第六章 亡霊騎士
翌日の早朝。
豪奢ながら静まり返った地下の廃研究所で一晩たっぷりと眠り、体調を万全に整えると、彼らは再び出発し、死に覆われたこの古代の国のさらに奥へと分け入っていった。
地下実験室を出て、地上へ戻る。見渡す限り、相変わらず死の気に沈んだ灰白の荒原が広がっていた。ときおり鬼の爪のように乾いてねじくれた枯れ木があるほかは、地面から突き出たものなどほとんど見当たらない。視界の果てに立っている人影があれば、それは百パーセント、徘徊する不死者だ。
そういうとき、二人はたいてい迂回した。何しろこの地の死の気は尽きることがなく、不死者はいくら倒してもきりがない。無駄な戦いは体力をいたずらに削るだけだ。
「私たち、次はどっちの方向へ行けばいいわけ?」サンドラは周囲を警戒しながら尋ねた。
「不死の気配が最も濃い場所へ向かうのだ」バンシーは荒原の奥を指さした。「あそこが間違いなく、月の潮汐のかつての首都——望月城だ」
荒野を数時間歩き通したのち、地平線上にようやく巨大な人工物の遺跡が浮かび上がった。
遠目にも、それはかつて大きな規模を誇りながら、とうに荒れ果てた町だとわかった。広く平らだったはずの石畳の街路は、下層の土壌の膨張と風化でずたずたにひび割れ、両側の商店や民家は崩れた壁を残すばかりだ。そしてその廃墟の中を、目的もなくさまよう屍が、数えきれないほどひしめいていた。
「思い出した……」宙に浮かんでいたバンシーが、ふいに空ろに澄んだ声で呟いた。「この町が衰える前の景色が、どうやら頭の中に残っているらしい。あの頃、ここは大いに栄えた貿易の要衝で、街路はどこも、荷を満載した馬車と隊商であふれていた……」
「過去を思い出せたのなら、幸先がいい」ウェルズは頷いた。「ここがかつて対外貿易の重要な関門だったなら、中で何か価値のある情報か地図が見つかるかもしれない。忍び込んでみよう」
屍の大群を避けるため、二人は崩れた壁の陰に身を隠しながら、外縁からひそかに町へ潜り込んだ。
しかし、町の大通りの端にたどり着いたところで、目の前の光景に、ウェルズは思わず眉をひそめた。
街路を、不死者の小隊が行進していた。先頭を歩くのは全身から緑の毒液を垂れ流す二階の疫病ゾンビで、その後ろでは、長槍を手にした重装のスケルトン兵五体が整然と足並みをそろえ、いかにも戦術を心得た蛇行陣形を組んで、街路をゆっくりと進んでいる。
「様子がおかしい」ウェルズは低く言った。「疫病ゾンビも低階のスケルトンも、心を持たない下等な不死者だ。本能のままにさまよって殺すだけで、こんな組織立った巡回を自分たちでやるなんて絶対にありえない!」
「つまり……この近くに、奴らを指揮している高階の不死者がいるってこと?」サンドラは即座に察した。
「そうだ。まずは撤退するぞ!状況が分からないうちは、軽率に深入りするな」
しかし、来た道をひそかに町の外へ引き返そうとしたまさにその時、背後から身の毛もよだつような、骨の擦れ合う音が聞こえてきた。
そのときになってようやく、彼らは気づいた。がら空きだったはずの退路が、いつの間にか錆びた鎧をまとった数十体のスケルトン兵に完全に塞がれている。しかもその屍の群れの中央には、肉の山のように巨大な恐るべき怪物が、どっしりとそびえ立っていたのである。
「まずい、俺たちはとっくに見つかっていたんだ。これは生者を狙った罠だ!突破するぞ!」
行動が露見したと悟るや、ウェルズはもはや魔力の波動を隠そうともせず、両手で素早く印を結んだ。
「火球術!」
極限まで圧縮された火球が、轟音とともに後方の街路の出口へ撃ち出された。激しい爆発と天を衝く火柱とともに、十数体のスケルトンが粉々に吹き飛び、燃え盛る残骸が後方の屍の群れの追撃路をかろうじて塞ぐ。その隙に、ウェルズは指先から立て続けに数条の「灼熱光線」を弾き出し、火の壁を越えようとする取りこぼしを、レーザーのように正確に撃ち抜いていった。
「前の道は私が切り開く」
サンドラは迷いなく暗紅色の煉獄の大剣を抜き放ち、正面に立ち塞がるあの巨大な怪物へ真っ向から突っ込んでいった。
それは三階の「縫合憎悪」だった。
高さは三メートル、幅は優に二メートルあり、腐肉と千切れた四肢を無理やり捏ね固めて作った肉の山のようだった。蒼白く脂ぎった表皮は粗雑な黒糸で縫い合わされ、肉塊の表面には、目鼻を歪めて声なき悲鳴を上げる人の顔が数十も嵌め込まれているばかりか、痙攣する千切れた腕が何本も不気味に生えている。一歩進むごとに、その吐き気を催す脂肪が激しく揺れ、濃く鼻を刺す屍臭を撒き散らした。
「こんなのに殺されたら、私の顔もあの腐った肉の山に縫い付けられるんだろうね」
常人なら足がすくむような光景だったが、少女の目には恐れを知らぬ戦意が燃えていた。
それは、ウェルズが全力で支えてくれているおかげでもあった。毒素抵抗、疾病免疫——魔法の補助が少女の身に降り注ぎ、不死者の負の効果から彼女を守っていた。
生きた肉体が近づいてくるのを見て、憎悪はくぐもった咆哮を上げた。木の幹のように太く、黒い血を滴らせた肉の拳を振り上げると、恐ろしい風圧とともにサンドラの頭上へ叩きつける!
「ドォン!」
巨大な肉の拳が地面を激しく打ち、石畳に数センチもの深さの窪みを穿った。石畳は一瞬で砕け散り、破片が飛び散る。だが打たれる寸前、少女は軽やかな落ち葉のように、間一髪で滑るように身をかわしていた。
憎悪の一撃が空を切り、鈍重な体が隙を見せたその瞬間、サンドラは腰に力を込め、大剣を下から上へ斜めに跳ね上げた!同時に手首を返し、逆方向へ流れるように血の光を一筋斬り下ろす!
まさに十字斬撃!
華麗な血色の剣光が空中で交差した。この鋭い一撃は憎悪の太い腕を正確に切り裂き、脂肪の層へ深々と食い込んだ。黒赤色の粘つく血が大量に、滝のように噴き出す。
「アアアアア——!!」
憎悪の体に嵌め込まれた数十の人の顔が同時に口を開き、耳をつんざく、魂に直接突き刺さるような凄惨な悲鳴を上げた。
「やった!」
一撃で目標に重傷を負わせると、サンドラはすぐさまその反動で後ろへ跳び、距離を取って次の隙を探ろうとした。
だがその時、痛覚を持たないこの怪物が、身の毛もよだつ行動に出た。無事なほうの巨大な手を突然伸ばし、傍らを徘徊していたゾンビを一体つかみ上げると、力ずくで自分の胸に裂けた血肉の大口へ押し込んだのだ!
背筋の凍るような、骨と肉を噛み砕く音とともに、憎悪の斬られた腕の傷口が、なんと狂ったように蠢き始めた。肉芽が絡み合い、傷は目に見える速さで癒えていき、噴き出していた黒い血も一瞬で止まる。そしてその胸には、あのゾンビのものである歪んだ顔が、また一つ増えていた。
「くそっ!共食いで回復できるっていうの?」サンドラの気分は一気にどん底へ落ちた。後ろへ向かって叫ぶ。「ウェルズ!広範囲の火系魔法で、この忌々しい怪物をそのまま灰にしちゃってくれない!」
「俺はまだ後ろの追っ手を抑えるので手一杯だ!少し時間をくれ!」少年は歯を食いしばり、炎の魔力の出力を維持して、他の不死者を抑え込んでいた。
このわずかな膠着のあいだに、憎悪の体の数十の顔がいっせいに口を開け、喉の奥から不安をかき立てるごぼごぼという音を漏らした。次の瞬間、どろりと濃い墨緑色の毒瘴がそれらの口から噴き出し、倒れかかる毒の壁のようにサンドラへ押し寄せてきた。
「憎悪の疫病の毒霧だ」
憎悪の不死者の毒霧は、吸い込んだ者を疫病に感染させ、吸い込む時間が長いほど傷害も大きくなる。感染して死んだ者はゾンビとなり、毒素抵抗があっても傷害を減らせるだけである。
本能的に後退して距離を取ろうとした。だが、彼女にはよく分かっていた。自分が退けば、背後のウェルズがこの怪物の攻撃範囲に丸ごとさらされてしまう。
「やってやる!」少女は歯を食いしばり、息を止め、毒霧を真っ向から浴びながら再び突撃しようと身構えた。
しかし、まさにその危機一髪の瞬間、彼女がまったく予期していなかったことが起きた。
半透明の漆黒の影が、彼女より数倍も速く、放たれた矢のように彼女の頭上を越え、毒霧を吐く憎悪へまっすぐに突っ込んでいったのだ!
あのバンシーだ!
彼女は魔法も使わず、音波の攻撃も放たず、ただ体当たりするように、驚く少女の目の前で、憎悪の巨大な血肉の体へ頭から飛び込んだ!
「……!?」サンドラは呆気にとられて足を止めた。
次の瞬間、総毛立つような異変が起きた。
前進していた憎悪が、突然その場で硬直した。体中のすべての顔がいっせいに毒霧を吐くのをやめ、代わりに先ほどの十倍も凄惨な、断末魔の叫びを上げた!
見れば、あの巨大な肉の山の表面が、沸き立つ水面のように激しく波打ち始めていた。まるで無数の大蛇がその脂肪の層の下で狂ったように潜り回り、食い破っているかのようだった。憎悪は苦痛のあまり吠え叫び、狂ったように巨大な拳を振り回して自分の体を殴りつけ、体内に潜り込んだ異物を叩き出そうとした。
だがこうした無駄な自傷は、その滅びを早めるだけだった。
「バァン——!!」
ついに、極限の内部破壊に耐えかねて、この巨大な肉の山は、血肉を詰め込んだ爆弾のように轟然と炸裂した!
空一面に千切れた肢と黒い血と破れた顔の皮が、雨のように飛び散った。その場に残ったのは象の脚のように太い二本の下肢だけで、それも数度揺れたあと、轟音とともに倒れた。
そして、あの幽暗な青色のバンシーの姿は、血の雨の中から無傷のままふわりと浮かび上がり、優雅に地面へ舞い降りた。
「見事だ!」
前方にもずっと気を配っていたウェルズは、ようやく大きく息をついた。
「純粋な物理攻撃と毒素しか持たない憎悪では、物理傷害を無効にする虚体の幽霊に何の脅威も与えられない。バンシーが奴の体内に潜り込んだその瞬間に、この鈍重な肉の山はもう死ぬしかなかった。まして……あいつは近接の武術に精通した変異バンシーだからな」
バンシーの最も恐ろしいところは「生命吸取」だけではない。鎧を無視して、内側から直接敵の臓器と肉体を破壊できる、あの幽体貫通の能力にある。
最も手強い盾役の憎悪さえ片付けてしまえば、残りの低階のスケルトンとゾンビなど恐れるに足りない。二人と一体は周囲の不死者をあっさりと薙ぎ払い、包囲を斬り破って、町外れの荒野へと抜け出した。
しかし、ようやく安全になったと思い、一息つこうとしたその時、遠方の灰色の霧の中から、突然、鈍く整然とした馬蹄の音が聞こえてきた。その音はまるで人の心臓を踏みつけるかのようで、息の詰まるような圧迫感を帯びていた。
「卑しき生者どもよ……よくも我らの楽園を汚したな!その傲慢の代償を、必ずや払わせてくれよう!悔いても遅いと知れ!」
嗄れた、金属の擦れるような耳障りな怒号が、濃霧の奥から響いてきた。
「亡霊騎士だ!」ウェルズの顔色が一瞬で沈んだ。「さっきの組織立った巡回隊は、間違いなく奴が陰で指揮していたんだ!」
「急げ!まず高台を見つけて防衛線を築くぞ!俺たちの二本の足じゃ、四本足の骸骨の戦馬には絶対に勝てない!」
ウェルズは即座に決断し、サンドラを引っ張って、ほど近い岩の高台へ全力で駆け出した。
「くそっ!今のうちに四階の『泥沼化』か『地形改造』を覚えていればよかったんだ。せめて騎兵の突撃の優位を潰せたのに!」少年は走りながら、自分の使える魔法がまだ少なすぎることを胸の内で罵った。
二人が岩の高台に立つと、ほどなく追っ手の姿が現れた。
大地の鈍い震動とともに、漆黒の鋼鉄の奔流が押し寄せてきた。骸骨の戦馬に跨った、優に数十騎の黒騎士である。
高台に立つウェルズは、眼下の敵をじっと観察した。スケルトン騎士たちは漆黒の古びた重い板金鎧をまとい、錆だらけながら恐ろしく鋭い騎槍を構えている。戦馬の脇腹には、とうに色褪せた紋章旗が掛けられ、彼らが生前属していた家門の栄誉を物語っていた。生前の卓越した騎術と戦闘本能を保ちながら不死の体を持つこの鉄騎は、どんな歩兵にとっても悪夢だ。
鎧のあちこちが傷んだ数十騎の黒騎士が、岩の高台の周囲に散開し、彼らを幾重にも包囲した。
冷たい殺気が彼らを捉えた。
「生者よ、武器を捨て、自ら首を刎ねるがよい!この死地へ孤軍で分け入った勇気への賞賛として、貴殿らの魂が我が戦団に加わることを許そう!」
黒騎士の陣列が中央から割れ、一本の通路を開けた。
凍てつくような陰気を放つ長身の騎士が一騎、ゆっくりと馬を進めて現れた。
周囲の装備の古びた部下たちとは異なり、この騎士の全身板金鎧は光沢も鮮やかで、表面には複雑な氷青色の魔法紋様が嵌め込まれている。その手には氷霜の気配を放つ巨大な騎槍が握られていた。彼が現れた瞬間、周囲の空気までもが凍りついたかのようだった。骸骨の戦馬の鉄の蹄が地面を踏むと、たちまち周囲へ蒼白い氷霜が一面に広がっていった。
「四階の亡霊騎士?」サンドラは大剣を握り締め、低い声で分析した。「ウェルズ、気をつけて。四階の亡霊騎士はたいてい死亡系と氷霜系の擬似法術能力を持ってる。あいつらは『極寒光環』を自前で備えていて、戦いが長引くほど周囲の温度が下がり、あいつらの戦闘力は増していくの」
「戦術は単純だ。俺たち二人であの首領を足止めし、バンシーには虚体の優位を活かして、周りの二階の黒騎士どもを臓腑ごとえぐり出して片付けてもらう」ウェルズは冷静に戦術を組み立てた。
「私の面前で臆面もなく陰謀を論じるとは!傲慢極まる!」
亡霊騎士は彼らの会話を聞きつけ、怒号を上げた。その騎乗する戦馬も呼応するように、凄惨ないななきを上げる。
それから彼は頭を巡らせ、氷霜に覆われた兜の面甲を、傍らのバンシーへ向けた。
「そして貴様……偉大なる不死者の一員でありながら、なぜ同胞を裏切り、この憎むべき生者どもに与するのだ!」
しかし、亡霊騎士がバンシーの蒼白く絶美な顔をはっきりと見て取った時、高く掲げていた騎槍の動きがはたと止まった。まるで雷に打たれたかのように、その場で硬直したのである。
生前の習慣が残っていたのだろうか。彼はゆっくりと鉄の籠手をはめた左手を上げ、兜の面甲を押し開けて、陰惨な灰色の頭蓋骨をあらわにした。騎士が目の前のものをよく見ようとする時の癖だ。
次の瞬間、その眼窩の魂火が突然燃え上がり、二本の燃える青い松明のようになった!彼は怒りに我を忘れて耳をつんざく咆哮を上げ、騎乗する戦馬は主の激怒を感じ取って、前脚を高く跳ね上げた!
「貴様か!!この恥知らずの裏切り者め!」
「裏切り者?」
ウェルズは一瞬ぽかんとし、面食らった顔で傍らのサンドラを見た。「お前、いつ奴らを裏切ったんだ?」
「君、頭に穴でも開いてるわけ?何百年も前の骨組みどもを、私が知ってるはずないじゃない。あいつらの年、絶対に私のお祖父ちゃんより上だよ!」少女は呆れたように目を回し、きっぱりと関係を否定した。
「お前じゃないなら……奴が言っているのは誰だ?」
ウェルズは瞬時に何かに思い当たり、勢いよく反対側を振り向いた。
「まさか……奴が言っているのは、お前か?」
「……?」宙に浮かぶバンシーは、きょとんとした顔で自分を指さした。空ろな眼差しは無実そのものだった。
「お前、こいつを知っているのか?」ウェルズはすぐさま亡霊騎士に向き直り、大声で尋ねた。
「問答無用!私はこの裏切り者をこの手で斬らねばならぬ!祖国の栄光のため、騎士の誇りのため、裏切り者には惨たる代償を払わせるのだ!」
亡霊騎士はウェルズの問いにまるで取り合わず、氷霜の面甲を勢いよく下ろすと、手にした氷霜の騎槍を高々と掲げた。
「全軍、聞け!陣を組め!突撃用意!」
号令一下、数十騎の黒騎士が一糸乱れず騎槍を下げ、冷たい槍先が高台の上の二人へ真っ直ぐに向けられた。
「待て!早まるな!」ウェルズは慌てて叫びながら、頭をフル回転させた。
「生者よ、騎士の名誉にかけて、最後の言葉を残す権利を貴殿に与えよう!」亡霊騎士は冷酷に手を軽く上げ、部下の突撃をひとまず止めた。
「口を開けばこいつを裏切り者だと言うからには、お前はこいつの過去を知っているんだろう?」ウェルズは相手の眼窩をじっと見据えた。「このバンシーのことだが、こいつは今、記憶を失っていて何も覚えていない!ここには何かとんでもない誤解があるのかもしれない。お前の知る真相を、教えてもらえないか?」
「私の口から情報を引き出せると思うな、狡猾な生者め!」亡霊騎士の口調には取り付く島もなく、傍らの氷霜のように冷酷だった。
「それは実に残念だ」ウェルズは突然焦りの色を引っ込め、逆に肩の力を抜いて、両手を広げて軽く笑い出した。
「残念なのは、お前がすぐに俺たちに徹底的に打ち倒されることだ。その時には、お前は騎士の恥辱とやらを雪ぐどころか、三人の低階の相手にすら勝てぬ凡庸な者として、不死者の世界の笑いものになる……しかも今度は、お前は完全に跡形もなく消し飛ぶんだぞ」
「不遜な!高貴な騎士を侮辱するとは!」亡霊騎士の魂火が激しく揺らめき、殺意が実体を持つかのようにウェルズへ突き刺さった。
「俺はただ、常識的な推論に基づく事実を述べているだけだ。お前には、俺たち三人の連携にはまるで勝ち目がない」
ウェルズは断定的な口調で、筋道立てて心理戦を始めた。
「俺とこの煉獄騎士が手を組んでお前を足止めしさえすれば、この五階の変異バンシーは、虚体が物理攻撃を無効にする優位を活かして、お前が誇りとする重装騎兵を楽々と屠れる。お前の部下が死に絶えれば、局面は三対一になる。その時、命よりも大事なその『騎士の名誉』を捨てて無様に逃げ出す気がない限り、お前は必ず死ぬ。百戦錬磨の指揮官でありながら、こんな基本中の基本の戦局の読みすら分からないのか?」
「もう一度死ぬだけのこと!我ら不死者は、恐れなど知らぬ!」亡霊騎士は傲然と怒号した。
「死ぬのは惜しくなくとも、何の価値もなく、そのうえ恥辱を背負って死ぬ——それが本当にお前の望みか?」ウェルズは口の端にずる賢い微笑を浮かべた。「それより、お前の身分にふさわしい提案がある」
「どんな提案だ?」
「神聖なる『騎士の決闘』を一つ、やろうじゃないか」ウェルズは相手の両の眼を真っ直ぐに見据え、実験の手記で目にした情報を持ち出した。「月の潮汐の古国がかつて最も尊んだ伝統のように、一対一の決闘で争いを解決し、どちらが真理を握る者かを証明するんだ」
ウェルズの言葉は、鍵のように、亡霊騎士の硬直した思考へぴたりと差し込まれた。
「騎士の決闘」……その言葉が、魂の奥底に最も強く焼き付いた記憶を呼び覚ました。
それは彼がまだ生きていた頃、万人の歓呼する闘技場で、王国の栄光のために強敵と命を賭けて戦った、血の沸き立つ記憶だった。
次の瞬間、その空ろな眼窩から、狂おしいほどの幽藍の炎が噴き上がった。
騎士の風格、名誉の対決。
それは、生前も死後も、彼が唯一狂おしく追い求めた信仰であり、この骸骨の体を数百年にわたって朽ちさせずに支えてきた、唯一の執念でもあった。
「ガシャン!」
亡霊騎士は鞍の脇に差した重い戦旗を勢いよく引き抜き、ウェルズの目の前の岩へ力任せに投げ突き立てた。旗竿は岩に数寸めり込み、旗は陰風の中ではためいた。
「私は、騎士の至高の名誉にかけて誓う!貴殿の挑戦を受ける!」
亡霊騎士の声には、荘厳な狂熱が滲んでいた。「貴殿らが決闘に勝てば、私は我がすべてを捧げよう!我が祖国の同胞に剣を向けること以外、私は勝者の命令に絶対に服従する。この裏切り者のこと、そして月の潮汐が滅んだ真相のすべてを、貴殿らに語ることも含めてだ!」
「だが——」彼は口調を変え、冷え冷えとした声で言った。「貴殿らが敗れたなら、貴殿らはこの裏切り者への庇護を解き、彼女を私に引き渡して処断させねばならぬ!勇者への褒賞として、貴殿らを我が戦団に加えてやろう!」
相手が完全に食いついたのを見て、ウェルズは胸の内で大きく息をついた。彼は進み出て、地面の戦旗を一気に引き抜き、企みが図に当たった晴れやかな微笑みを浮かべた。
「契約成立だ!お前の条件を呑む!」
傍らに立っていたサンドラは、呆気にとられてこの一部始終を見ていた。
「ちょっと……誰が四階と一騎打ちしに行くわけ?」彼女は声を潜め、呆気にとられたまま尋ねた。
「お前、『煉獄騎士』だろう?神聖な騎士の決闘なんだから、当然お前が出るんだ!」ウェルズは当たり前のように答えた。
「正気なの?!私は三階!あっちは四階の首領格の怪物よ!」
ウェルズは少女の抗議を取り合わず、亡霊騎士のほうへ向き直った。「ただ、こいつは三階で、お前は四階だ。この決闘の公平さを示すために、開戦前に俺の騎士へ補助法術をかけることを許してくれ。それくらいは構わないだろう?」
「ふん!四階の身で三階を踏み潰したところで、そのようにかけ離れた勝利は私にとって何の栄誉にもならぬ。貴殿の条件を認めよう!ぐうの音も出ぬほど負けを認めさせてやる!」亡霊騎士はひどく高慢な態度で、このいささか図々しい要求を承諾した。
決闘の取り決めが成立すると、周囲の一触即発の空気は一瞬で和らいだ。黒騎士たちは次々と騎槍を収め、再び隊列を組んだ。
「生者らよ、ついてくるがよい!我が城で休息し、態勢を整えることを許そう。休息の後、最も完全な状態で、この神聖な対決に臨むのだ!」
黒騎士の陣列が再び一本の通路を開けた。ウェルズとサンドラは高台からゆっくりと歩み降りた。
亡霊騎士は手にした氷晶の騎槍を掲げ、死霊魔法を一つ、無造作に行使した——「骸骨馬召喚」。
見れば前方の土がひとしきり波打ち、散らばっていた数百本の白骨が地中から突き出て、空中で素早く組み合わさり、瞬く間に緑の魂火を燃やす二頭のスケルトンの戦馬と化した。
「馬に乗れ。そのほうが帰りははるかに速い」
ウェルズとサンドラはそれぞれ、一頭のスケルトンの戦馬に跨った。
先頭の亡霊騎士に従い、この奇怪な一隊は荒野を疾駆し始めた。数十騎の黒騎士が外周を護衛し、その陣容は最高規格の護送のようでもあり、厳重な連行のようでもあった。
「三階が二人で、四階の首領と一騎打ちしに行く。君、本当に私を買いかぶってるね。普通なら、こういう首領格の怪物を相手にするには、同階の職業者が少なくとも五、六人でパーティを組まなきゃいけないでしょ!」馬上で揺さぶられて目を回したサンドラが、歯を食いしばりながら愚痴をこぼした。
「心配するな。俺たちはそもそも『普通』だったことなんて一度もない。もう必勝の戦術は頭の中にある」ウェルズは自信たっぷりになだめた。
「その殴りたくなる顔を見るに、腹の中でまた何か陰謀を練ってるんでしょ」少女は仕方なさそうにため息をついた。
ウェルズは、ずっと黙って両側を漂っていたバンシーへ顔を向けた。「あいつの顔を見て、あるいは声を聞いて、何か思い出したか?」
バンシーはすぐさま、きょとんとした顔で首を横に振った。
「彼女が見分けられるほうがおかしいよ!」サンドラが不機嫌に口を挟んだ。「あのスケルトンども、どれも同じ顔じゃない?兜が違うくらいで、誰が誰だか分かるもんですか!」
ウェルズは少し考え、彼女の言うことはまったくもっともだと思った。確かに、骸骨一体を眺めて「昔を懐かしむ」者がいるなど聞いたことがない。
骸骨の戦馬に乗って数時間疾駆したあと、地平線上に壮麗な黒い城砦が現れた。
この軍事要塞は隅々まで修繕され、堅牢そのものだった。黒石の塔楼が天を衝くようにそびえ、分厚い城壁の上では、ずらりと並んだスケルトン弓兵とゾンビの衛兵が昼夜を問わず見回りをしている。
重い巻き上げ機の音とともに、鉄板を張った巨大な城門が、亡霊騎士の命令でゆっくりと開いた。
二人は騎士たちに従って城の内部の中庭に入った。黒騎士たちが次々と馬から降りると、ウェルズとサンドラの乗っていた臨時のスケルトン馬も、二人の足が地面に着いた瞬間に白骨の山と化し、地面に散らばった。
ぼろぼろの召使いの服を着た数体のゾンビがよろよろと進み出て、慣れた手つきで手綱を受け取り、骸骨の戦馬を馬小屋へ引いていった。この城全体には生きた人間が一人もいないのに、ある種の奇怪な秩序のもと、生前と同じように厳密な軍事運営が維持されていた。
黒騎士たちは足を止めず、そのまま隊列を組んで傍らの屋外の訓練場へ向かい、昼夜を問わず剣を振り、突きを繰り出し、とうに骨の髄まで刻み込まれた戦闘技芸を磨き続けた。
「準備が整ったなら、いつでも召使いに命じて私に知らせるがよい。闘技場で、雌雄を決するのだ」亡霊騎士は馬から降り、氷霜の騎槍を地面に突き立てて、重々しく言った。
「いいだろう。明日の正午十二時、闘技場で会おう」ウェルズは静かに応じた。
「誰かある!上客の礼をもって、二人の勇者をもてなせ!」亡霊騎士は手を振って命令を下した。
ほどなく、半透明の幽魂のメイドが数体、古城の影の中からふわりと現れた。先頭に立つのは、なんと、上等な黒と白のメイド服をまとった葬送のバンシーだった。
「お二方、どうぞ私についてお越しくださいませ。貴賓用の客室へご案内いたします」メイド長は裾を軽くつまみ、極めて正式な宮廷式の礼をした。
亡霊騎士が身を翻して大股に訓練場へ向かうのを見送り、ウェルズとサンドラもメイド長の案内に従って、城の内部へ入っていった。
「お前の言ったとおりだな。このスケルトン馬は本当に乗りにくい。衝撃を吸収する効果がまるでなくて、五臓六腑が揺さぶり出されるかと思った」薄暗い石造りの廊下を歩きながら、ウェルズは痛む腿をさすって愚痴をこぼした。
「当たり前でしょ。普通の馬なら少なくとも厚い筋肉と脂肪が緩衝になってくれる。スケルトン馬は正真正銘、骨だけ。走る時の衝撃が全部、硬いまま乗り手にぶつかってくるのよ」サンドラは深く同感しながら腰をさすった。
この不死者の乗騎は、やはり痛覚のない不死者にしか乗りこなせないのである。
歩きながら、ウェルズはこの要塞の軍の配置をひそかに観察していた。
一目見て肝を潰した。この城に集結している不死者の兵種は、まさに多種多様だった。中庭には無数の白骨を継ぎ合わせて作った屍骸の戦車と血肉の投石機が並び、高塔の上には疫病を帯びた腐肉食いの鳥が群れをなして旋回し、隅には白骨の杖を手にした骸骨の魔法使いが数体と、体躯の巨大な攻城憎悪が立っていた。
「どうやらこの不死者どもは、この要塞に狂ったように兵力を溜め込んでいるらしい。数が臨界点に達したら、奴らは間違いなく禦死長城へ、壊滅的な総攻撃を仕掛けるつもりだ」ウェルズは胸の内で密かに計算した。
幾重もの螺旋階段を回って、二人はようやく石造りの塔の最上階にある貴賓用の客室にたどり着いた。
部屋は古びていたが、塵一つなく掃除され、上等な無垢材で作られた古典様式の家具が置かれていた。
「今夜は寝袋で寝なくて済みそうだ」ウェルズは満足げに寝台へ歩み寄り、空間の指輪から清潔なマットレスを取り出して敷いた。
サンドラのほうは、興味津々で部屋中をあちこち引っかき回していた。「わあ、ここ、小さな台所まで付いてる!調理道具も全部揃ってるよ」
「お食事をご所望でしたら、城の地下室にとびきり新鮮な肉を蓄えてございます。すぐにご用意いたしますが」入口に浮かぶメイド長が、穏やかな口調で申し出た。
「ええと……それは結構だ」ウェルズは乾いた笑いで手を振った。「お前たちの言う『鮮肉』が、どんな生き物から切り取られたものか、想像するのも恐ろしい」
好意を辞退したあと、サンドラは持参の行軍用の携行食と調味料と風干しの肉の細切りを取り出し、台所に潜り込んで夕食の調理を始めた。
一方ウェルズは、居間のローズウッドの丸テーブルの前に悠然と腰を下ろし、卓上に置かれた茶葉の缶を手に取って、興味深げに茶を淹れ始めた。
精巧な磁器のポットに熱湯を注ぎ、彼は手首を軽く揺らした。ほどなく、独特の草木の清らかな香りを帯びた茶が、ティーカップに注がれた。
ウェルズはカップを持ち上げて軽く一口すすった。濃厚な後味の甘みが舌先に広がる。「この茶、実に上等だな。ただ、少し熱すぎる」
「これは保存魔法によって保存されてきた太古の茶葉でございまして、たいへん貴重なものです」
ずっと傍らに静かに立っていたメイド長が、そっと説明した。彼女はゆっくりと進み出てウェルズの前のカップを取り上げると、その口に向かって、蒼白い幽寒の息をふっと吹きかけた。
それから、彼女はカップを再び少年の前に差し戻した。「どうぞごゆっくり」
ウェルズは一瞬ぽかんとし、カップを受け取ってもう一口飲んだ。煮え立つようだった茶は、一瞬で完璧に冷えた紅茶に変わっていた。心の芯まで冷える爽快さが喉を伝って胃まで届き、なんとも格別の味わいだった。
「冷やした水出し茶か。いい腕だな」
彼はカップを置いて顔を上げ、探るような眼差しでこのバンシーのメイド長を見つめた。
「ただ、少し気になることがある」ウェルズは両手を組んで顎を支えた。「お前たち不死者は、俺たちのような心臓の鼓動を持つ生者を極度に憎み、片時も休まず俺たちの皮を剥ぎ、血を飲み干したいと渇望しているはずじゃないのか?」
彼は一呼吸置いて続けた。「特に月の潮汐のような死の気配が極度に濃い環境では、こうした嗜血の本能は際限なく増幅されるはずだ。それなのに、相当な実力を持つお前が、卑しいメイドのように、生者である俺に茶を運び、丁重にもてなす……それはお前にとって、尊厳を傷つけられる、この上なく苦痛なことじゃないのか?」
ウェルズは、暴走したバンシーの人殺しがどれほど狂気じみて残忍かを、その目で見たことがあるのだ。
この鋭い問いを前に、メイド長は短い沈黙に沈んだ。精緻な磁器のような生気のないその顔の上で、数百年にわたって深く埋められてきた何かが、あの空ろな両の眼を音もなく打っていた。
「この世界には……本能のままの殺戮の欲望を満たすことより、大切なものがあるからでございます」
彼女の声は空ろで、静かだった。「そしてそれこそが、私ども不死者が長い歳月の中で自我を保ち続けるための、錨なのでございます」
「不死者とは、生前の執念があまりに強かったがゆえに冥界の招きを拒み、無理に現世に留まった怪物でございます」メイド長はゆっくりと語った。「私にとって、私の執念とは忠誠と奉仕でございます。物心ついた時から、私が受けた教えは、完璧な宮廷のメイドになることでした。すべてを滅ぼしたあの大災厄が降りかかるまで、私がこの不老不死の幽魂の身に転じられるまで……私は今なお魂の奥底で、この完璧への追求を死守しているのでございます」
「たとえそれが、魂の奥底にある生者の血肉への狂おしい渇望を、無理やり抑え込まねばならないことを意味するとしても?」
「私の信仰と堅持が、たかが不死者の嗜血の本能にすら勝てないのなら……」周囲の死んだように静まった空気までもが、彼女の傲慢に近いこの頑なさに、わずかに凝結したかのようだった。「この数百年、私が守り抜いてきたすべてが、最大の笑い種になるではございませんか?」
「お前は、お前の主人——あの亡霊騎士の決定を疑ったことはないのか?たとえば、あいつが俺の決闘の要求を受けたことなんかを」
「私が忠誠の執念を守り抜くのと同じく、騎士様も騎士の名誉の執念を守り抜いておられます。それは私どもが、たとえ滅びに直面しようとも、絶対に守らねばならぬ務めでございます。私は騎士様の選択を信じております。あなた様のお側に付き従っておられるあの御方も、きっとご自身の守り抜くものをお持ちなのでしょう」メイド長は軽く身を屈めた。
その言葉を聞き終えると、ウェルズは思案げに頷いた。求めていた答えは得られた。
「分かった。お前のその忠誠と理性は、確かに得がたいものだ。茶をありがとう。下がっていいぞ」
「何かご用がございましたら、いつでも卓上の銅の鈴をお鳴らしくださいませ」メイド長は再び優雅に礼をし、それから閉ざされた扉をすり抜けて消えた。
部屋に生きた人間の息遣いだけが残ると、ウェルズはようやく心底ほっと息をついた。
「本当に哀れね」サンドラは湯気の立つ干し肉の和え麺の皿を二つ手に台所から出てきて、のんびりと言った。「あの亡霊騎士が数百年来、命のように大事にしてきた名誉が、もうすぐ君の下劣な陰謀に手玉に取られるんだから」
ウェルズはばつが悪そうに手をこすり合わせ、二度ほど咳払いをした。「ごほん……兵は詭道なり、だ。これも生き延びるためだ」
「さて、部外者はみんな出ていった」サンドラは皿をどんと卓上に置き、両手を腰に当てた。その目には好奇と興奮が隠しきれずにいた。
「今度こそ、私に白状してくれるでしょ?いったいどんな必勝の策を用意して、三階の騎士に階を越えて四階の亡霊騎士を斬り倒させるつもりなわけ?」




