第九章 教士
「ライカベサは本当に賑やかな街ですね……!ここの名物はマカロンだそうで、一つ食べてみたいなあ!」
質素な修道服に身を包んだ栗色の髪の少年が、物珍しそうに辺りを見回している。生まれ故郷の聖城と比べれば、大陸中央の貿易都市であるライカベサは見るからに活気に満ち、各国の商人や旅人がひっきりなしに行き交っていた。
教会の精鋭部隊の一員でありながら、少年は他国への好奇心を失っていなかった。教会の修道士は通常、任務がない限り駐在地を離れられない。今回は咫尺の書を盗んだ盗人を追う任務を受けたからこそ、商人としてライカベサに入ることができたのだ。
「最近とりわけ賑やかなのには、理由があるようだ」一行を率いる、顔に皺の刻まれた中年の男が、街を眺めながら何かを思い出したように言った。「そうだ、近頃は共和国の大統領選挙だったな」
「大統領選挙って何ですか?指導者を選ぶんですよね。主の普世の羊の群れみたいに、教皇を選ぶためのものなんですか?」
「……」中年の男は一瞬言葉に詰まり、どこから説明したものかと溜息をついた。「大差はない。そう理解しておけ」
市井の喧騒に耳を傾けつつ少年の隣を歩いていた赤い髪の少女が、静かに目を閉じ、低く呟いた。「七百年前、この地もまた我が主の翼の下にあった。それが今や堕落を性とするとは、嘆かわしい」
「ええ?これが堕落なの?賑やかでなかなかいいと思うけど!」いかにも楽天家らしい少年が、首をかしげた。
「もうよい、ジョージ。アリスが清心戒律を立てて、世俗の享楽から遠ざからねばならんことは、お前も知っているだろう」言い争いになりかけた二人を見て、中年の男は慌てて場を取りなした。
「はい」少年は応じると口をつぐんだ。「でも本当に気になるんです!教長、聖アトランテ共和国のこと、もっと教えてもらえませんか?」
「詳しいことは教廷に戻ってから自分で古籍を調べろ。私が知っているのはわずかな常識だけだ」中年の男は数度咳払いをした。「例えばアトランテという人物は伝説の魔法使いアレクシオスの弟子の一人で、瀆聖の戦いの後に共和国の護国公に推挙された……」
「そのような異端の邪説は不快です。教長、あなたの忠誠が信ずるに足るものか、疑わずにはいられません」少女に冷ややかな視線を向けられ、男は気まずそうに口を閉ざした。
その空気を破ったのは、場の雰囲気などまるで意に介さない少年だった。手に握ったガラス玉に目を落とし、驚いたように声を上げる。
「おや……私の指珠が動きました」
「あなたもです。多くを知る者は真を知る者に及ばず、万事は神言に従えばよいのです。余計なものはただ惑いを増やすだけ」アリスは反射的にたしなめた。
だが、今回ばかりはいつもと事情が違った。少年の言葉の意味が遅れて呑み込めると、彼女ははっとして、自らも懐から片手で握れるほどの大きなガラス玉を取り出す。中で揺れ動く指針を見つめ、彼女も頷いた。「私の指針も動いています」
尋物指珠は教廷の予言系神術の品であり、ひとたび指し示したなら、これまで一度たりとも外れたことはない。
「直ちに進むぞ。かの品を必ず取り戻さねばならん」中年の男は二人を見やり、厳しい口調で告げた。
「心得ておけ。教皇の戦果が盗まれたのだ。これは断じて許されぬことで、すでに教廷の面目と声望に関わっている。我々は必ずこの品を取り戻し、咫尺の書を盗んだ盗人を捕らえ、その者がいかにして咫尺の書を盗み出したかを拷問で吐かせ、内通者の手引きがあったか否かを確かめねばならん」
「万般の苦難は皆、我が主の試練なり」少年と少女は軽く頭を垂れて唱和した。
それから数日は、何事もなく過ぎた。
「今日は実に絶好の日だ」山道を歩きながら、ウェルズが小さく独りごちた。
傍らに従うフリーデは、ただ辺りを見回していた。華麗な銀白のドレスをまとい、しなやかで艶やかな曲線があらわになっている。マントは首の前で留められ、ボタンは豊かな胸元を横切って身体に密着したコルセットに掛かり、騎士の凛々しさと可憐な華やかさ、高潔な神聖さを程よく結び合わせていた。長い軍靴は地を踏みしめながらも、俗世の土にいささかも汚れることがない。
「あの連中が、俺の必要とする物を出してくれるといいんだがな」
十数分ほど歩いたところで、ウェルズは顔を上げ、木々の隙間から前方の峰を見やった。草木もない禿げたその峰の中央には、とうに打ち捨てられた古い要塞が建っている。
「こっちだ」
峰の麓に着いても、ウェルズは苔むした石段を急いで登ろうとはせず、フリーデを連れて峰の縁に沿って歩いた。背後に残る足跡は、彼が歩を進めるたび、ひとりでに消えていく。
「どこへ向かうの?」フリーデが尋ねた。
「正面から堂々と入るのは、命が惜しくない奴のすることだ。俺には隠し通路の図面がある。正面の弾除けは教廷の連中にやらせておけばいい」ウェルズは事もなげに笑った。
さらに数分歩いたところで、ウェルズは峰の縁に洞窟を見つけた。平らな地面にはかつて川が流れていた跡が残るばかりで、今は涸れる時期なのか、水の流れはない。洞窟に入ると、すぐ奥に古びた鉄の扉が見つかった。
ウェルズとフリーデが石段を離れて数分後、新たな三人連れがこの石段の前にやって来た。修道服姿の彼らは、先日とは少し様子が違う。それぞれ手に異なる武器を携えているのだ。
「誰か来たみたいですね?」少年ジョージは鼻をひくつかせ、不思議そうに左右を見回し、地面にまで目をやったが、何の痕跡も見つけられなかった。
木の棒を地面の砂土に突き立て、先頭の中年の男は懐から尋物指珠を取り出した。
「指珠によれば、目標の反応はこの古城の中だ。このまま進むぞ」確かめると、中年の男は二人にそう告げた。
「このまま堂々と入っていくんですか?この征途、あまりに王道すぎませんか?」少年が突っ込みを入れた。
「もっと良い方法があるなら言ってみなさい」傍らのアリスが遠慮なく問い返した。
「ええと、今は秘密の出入り口を探して潜入すべきなんじゃ?」少年は片手を腰に当て、腑に落ちない様子で頭を掻いた。
「我が主曰く、万難を排して得た果実こそ最も甘し」少女は半ば目を閉じ、経文を朗誦した。
「我が主はこうも言われました。険しい回り道を行く者は誤っている、正しき道へ引き戻せ、と」
ジョージの反論を聞いて、杖を手にした赤髪の少女はわずかに眉をひそめた。「前の句と合わせれば、経典の言う回り道と険しさとは罪へ向かう者を指しているのであって、今の状況には当てはまりません」
「今みたいに堂々と攻め込むのに当てはめても問題ないと思うけど。どっちも大概愚かだし」彼は肩をすくめた。「我が主は言われました。我が言を聞くなら、愚かに復唱するな、一句ごとに考え抜き、一字ごとに内なる意味を感じ取れ、と」
「もうよい。今はお前たちに神学論争をさせている時ではない」教士は溜息をつき、最終的な指示を下した。「咫尺の書を盗んだ盗人がなぜこの地にいるのかは分からんが、その者が現れた以上、我々は全力でこれを捕らえねばならん。戒律に従い、今より作戦を開始する」
言い終えると、彼は簡単に神言を詠唱し、一行に祝福を降ろした。
続いて、再び木の棒を手にした中年の男が石段を頂上の古城の入口へと駆け上がり、少年と少女もすぐ後に続いた。道中で作動しかねない罠などお構いなしで、氷の矢や火の網が襲いかかっても、三人の足はまったく止まらない。
当然、それは古城の内部にも伝わった。古城の奥で、端座していた数名の黒衣の者が立ち上がる。
「侵入者か?」
広く古びた、埃の積もったその部屋には、人間以外のものもいた。
見つめられただけで肝が冷えるような視線。異種の生き物が餌に向ける眼差しだ。黄色く澄んだ縦長の瞳に、青く不気味な巨躯。巨大な悪魔は床にそびえ立ち、鳥の爪のような腕で目の前の血ダイヤを一掴みすると、口に放り込んで呑み下した。
「矮小な人間どもが、徒労にも無駄な抵抗をしおる」
「虔信者よ、侵入者を消し去れ。そして侵入者の口から、どこで情報を知ったのか拷問で吐かせろ」
命を受けた黒衣の者たちは直ちに動き出した。彼らが去ると、広い部屋にはわずか数人が残るのみとなり、死の気配はいっそう濃くなった。悪魔がいるせいで、恐ろしいほどの圧迫感すら漂っている。
「誰が我々の計画を乱そうというのだ」部屋の中央にいる魔法使いが、低く呟いた。




