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空間魔導書と少年魔法使い  作者: atu78963254
絶域城の旅編
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第十五章 捕食

薄暗い哨所の広場。石畳の道の裂け目には、先ほどの激戦の余熱がまだ残っていた。


あの蛍光青色の肉塊がオーロラの肩にぶつかった瞬間、フリーデの目には、時間が凍りついたかのように映った。


透明な蛍光青色の粘液の中で、無数の細かな肉芽が蠢いている。それは貪欲な口のように、オーロラの肩から見る間に広がっていった。定まった形はないくせに付着力は凄まじく、瞬く間に彼女の肌を覆い尽くした。


オーロラは悲鳴を上げる暇さえなく、意識を失って倒れた。


「オーロラ!」


フリーデが蹴った足元の敷石に、一筋の亀裂が走った。


残像と化して駆け寄り、親友の腕を掴もうと手を伸ばす。


指先が触れたのは、慣れ親しんだ人肌ではなかった。一歩遅かったのだ。オーロラの全身は、すでに蛍光青色の軟泥に包まれていた。ぬるりと冷たく、不気味な弾力を帯びた半透明の物質だった。


粘液は生き物のように、指の関節を伝って這い上がってくる。


フリーデははっと手を引いた。瞳孔が針の先ほどに縮む。前回侵食されたときのことを思い出し、剣を振るって、粘液のついた部分を削ぎ落とした。


「下がれ!」傍らから、驚愕の滲んだグスタフの怒号が飛んだ。


なおも迫ろうとする詭妖を、一太刀で斬り捨てる。黒いコートが乱れ狂う魔力の旋風にはためき、影の落ちた顔はこわばりきっていた。


それまで狂ったように襲いかかっていた周囲の詭妖たちが、この瞬間、あろうことか一斉に動きを止め、ばらばらに崩れ去った。どうやら奴らはただの囮で、本体をオーロラと結合させるための存在だったらしい。


もはやオーロラの体はどこにも見えなかった。巨大な軟泥の塊が蠢いているだけだ。愛らしい少女だったオーロラと、あの残忍な詭妖は、すでに融合して一つになっていた。


「これは……融合しているのか?」長剣を杖にしたグスタフの胸が、激しく上下している。その目は驚愕に満ちていた。


無数の怪物を見てきた彼も、生きた人間を丸ごと呑み込む光景を目にするのは初めてだった。


「直ちにそれを消滅させろ!」グスタフが低く吼えた。


混乱の中で哨所の広場の魔法灯はすべて消え、オーロラを包み込んだ蛍光青色の軟泥だけが、幽かな光を放っていた。


温かみなど微塵もない、何かの病原体のように冷たい光が、フリーデの白い頬を照らしている。


巨大な液状の塊は、規則正しく収縮と膨張を繰り返していた。


「こいつはもう彼女を殺しています!」グスタフは低く言い放つと、一歩踏み出して長剣を高く掲げた。刃に深い青の冷光が流れ、絶え間なく脈打つ軟泥の核心へと狙いを定める。


「これ以上融合を続けさせるわけにはいかない。万一この怪物がより強大なものに進化すれば、この哨所は持ちません!」


剣が振り下ろされようとしたその刹那、甲高い音が響いた。耳で聞く音ではない。後頭部で直接炸裂する、刺すような痛みだった。


「止まれ……愚かな……猿め……!」


濃厚な悪意と焦燥をはらんだ精神波動に、周囲の負傷した衛兵が何人も頭を抱えてうずくまり、鼻から黒ずんだ赤い血を滲ませた。


フリーデはとっさに右手を伸ばし、グスタフの剣の鍔をがっちりと押さえた。


手のひらに、剣身の激しい震えと、怒りに張りつめたグスタフの腕の力が伝わってくる。


「やめてください、グスタフさん。その一太刀を振り下ろせば、彼女は死んでしまいます!」フリーデは緊迫した声で叫んだ。


「彼女はもう死んでいます」グスタフは顔を横に向け、冷ややかに答えた。


「でも!」寝食を共にしてきた仲間がこんなふうに死んだなんて、フリーデには信じられなかった。


蛍光青色の軟泥は活路を嗅ぎつけたかのように、いっそう激しく蠢くと、傷口のような裂け目を開いて紫の霧を大量に噴き出した。


「取引をしよう……人間の指導者よ」あの、小石でガラスを擦るようなしゃがれた精神波動が、再び響いてきた。


「私に融合を許せ……そうすれば『虫の森』と呼ばれるあれの座標と弱点を、お前たちに教えてやる……あれはお前たちには絶対に太刀打ちできない災厄だ……あれがどこにあるか、どうやって入るか……弱点がどこにあるか、知っているのは私だけだ」


グスタフの剣先がわずかに下がる。光を放つ粘液を見つめ、それから傍らに立つフリーデに目をやった。


「オーロラがまだ生きていると、保証できるのか」グスタフは軟泥に向かって問うた。


「彼女は眠っている……彼女は消える……彼女の魂は私の一部となる……これはこの上ない光栄だ……詭妖同士が互いに喰らい合う、それが我々の次元界の法則だ」怪物の意識には、歪んだ喜悦がにじんでいた。純然たる略奪者の思考だ。


「彼女は詭妖なの?」フリーデはすかさず要点を突いた。


「そうだ……詭妖同士は互いに喰らい合うことを好む……彼女はこの世界の原住民だが、明らかに詭妖を一体喰らったことがある。今の彼女はもう、お前たち愚かな猿ではない……彼女を喰らえば、私は四階の上位存在となって昇級を果たせる……」


グスタフは黙り込んだ。虫の森に関するその情報のためなら、もう助からないかもしれない少女一人を犠牲にするのは割に合う——理性はそう告げていた。


フリーデは手を離した。魔導書の化身である彼女には、さまざまな観測能力が備わっている。


窺秘の眼(アーケイン・アイ)を発動すると、視界に映るのはもはやただの粘液ではなく、無数に入り乱れ、互いを侵食し合う魔法の線だった。


蛍光青色のエネルギーが、金色の核心へと少しずつ染み込んでいくのが見える。その核心は弱々しいが、まだ消えてはいなかった。


「彼女を犠牲にする必要はありません」フリーデは前へ二歩進んだ。「オーロラは私の友達です。絶対に見捨てません。今はこの怪物の意識が優勢ですが、彼女を目覚めさせさえすれば、逆にこいつを呑み込めます。こいつの知っていることもすべて、オーロラのものになります」


「そんなことが可能なのですか?相手は界外の恐るべき怪物ですよ。オーロラが勝てると?」グスタフは戸惑い、信じがたいという顔をした。


「方法はあります」フリーデは蛍光青色の軟泥の前に片膝をつき、魔法の準備を始めた。


グスタフの親衛兵たちは、後始末と負傷者の治療に向かった。


「ちゃんと目を覚ましてよ……!」


フリーデは小さく呟いて両手を掲げ、十本の指で宙に白い魔法陣を織り上げた。穏やかな詠唱とともに、柔らかな白光が広がっていく。


「浄化の風よ、この場の毒を消し去れ。」


第一の光は「毒素消解」だった。


白光は無数の細かな光の粒となり、水に潜る蛍のように、ぬめる蛍光青色の外殻を突き抜けた。白光に触れた瞬間、液体は焼けた鉄塊を水に浸したようなジュウッという音を立てた。


「詭妖が捕食の際に放った毒素で、オーロラの意識は朦朧としています。まず彼女を目覚めさせなければ、抵抗することもできません」フリーデは言った。


毒素が抑え込まれたその瞬間、軟泥の内部の精神波動が異様なほど荒れ狂った。


鋭い精神の絶叫が広がり、広場の砕けた敷石がかたかたと震えた。


「失せろ!彼女は私のものだ……私の食料!私の昇級だ!」


その攻撃も、フリーデを傷つけるには至らない。精神波動の生んだ風圧に、銀髪が乱れ舞うだけだった。


「少し静かにして」


フリーデは片手を伸ばし、指先を軟泥の冷たい表皮に当てた。


「秩序の名において、揺らぐ魂を鎮めよ。」


第二の法術は「精神安定」。怪物を攻撃するためのものではない。オーロラを後押しし、もつれ合う意識の中で彼女が踏みとどまれるよう支えるためのものだ。


「オーロラ」そっと呼びかける。どうか届いてほしいと願いながら。


「起きて、オーロラ。これ以上寝てたら、天下一の美少女でいられなくなっちゃうよ。今起きないと、グスタフのやつがあなたを剣で斬っちゃうんだから」


白い安定の光が、オーロラの意識の部分を包み込む。形勢不利を悟った軟泥は狂ったように精神衝撃を放ち、フリーデの干渉を崩そうとしたが、当のフリーデは眉一つ動かさなかった。


これほどの衝撃となれば、五、六階の神術師でさえ無事で済むとは言い切れない。


「増幅せよ……意志!」


最後に、フリーデは増幅魔法「意志増幅」を放った。オーロラの意志を強め、意識の戦場で敵を引き裂く一振りの剣を握らせる魔法だ。


「意志増幅」がフリーデの指先から冷たい粘液の中へ染み込んでいったとき、オーロラの意識の海では、声なき凄惨な死闘が繰り広げられていた。


そこは光の射さない粘つく湖だった。空気は錆びた鉄片が擦れ合う雑音に満ちている。オーロラの手足は湿った冷たい絹に幾重にも絡め取られたようで、もがくたびに、粘液が毛穴から、目尻から、果ては気道にまで無理やり押し入ってくる。


目の前の詭妖の主体は、もはや不定形の軟泥ではない。歪んだ、全身を複眼に覆われた半透明の人影で、優に三メートルはある。その一つ一つの眼が貪欲な蛍光紫の光を宿し、高みから彼女を見下ろしていた。


「諦めろ……可愛い小さなおやつよ」詭妖の声は意識の海の中で、重い槌で太鼓を打つように響いた。「お前を喰らって私はより強くなる。互いに喰らい合う、それが我々詭妖の宿命だ……」


オーロラは今にも気を失いそうなほど弱りきり、視界は霞んでいた。神経毒素が、自己の認識を蝕んでいるのだ。手を伸ばすと、指先が少しずつ溶け、周囲と同じ蛍光青色の液体に変わっていくのが分かった。


意識が暗い湖の底へ沈みかけたそのとき、それぞれまったく異なる三筋の純白の光が灰色の空を切り裂き、彼女の魂へまっすぐ降り注いだ。


光とともに届いたのは、フリーデの声だった。真摯さの中に揺るぎない意志を宿したその声が、幾重もの霧を貫いていく。


「起きて、オーロラ!」


オーロラはびくりと身を震わせた。第一の光「毒素消解」が弾け、頭の中のねばつく痺れが、涼やかな風に吹き払われる。体内に潜り込もうとしていた蛍光青色の毒素は、火に触れた雪のようにみるみる退いていった。


続いて、第二の「精神安定」が幾重もの銀色の波紋となって広がり、周囲の喧騒を鎮めていく。思考を掻き乱していた狂気の囈語も、今ではかすかな虫の音にしか聞こえなかった。


そして最後に、深い闇の中で、「意志増幅」の力によって一振りの銀白の十字長剣が、溶けかけたオーロラの手に具現した。冷たい輝きが凛と冴えわたる。


虚ろだったオーロラの眼差しが、再び焦点を結ぶ。この剣は、フリーデが現実で握っているものと寸分違わない。柄の冷たい感触に、全身がぞくりと震えた。最もよく知っている、親友の気配だった。


「……そうだった」オーロラは柄を握りしめ、粘つく意識の湖面を両足で力いっぱい蹴った。透明になりかけていたふくらはぎが、白い実体の質感を取り戻す。「あたしは天下一の美少女になる女なんだから、あんたみたいな賞味期限切れの青いゼリーに食べられてたまるもんですか!」


詭妖は怒り狂った精神の咆哮を上げ、腐食性の紫の光をまとった巨大な爪を、オーロラめがけて振り下ろした。


オーロラは退かない。銀色の長剣を振るうと、刃が虚空を裂き、闇に目を刺すような白い軌跡を刻んだ。


「ザシュッ——!」


刃は詭妖の半透明の腕をたやすく切り裂いた。傷口から流れ出たのは血ではなく、この怪物自身のエネルギーだった。


詭妖の顔に恐怖が浮かんだ。相手の剣は自分の体を切り裂くだけでなく、自分の能力を貪るように奪い取っている——そう感じたのだ。オーロラが剣を振るうたび、その姿はいっそう確かな実体を帯び、詭妖はますます薄れていった。


「否……あり得ない!お前のような脆弱な猿ごときが、なぜ……!」


「食欲旺盛だからに決まってるでしょ!」オーロラが可愛らしく一喝する。金髪が意識の海の嵐に舞い上がり、その両眼はもはや澄んだ青ではなかった。詭妖のそれに似た、だがはるかに猛々しい紫の光に染まっていた。


攻守は逆転した。オーロラは巨大な複眼の人影へまっすぐ躍りかかる。フリーデの意志が凝り固まった長剣が銀の嵐と化し、詭妖の防護を次々に引き裂いていった。


オーロラは手を開いた。切り刻まれた蛍光青色のエネルギーが、巣に帰る小魚の群れのように、先を争って彼女の胸へ潜り込んでくる。詭妖の記憶の欠片、魔法の知識、そして「虫の森」への恐怖が、洪水のように彼女の脳裏へ逆流してきた。


激しく膨れ上がるような痛みが走ったが、オーロラは歯を食いしばり、膨大なエネルギーのすべてを力ずくで自らの意志の下にねじ伏せた。


現実の哨所の広場では、見守っていた兵士たちが驚きの声を上げた。


巨大な蛍光青色の軟泥が、不意に外への膨張を止めた。その色は数秒のうちに劇的に移り変わり、深い青から淡い紫へ、最後には金属の光沢を帯びた深い黒紫へと変じた。


柔らかな表面が硬化しはじめ、交錯する幾筋もの金色の符文(ふもん)の鎖が生えて、液体をきつく縛り上げ、巨大な繭へと変えた。繭は規則正しく脈打つ。「ドクン——ドクン——」と、その鼓動のたびに四階の巓峰に迫る圧迫感が放たれ、見る者の胸を締めつけた。


フリーデはなお繭の前に片膝をつき、指先を繭の殻に当てたままだった。スカートの裾は噴き出す気流にはためいていたが、金色の瞳は恐ろしいほど凪いでいた。まるでこの結果をとうに見越していたかのように。


グスタフは長剣を提げたまま足早に近づき、繭から五歩の位置で立ち止まった。強大な気配を放つ黒紫の大繭を見つめる目には、警戒と深い畏怖が満ちていた。


「……オーロラは、まだ中にいるのですか」その声はいくらか掠れていた。


「彼女は今、あの『ごちそう』を食べているところです」フリーデはゆっくりと立ち上がってスカートの埃を払い、ついでに垂れた銀髪のひと房を耳にかけた。「消化し終えたら、『虫の森』についての情報は彼女自身があなたに話します。今は、これを地下の封印監獄へ運んでください。ここでは目立ちすぎます」


「……目を覚ました彼女が、あのおやつ好きの小娘のままだと、確信できるのですか」グスタフの手は、なおも柄から離れていなかった。


フリーデは小首を傾げてグスタフを見やり、それから微かに熱を帯びた繭へと視線を落とした。


「あなたが心配しているのがそれなら、今すぐこれを斬り捨てても構いません」フリーデは落ち着いて言った。「ですが、生きて情報を手に入れたいのなら、私の言うとおりにしてください。目を覚ましたオーロラが最初に食べたがるものは、絶対にあなたの肉ではありません」

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