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空間魔導書と少年魔法使い  作者: atu78963254
月の潮汐の深奥へ編
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第三章 実験体

「実験体?それって、君が後天的な陰影の血脈を手に入れた、あの原因のこと?」


ウェルズはわずかに頷き、サンドラの推測を認めた。


「そうだ。あいつは霊魂実験の対象にされていたんじゃないかと睨んでいる」


「霊魂実験?」その言葉を聞くなり、神学院の天才であり霊魂学にも多少通じているジョージは、すぐさま霊魂探知を放った。


ジョージの瞳の奥に淡い霊光が灯る。だが次の瞬間、その端正な顔から一気に血の気が引いた。激しい衝撃に、思わず息を呑む。


「これは……信じがたい。あまりにも残酷すぎます」ジョージの声はかすかに震えていた。「霊魂視覚で見ると、彼女の魂は一つの完全な個体などではありません。十数個の砕けた魂を、無理やり縫い合わせたものなんです!どの魂の縁にも引き裂かれた痕が残っていて、まるで無数の苦痛の叫びをこね固めた憎悪の塊のようで……いったいどれほど狂った人間なら、こんな真似ができるんですか?」


この知らせにも、ウェルズは当然少しも驚かなかった。その動じない態度に、ジョージは興味を引かれた。


「心当たりがある。あいつがこうなったのは、それが原因かもしれない」少年はジョージを見た。「とにかく、まずはこのバンシーを鎮めてくれ。せめて魂を安定させて、人格のどれか一つに主導権を取り戻させるんだ」


「お任せください」


ジョージは敬虔に詠唱し、四階神術の安定心神と霊魂鞏固を放った。


柔らかな金色の微光が細雨のように降り注ぐと、目まぐるしく切り替わっていたバンシーの重なり合う幻影が、一つに定まった。神術の加護を受け、もはや複数の人格がせめぎ合って姿を変えることはない。今度現れたのは戦闘状態のゴシックの少女ではなく、ぼろぼろの魔法使いのローブをまとった少女だった。


正気に戻った彼女は、茫然と一同を見つめた。もう襲いかかるつもりはないらしい。


そこでウェルズは一歩進み出て問いかけた。「お前は誰だ?なぜバンシーになった?」


「すみません……長い責め苦のせいで、たくさんのことを忘れてしまいました。名前さえも。覚えているのは、かつて空間魔法を使う三階魔法使いだったことくらいです。バンシーに変えられてから、頭の中にはどうしても消えない心残りが一つあるだけなんです。この近くに住む家族を見つけて、私はもう死んだと伝えて、これ以上心配しないでほしいと言いたい。そうすれば、思い残すことなく安らかに眠れます」


バンシーは茫然と答えた。忘れたことがあまりに多いせいか、どこかぼんやりとして、表情も虚ろだった。


「ええ、任せてください。ご家族を探すお手伝いをします。家がどこにあるか分かりますか?」ジョージは二つ返事で引き受けた。真剣で、優しい眼差しだった。


「少しだけ、覚えがあります」


ウェルズのほうは鋭く要点を掴んでいた。「あいつがいくつもの能力を持っている理由が分かったな。魂を縫い合わせることで、他人の天賦を取り込んだんだ。魔法使いだけじゃない、武闘家のものまであるかもしれない」


「五階魔法の戦法転換は、五階魔法使いでなければ使えない能力だよ。そんな相手を殺して魂まで奪えるなんて、その実験者はどれだけ強いんだろう」サンドラは眉をきつく寄せた。その裏に潜む恐ろしさに、すぐ思い至ったのだ。


「あの野郎なら、六階でも相手にならないだろうな」


ウェルズの目つきが暗くなった。今でも覚えている。あの忌々しい野郎の下で働いていた頃、そいつが気のない調子で、巨竜を狩った武勇伝を自慢していたのを。


当時のウェルズには、それが何を意味するのか分からなかった。だが今ならはっきり分かる。間違いなく、あの野郎は凡人には到底届かない聖階の領域にすでに足を踏み入れている。


「あなたを信じたい気持ちはあります。普通、バンシーは生前最後の怨念をしっかり覚えていて、それを果たすことを強く望むものですから」ジョージはバンシーに誠実に語りかけた。「ですが、危険を承知でバンシーを町に野放しにするわけにはいきません。あなたがひとたび歌えば、何百何千もの罪のない人々が命を落とすからです。神術で拘束させていただけるなら、喜んであなたの願いを叶えましょう」


どこまでも真摯な眼差し、端正な面差し、そして一点の曇りもない澄んだ善意が、ついにバンシーの心を動かした。


「あなたは致命の剣から私を救ってくれました。だから信じます。だって、殺すつもりなら、とっくに殺せていたはずですから」


「交渉の得意な奴が一緒だと、やっぱり違うな。バンシーまで感化しちまうとは」ウェルズは傍らで声を上げて笑った。「これでこのバンシーに隠された秘密を突き止められる。うまくいけば、芋づる式に実験室まで辿り着けるかもしれない」


「実験室?」サンドラが鋭く問いかけた。


「実験体がいるなら、実験室だってあるはずだ。たぶんこの近くの地下に隠されているんだろう」


ジョージは再び両手を合わせ、敬虔に神術を詠唱した。


四階神術「聖光鐐銬」がバンシーに降り注ぎ、円柱形の光の障壁が彼女を外界から隔てて、その脅威を最小限に抑え込んだ。


「では、鬼域を解いてくれ」ウェルズは言った。


それを受けて、バンシーは魔法を止めた。目を伏せ、黙って魔力の出力を断ち切る。


魔力の供給が途絶えると、周囲の空間は水面に映る影のように激しく歪んだ。くぐもった唸りとともに、果てしなかった闇の境界が、潮が引くように急速に縮んでいく。冷たく硬い石壁が一気に迫り、かび臭さと埃っぽさが再び鼻をついた。一同は、あの狭い宿の物置に戻っていた。


空間が急に縮んだせいで、あたりはたちまちひどく窮屈になった。だが聖光にしっかりと閉じ込められたバンシーを見て、戦いがようやく終わったのだと悟り、一同は思わず長い息を吐いた。


床に散らばるがらくたを踏み越えて、ジョージがウェルズのそばへやって来た。不意に距離を詰められ、少年は本能的にわずかに身構えた。


「そんなに緊張しないでください。一つ確かめたいことがあって来たんです。ウェルズ、君は燭聖(しょくせい)様を知っていますよね?」


「なぜそんなことを訊く?」少年はわずかに眉をひそめた。あの高みにいる聖女とは、一面識すらないと言っていいはずだ。


「燭聖様から、君に渡してほしいと預かっている物があるんです。自分にできる助けはここまでだ、ともおっしゃっていました。禦死長城の奥へ進む助けになる道具だそうです」


ジョージは腰に提げたランタンを外して差し出した。真鍮で鍛えられ、複雑な聖印の彫刻が施された典雅なランタンで、一目で並の品ではないと分かる。火が入っていないのに、独特の質感がほのかに揺らめいていた。


差し出されたその瞬間、火屋の中に柔らかな橙黄色の光が灯った。


まぶしくはないのに、不思議な温もりを帯びた光だった。光が届いた先から、鬼域の名残である陰寒と死の気が、烈日に照らされた氷雪のように瞬く間に溶け消えていく。恋人に抱きしめられたかのような温かな流れが全身を撫で、連日張りつめていたウェルズの神経が、嘘のようにほどけていった。


「これは……?」ウェルズは驚きを顔に浮かべた。


「このランタンに収められているのは、燭聖様が手ずからお作りになった六階の道具『不朽の明燭』です。野営の際に灯し、十分間照らし続けると、周囲に祝聖領域ができあがります。禦死長城内の低階の不死者はこの純粋な光を嫌うので、中に入って襲ってくることはありません。安心して休めるはずです。ただし、明燭が灯っていられるのは一日に八時間までです。燭は六階の造物ですが、それを収めているこのランタンのほうは、私がいくら見ても見通せません。燭聖様からは一言だけ言づかっています。それは灯るべき時にひとりでに灯る、君が理解する必要はない、と」


「君と燭聖様は、いったいどういうご関係なんですか?わざわざこんな宝物を贈ってくださるなんて」ジョージは興味深げに尋ねた。


その問いには、少年自身も答えられなかった。


彼はランタンを受け取り、しまい込んだ。今まさに必要としていた強力な宝物であることは、疑いようもなかった。


「ですが、君たちは本当に禦死長城に入るつもりですか?あそこは生命の絶えた禁地ですよ」


「これは俺の約束だ。果たさなきゃならない」ウェルズの声に迷いはなかった。


「険しい道のりになりますよ。私の記憶では、かつて我が教会の聖者でさえ、百年屍潮に立ち向かった折に命を落としています」


ちょうどその時、遠くの廊下から慌ただしい呼び声が聞こえてきた。


「ジョージ、無事ですか?」


聞き覚えのある女の声に、ウェルズはすぐさま陰影隠形を放って身を覆った。空気がかすかに歪み、その姿は一瞬で薄暗がりに溶け込んだ。


ほどなく、声の主が入口に姿を見せた。司祭の装いをした少女とおじさん、まさしくジョージのお供の二人だった。


アリスは散らかった現場にすばやく視線を走らせた。光の柱に閉じ込められたバンシーを目にするや、その顔にたちまち驚愕と嫌悪の色が浮かぶ。


「邪悪な亡霊よ、私が浄化します!」


少年と幾度か顔を合わせたことのあるこの頑固な少女は、杖を高く掲げ、凄まじい剣幕で浄化の神術を詠唱し始めた。


「やめるんだ!」ジョージは手を伸ばして彼女を制した。「私はこのバンシーを昇天させる。どうか彼女を傷つけないでほしい!」


「邪悪な死霊と取り決めを結ぶなんて!それは誓いを破ることではないのですか!」


「私は善への信念と我が主の教えに従ってこそ、彼女と、至善へ通じる約束を交わしたんだ」ジョージは穏やかな口調で応じた。「この世でただ善への渇望だけは捨ててはならない。それが我が主の御心であり、私はその道を行く」


アリスは厳しく反駁した。「何という屁理屈ですか!」


「敵を感化できるなら、ただ殺すよりずっといい。それもお前たちの主の教えだろう?それに、彼の神術はまだ効いている。嘘をついていない何よりの証拠だ」姿を消したままのウェルズが、ついでとばかりに友人に助け舟を出した。


「誰が話しているのです?なぜこそこそ隠れて姿を見せないのですか?」アリスは警戒して周囲を見回した。


「顔が崩れていてな。見苦しいから、見ないに越したことはない」虚空から、ウェルズの軽い笑い声が聞こえてきた。


怪しいとは思いつつも、少女は彼を見逃した。今はもっと大事なことがあったからだ。さらにジョージを問い詰めようとしたが、傍らの仲裁役のおじさんが口を挟んでなだめた。「もうよい、アリス、そこまでにしておけ。ジョージが心を決めたら、お前には変えられん。それにジョージがついているのだ、あのバンシーも世の人に害をなすような真似はできまい。あいつの実力はお前も知っているだろう」


ジョージもそれに乗じて頼んだ。「宿の従業員や宿泊客の皆さんは怯えていますし、怪我人も少なくありません。店内に残った不死生物の遺骸も浄化しなければなりません。外の後始末は、お二人にお願いします」


ジョージの決意が固いと見て、二人もそれ以上は何も言わず、頼まれたとおり後始末に向かった。


それからジョージは懐から町の地図を取り出し、バンシーの前に広げた。


「家がどの方角にあるかは、まだ覚えていますよね?」


「頑張って思い出してみます……記憶が、本当にぼろぼろで……」


ジョージとバンシーが話し込んでいる間に、包帯を歯で噛んで締め、左手の傷の手当てを終えたサンドラがウェルズのそばへやって来た。彼の博識ぶりに驚いた様子だ。「まさか神学まで分かるなんてね」


「口から出まかせだ。聖職者ってのは、ああいう調子の話を好むもんだろう?」虚空から、どうでもよさそうなウェルズの声がした。


サンドラは小さく口を開けたまま、真顔ででたらめを並べ立てる彼に、返す言葉もなかった。


暗がりで先ほどの戦いを思い返すと、少年は今さらながら肝が冷える思いだった。


バンシーは霊体であり、五階ともなれば、魔法以外の攻撃を無効化する特性すら備えているかもしれない。魔法の武器でなければかすり傷ひとつ負わせられず、たとえ戦列歩兵が数トンの火薬を運び込んでまとめて爆破したところで、何の意味もない。幸い、この場にいたのは皆、魔力を持つ持魔者(じましゃ)と魔法使いだった。


五階の怪物ともなれば、物理攻撃を無視し、低階の人間を一瞬で葬り去る恐るべき能力を備えているのが普通だ。人海戦術で数を頼みに押し潰せる相手では断じてない。そしてこの戦いで、階を越えて重圧を一身に受け止めたサンドラこそ、間違いなく最大の功労者だった。


ウェルズは血の滲んだ彼女の腕の包帯を見て、声を落とした。「すまない。お前一人に前で五階の怪物を受け止めさせたうえに……最後にはジョージに合わせて、お前を傷つけた元凶を見逃すことにまでなった。本当に、恨み言はないのか?」


「私は別に構わないよ」少女は服の埃を払い、こともなげに答えた。「死線をくぐるくらい、どうってことない。貧民街でごみを拾っていたあの日から、とっくに覚悟はできてるの。いつ野良犬みたいに無意味に死んでもおかしくないって」


淡々とした口調であればあるほど、その雑草のようなしぶとさが際立っていた。


一方、バンシーはジョージと場所を確かめ終えたらしく、一人と一体は宿を出ようとしていた。


「君はどうするつもり?」サンドラは去っていく彼らの背中を見ながら尋ねた。


「ついて行こう。記憶の戻ったあのバンシーが、地下実験室の正確な場所まで導いてくれるのを当てにしてるんだ」


こうして二人は、光の牢に囚われたバンシーとジョージのあとをひそかに追い、静まり返った通りを抜けて、町外れの一角へとやって来た。


ほどなく一行は、質素な佇まいの民家の前で足を止めた。ジョージが進み出て、木の扉をそっと叩く。


「誰だい……こんな夜更けに戸を叩くなんて」


家の中からしわがれた声がして、古びた蝶番が軋んだ。扉を押し開けて出てきたのは、オイルランプを提げた年老いた女だった。


皺だらけの顔に戸惑いを浮かべた彼女は、ジョージに目をやり、それからその後ろの半透明のバンシーに視線を留めた。その瞬間、老いた目の縁がこらえきれずに赤くなった。


「お前……お前なのかい?やっと帰ってきてくれたのかい……?」老婦人の声は激しく震えていた。「私たちは神官様にお願いして、探偵にも頼んで、方々を尋ね歩いたけれど、お前の消息はこれっぽっちも掴めなかった。寝ても覚めても、もう一度お前に会えることだけを願っていたんだよ……!」


「お母さん……」


久しく聞いていなかったその呼びかけに、老婦人は全身を震わせた。手にしたランタンが「ガシャン」と石畳に落ち、油があたりにこぼれる。震える両手を伸ばして目の前の半透明の少女を抱きしめようとしたが、触れたのは冷たい虚無だけだった。


「お前……本当にお前なのかい?」老婦人は膝から力が抜け、その場に崩れ落ちそうになった。ジョージが慌てて駆け寄り、しっかりと支える。


「ごめんなさい、お母さん……こんなに長く探させてしまって」バンシーの目尻から、淡い光を帯びた魂の涙がひと粒こぼれ、落ちた瞬間に光の粒と化した。「私はもう、この世にはいないの。もう私のために泣かないで。私の分まで、しっかり生きて……」


名残を惜しむ最後の呟きとともに、少女の半透明の姿は無数の淡い光となり、夏の夜の蛍のように老婦人のまわりを優しくひとめぐりして、やがてひんやりとした夜風の中へ消えていった。


それから、残った陰影が水面のように揺らめき、別の見知らぬ女の輪郭を浮かび上がらせた。意識を共有しているため、彼女はウェルズとジョージの計画をすでに知っているようだった。


「あなたたちは、私の願いを叶えるのも手伝ってくれるのよね?」新たな魂が小さな声で尋ねた。


「そうだ」ウェルズは暗がりから姿を現し、きっぱりと答えた。


一方ジョージはその場に残り、泣き崩れる母親を辛抱強く、優しくなだめ続けた。


十数分後、婦人がいくらか落ち着くのを待って、一同はようやくその家をあとにした。


「主の国にて真の安らぎを得られんことを」帰り道、ジョージはしみじみと呟いた。それからわずかに意識を凝らし、目に喜びの色を浮かべた。「霊魂探知で感じ取れます。バンシーの体内に縫い合わされた魂が確かに一つ減って、あの混乱した怨念も緩んでいます。昇天の導きが効いている証拠です!この調子で頑張って、残りの執念も一つずつ解いていきましょう!」


それから数日のあいだ、三人は休む間もなく方々を駆け回り、バンシーの体内に縫い合わされた魂たちが一人ずつ遺願を果たすのを手伝った。


「全財産を裏庭の樫の木の下に埋めたの。掘り出して……孤児院に寄付してもいいし、何に使ってもいい。ただ、私の心血を永久に日の目を見ないままにだけはしないで」


「書き上げられなかったあの魔法論文を、指導教官に渡したい……」


「遺品と、生前に入っていた保険の保険金を家族に渡したい」


ほとんどの魂が望んだのは肉親との最後の別れだったが、中には俗世のしがらみを気にかける者もいた。それでも三人の奔走によって、女性の死者たちの遺願はどれも滞りなく果たされた。そして彼らは気づいた。魂と人格を無理やり縫い合わされた被害者の少なからぬ数が、なんと数年から数十年前に失踪届が出されていた魔法使いや持魔者だったのだ。


執念が一つまた一つと解かれるたび、バンシーにまとわりついていた漆黒の怨念も目に見えて薄れていった。


そして七日目の黄昏。夕陽の残紅が町の屋根を血の色に染める頃、最後の人格が浮かび上がった。なんとそれは、最初に宿で彼らと戦った、あのゴシック調の衣装の少女だった。


「他の亡霊たちを昇天させてくれたこと、礼を言う。おかげでずいぶん楽になり、生前の記憶もいくらか戻った」


ひんやりとした夕風を受けながら、彼女の瞳からは狂躁の色がほとんど消え、澄んだ光が戻っていた。


すべての魂の中で、彼女が最も核心となる主体であることは明らかだった。だからこそ、最初にバンシーと化した時、彼女の姿で現れたのだ。


「では、あなたの願いは何ですか?」ジョージは穏やかに尋ねた。


少女は振り返り、夕陽の沈む彼方を見つめたまま、しばし黙り込んだ。


「私の願いは……」少し間を置いて、彼女は深く重い執念を滲ませた声で続けた。


「『月の潮汐』が滅んだ真相を知ることだ」

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