる」
ウェルズはナイトメアの首筋を軽く叩くと、身を翻して待機区画を離れ、大股に観客席へ向かった。
この場でただ一人の生きている存在として、彼は屍臭と寒気を放つ不死者の群れの真ん中に、泰然と腰を下ろした。
準備の段階は終わった。
桟敷の両側にいるゾンビの鼓手たちが一斉に骨の撥を振るい、怪物の皮を張った巨大な戦太鼓を打ち鳴らした。雷霆のような太鼓の音が低く重い牛角の角笛とともに、この神聖なる騎士競技が正式に幕を開けたことを告げる。
幅十メートル、長さ二百メートルに及ぶ平らな石畳の走路の上、二人の騎士はそれぞれ一端に陣取り、騎槍を構えて、遠く睨み合った。
「十……九……八……」
昨日のメイド長のバンシーが競技場中央の宙に浮かび、本来なら魂を刈り取るための凄絶な高音を張り上げて、秒読みを始めた。
「三……二……一……突撃!!」
声が途切れるや否や、両端の騎士は同時に、力いっぱい馬の腹を締めた!
「ドォン!」
ナイトメアの四つの蹄からまばゆい火光が迸り、黒紅の稲妻となって空気を引き裂く。一方のスケルトンの戦馬は、一歩ごとに地面へ蒼白い霜を刻み、息の詰まるような圧迫感とともに駆け出した。
優に数百キロに及ぶ人馬一体の塊が、物理的な運動エネルギーを極限まで高めていく。競技場の地面全体が二つの恐るべき突撃に耐えかねるように震え、観客席のウェルズにまで、心臓を直に打つような激しい衝撃が伝わってきた。
「雌雄を決しようではないか、生者よ!」
狂熱の咆哮とともに、動く城壁のような亡霊騎士の巨躯が、山をも押し倒す勢いで迫ってきた!
「ふう……頭の中では数え切れないほど演習したけど、こんな化け物と正面からぶつかるなんて、本当に命がけじゃない!」
正面から襲いかかる極寒の冷気と死の威圧に、サンドラは一瞬息を詰まらせた。それでも歯を食いしばり、強靭な意志で手の中の騎槍をぴたりと安定させる。
極限の突進で、双方の距離は一瞬にしてゼロになる。幽藍の寒気を放つ巨大な氷霜の騎槍が、サンドラの視界の中でみるみる大きくなる!
「はあっ!」
少女は澄んだ気合いを放ち、ナイトメアの恐るべき速度とウェルズの魔法の加護に乗せて、全身の力を余さず穂先に注ぎ込み、相手の胸めがけて渾身の突きを繰り出した!
「ガキィン——!!」
高速で動く二つの鋼鉄の丘が、轟音とともに激突した!
氷霜の騎槍と精鋼の騎槍が同時に、寸分違わず相手の鳶形盾へ食い込む!鼓膜を突き破らんばかりの金属の爆音が響き、二人が交錯した瞬間、目を刺す火花が滝のように弾け散る。荒れ狂う衝撃波は、足元の石畳さえ強引に剥ぎ取って吹き飛ばした。
桟敷のウェルズはこの轟音にしばし耳鳴りを起こし、周囲の低階の不死者たちは爆風に煽られて次々とよろめき倒れた。
そして真っ先に衝撃を受けたサンドラは、なおさらたまったものではなかった。
魔法の緩衝があるとはいえ、恐るべき反動は盾を伝って全身に響き渡り、まるで全速力の蒸気機関車に正面から撥ねられたかのようだった。全身の骨が悲鳴を上げ、盾を握る左手の親指の付け根は一瞬で裂けて、鮮血がとめどなく流れ落ちる。
手にした鳶形盾にちらりと目を落とす。精鋼で鍛えられた盾の中央には、深さ数寸に及ぶ、霜に覆われた恐ろしい窪みが穿たれていた。まるで削岩機で抉られたかのようで、ほとんど使い物にならない。
「見事!見事な一撃である!これほど強烈な衝撃、まことに血が沸き立つではないか!」
走路の端で、亡霊騎士は戦馬の手綱を引き、痛快な高笑いを上げた。家紋を刻んだタワーシールドにも、サンドラの長槍による大きな穴が穿たれていた。
「こいつは不死者だから痛覚がないけど、私がもう一度まともに受けたら、まず間違いなく体が使い物にならなくなる……速戦即決でいくしかない」
激痛を堪えて馬首を返すと、サンドラは体内に蓄えた回復の力を起動し、流れる血をひとまず止めた。それから深く息を吸い込み、第二回合に備える。
桟敷の角笛が再び鳴り響いた。
この荒野で最強の二つの衝撃力が、再び競技場の中央で轟音とともに激突した!
今度も双方は一切出し惜しみせず、突撃の運動エネルギーが頂点に達した瞬間に騎槍を突き出した。城壁すら穿ち崩さんばかりの、威勢に満ちた一撃だ。
「ドォン!!」
前回よりもさらに激しい衝突音が、天を震わせた!
限界寸前だった鋼鉄の盾は、四階の首領の恐るべき怪力の前に粉々に砕け散った。凄まじい衝撃が、サンドラをナイトメアの背から激しく弾き飛ばす。
だが同時に、亡霊騎士もただでは済まなかった。サンドラが全力を込めた決死の一撃もまた同じだけの反動を生み、巨大な重鎧のスケルトンを強引に鞍から跳ね落としたのである。
双方、同時に落馬!
だが騎士の決闘は、一方が完全に倒れるか降参するまで終わらない。
宙に投げ出されたサンドラは、重鎧を着けていない身軽さで大きな優位を見せた。空中でしなやかに腰をひねり、猫のようにすとんと着地する。一方、亡霊騎士の重い体は隕石のように「ドォン」と地面に叩きつけられ、大きな穴を穿った。
着地の瞬間、サンドラは一瞬の間も置かずに腰の暗紅の大剣を抜き放つと、桃色の稲妻と化して、まだ起き上がれずにいる亡霊騎士へ突っ込んだ。
「はは……はっはっは、見事な戦いぶりだ、血が沸き立つではないか!私は一度も馬から叩き落とされたことなどなかった。落馬とはこういう感覚であったか。行くぞ、生者よ!!」
亡霊騎士は穴の中から跳ね起きると、腰に佩いた、凄まじい寒気を放つ氷霜の両手剣を逆手に抜き放ち、昂ぶりを抑えきれない怒号とともに真っ向から斬りかかった!
「辟乱斬!」
サンドラはまず神聖な秩序の霊光で道を切り開き、続けて剣に身を委ねるように踏み込むと、大剣が宙に煉獄の烈焔を燃え立たせた華麗な十字斬を描いた!
「この灼熱の炎、生きていた頃の盛夏を思い出させるではないか!」
亡霊騎士は鈍重に見えて足さばきは異様に軽く、二度続けて滑り足を踏み、十字斬の鋒先をかわした。毒蛇のように突き込まれたサンドラの三の太刀には、一切避けることなく、氷霜の騎士剣を掲げて真っ向から受け止める。
「キィン——!」
大剣が氷霜の刃に叩きつけられ、まばゆい火花が立て続けに弾ける。しかし、ひどく陰寒な魔力が刃を伝って這い上がり、瞬く間にサンドラの大剣を覆い尽くした。まとっていた煉獄の炎さえ、その寒気に押さえ込まれて光を失っていく。
「なんて恐ろしい氷系の魔力なの」
一撃が実らないと見るや、サンドラはすぐさま剣を引いて飛び退いた。だが亡霊騎士の反撃は、すでに迫っていた。
極寒爆発である。
幽藍色の寒気が亡霊騎士を中心に花火のように炸裂し、極寒の冷気が瞬時に周囲数十メートルを呑み込んで、地面はたちまち分厚い堅氷に覆われた。常人がこの寒気を浴びれば、血は一瞬で凍りつくだろう。
幸い、ウェルズの邪悪防護と体能復甦が身を守り、さらに冷気抵抗が寒さによる傷と、体力を蝕む速さを鈍らせていたおかげで、サンドラは致命傷を免れた。
ただ、足元まで霜に覆われてしまい、滑る地面で転ばないよう、足取りを緩めざるを得ない。
亡霊騎士はその隙を見逃さなかった。大股で間合いを詰め、薪でも割るように氷霜の巨剣を高々と振りかぶると、千鈞の力を込めて真上から振り下ろす。見る者の肝を冷やす、凄まじい一撃だった。
「ガキィン!」
サンドラはやむなく剣を掲げて受け止めた。だが四階の恐るべき怪力に押しつぶされ、片膝をつかされる。足元の氷面がみしみしと砕けていく!
桟敷のウェルズは知らず知らず拳を握りしめていた。手のひらはじっとりと冷や汗に濡れている。
亡霊騎士は続けざまに斬りかかる。氷霜の騎士剣は無数の残像と化し、嵐のような斬撃と刺突が少女を包み込んだ。絶対的な力と境地の差に押され、サンドラの構えは今にも崩れそうで、嵐の中の一葉の小舟さながらだった。
「はっはっは!生者よ、貴殿はなおも私のこの四階剣技——『貫剣氷刺』を受けきれるか?!」
相手にもはや反撃の力はないと見て取るや、亡霊騎士は大喝一声、剣を大きく引いて力を溜めた。
氷霜の騎士剣に目を刺す幽藍の光が凝集していく。凛冽な一撃で、この決闘に幕を引こうというのだ。
だがこの技は破壊力を極限まで追い求めるあまり、溜めの動作が大きすぎた。胸の前に、半秒にも及ぶ致命的な隙が生まれる。
そしてそれこそ、サンドラが待ちに待っていた好機だった!
「今よ!」
少女の目に決然とした光がよぎる。防御を完全に捨て、両足で地を蹴ると、放たれた矢のように相手の剣先へ自ら飛び込んでいった。
残る魔力と力のすべてを一点に注ぎ込む。大剣は赤紅の流星と化し、がら空きになった亡霊騎士の胸元へ突き込まれた。
「ズブッ——ドン!」
烈焔が堅氷を溶かし、剣先は堅固な板金鎧をやすやすと引き裂いて、亡霊騎士の胸腔へ深々と突き刺さった!
しかし、サンドラの顔に喜びの色は微塵もなかった。
相手の剣勢が止まっていなかったからだ。
血の通った生身の生き物なら、心臓を貫かれればまず助からない。
だが骨組みだけの不死者にとって、胸骨を刺し貫かれたところで肋骨が数本折れる程度で、痛くも痒くもない。さらに悪いことに、サンドラの大剣は相手の骨の隙間と歪んだ鎧に挟まり、すぐには抜けなくなっていた。生者との戦いで身に染みついた癖が、この瞬間、かえって大きな隙となったのだ。
「生者よ、卑怯な勝ち方と恨んでくれるな。我らスケルトンにとって、刺突の攻撃など無用なのだ!」
亡霊騎士の白々とした二列の歯が「カチカチ」と打ち鳴らされる。まるで嘲りの高笑いを上げているかのようだ。肉の一片すら残っていない彼には、刺突も斬撃も恐れるに足りない。致命的な寒光を閃かせる巨剣が、死の唸りを上げて、丸腰の少女の首筋へ振り下ろされようとしていた!
勇敢な少女がこの場で命を落とすと見て、桟敷の不死者たちは天地を揺るがす歓声を爆発させた。
ただウェルズだけは、相変わらず悠然と席に座ったまま、口元に狡猾な笑みさえ浮かべていた。
「本番は、これからだ」
不死者の巨剣が今まさに振り下ろされんとする生死の瀬戸際、サンドラは、場内の不死者の誰一人として理解できない行動に出た。
剣を握る両手を迷いなく放すと、退くどころか猛然と一歩踏み込み、亡霊騎士の懐へぴたりと潜り込んだのである。
刹那、少女の澄んでいた双眸が、深い幽藍にすっかり覆われた。
両の拳を握り、前後に構えを取る。その小柄な体の背後に、天を仰いで咆哮する白虎の幻影が、なんとうっすらと浮かび上がっていた。
虎勢拳・双重崩岩である。
「ドン!ドン!」
心臓が跳ね上がるほど鈍く重い二発の拳が、肉眼では捉えられない速さで、亡霊騎士の胸甲に激しく叩き込まれた。
並の三階騎士に出せる力では断じてない。二発の拳には恐るべき寸勁と螺旋の貫通力が込められており、物理的な装甲の防御をそのまま無視して、衝撃波を不死者の骨格の奥深くへ正確に送り込んでいた。
「バキッ!」
亡霊騎士の巨躯は雷に打たれたように震え、荒れ狂う剣勢が瞬時に断ち切られた。誇りとする怪力も、この二発の直拳の前ではなすすべがなく、体ごと五、六歩も押し戻される。右肩の関節はその凄まじい力に耐えきれず砕ける音を上げ、手にした氷霜の巨剣がガランと地に落ちた。
場内の不死者たちの歓声がぴたりと止み、死のような静寂が競技場を覆った。
一撃を決めても、サンドラは手を緩めない。山を下る猛虎のような獰猛な構えを取り、目の前の獲物を虎視眈々と見据える。
亡霊騎士に痛覚はない。だが魂の火は激しく明滅し、内心の極度の驚愕を物語っていた。胸に挟まった折れた剣を一気に引き抜いて地面に投げ捨て、素早く体勢を立て直す。
「まさか……貴殿がこれほど底知れぬ拳法に通じていようとは!」
「ならば、最も純粋な体術の殺し合いで、この決闘に終止符を打とうではないか!」
武器を失っても、亡霊騎士は怯むどころか、骨の髄に眠る狂熱をかき立てられていた。時代を越えた古典的な騎士である彼は、近接の軍用格闘技にも通じている。それもまた、伝統的な騎士の武芸試合の一環だったのだ。
遠くの桟敷で、ウェルズは思わず小さく笑い声を漏らした。「勝ちは決まったな」
そう、今この体を操っているのは、「陰影隠形」の状態でサンドラの体内に完璧に憑依した五階のバンシーなのだ!すべては、ウェルズの計算通りだった。
亡霊騎士が先に仕掛けた。鎧の隙間から寒気が絶え間なく噴き出し、身も凍るような気迫となる。黒い残像と化した彼は、骨に染みる寒気をまとい、少女の喉元へ直拳を放った。
しかし、サンドラの応じ方は舞のように優雅だった。構えを変えると、白く柔らかな両手を鶴の翼のように広げ、その背後に白鶴の幻影が浮かぶ。
左手で白鶴が翼を広げるように柔らかく払い、柔よく剛を制して、相手の重く力強い直拳をやすやすと受け流す。続けて右手の指を揃えて刀とし、毒蛇が舌を閃かせるように、亡霊騎士の守りの薄い頸椎の骨節を正確に切りつけた!
「鶴勢拳・影喙」
意表を突く一撃に、亡霊騎士の体がぐらりと傾ぐ。防御を立て直す暇も与えず、サンドラの攻勢が暴風雨のように降り注いだ。
両手は無数の残像と化し、狂い舞う鶴のごとく、指先、手刀、肘打ちを恐るべき速さで、亡霊騎士の全身の主だった関節の急所へ叩き込んでいく。一撃ごとに精妙極まる震盪の魔力が込められ、堅牢無比な骸骨から、歯の浮くような砕ける音が絶え間なく響いた。
わずか十数秒の応酬で、亡霊騎士は完全に押さえ込まれ、防戦一方に追い込まれた。
「なんと恐ろしい武道の造詣……数百年を経た今、生者の世界の拳法はこれほどの境地にまで進化しているのか?」不死者の首領は嵐のような連打を浴びながら、内心で戦慄していた。
彼が生きていた時代には、武僧という職業はまだ生まれてすらいなかったのだ!
「お前が死んだ頃には、武僧の修行の道はまだ形すらなかったのだろう。後から来る者は常に先を行く者を越えるものだ。でなければ、世界はどうやって進歩するというのだ」サンドラは落ち着き払って応じた。
「だが、このまま私を倒せると思うな!生者の体力には限りがある。そして私は、永遠に疲れぬ!」
亡霊騎士はいっそ反撃をすべて捨て、両腕を交差させて頭部の要を守った。全魔力を氷霜の鎧と氷霜の気場に変え、絶対的な防御で少女の体力を削り切るつもりだ。寒さが増すほど、その氷霜の鎧はさらに堅くなる。
だが少女はすぐに、この判断がとんでもない誤りだったと彼に思い知らせた。主導権をみすみす明け渡し、ただ打たれているだけでは通用しない。全身を完璧に守ろうとすれば、かえって至るところに隙が生まれるのだ。
サンドラは、硬直した相手の守りの型に生じたわずかな隙を、鋭く見抜いた。
鶴拳の軽やかさを一転して収め、両手を上下に構える。深い淵に潜む怒れる竜が、今にも天へ昇ろうとするかのようだった。
呼吸と魔力の律動が完璧に噛み合い、右脚が猛然と氷面を踏み砕く。腰と足を一つにして、双の拳が山を開き岩を裂く威力を帯びて轟然と突き出された!
「真竜血怒」
あるかなきかの竜の唸りとともに、一条の漆黒の竜影が少女の拳先に浮かび上がった。
「ドォン——!!」
全身の精気を注ぎ込んだこの一撃が、余すところなく亡霊騎士の胸の真ん中に打ち込まれた。
恐るべき殴打の傷害が瞬時に炸裂する!身の丈二メートル、重さ数百キロに及ぶ亡霊騎士の重鎧の体が、なんと糸の切れた凧のように吹き飛ばされた!宙に無様な放物線を描き、最後は地面に激しく叩きつけられて、もうもうと塵を舞い上げた。
場内は死のように静まり返った。
すべての不死者が、呆気にとられてこの信じがたい光景を見つめていた。
拳による殴打の傷害は、この亡霊騎士とて無視できるものでは断じてなかった。
しばらくして、瓦礫の中から金属の擦れる音が聞こえてきた。
亡霊騎士は力なく壁にもたれ、ゆっくりと上体を起こした。亀裂だらけになった自らの胸骨を見下ろし、眼窩の魂火を激しく明滅させると、やがて安堵と畏敬の入り混じった長い嘆息を漏らした。
「まことに……痛快である。これほど徹底した敗北を味わったのは、もう何百年ぶりか」
「貴殿の武技は極みに達している。私は、ぐうの音も出ぬほど負けを認めよう」
騎士の降参を合図に、競技場に津波のような歓声と鬨の声が湧き起こった!不死者たちは武器で狂ったように盾を打ち鳴らし、この見事極まりない決闘に最高の敬意を捧げた。
不死者の首領はゆっくりとサンドラの前まで歩み寄り、騎士の礼をもって、鉄の籠手をはめた右手を差し出した。
バンシーはサンドラの体を操り、静かに手を差し出して握り返した。
「あの最後の一撃は、何という名なのか?」亡霊騎士は真摯に教えを乞うた。
「真竜血怒。竜勢拳の中でも、一撃必殺、あらゆる防御を粉砕することを旨とする究極の奥義だ」
「覚えておこう」亡霊騎士は片膝をつき、この上なく厳かな声で言った。「神聖なる契約に従い、今この時より、私は貴殿に忠誠を誓う。貴殿こそ、我が新たな主君である」
「私は不死者の軍勢を率いることに興味はない。その忠誠は、彼に捧げるがいい」
サンドラは、そう遠くない場所を指さした。
虚空で、黄金の光を放つ無数の空間の欠片が、瞬く間に次元門を組み上げた。
ウェルズは両手をポケットに突っ込み、お決まりの余裕の笑みを浮かべながら、悠々と門から踏み出してきた。
「承知した。奥方様がすでにお決めになった以上、配下たる私は当然、真の主君に忠誠を捧げるべきである」亡霊騎士はさも当然とばかりに言い切った。その口調に迷いは微塵もない。
「ごほっ……はっはっは」出てきたばかりのウェルズは、この「奥方様」という一言に危うくむせかけ、気まずげに乾いた笑いを二度漏らしてごまかすしかなかった。「よし、堅苦しい礼儀は抜きだ。賭けに負けたら潔く従うものだ。さあ、月の潮汐の滅亡の真相を教えろ。それから……あのバンシーについてお前が知っていることを、すべてだ」
亡霊騎士は立ち上がった。眼窩の魂火が沈痛な光を明滅させている。
「実のところ、すべてを滅ぼしたあの大災厄について、私が知る細部もそう多くはない」
彼は低い声で回想した。「私が二十歳で、正式な騎士となる誓いを立てたばかりのその年、大災厄は何の前触れもなく訪れた。原因は分からぬ。ただ一夜のうちに、数百万に及ぶ国民が何か目に見えぬ力によって一瞬で命を吸い尽くされ、枯骨と化したことだけは分かっている。そして私のようなごく少数の生き残りは、大災厄の後、尽きることのない死の気によって力ずくで目覚めさせられ、呪われた不死者へと変わったのである」
「長い歳月の中で、私は一体の低階の骸骨歩兵から、殺し合いを重ねて黒騎士へと進化し、ついには今の亡霊騎士となった。そして他の高階の不死者と繋がりを築き、軍を組織して長城を突破し活路を探そうとする過程で……かつて首都の望月城へ赴いた高階の死霊たちの口から、私は絶望的な真相を継ぎ合わせたのだ」
「月の潮汐の滅亡は……我らが最も敬愛する指導者、執政官が、その手で我らを裏切ったがゆえである!」
「執政官?」ウェルズは眉をきつく寄せた。
「そうだ。共和国の全国民によって推挙された、最高の指導者である」
「首都の惨状をその身で経験した不死者たちによれば、執政官はどこからか、上古の超凡衰弱以前の禁忌聖階魔法陣を手に入れたという。彼女は一頭の太古のドラコリッチの命匣を陣法の核とし、国土全体を画布として、想像を絶する超大型の献祭法陣を描いたのだ!」
「そしてこの魔法陣を用いて、彼女は月の潮汐で最も貴重な遺物、月の象徴を力ずくで引き動かし、その中から黒と死を司る権柄を剥ぎ取った。最後には、数百万の人口を擁する繁栄した国そのものを供物とし、冥界へ通じる門扉を強引にこじ開けたのである」
「冥界へ通じる門扉?!」ウェルズの瞳孔がきゅっと縮まった。心底驚愕していた。
「そうだ。今日に至るも、あの大門は閉じられていない。絶え間ない暗エネルギーと冥界の妖物が、今もあの門を通って狂ったようにこの世界へ流れ込んでいる。そしてあの門のある場所は……我らのかつての首都、望月城の最深部である」
ウェルズは深く息を吸い、胸の内の戦慄を無理やり押さえ込んだ。「なら、お前はなぜあのバンシーに、それほど深い恨みを抱いている?」
亡霊騎士は顔を上げ、ウェルズの目をひたと見据えると、一語一語区切るように言った。「私が生きていた頃、執政官の肖像画の前に立ったことは一度や二度ではない。我が君らの傍らに付き従うあのバンシー……その容貌は、肖像画の中の、その手で我らを冥界へ突き落としたあの執政官と、瓜二つなのだ!」
その言葉は巨大な爆弾のように、ウェルズとサンドラの頭の中で轟然と炸裂した。
「……国全体を供物に捧げた狂人の指導者が、死んだ後、記憶を失い、あまつさえ他人に捕らえられて魂の縫合実験に使われるバンシーになったというのか?」ウェルズは信じがたい様子で呟いた。「その間に、いったい何が起きたんだ?」
「私が知るのはこれだけである」亡霊騎士は恭しく頭を垂れた。「我が君、すべての真相を明らかにされたいのであれば、すでに冥界と化したあの首都へ自ら赴かれることをお勧めする。残されたあの聖階魔法陣をその目で見届けてこそ、すべての謎を解くことができよう」
「分かった。この情報は極めて価値がある。一晩休んで、明日の朝一番に望月城へ発つ」ウェルズは重々しく頷いた。
「御意。我が君の行く手に武運の長久あらんことを。ここに、改めて我が忠誠を捧げる!」
言い終えると、亡霊騎士は片膝をつき、ぼろぼろになりながらも強大な死霊の魔力を放つ暗黒色の戦旗を、両手で頭上高く掲げた。
「我が戦旗をお受け取りください、我が君。この旗は死亡系魔法の威力を大きく増幅し、低階の不死者を統率する力を授けるものである」
ウェルズは目を輝かせ、値の付けようもないその魔導軍旗を両手で恭しく受け取ると、丁寧に空間の指輪へ収めた。
彼は、目の前で騎士の道を堅く守るこの亡霊騎士を見つめた。
よく分かっていた。この騎士にとって生前最大の無念は、祖国を守れなかったことだ。そして今、その果たせなかった執念を、自らの二度目の命もろとも、すべてウェルズに託したのである。
不死軍団の力は凄まじい。数千に及ぶ不死者の戦団は、意識のない動く屍とスケルトンが九割を占めるとはいえ、侮れない戦力だ。長城の外へ連れ出すことができれば、世界を変える力にもなりうる。そしてその力は今、少年のものとなったのだ。
大きな収穫を手に、二人は貴賓用の休憩室へ戻った。
扉を閉めるなり、サンドラは空気の抜けたボールのように、柔らかなソファへだらしなく崩れ落ちた。
「もうくたくた……全身の筋肉が引きつってる気がするし、魔力だってひとかけらも残ってないよ!」
愚痴とともに、幽藍の幻影がゆっくりと彼女の体から抜け出し、再びバンシーの姿を結んだ。
これがウェルズの言う「必勝の策」だった。
本来なら、亡霊騎士の霊魂視覚には、彼女に憑いたバンシーが見えていたはずだ。だが陰影隠形が魂の波動を一筋残らず覆い隠し、死者の目すら欺いていたのである。
そのうえで五階の武僧バンシーに戦法転換を使わせ、サンドラの体内に直接憑依して代わりに戦わせる!純粋な白兵戦で、四階の亡霊騎士が、武術に通じた五階の変異バンシーに勝てるはずがあろうか?
サンドラがすべきことはただ一つ、前半の馬上の激突と剣術の応酬で負けずに持ちこたえ、相手を徒手格闘の流れに引きずり込むことだけだった。
「俺は自分が正々堂々の君子だなんて、一度も言った覚えはないぞ」ウェルズは心の中で、己の戦術にこっそり拍手を送った。そのうえ、ジョージから貰った命を守るためのあの神術書すら使わずに、不死者の軍勢の指揮権まで手に入れたのだ。
「あの堅物の亡霊騎士が真相を知ったら、その場で怒ってもう一度死ぬんじゃない?幽霊が拳を振るうなんて、まともな人間なら誰も思いつかないよ!」サンドラは痛む肩を揉みながら突っ込んだ。
「構わないさ。お前がしっかり修練を積んで、早いところ五階の煉獄執法士に突破すれば、そのときは本物の実力であいつを地面に押さえつけて引きずり回せる」ウェルズは笑いながら熱い茶を一杯手に取り、彼女に差し出した。
「よく言うよ。超凡衰弱以来、どれだけの天才が一生三階の壁に引っかかったままか知れないのに」サンドラは茶碗を受け取り、呆れたように白い目を向けた。
いかさまの決闘の話はそこで切り上げ、ウェルズは宙に静かに浮かぶバンシーへ向き直った。その表情が引き締まる。
「さっきの不死者の首領の話、お前も聞いていただろう。あの執政官の身分について……何か思い出したか?」
バンシーの瞳には、戸惑いと苦悶の色が渦巻いていた。頭を抱え、砕けた魂の奥底から何かを懸命に掘り起こそうとしているようだった。
「私は……本当に、自分の国をその手で滅ぼしたあの執政官なのか?」
独り言のように呟く声には、深い恐怖が滲んでいた。「月……月には魔力があるのだ。月の潮汐という名は、魔力が海の潮のように満ち欠けし、寄せては引くことを表している」
「覚えている……アレクシオス。そうだ!聞いたことがある。彼は伝説の境地に登る前、月の象徴を力ずくで奪おうとしたことがあった……」
そこまで言ったところで、バンシーはびくりと全身を震わせた。禁忌の仕掛けに触れてしまったかのように、眼差しが再び虚ろになり、たった今口にしたことさえ瞬時に忘れてしまったようだった。
だが、思わず漏れたその片言隻語は、ウェルズを強い衝撃と深い思索へと突き落とした。
「もっと思い出せないか?そのアレクシオスというのは誰だ?」ウェルズは急き込んで問い詰めた。
バンシーは苦しげに首を振り、それから打ちひしがれたようにうつむいた。「すまない、思い出せない。まさか……本当に私が、数百万の民を売ったというのか?」
「いや、俺はそうは思わない」ウェルズは珍しく声を和らげ、静かに慰めた。「お前のように殺戮の本能の中でも善意を守り通せる者が、私欲のために国中を虐殺する暴君であるはずがない。この裏には、必ずもっと深い事情がある」
「でも、今の私たちには手がかりが少なすぎるよ」サンドラはため息をついた。
「あの不死者の首領の言うことが本当なら……あの大災厄の後、あの実験者が、お前の傷ついた魂を横取りしたことになる」ウェルズは冷静に分析した。「そのうえで奴はお前を最も貴重な研究素材として、あの地下実験室に封印した。お前が本当にこの献祭の主導者だったなら、お前の魂がどうして他人の囚われの身に落ちる?」
「ちょっと待って。それと、私たちがさんざん苦労してこんなろくでもない場所まで来た目的と、何の関係があるわけ?」
サンドラは突然ウェルズの推理を遮った。「君、私たちの本来の目的を忘れてない?命がけで禦死長城を越えてきたのは、鎮魂師になって哀れっぽいバンシーを昇天させるためじゃないんだよ!質麗皇女が提供した情報を調べに来たの。れっきとした帝国の皇帝が、どうして終末救贖者なんていう狂人の邪教徒どもと結託しているのかを!」
少女の言葉は稲妻のように、ウェルズの頭の中の霧を一瞬で切り裂いた。
無関係に見えた無数の手がかりが、この瞬間、狂ったように一つに繋がっていく。
「人口の削減……」ウェルズは猛然と立ち上がった。その目に、ぞっとするような鋭い光が閃く。
「裏からライカベサの凄惨な内戦を煽ったことから、帝国西部の各行省の動乱まで……これらの陰謀の裏には、すべて共通の結果がある。大規模な人口の死亡だ!」
彼は窓の外の果てしない灰暗の荒野に目をやった。「もし何百年も前の、月の潮汐の数百万人を供物にした滅亡も、この邪教徒どもの仕業だったとしたら?もし古から今に至るまで、奴らの目的が一度も変わっていないのだとしたら?」
「もしかすると、隠された究極の秘密は、あの供物にされた首都の中に埋もれているのかもしれない」
ウェルズは深く息を吸い、卓上の燭聖のランタンを手に提げた。温かな橙色の光が、薄暗い部屋に二人の決然とした姿を浮かび上がらせる。
「真相は望月城の核心にある。俺たちに退路はない。進み続けるしかない」
その夜、少年と少女はそのまま眠りについた。
膨大な情報と衝撃をすっかり飲み込んで、二人は夜明けを迎えた。最後の補給と長い休息を済ませると、ウェルズとサンドラはバンシーを伴い、不死者の要塞に別れを告げた。そして冥界の門が根を張る古国の奥深くへと、振り返ることなく足を踏み出した。




