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空間魔導書と少年魔法使い  作者: atu78963254
月の潮汐の深奥へ編
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第五章 狂人の実験室

早朝、野営と対策に必要な物資をすべて携えて、二人は禦死長城へ向けて出発した。


遠目にも、大蛇のごとく大地に横たわる雄大な防衛線がはっきりと見えた。長城の高さは優に十数メートル、広い城壁の上は軍馬四頭が並んで進めるほどだ。百尺ごとに、烈焔を猛々しく燃やす巨大な火盆がそびえていた。


それらの火盆では教会の祝福を受けた特製の神木が燃え、不死者には耐えがたい眩い光の力場を放っている。この金色の光の幕は低階の死霊を追い払うばかりか、姿を消して境を越えようとする怪物をも、ひとつ残らず暴き出すのだった。


二人は城壁の下にある門のひとつへ近づいた。神聖な光が不可視のバンシーに降り注ぎ、彼女はいくらか居心地が悪そうだったが、光はその偽装までは見破れなかった。身を覆っているのが、ウェルズのかけた高階の「陰影隠形」だったからだ。


城門を守っていたのは装備の整った三階の聖騎士で、神聖な符文が刻まれた祝福の白銀の重鎧に全身を包んでいた。


ウェルズは進み出て、ジョージから贈られた特別通行証の書類を差し出した。


聖騎士は書類を受け取って念入りに改めると、顔を上げ、値踏みするように目の前の少年を見た。「君がウェルズだな?大神術師ジョージ殿から確かに申し送りを受けている。若者が二人、長城を越えることになる、と」


間違いないと確かめると、彼は後方の衛兵を振り返り、手を振って声を張り上げた。「封印を解除せよ!城門を開け、通せ!」


巻き上げ機の鈍い音とともに、神聖な刻印がびっしりと嵌め込まれた分厚い鉄の門が、ゆっくりと左右に開いていく。


その刹那、骨まで凍みるような、濃い腐臭を帯びた寒風が門の隙間からどっと吹き出し、二人の顔にまともに叩きつけてきた。


城門の向こうは、草一本生えない荒涼とした大地だった。空は永遠に晴れることのない灰色のフィルターをかぶせられたかのように暗く陰鬱で、大地はどこまでも、息の詰まるような死の静けさと灰色の闇に沈んでいた。


ウェルズは一度だけ振り返った。長城のこちら側には緑あふれる町の公園と暖かな陽光、行き交う人々の賑わいがある。だが門一つ隔てた向こうは、生命にとって絶対の禁域だった。この雄大な長城が、生と死を力ずくで二つの世界に切り分けているのだ。


二人は境界線を踏み越えた。聖騎士は境界の際に立ち、その背中に向かってぶつぶつと言い含めるように声をかけた。


「珍しいこともあるものだ。越境を申し出る者など、ここ何か月も一人もいなかった。それに君たちは、教会の高位の聖職者にも見えないが……装備は本当に揃っているのか?ともかく、くれぐれも気をつけることだ。自惚れた連中が数えきれないほどこの門をくぐり、それきり誰一人戻ってこなかったのだからな」


ウェルズは振り返らず、ただ片手を上げて振り、分かったと伝えた。


二人と一体が不死者の地へ完全に入りきると、背後の鉄の門が轟音とともに重々しく閉ざされ、固く錠が下ろされた。


かつて月の潮汐と呼ばれた古い国の領域に踏み入った途端、ウェルズは全身を一瞬で凍てついた湖に浸されたかのようだった。単に気温が下がっただけではない。生命力そのものをじかに吸い取られていくような感覚だった。


「まだ持ちこたえられる?」サンドラが小声で尋ねた。


「問題ない。陰影の血脈の耐性のおかげで、この死の気配の侵蝕はある程度打ち消せる」ウェルズは白い息を吐いた。


「私もまあ平気。ただ、ここだと体力の消耗が激しいから、今夜の携行食は倍にしないとだめかもね」少女は軽く体をほぐした。


ウェルズはバンシーにも目を向けた。「お前は?」


「大丈夫だ……」不可視を解いて姿を現したバンシーが言った。「自分の身に何が起きたのかを突き止めるためなら、本能は抑えられる」


彼女は己を無理やり抑えつけ、魂に刻まれた生者への憎しみを鎮めた。


「なら、案内を頼む。お前を造り出した実験室へ連れていってくれ。お前の身の上の手がかりも、俺たちに必要な物資も、まだ残っているかもしれない」


「ついてこい」


バンシーはふわりと前へ滑り出し、宙に浮いたまま先導した。実体のない幽霊である彼女は風にも地形にも妨げられず、動きがきわめて速い。幸い二人とも高価な七里靴を履いていたので、どうにかついていくことができた。


「この七里靴、本当に値段以上だな。軽いだけじゃなく、陰寒な死の気まで防いでくれる。今、体じゅうで一番暖かいのは足の裏だ」ウェルズはしみじみと言った。


「なにしろ私がじきじきに選んで薦めたんだからね」サンドラは得意げに眉を上げた。


「ユニコーンの毛皮で防寒コートを一式仕立てられたらいいんだがな」


「そんなのとんでもない値段になるよ。ユニコーンの生息地はほとんど大国に押さえられてて、毛皮一枚一枚の行き先まで厳しく管理されてるんだから」


果てしない灰色の荒野で、生者の気配は闇の中の松明も同然で、たちまちさまよう不死者たちの貪欲な視線を引き寄せた。


ほど近い灰色の霧の中から、おぼつかない足取りのゾンビ十数体と、錆びた鎧をまとった白骨のスケルトンが、生命の芳香を辿ってじわじわと迫ってくる。


「目を付けられたな。迂回は無理だ。速戦即決でいく!長引かせて余計な面倒を呼び込むなよ!」


ウェルズは足を止めず、すぐさま手をかざして古の呪文を詠唱した。一方のサンドラは放たれた矢のごとく、不死者の群れへ突撃していく。


「来たれ、天を衝く灼熱をもって、阻むものを焼き尽くせ!」


スイカほどの大きさに極限まで圧縮された灼熱の火球が、少年の掌から轟然と撃ち出された。魔法使いの最も古典的な破壊手段であるその一撃は、狙い違わず敵陣の中心に落ち、一瞬で炸裂した。


「ドォン——!」


絢爛たる烈焔が怒濤のように巻き広がり、ひと塊になっていた九体の死霊を一瞬で呑み込んだ。


高温の魔炎が、不浄の者どもを容赦なく浄化していく。白骨のスケルトンの錆びた鎧は熱で歪んで溶け落ち、脆い骨はぱちぱちと爆ぜながら瞬時に炭化して砕け散った。ゾンビは烈火の中で苦悶の叫びを上げ、全身から生臭く粘つく屍の脂を垂らして火勢を煽り、ついには黒焦げになってどうと倒れた。


それでも、ゾンビ二体と重装のスケルトン四体が運よく火の海を抜け出してきた。それと一緒に躍りかかってきたのは、原形をとどめぬほど崩れ、白い骨をむき出しにしたゾンビの猛犬が二頭。


「私に任せて」


サンドラは怯む色ひとつ見せず、正面からぶつかっていった。先陣を切って突っ込んでくるのは、ひどく足の速いゾンビ犬二頭だ。体はぼろぼろに崩れ、そこかしこから白骨がのぞいている。毒液と疫病にまみれた牙をむき、彼女の肌を噛み破ろうと迫る。


飛びかかってくる相手にも足をまったく緩めず、彼女は手にした暗紅色の大剣を、秋風が落ち葉を払うように横薙ぎに振り抜いた。


宙に躍り上がった一頭目は、大きく開いた口から正確に真っ二つにされ、生臭い黒い血と臓物が地面一面に撒き散らされる。続けて少女は剣を振った勢いのまま軽やかに身を翻し、切っ先を突き返した!二頭目の愚鈍なゾンビ犬は自ら飛び込んでくるかのように突っ込み、あっけなく巨剣に頭蓋を貫かれて、宙に縫い止められたまま絶命した。


「ガシャガシャガシャ——」


四体のスケルトン兵がその隙に錆びた長槍を構え、挟み撃ちの形で一斉に少女へ突きかかる。


だが、そんな硬くのろい攻撃が彼女に届くはずもない。サンドラは刃の上で舞う揚羽蝶のように軽やかに、信じがたい角度へ身をひねって、四本の鋭い穂先を紙一重でかわした。


次の瞬間に始まったのは、残酷な一方的殺戮だった。


彼女は踊りの相手の胸に飛び込む少女のように、優雅かつ致命的に、スケルトンの陣の死角へと滑り込んだ。大剣の横薙ぎで、一体が胴から真っ二つに折れる。左の拳を握って打ち込めば、魔力をまとった鉄拳が別の一体の頭骨を粉砕し、骨の粉を宙一面に舞わせた。


続けて深く息を吸い込むと、魔力が剣刃に凝集し、目を刺すような十字の光芒を形作った。


これこそ剣技、十字突襲だった。


その姿は一条の血色の稲妻と化し、敵陣を猛然と貫いた。十歩先で彼女が足を止めた時には、背後の重装のスケルトン二体が乾いた破砕音とともに、地面いっぱいの屑となって崩れ落ちていた。


よろよろと近づいてくる残り二体のゾンビなど、もはや敵ではなかった。サンドラは戦技を使う気すら起こさず、散歩でもするように歩み寄っただけだった。「シュッ、シュッ」と簡潔な剣光が二筋ひらめき、醜い頭が二つ、ごろごろと地面に転がった。


三階の巓峰に立つサンドラの戦いの素養に、後方からのウェルズの戦場制御が加われば、低階の不死者を蹴散らすことなど赤子の手をひねるようなものだった。


「大丈夫か?顔が汚れているぞ」ウェルズはハンカチを取り出して少女に渡した。


「……ありがと」ハンカチを受け取ったサンドラは、しみじみと漏らした。「でも、なんか変な感じ」


「どこが変なんだ?」


「君がこんな気の利いたことするなんて思わなかったから、ちょっと調子狂うっていうか」


「生死を共にする仲間を気遣うのは当たり前だろう。行くぞ、先を急ごう」ウェルズはハンカチをしまい、何事もなかったように笑った。


二人は灰色の荒野を二時間近く歩き続けた。道中、案の定さらに何度か不死者の襲撃を受けたが、そのたびに同じ要領で手際よく片付けた。


「くそっ、ここの不死者はまるでゴキブリだな。一群れ片付けても、すぐまた次の群れが湧いてくる」


またしても、さまようゾンビの一団を灰になるまで焼き払うと、ウェルズは眉をひそめてぼやいた。


「言い伝えだと、月の潮汐の地底に眠る膨大な不死の魔力が、呼吸するみたいに絶えず屍を呼び覚ましてるんだって」サンドラは剣刃の汚れた血を振り払った。


「にしても、この密度は異常だ。教廷の軍がこんな場所で数百年も、どうやって持ちこたえてきたんだか」


立て続けの戦闘で、二人は魔力も体力もかなり削られていた。しかも死の気配に満ちたこの環境では、自然回復はほぼ望めない。


幸い、ようやくバンシーの示す目的地に辿り着いた。


宙に浮かんでいたバンシーが止まり、前方を指した。「あの穴だ。下に同類の気配を感じる……ワイトが数体とスケルトンの群れが、実験室の入口を塞いでいる」


ウェルズが指された方角へ目をやると、荒野に村の残骸があった。腰の高さほどの低い壁がいくつか、屋根の落ちた石造りの家が数軒、折れた歯の列のように並んでいる。村のちょうど真ん中で地面が唐突に陥没し、巨大な穴が口を開けていた。その縁では、全身に腐肉をぶら下げた不死者十数体が、何かを無意識に守るかのように、うつろに徘徊している。


「片付けて道を開くぞ」


ウェルズは無駄口を叩かず、すぐさま「増速致勝」をサンドラにかけた。


いつもながらの完璧な連携だった。


火球術が突破口をこじ開け、サンドラが桃色の稲妻となって斬り込む。三分と経たずに、障害はきれいに一掃された。


二人は斜面を伝って穴の底へ下り、実験室の入口に着いた。


そこには四十五度の角度で地下へ延びる薄暗い隧道があり、入口には、錆の浮いた分厚い合金の鉄扉が嵌め込まれていた。


ウェルズの目は、すぐに鉄扉の周囲に残る痕跡に吸い寄せられた。


「これは……五階の魔法陣の残跡だ」彼はしゃがみ込み、歳月にあらかた侵蝕された複雑な紋様を丹念に読み解いていく。「魔力回路を見るに、高階の『不死駆逐』の結界だな。外の不死者を近づけないためのものだ。これほど精密で独特な手口は、ある人物の手稿でしか見たことがない……どうやら、ここはあの狂人の実験室で間違いないらしい」


「なら何をぐずぐずしてるの?入って、そいつがどんなサプライズを残してったか見てやろうよ」


二人は力を合わせて重い鉄扉を押し開け、隧道へ踏み入った。


まず顔に吹きつけてきたのは、土の生臭さと何かの化学防腐剤が入り混じった、冷たく湿った空気だった。地底へ延びる通路は頑丈なコンクリート造りで、太い鉄筋で補強されており、当時の工事がよほど大がかりだったことがうかがえる。だが長く放置された今では、壁一面に蜘蛛の巣のようなひびが走り、今にも崩れそうだった。


「気をつけろ。中には改造された怪物が残っているかもしれない」バンシーの幽かな声が、がらんとした隧道にこだまする。「私がここに囚われていた頃……あの男が陰影生物の内臓を、ミノタウロスの体内に無理やり縫い込むのを、この目で見た。その怪物は改造後、とてつもない怪力を得て、血に飢えるようになった」


薄暗い通路を奥へ進むと、ほどなくだだっ広い地下の広間に出た。


広間の中央を真っ直ぐな通路が貫き、その両側には大小さまざまな精鋼の鉄檻が、隙間なくずらりと並んでいた。


「ここは素材収容区だ」宙に浮かぶバンシーの眼差しには、深い恐怖がにじんでいた。「この檻にはかつて、あの男が世界中から狩り集めた希少な生物がぎっしりと閉じ込められていた。魂の縫合に選ばれるまで、私も家畜のように、このうちの一つに入れられていた……フェイ、妖精、古の巨人、トロール、果ては珍しい亜竜種までがここにいた。疑う余地もない。あの男がその気になれば、純血の巨竜でさえ捕らえてきて、ここに閉じ込めただろう」


それを聞いたサンドラは、信じられないというように眉をひそめた。


「いくら何でも大げさだよ……亜竜をやすやすと捕まえられて、霊魂の領域でもそこまでの造詣がある大家なら、間違いなく歴史に名を残す聖階の強者のはず。でも私、大陸史はかなり読み込んでるけど、そんな人物に心当たりなんて一人もないよ」


「俺もあいつの素性を調べたことがあるが、何も掴めなかった」ウェルズは険しい面持ちで通路を進み、左右の檻に残る痕跡を見ていく。「あいつは確かに存在した。なのに、歴史からは跡形もなく消されている。まるで……歴史の裏側に潜む幽霊だ。あの狂人が数百年前にどれほどおぞましい陰謀を企てていたのか、分かったものじゃない」


ウェルズは巨大な鉄檻の一つの前で足を止めた。鋼の格子には、深くえぐれた絶望の爪痕が無数に刻まれ、隅にはひどく奇形の白骨がひと山散らばっている。人間の頭蓋に鳥の翼の骨格を備えた、不気味な残骸のようだった。


「とはいえ、ひとまず危険はないだろう。この実験室はどう見ても放棄されて久しい。実験体たちも、おおかた飢えと絶望の中でとうに死んでいるはずだ」


それでも念のため、ウェルズは生命探知の達人に顔を向けた。「周りに生き物か不死者の気配は感じるか?」


「ない。死の静寂ばかりだ」バンシーは首を振った。


収容区を抜けると、通路の突き当たりにまた隔離扉があった。押し開けると、その先で道が二手に分かれていた。


「あいつの拠点がどこも同じ配置だとすれば、左が『生活起居区』、右が『核心実験区』だ。どっちから行く?」ウェルズが訊いた。


「バンシーさんはもう待ちきれないみたいだけど」サンドラは肩をすくめた。「心身の健康のためにも、先に実験区でそいつの研究日誌がないか探そうよ。そのあと生活区で、使えそうな道具を『回収』すればいいし」


ウェルズは頷いて同意し、二人と一体は右側の通路へ向かった。


ところが、数十歩進んで角を曲がったところで、行く手は完全に塞がれていた。大規模な土砂崩れがコンクリートの隧道を押し潰し、通路をびっしりと埋め尽くしていたのだ。


「古くなりすぎて、地層の変動で崩れたらしい」ウェルズは歩み寄って土の壁を叩いてみた。がっちりと固く締まっている。


「爆破魔法でそのまま吹き飛ばせないの?」サンドラが尋ねた。


「危なすぎる。こんな地下の閉鎖空間で迂闊に爆破の法術を使えば、連鎖的な崩落を招きかねない。そうなったら二人とも生き埋めだ」ウェルズはその案を却下した。


「じゃあ君の『次元門』に頼るしかなさそうだね。でも転移するには、目標地点を君が『見て』なきゃいけないんでしょ?」


「おあつらえ向きの『斥候』が、ここにいるじゃないか」ウェルズは虚体のバンシーへ目を向けた。


彼はすばやく呪文を唱え、掌に幽藍の光を放つ魔力の眼球「窺秘の眼」を凝集させた。


バンシーは心得たように眼球を受け取り、分厚い土砂の山を軽やかにすり抜けていった。共有された視界を通じて、ウェルズはほどなく向こう側の様子をはっきりと捉えた。


「ついてたね。障害を越える手段がちょうど全部揃ってて。じゃなきゃ、本当に手ぶらで引き返すところだったよ」サンドラが感嘆した。


着地点を見定めると、ウェルズは三階の空間魔法「次元門」の詠唱に入った。まばゆい白光が傍らに集まり、呪文が完成した瞬間、金色の光で編まれた楕円形の転送門が虚空に浮かび上がった。


二人は肩を並べて光の門をくぐった。次の瞬間、空間が入れ替わり、崩落した隧道の向こう側の実験区に、しっかりと降り立っていた。


そこは数百平方メートルはある、巨大な環状の広間だった。


広間の中央には、直径一メートルを超える奇妙な魔法水晶の柱が十数本そびえ、真正面には身の毛もよだつ金属製の手術台が据えられていた。台上には、とうに黒ずんだ血痕が大きく広がっている。周囲の壁には、構造が複雑で用途の知れない魔法機械が無数に埋め込まれ、当時の狂気を無言のうちに物語っていた。


「魔法使いさん、ちょっと来てよ。これ何なの?私にはさっぱり」サンドラは興味津々といった様子で水晶柱を一本叩いた。鈍い音が反響する。


ウェルズは歩み寄り、鋭い目で水晶の台座に刻まれた煩雑な魔法紋様を見渡した。眉間の皺がどんどん深くなっていく。


「なんて狂った構想だ……」彼は首を振った。その声には畏敬と戦慄がにじんでいる。「かろうじて分かるのは、これらの水晶柱がきわめて高階の魂の容器で、強大な生物の魂を閉じ込めて養うためのものだということくらいだ。周りの機械は、魂を無理やり引き剥がし、切り分け、縫い合わせ直すために設計された道具だ……詳しい資料がなければ、どの部品にまだ回収する価値があるのか、俺にも判断できない」


「じゃあ手分けして探そうよ。手記とか日誌が残ってないか」


そこで二人は分かれて、罪に満ちたこの部屋を隅から隅まで漁り始めた。


残しておいても無駄になるだけだと考えたウェルズは、ついでに力任せに解体を始め、価値のありそうな物を片っ端から持ち去っていった。


あっという間に、彼は高純度の魔力結晶をいくつも無理やり引き抜いて、空間の指輪に放り込んでいた。中には、ある水晶柱の台座からこじり取った永存水晶(えいぞんすいしょう)も一つ混じっている。この実験室で魂を収めるために使われていた代物だ。だが、ひとしきり漁ったところで、彼はふと、背後からずっと注がれていた視線が消えていることに気づいた。


振り返ると、バンシーは広間の奥で宙に止まったまま、破損した巨大な水晶柱をじっと見つめていた。


ウェルズは歩み寄った。水晶柱は中ほどから砕け、台座には光を失った水晶の破片が一面に散らばっている。何か激しい爆発が内側から起きたかのようだった。


「どうした?」少年は小声で尋ねた。


「覚えがある……私はかつて、この水晶柱の中に閉じ込められていた」バンシーは半透明の手を伸ばし、砕けた結晶をそっと撫でた。その声は澄んで、哀しげだった。「あの頃、実験室はまだ動いていた。このガラス越しに外を見ていた。周りの柱には、あらゆる生物の、歪んで泣き叫ぶ魂が詰め込まれていた……」


彼女は苦しげに目を閉じた。「思い出した。あの男は白衣をまとい、いつも狂熱的な笑みを浮かべていた。魂を無理やり引き裂かれ、異物を押し込まれる、死んだほうがましなあの激痛も……それに、よそから来た魂の欠片が縫い合わされるにつれ、わけの分からない力や、私のものではない記憶が、頭の中へ無理やり流れ込んでくる、あの気が狂いそうな感覚も」


「さぞ地獄のような記憶なんだろうな」ウェルズの眼差しがわずかに翳った。


「実験体である以上、生き死にを自分で決めることなどできない。ただ生きているだけで、改造がもたらす精神の侵蝕に全力で抗わなければならない」ウェルズは低く言った。バンシーに聞かせているようでもあり、自分に言い聞かせているようでもあった。「陰影の天賦を植え付けられてから、俺も数えきれない夜、生々しい悪夢にうなされて飛び起きてきた。腹を切り裂かれる夢のこともあれば、一番向き合いたくない過去が頭の中で延々と繰り返されることもある。今でも、この呪いからは完全に抜け出せていない」


「そうか……お前も同じなのだな」バンシーは少年に向き直った。生者への警戒と敵意は解け、その眼差しには、同じ傷を負う者としての共感が宿っていた。


重く沈んだ空気の中、遠くからサンドラの弾んだ声が届いた。


「ウェルズ!ちょっと来て!実験日誌が一冊まるごと残ってた!でも字がミミズののたくったみたいでさ、君、読める?」


少年はすぐさま気持ちを切り替え、足早に向かった。


サンドラが差し出したのは、驚くほど保存状態のいい、分厚い革装の手帳だった。


受け取ったウェルズは、思わず目を見張った。「この手記、丸ごと四階の長期保存魔法が恒定されている。そう簡単には傷まないな」


最初の頁を開き、すばやく目を走らせる。


「古代語の変種だな。幸い、ちょうど習ったことがある」


二人が見守る中、彼は数百年を経てなお昨日書かれたかのように鮮明な、その狂気の字句をゆっくりと読み上げ始めた。「天賦とは、肉体に依存する遺伝子であるのか、それとも魂の深奥に刻まれた烙印であるのか?」


「この真理を求めるため、私はこの偉大なる事業に着手した。私は、異なる種の魂を切り分けて縫合し、複合天賦を持つ究極の生命体を創造することに力を注いでいる!そのために、魂を永久に保存できる『永存水晶』を発明し、大陸全土で最上質の素材の収集を開始した……」


「月の潮汐の人間は煩わしい。私はミノタウロスを一頭買いたかっただけであるのに、まず挑戦を一つ受けねばならなかった。この国において、騎士の決闘は背くことのできぬ聖律であり、あらゆる争いはこれによって裁かれる。敗者は賭けたものすべてを差し出し、命とて例外ではない」


ウェルズは数頁めくった。眉間の皺がいっそう深くなる。


「幽霊の存在は、まことに一つの奇跡である。通常、生物は死後、魂が冥界に吸い込まれて輪廻する。しかるにこれらの不死生物は、執念によって、虚体の魂の形態を長く維持することができる!怨念の魂、バンシー、幽霊……それらの存在の論理を解析した今、霊魂学の奥義は私にとってもはや秘密ではない。今や、言い伝えにある七階の即死魔法『死の指《フィンガー・オブ・デス》』を放つことさえ、私には造作もないことである」


「……成功した!!フェイの魂の欠片を一体の人間の実験体に縫い込んだところ、彼女は比類なき幻術の天賦を示した!料理人の魂を一頭のトロールの体内に縫い込んだところ、あの愚鈍な獣は、誰に教わるでもなく精緻な宮廷料理を会得したのである!もっとも、それは数日後に認知の崩壊によって発狂し、自爆したが。構わぬ!次の段階では、六階以上の伝説の魂を土台として探し求め、いったいどれほど完璧な怪物を創造できるかを確かめることとする!」


手記を半ばまで読んだところで、部屋は死んだような静寂に包まれた。


見聞の広いサンドラも、幽霊であるバンシーも、目に浮かぶ極度の驚愕を隠しきれずにいた。


「こいつ、正真正銘の狂人だよ!ただの人間の身で、神々の領分である『霊魂の領域』に平然と手を出して冒瀆して、しかも本当にやってのけたなんて!あのさらっと書かれた文字の裏に、どれだけ非道な人体実験が隠れてるわけ?」サンドラの声は震えていた。


「人間の魂を怪物と無理やり縫い合わせるなんて……」彼女は吐き気を覚えた。「それにあの『死の指』、世に知れた七階魔法だよ!七階以下の生き物なら指されただけで灰も残らないのに、それを造作もないって?」


「そんなことはどうでもいい!後ろに私の記録がないか、早く見てくれ!」バンシーは食い入るように急かした。その目は渇望に満ちている。


ウェルズは前半の理論部分をすばやく飛ばし、後半の分厚い実験体記録に行き着いた。


「一号実験体……農村の少女、拒絶反応、死亡。二号……死亡。三号……」


指がすばやく紙面を滑り、やがて血の跡にまみれた一枚で止まった。


「あった!『第六十四号実験体:月の潮汐が……によって崩壊した後……その膨大な怨念によって形成された、変異したバンシー』」


「何によって崩壊したのだ!?」バンシーは慌てて問い詰めた。


「書かれていない」ウェルズは残念そうに、途切れ途切れの文字を指さした。「書きかけのままだ」


それでも彼は、行間から肝心な情報を読み取っていた。


「お前の魂の土台はとんでもない……日誌にはこうある。『これはきわめて価値の高い、六階のサンプルの魂の断片である!完全ではないが、そこに宿る強烈な怨念によって、自ずから五階の上級バンシーとなった。彼女は私のこの実験室における最も麗しい至宝であり、私が最も誇りとする完璧な成功体でもある……莫大な収益に比べれば取るに足らぬ、精神錯乱という副作用にさえ目をつぶれば』」


「君と同じ、ってわけ?」サンドラがウェルズを見た。


「ああ。俺たちはどちらも、あいつの自信作というわけだ」ウェルズは口の端に自嘲めいた冷笑を浮かべた。


それによってウェルズは常人離れした最高級の陰影魔法の天賦を得た。一方このバンシーは、幽霊の身でありながら、近接格闘術や空間魔法といったきわめて珍しい能力を、信じがたいことにその身に融け合わせていたのだ。


「でも、最大の穴が一つある」サンドラは鋭く問題の核心を突いた。


「月の潮汐って古い国が滅んだのは、少なくとも何百年も前でしょ?」彼女はウェルズを見た。「人間がそんなに長く生きられるもの?」


「あり得ない。聖域に足を踏み入れた七階の魔法使いでも、人間なら延命の手を尽くしたところで、せいぜい三百歳が限界だ」ウェルズも深く首をひねった。「自分を不老不死の不死者に変えたなら話は別だがな。だが俺の記憶では……俺を苛んだあの実験室にいたあの野郎は、間違いなく血の通った生身の人間だった!それどころか、聖光に決して拒まれることのない気配さえまとっていた」


「つまり今のところ確かなのは一つだけ——バンシーさんの誕生が、『月の潮汐』の滅亡と直接関わってるってことだね」


「それはそうと」ウェルズは手帳を閉じてバンシーを見た。「目覚めたあと、なんでわざわざ長城を越えてまで、罪のない町の人たちを襲おうとしたんだ?」


「目覚めるまで、私はこの水晶の中に封印されていたはずだ」彼女は砕けた水晶柱を指さした。


バンシーはその水晶柱を見つめ、戸惑うように続けた。「覚えているのは、長い封印から目覚めてこの水晶を破った時、頭の中にひどく狂った考えが一つだけあったことだ。『生きているものをすべて滅ぼせ』。私はプログラムを組み込まれた操り人形のように、本能のまま、長城の外の生者の集落を目指した」


答えを得ると、ウェルズは目を閉じ、もう一度窺秘の眼で広間全体の魔力の波動を見渡した。


「ここにはもう、価値のある手がかりは残っていない。究極の秘密はどれも、月の潮汐の最深部に葬られているらしい。行くぞ」


実験区を後にすると、ウェルズは再び同じ要領で、次元門で二人と一体を崩落した土砂の向こうへ運び、左側の通路の突き当たりへやって来た。


目の前に現れたのは、奇妙な紋様が彫り込まれた、贅を尽くしたクラシックなローズウッドの両開き扉だった。


ウェルズは扉をそっと押し開けた。


扉の向こうの光景に、見聞の広い二人も思わず立ち尽くした。


そこは広々とした、隅々まで趣向を凝らした個人の住空間だった。最高級のビロードのソファ、装丁の美しい古書が並ぶ書き物机、独立した豪華な浴室、そして洒落たバーカウンター。カウンターの上には栓の開いた最高級のシャンパンまで置かれていて、なんといまだに、しゅわしゅわと細かな泡が立ち上っていた。


衣装棚は半開きで、仕立てのよい紳士用の礼服と婦人用のロングドレスが数着、きちんと掛けられていた。生地はつい昨日アイロンをかけたばかりのように真新しい。


「これ……まるで主が出ていってまだ五分も経ってないみたいじゃない……」サンドラは、外の荒れ果てた世界とはまるでそぐわない豪奢な部屋を、信じられない思いで見回した。


「聖階魔法、時空凍結だ」ウェルズは深く息を吸い、複雑そうに言った。「密閉空間の時間の流れを完全に止める。誰かがこの扉を開けて、時間の凝滞を破るまでな。あのいかれた野郎は、戦局すら覆せる最高峰の魔法を、部屋を清潔に保つのとシャンパンの鮮度を守るのに使ってたってわけだ」


罠がないことを確かめると、ウェルズはまっすぐ書き物机へ向かい、何より楽しみにしていた「漁りの時間」に取りかかった。


一方サンドラは、遠慮のかけらもなくバーカウンターへ歩み寄り、シャンパンを手に取った。「何百年も前の年代物?これは無駄にできないね」


そして瓶に直接口をつけ、豪快に一口あおった。芳醇な香りの酒が喉を滑り落ち、地下の隧道で溜め込んだ冷えと疲れを一気に吹き飛ばして、胸の内をすっと晴れやかにした。


「あったぞ!」


書き物机のほうから、ウェルズの抑えきれない狂喜の声が上がった。彼は鍵付きの引き出しの隠し仕切りから、洒落たビロードの指輪箱を一つと、淡い金色に光る羊皮紙の巻物を二枚、恭しく取り出した。


これは紛れもない望外の掘り出し物だった!聖階の強者が残した道具なら、たとえお払い箱の「二級品」でも、彼らのような普通の冒険者にとっては値の付けようのない宝だ。


「どんないい物が出てきたの?」サンドラが身を寄せてきた。


ウェルズが指輪箱を開けると、窺秘の眼の視界の中で、深い藍色の宝石をあしらった銀の指輪が、実体を帯びたかのような眩い魔法の霊光を一気に迸らせた!


「これは……六階の法術増幅の指輪だ!」ウェルズの声は興奮で震えていた。「魔力回路には何度も使い込まれた摩耗の跡があるが、それでも膨大な魔力の蓄えが残っている。あらゆる術者が夢に見る神器だぞ!」


彼はためらうことなく、その値の付けようもない指輪を右手の人差し指に嵌めた。


続いて金色に輝く二枚の巻物を手に取り、記された符文を読み取った瞬間、彼は完全に息を呑んだ。


「これは五階の条件触発術(コンティンジェンシー)の巻物か?」彼は呟いたが、すぐに激しく首を振った。「いや……違う!聖階級の長効触発術だ!持続時間がまる一か月もある!もう通常の魔法の枠を完全に超えている。魔法の巓峰だ!」


「条件触発術?……騎士団の秘典で見た気がする」サンドラは目を丸くした。「それって、戦闘魔法使いが誰しも全財産をはたいてでも欲しがる、命を守る究極の切り札じゃない!一枚あれば、帝国の男爵領を丸ごと一つ買えるよ!」


戦闘は常に一刻を争う。あらかじめ分かっている戦いなら、事前に魔法で自身を強化しておける。だが不意の遭遇戦となれば、貴重な時間をたっぷり費やして詠唱するほかない。


条件触発術はこの問題を完璧に解決した。準備済みの魔法を、特定の条件に結び付けておけるのだ。たとえば、致命的な高温にさらされたら自動で火炎エネルギー防護が発動するよう設定する。あるいは能動的な条件として、人差し指の関節を三度続けて叩けば、即座に戦法転換が発動するようにしておく、といった具合である。


希少な上古の法術として今なおあらゆる魔法使いが血眼で求める代物であり、それをよく知るウェルズは、すぐさま巻物をしまい込んだ。


「惜しいな。聖階魔法じゃ、今の俺の造詣ではとても習得できない」


ウェルズは己の力不足を嘆いたが、無理もない話だった。


肝の冷える実験室探索を終えた頃には、外はとうに夜になっていた。


「今夜はここで野営しよう。こんなに環境がいいんだ。ゾンビだらけの外の荒れ地で寝るよりずっとましだろう」ウェルズは清潔で柔らかな絨毯を見ながら言った。


「ここで寝るの?もしそいつがいきなり帰ってきたらどうするの?それこそ袋の鼠じゃない」サンドラは少し気味悪そうにした。幼い頃、浮浪児として野犬やごろつきにいつ襲われるかと怯え続けていた、あの恐怖がよみがえったのだ。


何しろ聖階の強者の前では、彼女など非力な鶏同然だ。適当な聖階魔法一つで巨竜に化身するだけで、都市一つを地図から消し去れるのだから。


「安心しろ。ここは何百年も放置されてるんだ。よりによって今日帰ってくるなんて偶然、あるわけないだろう」ウェルズは平然としたもので、冗談めかしてこう付け加えた。「百歩譲って、聖階が本気で俺たちを殺す気なら、地の果てまで逃げても占卜術一つで引きずり出される。それに、もし本当に来たら……案外、穏やかに昔話でもできるかもしれないぞ。手記を読む限り、あいつは成功作のこの俺に、かなり満足しているようだからな」


肝の据わりきったウェルズの泰然とした態度に、サンドラもそれ以上反対する気が失せた。こうして二人は、この豪奢な居間で亡霊の荒野での最初の夜を過ごすことにした。


休息でまず大事なのは、もちろん腹を満たすことだ。


ウェルズが傍らで座禅を組んで瞑想し、魔力を回復させている間に、サンドラは夕食の支度に取りかかった。持参した干し肉と香辛料に、戸棚で魔法によって完璧に保存されていた最高級の麺を合わせ、居間に付いた小洒落た台所で調理を始める。


「聖階の魔法使いが、二階の造餐術も四階の珍奇佳肴も面倒くさがって使わないわけ?居間にわざわざ本物の台所まで作っちゃってさ」サンドラは肉を切りながらぼやいた。


「あの野郎に言わせれば、これが暮らしの趣ってやつだ。何でも魔法で片付けていたら人生は味気ない、とな」ウェルズは目を閉じたまま答えた。「もっとも、この部屋自体、高階の『豪邸術《マグニフィセント・マンション》』で地下に拡張した代物だがな」


「料理は趣で、素手のコンクリート打ちは違うってわけね」


サンドラは呆れて目をぐるりと回した。


ほどなくして、湯気の立つ干し肉の和え麺が胡桃材の書き物机に並んだ。


ウェルズはフォークを取り、何口か食べてみた。味はまずまずといったところだ。何しろ無い袖は振れない。行軍用の携行食で絶品をこしらえるなど、そうそうできることではなかった。


「今日は聖階だの伝説魔法だのの秘密を、君から一気にこんなに聞かされて、私の知識、うちの煉獄騎士団の団長に追いつきそうな気がするよ」サンドラは両手で頬杖をつき、しみじみと言った。


何しろ世間では、六階の巓峰に達した騎士団長でなければ、聖階の領域に関するわずかな記述すら閲覧を許されないのだ。


「君があいつのことをそんなに知ってるのも、正直驚きだよ。あいつ、君を警戒してなかったの?」少女が訊いた。


「正直、あいつは俺のことなんて眼中になかったんだろう。あいつから見れば、俺なんて鼠と同じくらい無力に見えていたはずだからな」


「人が捨てた空き家に勝手に潜り込んで食べ物を漁って、そのままごろんと寝る……今の私たち、確かに鼠そっくりだね」サンドラはぽつりとこぼした。


「俺たちが小さい頃、貧民街でそうしていたみたいにな」少年は小さく笑った。吹っ切れたような自嘲がにじんでいた。


他愛ない話が尽きると、疲れが潮のように押し寄せてきた。そろそろ休む時間だ。


部屋は豪華だったが、あいにく寝台はなかった——聖階に達した魔法使いには、通常の睡眠などとうに必要ないからだ。


そこで二人は、値の付けようもない絹の絨毯の上に寝袋を広げるしかなかった。ランタンの灯りを絞ると、かすかな魔法の光の暈に包まれながら、かつて狂気と血に満ちていたこの地下遺跡で、二人は深い眠りに落ちていった。

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