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空間魔導書と少年魔法使い  作者: atu78963254
月の潮汐の深奥へ編
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第二章 鬼域の消滅

「これで仕留めたのか?こういう不死者は、もう一度殺すのがひどく難しいと聞くぞ?」


それを見ても、ウェルズはまだ安心しきれずにいた。彼の知る限り、死霊というものは完全に滅ぼすのが難しい。こうした不死生物は異様なまでにしぶとく、純粋な物理攻撃だけで消し去るのは至難の業なのだ。


凶々しい長剣を収めた少女は両手を腰に当て、めりはりのある豊かな体つきを自信たっぷりに見せつけた。


「長剣にはもう低階戮魂の能力を施してあるの。三階以下の死霊なら、重傷を負えばそのまま消滅する。このワイトの眼窩を見て。中にはもう魂火がないでしょ」


「ならいい」ウェルズはほっと息をついた。「俺たち二人が組めば、三階のワイトなんて大した相手じゃないな。子供の頃もこうして組んだのを思い出す。お前が屋台の主の気を引いて、その隙に俺がそいつの果物をこっそりくすねたっけ」


「君って本当に昔のことを懐かしむのが好きだね」少女は軽く舌打ちし、すぐに真顔になって尋ねた。「それで、これからどうするの?」


「外に誰かいますか?助けてください!」


「戦う音が聞こえて、そのあと人間の話し声がしました。きっと人間が勝ったんですよね!隣の客室に入って、私たちを助けてください!」


ちょうどその時、ほど近い客室から呼び声が聞こえてきた。


二人は顔を見合わせ、やがてウェルズが口を開いた。「入ってみよう。まさか罠ってことはないだろう」


二人は声のした部屋の前まで行き、扉を押し開けた。


まず鼻をくすぐったのは、心を落ち着かせる薫香の匂いだった。ごく標準的な客室で、中では七人ががたがたと震えながら身を潜めていた。給仕もいれば旅客もいる。皆、鬼域に巻き込まれた罪のない人々らしい。


「あなたは魔法使いですよね!私たちを助けるために、わざわざ来てくださったんですか!」係員の一人が興奮に目を輝かせた。


「違う」ウェルズはにべもなく答えた。その一言は冷や水のように、相手の希望を打ち砕いた。


彼は部屋を見渡した。「なぜワイトは、部屋にいるお前たちを先に襲わなかった?」


「政府が緊急時の手引書を配っているんです。異状が起きたら、扉に鍵を掛け、窓を閉め、祝祷の薫香を焚いて救援を待つように、と。不死生物は神聖な祝福を受けた薫香を嫌って、先に他の場所を探しに行くんです」隅に隠れていた女性の係員が答えた。


「確かにそれなら少しは長く持ちこたえられるし、不死者が部屋を破るのも遅らせられる。地元の人はちゃんと対処法を心得てるんだね。残念なのは、よそから来た人たちがこの土地の事情を知らなくて、むざむざ死んでいったこと」とサンドラが応じた。彼女が言っているのは、ワイト・チャンピオンに殺されたあの哀れな人々のことだ。彼らはおとなしく部屋に留まらず、慌てふためいて唯一の避難所を飛び出してしまったのだろう。そのうえウェルズたちのような実力もないのだから、ここで命を落とすのも当然だった。


「なるほど。ということは、ここはひとまず安全なんだな?」


それならと、ウェルズはすぐに背負っていた中年の男を下ろした。これでひとつ善行を積んだことにもなるだろう。


それから少年は、がたがたと震える人々を上から見下ろした。


「俺たちにもここを出る方法はない。お前たちはここに隠れていろ。俺は友人と、この一件の元凶を片付けに行く。うまくいけば、事件が片付くまでここは無事なはずだ」


言い終えると、ウェルズは扉を閉めにかかった。扉が完全に閉じきる前に、誰かが問い返した。「うまくいかなかったら?」


「その時は地獄で会おう」


扉を閉めると、ウェルズは少女に目をやった。その桃色の瞳には波一つ立っていなかった。


「三階二人で五階に挑む。勝ち目はあるか?」と彼は尋ねた。


「三掛ける二は六。もちろんあるよ」


少女の寒い冗談に、ウェルズは笑った。「それに、俺はもう死ぬのも怖くないんだ。今さら幽霊なんか怖がるかよ」


サンドラは魔力を注ぎ込み、手にした鋭い長剣に魔炎を灯した。


そうして二人は、連れ立って広い廊下を進んだ。


「まったく、ついてないな。五階なんて化け物が禦死長城を抜けて居住地に入り込むなんて、数年に一度あるかどうかだってのに、よりによって俺たちが出くわすとは」ウェルズは長いため息をつき、窺秘の眼で進むべき道を探り続けた。


行く手を阻むワイトやスケルトンは、二人が難なく打ち倒していった。


数十分ほど経った頃、二人はようやく巨大な扉の前にたどり着いた。


もとは物置だった場所が空間の異常によってひどく広がっており、扉の向こうから陰寒の気配が絶え間なく漏れ出していた。


ウェルズはすぐさま魔法を唱え、少女に増速致勝と力量増幅を掛けた。サンドラが手を伸ばし、扉を押し開けにかかる。


彼女の強靭な力に押され、重い扉がゆっくりと開いていく。その先に現れたのは、思いもよらない光景だった。


物置にはもともと小窓が一つあるきりだったが、空間魔法で引き伸ばされ、巨大な窓に変わっていた。だがその向こうには、鬼域の墨を流したような虚無が広がるばかりだ。ゴシック調の装いをした長い髪の少女が一人、床に座り込み、巨大な木箱にもたれかかっていた。黒髪は床にまで垂れ、壁の灯架でまだ消えずに残るオイルランプが、ほの暗い琥珀色の光を落として、息をのむほど美しい顔立ちを照らし出している。


だがウェルズたちに、その美しさに見とれている余裕はなかった。


少女の体が半透明で、暗くかげっているのを見た瞬間、ウェルズの胸がぎゅっと締めつけられた。


「くそっ、あいつはバンシーだ!」


バンシーがなぜ空間の能力を持つのかを考える暇もなく、床に座る彼女はもう低い声で死の歌を口ずさみ始めていた。耳に心地よく美しい、だがこの上なく致命的な歌声が溢れ出す。少年は、自分の死にゆく未来を垣間見た気がした。


「……」


死を覚悟したその時、柔らかく雅やかな歌声は確かに耳に届いたものの、何の異変も起こらなかった。


二筋の清らかな聖光が二人の身に花開き、聖なる陽が穢れを祓うかのように、歌声に宿る死の魔法を光の幕の外へと締め出していた。


目ざとい少年は、それが四階神術だと見抜いた。


「防死結界……短時間だけ負エネルギーと即死効果を防ぐ術だ。誰が唱えた?」


「不死者に抗う義士の皆さん!間に合ってよかった!私は教廷の使者です、ご無事ですか!?」


遠くから、はつらつとした声が響いた。


振り返ると、そこにいたのはなんと、ウェルズが以前会ったことのあるあの神官だった。


ジョージ。


「ウェルズじゃないですか?こんなところで君に会えるなんて、奇遇ですね!」二人を見たジョージも驚いた顔をしたが、すぐにこの茶髪の少年は晴れやかな笑みを浮かべた。


「お前が教廷の祓魔使者か?お供の二人も一緒か?」


「ええ。あの二人が巻物を使って、私を鬼域の中へ送り込んでくれたんです」ジョージは険しい面持ちでバンシーを見据えた。「こいつですか?こいつは何度も殺戮を繰り返し、すでに数百人もの死者を出しています。その遺骸も彼女の負エネルギーに侵され、スケルトンやワイトに変えられてしまいました!」


「五階に出くわすとは、俺たちも大概ついていないな」ウェルズは自嘲した。「さて、手を組むか?」


「もちろんです。かつて鷲魔(しゅうま)を倒した時のように!」


ジョージはすぐさま両手を合わせて目を閉じ、恭しく敬虔な祈りを捧げた。


神聖な光が雨のように降り注ぎ、陰鬱な寒気と恐怖の気配を払いのけた。一同はたちまち、神霊に導かれ、英雄のごとき技を授かったのを感じた。


これが四階神術、聖霊祝福である。


同時に、サンドラの魔鬼の煉獄の武器にも、なんと神聖な祝福が一層宿った。四階の聖戦の刃である。


一同の動きは、当然バンシーの目にも映っていた。彼女はわずかに睫毛を上げた。自分の歌がちっぽけな虫けらを数匹殺し損ねたことに、戸惑っているかのようだった。やがて彼女は立ち上がり、迎え撃つ構えを取った。


喉の奥では高らかで優美な死の歌を歌い続けていたが、最初に繰り出したのは殺傷のための法術ではなく、五階魔法「戦法転換」だった——これで彼女は、接近戦に脆いだけの幽霊ではなくなり、歴戦の戦士の技を一瞬にして身につけたのである。


身の毛もよだつ光景だった。淡く、風が吹けば散ってしまいそうなこの美しい幽霊が、なんとゆっくりと重心を落とし、蒼白く細い両手で一分の隙もない武闘家の構えを取ったのだ。


喉の奥から凄絶にして絶美な死の歌を響かせながら、彼女は落ち着いた足取りで迫ってくる。その両手こそが武器だった。虚ろで儚げだった霊体が、今や息の詰まるような武術の達人の気迫を放っている。


「本にこんなバンシーのこと、載ってた?……」サンドラは呆れたように口の端を引きつらせた。


「このバンシーに起きていることは、とても信じられません。バンシーには生命を吸い取る能力がありますが、普通は護身に使うくらいです。戦法転換を掛けて白兵戦を挑むバンシーなんて、初めて聞きました」


死霊に精通した専門家であり、神学院出身のジョージでさえ、目を丸くしていた。


ウェルズは横から大声で注意を促すしかなかった。「サンドラ、絶対に気をつけろ。バンシーに触れられるなよ!あいつの虚体の触には生命を吸い取る効果がある。生き物の魔力も生命も寿命も体力も、根こそぎ奪っていくんだ!しかも虚体だから、あいつの攻撃はどれも鎧を素通りする!」


話しながらも、ウェルズはこのバンシーから、どこか覚えのある気配を感じ取っていた。


どこでこの匂いを嗅いだのか、うまく思い出せない。どうやらそれは、向き合いたくない記憶らしかった。


少女ももちろん長剣を斜めに構えて辟乱斬を繰り出し、その切っ先をこの邪悪で歪んだ亡霊へとまっすぐ向けた。


煉獄騎士の複雑な烙印が虚体に刻み込まれ、傷を深める呪詛を施す。サンドラは戦いに備えて身構えた。


同時に背後では、バンシーの歌声に呼び寄せられたワイトとスケルトンが数体、こちらへ集まり始めていた。


「私が皆さんの後ろを守ります」


神術の効果を、肝心の怪物と正面から対峙する二人のために温存しようと、ジョージは自分には補助能力をあまり付けず、後方から押し寄せるゾンビの群れへ真っ先に突っ込んでいった。


一方、ウェルズとサンドラの側で先手を取ったのは、あのバンシーだった。優美で心地よい歌声が死の魔法を呼び起こし、恐るべき呪詛をもたらす。彼女の背後に悪魔の瞳が浮かび上がり、次の瞬間、途方もない恐怖が二人にのしかかった。


五階魔法「悪魔凝視」。


凡人であれば無数の幻覚を見て、恐慌のうちに頓死しかねないほどの恐怖だ。意志の固い二人でさえ、両脚の震えが止まらなかった。


だが幸い、ジョージの聖霊祝福が真冬の温泉のように効いた。温かな流れが心臓から広がって全身と心を温め、幻影と恐怖を残らずかき消していく。


とはいえ、そのせいでサンドラが予定していた突撃は止まってしまった。一方のバンシーは微塵も影響を受けておらず、蒼白い両の拳がまっすぐサンドラに襲いかかる。


「ちっ……さすがは五階、速すぎる!」


速さと力を増幅してもなお、三階の人間にすぎないサンドラは、この五階の怪物と互角には渡り合えない。しかも突撃に失敗して後手に回っていた。慌てて身をかわし、バンシーの拳を何発かはしのいだものの、やはり隙が生じ、左手をバンシーの拳がかすめた。


ほんの一瞬だった。触れられた桃色の瑞々しい肌はみるみる老いて干からび、まるで風干しの塩漬け肉のように朽ちていく。しかもこの恐ろしい傷はなおも広がり続け、幅五センチにまで達した。


痛みをこらえ、サンドラは鋭く反撃に転じた。剣を真っ向から振り下ろし、バンシーの顔面を狙う。


バンシーはそれを優雅にかわし、数歩退いた。手をすっと差し向けると、新たな歌声が数発の負エネルギーの矢となって凝結し、少女へ襲いかかる。


「陰影よ、我が名において庇護を呼び、晦暗の恩寵を降せ!」


それを見たウェルズは即座に手をかざし、サンドラに漆黒の陰影光盾を一層まとわせた。サンドラは飛ぶような足さばきで、追ってきた負エネルギーの矢を三本かわし、正確に狙ってきた最後の二本は護盾が吸収した。こうして勇猛果敢な少女は並外れた気迫でバンシーへ突進し、魔炎のきらめく凶々しい長剣を真っ向から振り下ろした。


「ドン!」


長剣は正確にバンシーを捉え、激しい閃光がほとばしった。祝福の神聖な炎、長剣の魔炎、辟乱斬の光波が一斉に爆発する。バンシーの体がたちまち硬直し、その顔が苦痛に歪んだ。


だが攻撃を受けても、バンシーの姿は確かな形を保ったままで、歌声も高らかなままだった。数歩下がって体勢を立て直すと、武技の連続拳に合わせ、歌声に乗った新たな魔法攻撃もサンドラへと襲いかかった。


次の瞬間、サンドラの細く美しい腕に異様な突起が浮かび上がった。と思うと、増殖した骨が勢いよく突き出して左腕を突き破り、目を覆いたくなるような血の花を大きく咲かせた。左手はもう完全に使い物にならない。


常人なら床を転げ回るほどの激痛だが、過酷な試練をくぐり抜けてきた少女には、まだ歯を食いしばれば耐えられる。彼女はすぐさま片手で剣を握り直し、鶴翼の構えで迫るバンシーへ斜めに斬りつけた。


だがバンシーはあまりにも速かった。難なく攻撃をかわすと身を翻し、少女の傷ついた左側の死角へと一気に迫る。蒼白い手の爪が鉄の鉗子のように伸び、サンドラの首を直接狙った。


首を捉えられ侵蝕されれば、待つのは死だけだ。


まさに届こうとしたその間一髪、目を刺すような聖光をまとった長剣が斜めから鋭く突き出され、バンシーはたまらず手を引いて退いた。


「大丈夫ですか!私が援護します!」


爽やかな声とともに、ジョージが正面の戦いに加わった。


不死者狩りを専門とする彼は、後方から押し寄せた低階の不死生物をすでに驚くべき速さで一掃し、間一髪で戦局に戻ってサンドラの援護に駆けつけたのだ。


これが戦局を左右する決定的な一手となった。ジョージの卓越した神術と四階の実力があれば、戦いの主力として武術のバンシーと激しく渡り合える。


その隙にサンドラはすかさず後退し、体に眠る活力を奮い起こして、腕から噴き出す鮮血を強引に止めた。彼女の左腕の骨が異常に突き出した惨状を目の当たりにし、ウェルズの頭の中で警鐘がけたたましく鳴り響く。バンシーの攻撃が持つ、極めて危険な性質を見抜いたのだ。


ジョージが稼いでくれた隙を突き、彼は両手を素早く翻して、魔法使いならではの精妙な詠唱技術を披露した。


低く唱えると、死霊系の防護の魔力が音もなく一同の体へ溶け込み、「骨格安定」という防護魔法をあらかじめ骨に施した。続けて指先の形を変え、慣れた手つきで宙にもう一つ、複雑な炎の紋様を描く。少年の前に灼熱の火球が生まれ、宙を翔けて、バンシーの胸元で寸分違わず炸裂した。


ジョージが神聖な剣技で接近戦に持ち込み、バンシーの回避の余地を大きく削っていたおかげで、彼女には先ほどまでの身軽さがもうない。だからこそ、ウェルズの火球はこうも正確に胸元を捉えられたのである。


「お見事です!」ジョージは声を張って称えた。身軽な身のこなしで火球の威力の大半をかわすと、バンシーが傷を負って硬直した一瞬を逃さず、暴風雨のような連撃を浴びせる。


バンシーは両の拳を振るって受け流しながら後退し、下がることで再び間合いを取ろうとした。だが三人の息の合った追い込みに、動ける余地はどんどん狭まっていく。


追い詰められたバンシーの目に、突如として墨のような漆黒の光が宿った。耳を裂くような凄絶な叫びとともに、前方のジョージとサンドラは、全身の骨が異様におぞましく震え出すのを感じた。まるで千万本もの鋼の針が体内で弾けようとしているかのようだった。


「そうはさせるか。お前の手はもう見切った!」ウェルズはそれを予期していた。


バンシーは同じ手を使ってきたが、二人の骨はすでにウェルズの魔法で補強されている。骨を操って二人に深手を負わせようという企みは、あっけなく空振りに終わった。


これが決定打となった。もはやバンシーに二人の挟撃をしのぐ力はない。多勢に無勢、ジョージの神聖な剣技とサンドラの魔炎の斬撃に左右から挟まれ、たちまち幾太刀も浴びる。確かな輪郭を保っていた幽霊の姿が激しく明滅し、薄れ始めた。


サンドラがとどめを刺そうとした、まさにその時、異変が起きた。


「やめて……!私を傷つけないで!誰か……助けて!」


「私は無実なのに……この町に住んでいる、ただの普通の女の子なのに!」


立て続けに傷を負ったバンシーの姿が、不意に変わった。ゴシックの少女から、簡素なワンピースを着たごく普通の人間の少女へと。


怯えきった悲鳴を上げて命乞いをしながら、両手で必死に胸元をかばう。その無垢な顔を、涙が伝い落ちた。


「目くらまし?どっちにしても、これは絶好の機会……!」


だがサンドラはまるで取り合わなかった。ためらうことなく最も激しい魔炎を凝結させ、長剣を鋭く突き出して、バンシーに致命の一撃を見舞おうとした。


「ガキィン——!」


耳をつんざく金属音が響き、火花が飛び散る中、一振りの聖剣が彼女の一撃を強引に受け止めていた。


手を出したのは、なんと傍らに立っていたジョージだった。


「何のつもり?」一撃を阻まれたことに愕然とし、サンドラは振り向いて彼を見た。


「困っている人を助ける。それが私の信条です!」


ジョージは揺るぎない眼差しで応えた。その瞳には、世を救わんとする熱意が燃えている。たとえバンシーでも、彼にとっては救うべき相手なのだ。滅ぼすよりも、わだかまりを解くよう導き、その怨念を鎮めて昇天させたいと願っていた。


「助けて……」


バンシーは苦しげに床にうずくまった。ゴシックの少女の面差しが、溶けた蝋のように歪み、組み替わっていく。わずか数秒のあいだに、その顔は次々と移り変わった。そばかすだらけの村娘、気品漂う貴婦人、刀傷のある女冒険者——数え切れない女たちの顔が入れ替わりに明滅し、重なり合って凄絶な哀鳴を上げた。


その光景に、ウェルズの瞳孔がぎゅっと縮んだ。寒気が足の裏から脳天まで駆け上がる。


「待て……!殺すな!」彼はほとんど声を裏返らせて叫んだ。


あの覚えのある気配、魂を無理やりこね回されたようなあの歪み……彼はようやく思い出した。あれは不死者の怨念なんかじゃない。実験室に漂う、吐き気を催す薬剤と絶望の匂いだ。


「あいつは俺と同じだ……」ウェルズは震える両手を握りしめ、歯を食いしばって言った。「あの野郎の実験体だ」

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