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空間魔導書と少年魔法使い  作者: atu78963254
ライカベサ編
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第八章 血ダイヤ

「何をやってるんだ?フリーデ、巻物を書けと言わなかったか?なぜ街をうろついている?」


フリーデからの連絡を受け、ウェルズは待ち合わせの場所へやって来た。人気のない城壁の外れで、交通の便が悪く、普段はほとんど人の来ない場所だ。


フリーデの傍らに浮浪児がいるのを見るなり、ウェルズは舌打ちした。冷ややかな視線をひと巡りさせただけで、事の次第はすぐに察しがついた。


「そいつから離れろ、ガキ。お前、そいつに何を企んでる?」


敵意のこもったウェルズの眼差しを向けられ、子供は少し怯えた様子で、さっとフリーデの背後に隠れた。


「実は……彼はドミニクっていうの。あなたが捕まえようとしているあの魔法使いの顔を見たことがあって、その魔法使いがある高官から物資をまとめて注文して、運び込んだあと、どこかの地下倉庫に隠したのを知っているそうなの。その地下倉庫には、ここの下水道からこっそり忍び込めるんですって」


その話にウェルズは一瞬あっけに取られたが、すぐに事情を呑み込み、何度か鼻で笑った。「その手の情報は大抵嘘だ。下水道に入ったところで、全身に悪臭が染みつくだけで何の得もない」


「いいえ……今回だけは、どうか一度だけ信じて」銀髪の少女はいつものように、揺るぎない真っ直ぐな表情を浮かべた。


彼女のあまりの頑なさに、ウェルズは溜息をついた。


「一度痛い目を見ないと分からないらしいな。今日は暇だから、一度くらい人生の無駄遣いに付き合ってやる」


ウェルズは、長いスカートの後ろに隠れて顔を半分だけ覗かせている子供を見据えた。


「何を待っている。さっさと動け」


フリーデが下水道の蓋をどけ、元どおり閉めると、一行は下水道の中に降り立った。淀んだ空気が充満していたが、それを見越していたウェルズは、すでに維生気泡を二つ発動していた。使うのは、もちろん彼自身とドミニクの二人である。


ウェルズが無造作に手をかざし、暗視(ダークヴィジョン)を瞬時に二人へ掛けた。暗闇の中で黒と灰と白の世界がはっきり見えるのは初めてで、ドミニクは物珍しそうにしていた。


ウェルズは前を歩く彼女に目をやり、冷ややかに言い放った。


「小娘、嘘だったら下水道に沈めてやる。今のうちなら前言を撤回する機会をやるぞ」


「ほ……本当だよ!」彼女は少し怯えたように答えた。


「小娘……?この子、女の子なの?」そこで初めてそれに気づいたフリーデが、怪訝そうに尋ねた。


「うん……ぼく、女だよ」ドミニクは小さく呟いた。短く切ったざんばらの髪では、確かに男の子か女の子か見分けがつかない。


てっきり男の子だと思い込んでいたフリーデは驚き、ウェルズのほうを向いて尋ねた。「どうやって見分けたの?」


「普通の人間には分からなくて当然だ。だがお前が男だろうが女だろうが、人だろうが幽霊だろうが、俺が黒焦げにしてやることに変わりはない。前言を撤回するなら、嘘がばれる前にしておけ」


ウェルズは無造作に雷電戯法を放ち、手の中で電光を躍らせながら、冷笑まじりに脅した。電光を目にしたドミニクは飛び上がった。驚きと恐怖がありありと見て取れる。


「脅かさないで。ただの戯法よ、殺傷力なんてないから」フリーデは怯えるドミニクをなだめた。「先へ進みましょう」


「うん、ぼくは絶対に誰も騙してない……」ドミニクは勇気を振り絞って言い、それからばつが悪そうに付け加えた。「少なくとも今回は、絶対に二人を騙してないってば!」


「あの時ぼくは道端で物乞いしてて、疲れてうとうとしてたんだ。もちろん油断はしてなかったよ。爆発の音がして、慌てて顔を上げて何事かと見たら、ちょうどあの男が目の前を走り抜けてったんだ!顔を見てすぐ思い出したよ。『老狼』に頼んで、ぼくたちを荷物運びに雇わせたのはあいつだって。老狼っていうのは窮蛆街を仕切ってる一番の顔役なんだ!」


ウェルズは聞き終えても、肯定も否定もしなかった。「多少は真実味のある話だ。あいにく、その程度なら俺にも作れるがな」


「嘘じゃないって証明してみせる!もし嘘だったら、一生マカロンが食べられなくてもいい!」彼女は大真面目に「呪いの誓い」を立てた。もっとも彼女の貧しさでは、マカロンを口にする前に餓死するのが関の山で、そもそも誓いを破れる立場にすらないのだが。


「出荷した倉庫でも見つけたんだ。石壁の紋章はきれいに削ってあったけど、隅っこに削り残しがあったんだよ!誰の紋章かは分からないけど……」


「ぼくたちが選ばれたのも、秘密を守るためだと思う。どうせぼくたちは街のクズだもん。しばらくすれば自然とひと群れいなくなるし、天災や人災が起きればまた新しいひと群れが増えるんだから!」


「まだ通ったことはないけど、地下室の中で下水道に通じる隠し扉を見たし、水の流れる音も聞いた。絶対にここで間違いないよ!」


ドミニクは自分の信憑性を高めようと、くどくどと喋り続けた。


危険があり得ることなど、ウェルズは意に介していなかった。いざというときに転移できるよう、咫尺の書の瞬発次元門を常に構えていたからだ。


下水道を十分近く進んだところで、ウェルズは足を止めた。


「絶対に騙してないよ、信じて!」足を止めたウェルズを見て、下水道に沈められるのではと思ったドミニクは、半泣きになって慌てた。


「気づいたか?罠探知まで仕掛けてあるとはな」魔力感応線を目にしたウェルズは、フリーデに小声で言った。「意外だな。本当かもしれん」


「ガキ、もう帰れ。ここから先は俺たちだけで行く。このことは誰にも言うなよ、命が惜しければな」ウェルズはあっさりと懐から金券を一枚取り出し、微風戯法でドミニクの手のひらに送り届けた。


フリーデは少し意外に思った。ウェルズが気前よく公正な人間で、自分本位ではないとは思ってもみなかったのだ。


だが金を受け取っても、彼女は立ち去ろうとしなかった。


「まだ行かないのか?金を持ちすぎると、お前にはろくなことにならないぞ」ウェルズは淡々と言った。


「その……ぼく一人じゃ、蓋を動かせなくて……」彼女はおずおずと言った。


「……」


すっかり失念していたウェルズは、手早く三階魔法「力量増幅」を発動した。


「力を強化してやった。効果は一時間だ。妙な異能でも手に入れた気になって、そこらで威張り散らすなよ」


淡い黄色の光に包まれて魔法の強化を受けると、ドミニクは体がこの上なく軽くなったのを感じ、物珍しそうにぴょんぴょんと跳ねてみた。


その後、彼女は進む方向とは逆へ引き返して去っていった。この金券が一枚あれば、二か月は路上で飢え死にせずに済むだろう。


詠唱ののち、三階魔法窺秘の眼(アーケイン・アイ)を開くと、前方に張り巡らされた罠がウェルズの目にはっきりと映った。魔力の触発線が幾筋も、蜘蛛の糸のように下水道いっぱいに張り巡らされ、人が通り抜けられる隙間などどこにもないように見えた。


「一つずつ解除して進むのは面倒すぎる。よくもまあ、これだけの罠を仕掛ける気力があったもんだ」


ウェルズは罠を仕掛けた者の偏執ぶりに嘆息した。


「こんな密度で罠を仕掛ける人間は、狂った人類自浄会のほかに思い当たらん」


彼はあっさりと咫尺の書で逸散処理を施した次元門を発動し、魔力の逸散で注意を引くことなく、罠に囲まれた中央へと直接跳んだ。そこには木の扉が一枚あった。


「右側の罠探知は仕掛けられてから時間が経ってるけど、左側の罠探知は比較的新しいわね」同じく中央へ転移したフリーデはすぐに周囲を観察し、法術の構造からそう読み取った。


「左側から誰かが荷を運び出したようだな……この方角は、城を出た先の……山地か?また自浄会の連中か?」低く呟くと、ウェルズは一階魔法「念動の手(メイジ・ハンド)」で念動力を機械錠の内部に差し込み、そのまま錠を開けた。


目の前に現れたのは、地下室のような小さな倉庫だった。長さはおよそ十数メートル、幅は数メートルで、二十余りの箱が置かれている。視線の先には、堅く施錠された地下室の出口へ通じる階段があった。


足元に目を落とすと、一歩先に罠があった。作動すれば少なくとも三枚の火球術の巻物が発動し、この地下室もろとも、よからぬ侵入者を爆発で空高く吹き飛ばすには十分だった。


「やはり扉の裏に罠を仕掛けるのが好きらしい」


ウェルズは再び咫尺の書で空間門を発動した。一日に五回しか使えない書頁を、早くも二回使ってしまった。もっとも帰りは一回で済む。すでに方位は確認してあるからだ。


彼とフリーデは歩み寄って箱の中身を確かめた。増幅した窺秘の眼で中を直接透視すると、視界に映ったのは、なんと暗闇の中でほのかに光る赤い宝石だった。


「血ダイヤ……」ウェルズは小さく舌打ちした。「軍用管制の禁制品だぞ。高性能爆薬と同じ等級だ」


血ダイヤは、複数の国が連名で市場での公然とした取引を禁じている。この宝石が、さまざまな悪辣な魔法に使えるからだ。多くの場面で、人間の鮮血や肉体の代わりに生贄や儀式の供物として用いることができ、そこには当然、悪魔召喚も含まれる。


「こんなにたくさんの血ダイヤが……」フリーデは低く呟いた。


「こんな物を必要とするのは、人類自浄会の連中のほかに思い当たらん」


ウェルズは目を閉じて考え込んだ。頭の中で手がかりが繋がっていく気がした。先日の落盤事故は、血ダイヤの違法採掘を隠すための口封じであり、その血ダイヤは人類自浄会の連中に引き渡されることになっていたのだ。


だがこれだけの情報では、まだ切り札として切るには足りない。彼の狙いは、相手を破滅させて名を地に落とし、苦しみの中で死なせることなのだ。


「これで、あの悪魔を片付ける理由がまた一つ増えた」


さらにフリーデと残りの品を調べたが、中身はどれも同じだった。


「今すぐこの血ダイヤを壊すの?」フリーデが小声で尋ねた。


「壊す?」ウェルズは静かに笑った。「いや、まだ俺たちが表に出る時じゃない。連中の手にあっても、この血ダイヤは当面害にはならん。むしろ、こいつを使って連中の根拠地を突き止め、一気に根絶やしにするんだ」


彼が念じると、咫尺の書はすっと、軽く開いた手のひらに落ちてきた。機械のように精密なその手が古雅な書頁を優しく撫で、次の瞬間、ぐっと力を込めて引き裂いた。


布を裂くような音がした。非凡な魔導書だけあって、その書頁もただの紙とは違う。引き裂かれた書頁は霊性を帯びた光の粒を漂わせており、本体から離れてもなお優れた魔法媒体だった。ウェルズは書頁を手に素早く呪法を施して封印し、その魔力が注意を引かないようにした。


封印を終えると、彼は手近な箱を一つ開け、魔導書の頁をひょいと放り込んで蓋を閉めた。


「宗教狂いと邪教徒の出会いか。まさに天が定めたお似合いの組み合わせだな」


「どんな火花を散らすことやら」


ウェルズはついてもいない埃を両手から軽く払うと、次元門を使い、颯爽とこの場を後にした。

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