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空間魔導書と少年魔法使い  作者: atu78963254
帝国冒険編
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第十一章 記憶喪失

宿に戻ると、ウェルズとラロリアは黒髪の少女に何度か質問を重ねた。そのやり取りから、偽装ではなく本当に記憶を失っているのだと確かめられた。


「本当に記憶喪失か……厄介だな」ウェルズは眉間を揉んだ。


捕虜から終末救贖者の意図を探れると思っていたのに、手がかりはここで行き止まりになってしまった。このまま手をこまねいていては、謎を解く前に、相手のほうが準備を終えてしまうかもしれない。


「ごめんなさい……」自分が役に立たないと知った黒髪の少女は、悲しげに呟いた。


「あなたのせいじゃないってば……!悪いのは、あなたの記憶を奪った悪党たちなんだから!」その哀れな様子に母性をくすぐられ、ラロリアは慌てて手を振って少女をなだめた。


「魔法で調べた結果はどうだった?」その時、ウェルズがラロリアに尋ねた。


「私にも魔法の痕跡は見当たらなかった……」ラロリアは答えた。


「まさか物理的な損傷か?」


「終末救贖者が棒で頭を殴るなんて乱暴な手段を使うとは思えないけど……それにこの子、怪我の痕もないし」


「俺たちには見分けられない魔法なのかもしれん。もっと腕の立つ者に鑑定してもらう必要があるな」ウェルズはしばし唸った。


「それと、終末救贖者が銀行を襲うって話……日を決めて待ち伏せする?」ラロリアが尋ねた。


「そんなもの、俺たちが自ら手を下すまでもない。味方に任せればいい」


「私たちに味方なんているの?」彼女は興味深そうに問い返した。


ウェルズは小さく笑った。「もちろんいる」


「『応策局』だ」


「応策局に匿名の手紙を一通書く。連中の手腕なら、銀行強盗の一件くらい造作もなく片付けるだろうし、そこから辿って終末救贖者のほかの動きまで洗い出せるかもしれん」ウェルズはかすかに笑った。


ラロリアはしばし考えた。確かに筋が通っている。二人は応策局と直接手を組むことはできないが、秘密結社に対抗するという点では、同じ陣営の仲間と言えた。


「それから、こいつもだ」ウェルズは傍らにぼんやり立っている黒髪の少女を指さした。「厄介なお荷物だ。俺には人を養う趣味はない」


「俺の意見としては、この女は警察に引き渡すべきだ。捜査力も能力も警察のほうが俺たちよりずっと上だし、彼女を助ける手立ても多い……」


ウェルズが言い終えないうちに、甲高い悲鳴がそれを遮った。


「だめ……!!」


その悲鳴の主はラロリアではなかった。


ずっと傍らで黙って聞いていた黒髪の少女だった。


二人が驚いて目を向けると、彼女は頭を抱え、怯えきった悲鳴を上げていた。


「いや……!警察は嫌い……!私を捨てないで……!」


そう言いながら、彼女は心底怯えた様子で傍らのウェルズにしがみつき、離れようとしなかった。強くしがみつくその腕から、ウェルズには彼女の震えが伝わってきた。


「何でもしますから……お願い……私を捨てないで……!」彼女はウェルズの肩に顔を埋めて泣き、涙が彼の襟元に染み込んだ。


「なぜ警察を怖がる?」ウェルズは眉をひそめて尋ねた。


「警察は怖いの、悪いことをするから……」


「お前はどう思う?」妙だと感じたウェルズは問いかけた。


「あ……」ラロリアはこの親密な仕草に呆気にとられていたが、ようやく我に返った。


「警察は確かに信用できないと思う……この子が本当に終末救贖者の計画の鍵を握っているなら」


「だって警察は巡回路線まで終末救贖者に漏らしていたんだから。私たちがハンクを捕まえられたのだって、巡回路線を避けて、あいつが狙いそうな目標を割り出したからでしょう。忘れないで」


「筋の通った分析だ」ウェルズは、彼女の読みは実に正しいと思った。警察はすでに秘密結社に浸透されているかもしれず、信用できるのは応策局だけだ。何しろ連中は帝国最強の内務機関なのだから。


「こいつが鍵である可能性は高いが、終末救贖者が一つの籠に卵を全部盛るような真似をするはずがない。こいつが連れ去られても、計画を進める代替案は用意してあるはずだ」


「俺たちにできるのは、こいつの過去を追い、わずかな手がかりから終末救贖者の意図を推し量ること、それと記憶を取り戻させることだ」


「私を……警察に渡さないんですか……?」彼女は怯えた小動物のようにわずかに顔を上げ、そっとウェルズの表情を窺った。潤んで揺らめく黒い瞳には、憂いの色が満ちていた。


「渡さない、渡さないから……!とにかく二人とも、まず離れなさいよ……!人の弱みにつけ込むこの最低男!」ラロリアは進み出て二人を引き離した。


ラロリアは振り返った。「本題に戻るけど、この件を追うだけなら、相手にできるのは終末救贖者だけでしょう?あんたの復讐はどうするのよ?」


「今の状況から見て、この二つの秘密結社には必ず何らかの関係がある。大筋で協力関係を結んでいるのかもしれん。このまま追い続ければ、秩序編織者のあの司織にも必ず辿り着ける」


彼は胸の内で付け加えた。「金でボドナを買収し……教廷と翡翠王国を唆して俺のすべてを奪った、あの司織——聚宝者(しゅうほうしゃ)」


「言うのは簡単だけど、この子の情報をどうやって調べるつもり?干し草の山から針を探すようなものよ」ラロリアは尋ねた。


「こいつは間違いなく上流の家の出だ。失踪すれば少なからず噂になっているはずだ。上流社会に入り込めば、失踪の噂を手がかりに調べられるし、身元も特定できる。それに、こいつを治療できる心霊術師も見つかるかもしれん」


「この任務はお前には向かない」ウェルズは言った。「上流社会のことは俺が受け持つ。お前は、襲われた銀行が最近誰の恨みを買ったのかを調べろ。でなければ、終末救贖者がほかの銀行ではなくあそこを選んだ理由が分からん」


「ええ、任せて」


分担を決め終えると、ラロリアは黒髪の少女に目を向けた。


「この名無しの子はどうするの?短期間じゃ記憶は戻りそうにないし。何か呼び名をつけてあげるべきじゃない?ずっと『彼女』とか『あの子』って呼ぶわけにもいかないし、それに『この女』って呼ぶのもやめなさいよ、感じ悪い」


ラロリアは口を尖らせて、少女の肩を持った。


「お前は偽名の達人なんだろう?適当につけてやれ」ウェルズは投げやりに答えた。


「実は名前をつけるのはあまり得意じゃなくて……」彼女は気まずそうに頬を掻いた。「それにこの子、あんたにつけてほしいみたいよ?」


ラロリアは、黒髪の少女が何か言いかけてはやめる小さな仕草に気づいていた。


それを聞いたウェルズがじろりと眺めると、彼女は恥ずかしげに目を伏せ、それから期待のこもった眼差しを向けてきた。


「黒い髪に、蓮の花の髪飾り。黒蓮(こくれん)と呼ぶことにしよう」


「あんた、名付けのセンスなかなか悪くないじゃない。てっきり、めちゃくちゃな名前でもつけるかと思った」


「俺は、悪態をつくべき相手にしか悪態はつかない」


「それって私が嫌な奴だって言ってるの!?」


「黒蓮……なんだか……いい、かな……」黒蓮は恥ずかしげにスカートの裾をつまみ、嬉しそうに笑みを浮かべた。


二人はさらに、彼女をラロリアと同室にすることに決めた。その夜は、二人が代わる代わる基本的な常識を教えた。


翌日、準備を整えた二人は行動を開始することにした。


「今日はまず、装飾品選びに付き合え」ウェルズは貴族出身のラロリアを見た。


宝飾品で身を飾らなければ、上流社会に入れるはずもない。


「任せなさい、帝国の流行で私の知らないものなんてないんだから」ラロリアは大見得を切った。


ただ、二人が宿を出ようとした時、黒蓮は名残惜しそうだった。


「どこへ行くんですか……私も行きたい……」


二人とも、それが不可能だと分かっていた。


彼女が何の役に立つかはさておき、万一終末救贖者の目に留まれば、二人にとって面倒の種になるだけだ。彼女が宿を出て人と接触するのは、害あって益なしと言えた。


「怖がらないで、ちゃんと帰ってくるから」


「いい子にしているのよ。お腹が空いたら、部屋の外でルームサービスを頼めばいいから」ラロリアは慈しむような口調で言い聞かせた。


「でも……ここは寂しくて、退屈で……」彼女は、見る者の胸を締めつけるような哀しげな表情を浮かべた。


「大人しくここにいろ。でないと警察に連れて行かれるかもしれんぞ」ウェルズのほうは遠慮がなかった。


「いや……いや……警察は嫌い……!」その言葉に、彼女はさっと青ざめた。


「ちょっと、これ以上この子を怖がらせないでよ、可哀想でしょう……!」ラロリアは隣に向かって抗議した。


脅しとなだめの両方が効いて、これなら彼女も大人しくここに留まり、部屋から一歩も出ないだろう。


扉を閉めて廊下に出ると、ラロリアは疲れたように何度もため息をついた。


「なだめすかして、おまけに脅して。まるで小さな子供みたいね」


「そうだな、オバサン」


「変なこと言わないで!私は今年でまだ十七よ」と彼女は抗議した。


通りを歩きながら、ラロリアはかつての経験を話して聞かせた。


「短期間で帝国の上流階級に紛れ込むのは簡単じゃないわよ。帝国の貴族は、出自や家柄で人を判断するのが好きな連中だから。いい家柄がなければ、まともに目も向けてくれない」


「それは分かっている。小さな依頼でも受けて、自分の名声を上げるつもりだ」ウェルズはとうに承知していた。


帝国貴族の階級意識がこれほど強いのも無理はない。何しろ魔法の才能は遺伝するのだから、帝国貴族は家柄の釣り合いを厳しく守り、資質の劣る後継ぎが生まれることを恐れていた。


ラロリアは噛んで含めるように続けた。


「それに、いい家柄は宴会に参加する第一歩に過ぎないの。ほかに紹介者が一人必要よ。紹介者の威望と家柄で、相手があんたに抱く第一印象は大きく変わるわ」


どうやら貴族の気風はどこも大差ないらしい。少し前、ウェルズも紹介者の資格を金で買い、ようやくフリーデを上流社会に送り込んで情報を探らせたのだった。


「じゃあ話を戻すわね。帝国の衣装の流行は全部で四種類。南方の涼やか風、帝都の花シャツ風、東部の振袖風、それに西部のレース風。今の嘉徳市で流行っているのは最後のこれ。遠征軍が西大陸から持ち帰った様式だそうで、主な特徴は幾重にも重ねたレースの縁飾りよ。どう、ライカベサの様式を思い出さない?男性なら、立ち襟のシャツにレースをあしらうのが主流で……」


ラロリアは滔々と語った。自信たっぷりのその姿は生き生きとしていて、帝国の流行にはなかなか通じているようだった。


「装飾の宝飾品なら、騁馳の最高級品、尊栄の腕時計がお勧めよ。この会社は私たちにとっては評判が良くないけど、貴族たちはブランドで地位を見分けるだけだから……」


騁馳の豪華なブランド店に入ると、ラロリアは華やかな一揃いの装いをウェルズに勧めた。その見立ては実に確かで、日頃口の悪いウェルズでさえ文句のつけようがなかった。


「いらっしゃいませ。本日のお買い上げは、合計で金貨五百枚でございます」


すべてが完璧だった。ラロリアまでもが、自分が役に立ったことに得意になっていた。


だが、その値段には言葉を失った。


「すみません、気が変わりました」


店員が恭しく値段を告げ終えると、ウェルズは顔色一つ変えずにカウンターを離れた。


隣では、ラロリアも同じく呆気にとられていた。


「この服……こんなに高いの?前は選んだ後、召使いに払わせていたから……値段なんて気にしたことなかった」


ウェルズはため息をついた。


「もっと簡素で安い組み合わせはないのか?金貨五十枚以内で」


「もっと下の品は調べたことがないから、分からない……」


「なら、様式に合うノーブランドの服を適当に何着か選べ。総額は金貨七十枚以内だ。お前の勧めたあの腕時計だけで金貨五十枚もする。俺たちには確かに買えん」


ウェルズも腹をくくって予算を口にした。


二人が貧しすぎるわけではない。これらの服が法外に高いのだ。店員の年収はせいぜい金貨三枚半ほどだろうから、飲まず食わずで百年以上働かなければ手が届かない。


「削るなら何を削ってもいいけど、あの腕時計だけは絶対に外しちゃだめ」ラロリアは真顔で言った。「帝国では、腕時計は男の体面の象徴なの。腕時計をしていなかったら、南方の貧乏くさい連邦人だって笑われるわよ」


「精巧な模造品はないのか?」


「それなら、いい考えがあるわ」ラロリアは過去のことを思い出した。「私の腕時計が一つ、前の戦闘で壊されて、外側のケースだけ残っているの。ケースの構造が似ている安い時計のムーブメントを移植すればいい」


「ただ、ほかの店で探さないといけないけど」


「よし、ならまずここで金貨四十五枚を使い切るぞ」


出費は胸が痛むほどだったが、ウェルズは、何かを得るには対価が要るという道理をよく分かっていた。


ラロリアの助けで、ウェルズはすぐに品が良くて安いノーブランドの服を一揃い選び出した。趣味は良いものの、資金不足ゆえの安っぽさはやはり拭えなかった。


「そんな、この装身具、私が売った時は金貨百枚にしかならなかったのに!」ラロリアは陳列棚の中のネックレスを指さして叫んだ。ウェルズがその下の値札を見ると、金貨千枚の値がついていた。


「お前は間違いなく騙されて、二束三文で売り払ったんだ」ウェルズは首を振った。「だから何軒か比べろと言うんだ。浮いた金があれば、もっと長く暮らしを保てる。もっとも、お前の際限のない散財ぶりでは、大して持たないだろうがな」


「また昔のことを蒸し返す!」


ラロリアは目を細めて舌を出し、説教は受け付けないと示した。


「お前の服従性テストは不合格だ」


その後、二人は「匠極(しょうきょく)」という名の別のチェーン店へ向かった。


「私の腕時計はここで買ったの。『匠極』を甘く見ちゃだめよ。このブランドは世界級で、東大陸全体にチェーン店があって、本社は帝都にあるんだから!」


「とは言っても、私たちが買い物できるのは二階のフロアまでだけど」


ラロリアはこの会社を天まで持ち上げたが、ウェルズたち二人には、それより上のフロアへ上がる資格はなかった。


「その腕時計はどんな見た目だ?」ウェルズは時計売り場へ向かいながら、傍らのラロリアに尋ねた。


「えっと……丸くて、針の先が尖ってて……」彼女は手を動かして、腕時計の形を描いてみせた。


「腕時計はどれもそうだろう」ウェルズは言った。


「説明しづらいのよ!とにかく形は覚えてるから。その下位の代替品なら、きっとまだ流行遅れになってないはず」ラロリアは説明を面倒がって手を振った。


「これか?」「違う」「じゃあこれか?」「違う」


二人は時計売り場を見て回り、ウェルズは手当たり次第に尋ねた。だがこれほど多くの時計の中から、ラロリアもすぐには記憶にある型を見つけ出せなかった。


その時、腕時計を探している二人の傍らを、一人の女性が通り過ぎた。


レースの帽子をかぶった亜麻色の髪の女性で、どこか慌ただしく、表情には焦りの色が浮かんでいた。彼女が上の階へ上がろうとするのを見て、三階への階段口を守る店員が恭しく尋ねた。


「恐れ入ります、許可証をご提示ください」


それを聞いた彼女は慌てて空間の指輪から、鉄に銀めっきを施した小さなカードを取り出し、身分を示した。その拍子に足元がふらつき、危うくカードを落としそうになった。


「ようこそ、レヴォニー様」


カードを見た店員は恭しく道を空けた。


ウェルズはその光景を見つめていた。


それを見たラロリアは、ふんと鼻を鳴らしただけだった。「私なんて前は第四等級の貴賓だったんだから!」


「俺の目が見えないとでも思っているのか?この建物は三階建てだぞ」ウェルズは、こんな嘘では子供も騙せないと思った。


「ふん、無知な人ね~」ラロリアは得意げな顔になり、咳払いをしてから、目を輝かせて説明した。「知らないでしょう?匠極には第四等の貴賓等級があるのよ。彼らには匠極社から直接、商品案内の郵便と伝音の巻物が届くの。配達員はみんな三階魔法使いで、次元門を使って最速で品物を運んでくれる。家にいるだけで、便利な買い物が楽しめるのよ!」


ウェルズはわずかに眉を上げた。まさかラロリアの口から、常人には縁のない贅沢な買い物の話を聞くとは思わなかった。


二人はさらにしばらく探し、ついにラロリアがあの型の腕時計を見つけた。文字盤の中央には炎の亜竜が刻印され、周囲を簡素な炎の文様が囲んでいる。値段はわずか金貨二十五枚だった。


「これが私の欲しかった下位品よ!」ラロリアは店員を呼び、その腕時計を買った。


「私の中身が壊れたほうの腕時計は炎の真竜で、縁の文様はもっと本物らしい炎なの。中は魔力で動いて、瞑想の時に少し魔力を吸わせれば何日も動く。こっちの腕時計は止まったら、時計店に行ってぜんまいを巻き直してもらわないといけないのよ」腕時計を買った後、ラロリアは手提げ袋を持ってウェルズに説明した。


「はあ、まったく高くて死にそうだ。魔法で一つ複製できないのか?」


「複製?この世に完璧な複製なんてないわ。どれも様々な欠陥があるか、投入が産出を上回るかよ。聖階魔法『氷雪擬像』で作った物でさえ、耐久は元の物の半分しかないの」


ラロリアの答えは、いかにも学院派らしかった。


「お前は改造できるのか?時計店を探さなくていいのか?」


「もちろんできるわよ!」


「本当か?初めて会った時、お前は分解していた杖を爆発させただろう」ウェルズは半信半疑の表情を見せた。


「本当よ!子供の頃、興味があって時計技術の本を読み漁ったんだから」ラロリアは不機嫌に言った。


「刺繍は習わずに時計を学ぶとは、お前も本当に変わった女だな」ウェルズは言った。


彼はふと過去を思い出した。妹はかつて母に教わりながら織物を習っていた。


「ふん、貴族には学びたいことを学ぶ自由があるの。どうせ飢え死にはしないんだから」彼女は得意げに答えた。


「だが俺の援助がなければ、お前はとっくにわんわん泣きながら家に帰っていただろうな」ウェルズは言い返した。


その後、二人は宿へ戻った。


扉を押し開けると、黒蓮が居間で行儀よく座り、心地よい小唄を口ずさんでいた。


扉が開くと、彼女は入口に目を向け、ウェルズとラロリアだと分かると顔をほころばせた。


「会いたかった!やっと帰ってきてくれたんですね!」


ウェルズは、机の上に様々な紙で折った折り鶴が並んでいるのに気づいた。


「これ、あなたが作ったの?かわいい」ラロリアは興味深そうに折り鶴を手に取った。


「はい……!私、折り紙が得意みたいなんです……!今日はずっと二人が帰ってくるのを待っていたんですけど、一人でここにいると、寂しくて……」彼女はわずかに眉を寄せた。その憂いを帯びた美貌には、人の心を奪う力があった。


「それは仕方ないでしょう……」ラロリアは彼女を慰めた。


「でも私、ずっとここにいて、外には出ていないから、警察は捕まえに来ませんよね……?」そこまで言うと、彼女はおずおずと不安げな様子を見せた。思わず手のひらに乗せて守ってやりたくなるほどだった。


彼女は生まれつき、人を惑わすこうした美貌と雰囲気を備えていた。


「来ない、来ないから、安心して」ラロリアは彼女をなだめたが、効き目は薄かった。


「あんたもこっちへ来て、二言三言慰めなさいよ!」ウェルズが動じないのを見て、ラロリアは声を上げた。


「興味ない。外に出ないのはお前自身のためだ」ウェルズはさっさと自室に入っていき、黒蓮はその背中が扉の向こうに消えるまで見送った。


その後、二人の少女は部屋に戻った。


ラロリアは持ち歩いている腰の鞄から工具箱を出し、さらにその一番奥にしまってあった腕時計のケースと修理台を取り出した。


「黒蓮、こっちへ来て手伝って。これが標準ペンチ、これが斜ペンチ、これが短いピンポンチ……私が要る時に渡してね」ラロリアは言いつけた。黒蓮は一瞬きょとんとしたが、すぐに持ち前の聡明さで工具をすべて覚えてしまった。


「これは何をしているんですか?」


「腕時計の改造よ」ラロリアは先ほど金貨二十五枚で買った腕時計を台に固定し、様々な工具の名を呼び始めた。


黒蓮は好奇心いっぱいに目を見開き、ラロリアが巧みに工具を操るのを見つめていた。


「気になる?」ラロリアが尋ねた。


「はい……初めて見ました」言い終えてから彼女ははっとして、ぺろりと舌を出した。「違いますね、私にとっては何もかも初めてなのに……」


そこまで言って、彼女は気落ちした。「私、本当に役立たずですね……」


「そんなことない、黒蓮はいちばんかわいいんだから……!」ラロリアは時計を直しながら彼女をなだめた。何か思いついたのか、ペンチを頬に当てて考え込んだ。「それに、記憶を失った人でも、昔得意だった技術はすぐに思い出せるって聞いたわ。この機会にいろいろ試してみたら、前に何ができたか分かるかもしれないわよ?」


「そうなんですか……?」黒蓮はおずおずと手を挙げた。「なら私も、時計の修理を試してみたい……!」


「うーん、普通の女の子は時計の修理なんてしないはずよ。私ができる理由は、話すと複雑なの」彼女はぶつぶつと言った。


「あなたは織物や刺繍を試してみたら。『主婦週報』を一部取ってあげる!明日はもう退屈しなくて済むわ。家で織物の練習ができるから」


「明日も……私一人でここにいるんですか……?」彼女は悲しげに言った。


「それも……仕方ないのよ。私たちはあちこち駆け回って、あなたの記憶を取り戻す可能性を探しているんだから」


彼女は慌てて話題を変えた。「そういえば、黒蓮は魔法が使えるかもしれないわね?いちばん基礎的な呪文を一節、教えてあげる……!」


彼女は何気なく「造水術」の呪文を一節口にした。それを聞いた黒蓮は、無意識のうちにそれをなぞって詠唱した。


そして魔法は成功した。


盥一杯の水がラロリアの頭上からどっと降り注ぎ、鳥の巣のようなその頭を濡れ鼠にした。


「うわあああ!」顔の半分まで水をかぶったラロリアは悲鳴を上げた。


「あ……ごめんなさい……!てい……ラロリア……」黒蓮は驚いて立ち上がり、頭を下げて謝った。


幸い、水は修理台までは跳ねなかった。ラロリアは簡単な二階の呪文「乾燥術」を唱え、自分と足元の絨毯を元通りにした。


「大丈夫、大丈夫……」ラロリアは笑って黒蓮を慰めた。「ところで、あなたはこの呪文は使える?」


黒蓮は顔を上げ、真似て呪文を唱えようとしたが、言葉が喉につかえて出てこなかった。


「できません……」彼女は気落ちして言った。


「どうやらあなたは一階魔法使いね。あまり気にしないで、魔法学院の卒業の基準だって一階なんだから」


攻撃能力のない生活魔法は最も習いやすい。それはつまり、彼女が二階魔法を知らないということでもあった。


「本当にごめんなさい……!」黒蓮はまた頭を下げて謝った。


「いいのよ、早く座って」ラロリアは黒蓮のしなやかな長い髪を優しく撫でた。「あなたは本当に優しいのね……どこかの口の悪い奴とはまるで違うわ」


「ウェルズさんのことですか?」黒蓮は興味を引かれた眼差しを浮かべた。


「はい……どうしてか、あの人を見ると、その……心臓がどきどきして、速くなるんです……」黒蓮は頬をほんのり赤らめ、小さな声でぽつぽつと言った。


「ああ……私もよ、その感じ分かるわ」ラロリアは手にしたペンチを揺らして言った。


「あいつと話すたびに、腹が立って煉瓦を持ち上げて頭に叩きつけたくなるの!まったく、世の中にどうしてあんな嫌な奴がいるのかしら?」


彼女は当然のように言った。


「そうなんですか……?胸がどきどきするのは……人を殴りたいってこと?なんだか少し違う気がするんですけど……」黒蓮は首を傾げた。


「絶対そうよ!胸がどきどきして、顔が赤くなって、手足が震えるのは、『腹が立って殴りたい』っていう証拠なの!!」


「……」黒蓮は考え込んでしまった。「何か違う気がする……」


「ところで、あの人はどんな人なんですか?あの人の過去が……気になります!」黒蓮は桜色の拳をぎゅっと握り、瞳を興味深そうに輝かせた。


「知らない。とにかく私の印象では、一日中復讐を口にして、頭の中が恨みでいっぱいのポーカーフェイスよ」ここぞという場面で、ウェルズが何かにつけて口にする復讐の話を思い出し、彼女はふんと鼻を鳴らした。


「私は……あの人の表情には、うら寂しくて孤独な美しさがあると思うんです……」黒蓮は細い声で呟いた。


「何て言ったの……?」


「いえ……何でも……」彼女は慌てて首を振って否定した。「あの人のこと、もっと知っていますか?」


「ええ、あいつの悪いところなら、三日三晩だって語れるわ!心配しないで、腕時計を直しながら教えてあげる……」


彼女は丁寧に腕時計を修理しながら、黒蓮にウェルズの過去を語って聞かせた。


「初めて会った時、あいつは貧乏くさい小僧で、杖も買えないほど貧乏だったのよ」


「貧しくても、志が高いんですね!それに何でもできるなんて、すごい」黒蓮は二人の初めての出会いを聞いて、感じ入ったように言った。


「それからね、軍営を奇襲した時は、別行動なんてして、いちばん大事な情報を危うく見逃すところだったのよ!」


「勇猛果敢……たった一人で深く踏み込むなんて、本当に勇気がある!……」


「そういう問題はまだいいとして、あの人は一日中、世を憎み人を憎むようなことを言って、自分は悪人だとか言って、訳の分からないことをするのよ」


「闇の仲間、復讐の光環をまとって、本当に格好いい~~」


遠くで瞑想していたウェルズが、くしゃみを一つした。


二人はこうして、まるで噛み合わない会話のうちに一晩を過ごした。

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