第十三章 虫の森
一行は、薄暗い死地をなおも進み続けていた。
無序空間の空は、いつも灰色の霧に覆われている。陽光は分厚い布で大半を濾し取られたかのようで、地面に届く頃には惨澹たる微光しか残っていない。陰気な風が絶え間なく吹きつけ、時折、黒い砂を巻き上げる狂風が吹き荒れた。
「今の速さだと、二つ目の哨所まではまだ六時間くらいかかるわね。着く頃には、もう日が暮れてるんじゃない?」
オーロラは愚痴をこぼしながら、風に乱された金髪を手でかき上げた。
「髪の中に砂が吹き込んでくる感じ、ほんとに気持ち悪い」
「二つ目の哨所に着いたら、そこで野営して休むことになるはずよね。そのときは絶対、ゆっくり熱いお風呂に入らなきゃ」
そこまで言うと、先ほどの戦闘で体力を使いすぎたのか、オーロラは空間の指輪からまたジャムパンを取り出してかじり始めた。
「こんな砂嵐の中で食べたら……砂まで食べることにならない?」フリーデはその様子を見て、つい気になって尋ねた。
「そりゃ砂も食べちゃうわよ……でも仕方ないでしょ!お腹を満たすのは、この天才美少女様にとって人生の最重要事項なんだから。これくらいの我慢はどうってことないわ」彼女はお手上げとばかりに肩をすくめた。
道中、風の唸りと時折出くわす低階の魔物のほかには、これといったことは何も起こらなかった。
隊列がさらに三時間余り進んだ頃、ふわりと白光を放つ空間の裂け目が、進路の脇に唐突に現れた。無序空間ではよく見られる空間法則の乱れであり、隊員の大半は一瞥しただけで気にも留めなかった。
「わあ、すっごく大きな空間の裂け目!」
オーロラは足を止め、その裂け目に目を向けた。
鮮やかな白光を放つその裂け目は、城門を三つ並べたほどの幅があった。裂け目の縁は、周囲の空間の波動に合わせてかすかに歪んでいる。
無序空間ではこの種の異常が頻繁に生じるとはいえ、これほど規模が大きく、かつ安定した裂け目は、やはり極めて珍しかった。
オーロラの隣を歩いていたフリーデも足を止め、目を閉じて周囲の空間の波動を丹念に探った。
鋭い感覚が捉えたのは、この付近の空間護膜が異常なほど薄くなっているという事実だった。つまりここでは、空間系魔法が外界よりも容易に強い効果を発揮できる——正常な空間では十キロしか転送できない転送門でも、無序空間内なら十五キロという限界まで届きうるのだ。
「隊長のグスタフさん」フリーデが不意に口を開き、先頭を歩く男を呼び止めた。「この空間の裂け目を利用すれば、隊ごと転移できると考えます」
「野生の空間の裂け目を転移に使うことが一般に推奨されないのは、その『内部安定性』と『持続時間』が予測できないからです。でも、その点なら今の私が解決できます」
フリーデは静かに説明した。「さっき、エネルギー散逸の周波数から推算しました。この裂け目のエネルギーは、少なくともあと二日は持ちます。そこへ私が高階の空間安定化魔法をいくつか重ねてかければ、絶対に安全な臨時の転送通路になります」
「この裂け目の空間曲率から計算すると、ここを通り抜ければ、二十キロ近い道のりを短縮できます」
グスタフは足を止め、振り返ってフリーデをじっと見つめた。
「……確かに、良い提案です」
彼は手を上げて隊列を止めた。続いて隊の魔法使い数名を前に出し、フリーデの空間補強作業を手伝わせた。
絶域城で暮らし、あるいは学ぶ魔法使いは、多かれ少なかれ空間魔法をかじっている。フリーデが精密に魔力を導き、陣法を主導したことで、臨時転送門の補強作業はほどなく滞りなく終わった。
「よし。全員準備、空間の裂け目を通過する」
確認を終えると、先頭のグスタフはためらうことなく、真っ先に白光を放つ裂け目へと踏み込んだ。
フリーデもすぐ後に続いた。
まばゆい白光が視界を呑み込んだ。数秒ほどして白光が薄れていくと、フリーデの目の前に広がっていたのは、やはり無序空間の灰暗く死に絶えた荒野だった。
「転送座標にずれはありません。出口付近にも危険は感知されません」フリーデは素早く探知魔法を放って方位を確認し、後方へ報告した。
続いて、隊の面々も次々と空間の裂け目から歩み出てきた。
「やったわ!これで少なくとも二時間以上は歩かずに済んだわね!」門扉から出てきたオーロラは嬉しそうにフリーデの隣へやって来ると、自分の頭を軽く叩いた。「でも……転移って、ちょっとくらくらするわね」
「全員、状況を報告せよ!異常がなければ、直ちに進路を修正し、さらに奥へ進む」
グスタフは隊列の先頭に立ち、振り返って人数を数えた。全員が無事に到着したことを確認すると、転移によって行程を大幅に短縮したこの捜索隊は、羅針盤の座標指示に従って主要通路へ戻り、第二哨所の方角へ全速で前進した。
しかし、ようやく第二哨所の付近にたどり着いた彼らを待っていたのは、この世の地獄さながらの、おぞましい光景だった。
隊列は、哨所からまだ距離のある小高い丘の上で足を止めた。ここからなら、哨所全体とその周囲を見下ろすことができる。
眼前の光景をはっきり捉えた瞬間、誰もが息を呑んだ。常に沈着で冷酷なグスタフでさえ、驚愕の色を隠せなかった。
「これは一体……何なんだ?」若い二階の戦士が、震える声で言った。
見れば、第二哨所の外周に広がる大地が、吐き気を催すほど巨大な虫族の巣と化していたのだ!
暗緑色の粘液、蠕動する軟体組織、そして悪臭を放つ巨大な糸の網が、何かの生き物のように地表全体を覆い尽くしている。その汚穢の温床の上を、巨大な奇形の虫型魔物が無数に徘徊し、繁殖を続けていた。
地面を埋め尽くして蠢く粘液と虫の卵を前に、普段は無表情なフリーデでさえ、本能的に身の毛がよだった。
「みんな、慌てないで!この哨所はまだ落ちてない……!」
目ざといオーロラが前方を指して叫んだ。その指の先を目で追うと、高くそびえる哨所の防壁は、地面の軟体粘液に覆われていなかった。
暗緑色の粘液が壁面を這い上がって哨所の内部を汚染しようとするたびに、哨所頂部の防御塔から中型火元素が数体召喚される。灼熱の炎が天から降り注ぎ、一線を越えようとする粘液を灰燼に帰していた。
「どうやら、この怪物たちは炎をひどく恐れているみたいね」オーロラは素早く敵の弱点を分析した。
「直ちにこの汚穢を掃討し、血路を開いて哨所内へ入り、閉じ込められた人員と連絡を取る!」
先頭に立つグスタフは敵の数と危険度を素早く見定め、果断に作戦命令を下した。
虫の群れは驚くほどの数で、見た目もおぞましい。だがこの捜索隊は、虹湾王国が今すぐに送り出せる最強の精鋭戦力と言っていい。炎を恐れる低階の怪物など、物の数ではなかった。
「聞け!全員、『三人編隊』を単位として行動せよ!主目標は地表の低階の虫群と粘液汚染の掃討だ!」
「隊を二つの梯団に分け、汚染区域の外周から、火炎魔法で包囲して焼き払え!持ちこたえられないと感じた小隊は、直ちに後退せよ!こんな場所で無駄な死傷者を見たくはない、分かったか!」
「はっ!」
命令が下るや、隊列は素早く組み直された。グスタフは長剣を提げ、大股でフリーデとオーロラのもとへ歩み寄った。
「君たち二人は、私と一組になってもらいます。我々は突撃の先鋒として、正面から防衛線を切り裂き、最も体躯の大きな危険な魔物を受け持ちます」
「問題ないわ」オーロラは自信ありげに頷いた。
「三人編隊」は軍隊でも最も古く、かつ最も実用的な戦闘陣形の一つで、フリーデも図書館の兵法書で読んだことがあった。持魔者一名と魔法使い二名で構成され、持魔者は最前線で盾役と物理火力を担う。魔法使いの一人は増幅と防御の魔法で支援し、もう一人は後方から最大の魔法火力を注ぎ込む。
隊全体の鋒矢として、三人組は真っ先に丘を駆け下りた!
「死んじゃえ!気持ち悪い虫ども!」
後ろに続くオーロラが杖を高く掲げ、素早く呪文を唱え終える。直径一メートルを超える灼熱の大火球が、流星のように粘液まみれの虫群の中心へ叩き込まれた!
「ドオォン——!!」
炎が爆ぜ広がる!凄まじい高温を帯びた烈火が、汚染された広大な土地を瞬く間に浄化していく。汚泥に潜んでいた奇形の長虫たちはたちまち燃え上がり、耳障りな悲鳴を上げてのたうち回ったかと思うと、ほどなく黒焦げの炭と化した。
「『初級火防』……『増速致勝』……それから『毒発遅延』も、一緒にかけておこう」
陣形の中央に位置するフリーデも手を休めてはいない。冷静に手を上げると、高階の増幅魔法と防御魔法を立て続けに、寸分違わず三人へ施していった。
「初級火防」は実用的な三階魔法で、受術者は地表の炎の高温をほぼ無視できる。この防護があれば、たとえグスタフがオーロラの生み出した火の海に踏み込んで戦おうと、火傷一つ負うことはない。
魔法による全面的な増幅を受けた四階持魔者のグスタフは、まさに鬼に金棒だった。
彼は躊躇なく燃え盛る火の海へ飛び込み、冷酷な殺戮神さながらに虫群の中へ斬り込んだ。
無数の奇怪な巨大虫が咆哮を上げ、長く鋭い爪と毒牙の並ぶ口器を振りかざして彼に襲いかかった。だがグスタフは微塵も動じない。両手で剣を握り、簡潔で鮮やかな「斜斬」一つで、子牛ほどもある甲虫を殻もろとも真っ二つに叩き割った!
冷徹で精密な剣術の前に、低階の虫群はまるで脆い紙切れのように容易く砕け散っていく。自らの強大な四階の「象徴能力」すら、使うまでもないと言わんばかりだった。
一方、陣形の最後尾にいるオーロラは、移動する魔法砲塔と化していた。
杖の先に灯る赤い光は、ほとんど途切れることがない。火球術が次から次へと、惜しげもなく四方八方へ叩きつけられる。その姿はまるで、刈り入れの済んだ乾いた田んぼへ松明を手に駆け込み、好き勝手に火をつけて回っては、風が散らばった火種をつないで一面の大火にしてくれるのを待つ、悪戯っ子のようだった。
同じ頃、外周で包囲を受け持つ捜索隊員たちも行動を開始していた。
彼らは左右両翼に分かれ、虫の巣の縁に沿って魔法を放ち続けた。ある者は各種の火元素の精霊や、烈火を吐く低階の亜竜魔獣を召喚して焼き払い、風系魔法に長けた魔法使いたちは強力な「風鷹」を召喚して戦場の風向きを正確に操り、火勢を虫の巣の中心部へと押し広げていった。
「見ろ!あれは……王都からの援軍か!?」
「なんてことだ!先頭で突撃しているあの後ろ姿……グスタフ様だ!」
「やった!助かった!俺たちは助かったぞ!!」
「突っ立って高みの見物をしている場合じゃないぞ!魔力の残っている者を全員、城壁の上に呼べ!魔法でグスタフ様たちの突破を援護するんだ!」
城壁の外で繰り広げられる凄まじい戦いを目にして、絶望に沈んでいた哨所の駐留人員たちの目に、再び生への希望が灯った。彼らは勇んで城壁の防御塔へ駆け上がると、高みから次々と火炎魔法を放ち、下の捜索隊と呼応して虫群を激しく挟み撃ちにした!
この一方的な殺戮と焼却は、およそ二十分続いた。
オーロラが息を切らしながら最後の火球を叩き込んだとき、三人組はついに虫の巣を貫き、火の海を抜けて、固く閉ざされた哨所の金属の大扉の前にたどり着いた。
彼らの背後では、あれほどおぞましかった虫族の温床が、今や轟々と燃え盛る烈火の海と化していた。風系の魔法使いが意図的に誘導しているため、炎は虫の巣の内側へと収束しながら燃え続け、やがてあらゆる汚穢の痕跡を灰へと浄化していく。哨所の分厚い石壁に燃え移る心配はまったくなかった。
「ふう……なんて盛大なキャンプファイアなの!王都で一番賑やかな建国記念日の大典でも、こんなに壮観な火なんて見たことないわ」
オーロラは白く柔らかな手の甲で額ににじんだ玉の汗を拭い、自分の「傑作」を眺めて満足げに笑った。
何しろ、十数名の精鋭魔法使いが総がかりで撃ち込んで生まれた壮観なのだから。
「全員、その場で三十分休憩!外周の炎が虫の巣を焼き尽くすのを待て!二小隊を割き、交代で周囲を警戒せよ!」
グスタフは長剣を収め、次々と合流してくる隊員たちに向き直って新たな指示を下した。「火が消えたら、直ちにしらみつぶしに捜索し、討ち漏らした残党をすべて始末せよ!安全を確認した後、哨所へ入って閉じ込められた者たちと合流する!」
休憩の許可が出ると、疲れたオーロラは杖を振り、高階の「念動力」魔法を放った。見えない念動力を圧縮して柔らかな空気のソファを作り、心地よさそうに身を沈める。
フリーデはその隣に立ち、贅沢な魔法の使い方を眺めながら、少し不思議そうに尋ねた。
「さっきあれだけ火球を放ったのに、今度は念動力を椅子にするなんて……そんなふうに魔力を使い続けたら、余計に疲れない?」
「大丈夫大丈夫!この天才美少女様の魔力量は底なしなんだから!これくらいの消耗なんて何でもないし、この程度の念動力なら、維持するのに集中力なんてこれっぽっちも要らないわ」
彼女は得意げに笑うと、空間の指輪から分厚い魔法書を取り出し、扇代わりにして軽くあおいだ。もっとも、あおいでいる相手は自分ではなく、隣に立つフリーデだった。
「あなたもさっきからずっと増幅魔法をかけてくれてたんだから、疲れたでしょ?座ってあたしと一緒に休みなさいよ!」
「いえ、私は立ったままでいい。気持ちだけ受け取っておく、ありがとう」フリーデは軽く首を振った。何しろ魔導書の化身である彼女は肉体的な疲労をまったく感じないのだから、オーロラに無駄な魔力を使わせてまで念動力の範囲を広げてもらう必要はない。
オーロラが念動力で「空気のソファ」を作るのを見て、隊の若い魔法使い数名もその手を格好いいと思ったらしく、次々と見よう見まねで試し始めた。
だが高階魔法使いの精緻な魔力制御は、明らかに二階の魔法使いたちの及ぶところではなかった。彼らは数分ほど無理をして座っていたものの、魔法構造を保つために絶えず意識を割かねばならず、やがて目を回して断念し、砂塵まみれの地面におとなしく腰を下ろすほかなかった。
三十分の休憩時間は、瞬く間に過ぎ去った。
草一本生えず、燃えるものにも乏しいこの荒野では、虫群と粘液を焼き尽くした炎は、ほどなくひとりでに消えていった。
隊は再編され、区域ごとに分かれて残敵の掃討にあたった。虫が一匹も残っていないことを確かめると、彼らはようやく哨所の大門の前に立った。
重い金属の落とし門がゆっくりと上がった。捜索隊が哨所の内部へ足を踏み入れると、何日も閉じ込められていた者たちは皆、感極まって目に涙を浮かべ、九死に一生を得た歓声を爆発させた!
「助かった!俺たちは本当に助かったんだ!」
「神に感謝を……やっと生きて女房のもとへ帰れる……!」
「うう……誓う、もう一生、無序空間の研究依頼なんて受けない……!」
感激の歓声の中、標準的な学者のローブをまとい、髪も髭も真っ白な老人が、よろめく足取りで出迎えに来た。彼は熱意と敬意のこもった態度で、先頭のグスタフに深々と頭を下げた。
「救援、誠にありがとうございます!王令代行者様!私はこの第二哨所の最高責任者兼管理者、アンジェロと申します。お名前はかねがね伺っておりましたが、本日お目にかかり、その雄姿はまさしく噂に違わず天下無双でございますな!ここに閉じ込められている間、ほとんど誰もが昼夜を問わず、あなた様のお出ましを祈っておりました!」
「アンジェロ殿、過分なお言葉です。当然の務めを果たしたまでです」グスタフは軽く頷き、素早く哨所内部の様子を見回してから、冷静に言った。「部下たちは長い行軍と戦闘を経て、皆すでに疲れ切っています。まずは休息の場所と補給を手配してください。ここで何が起きたのか、詳しいことは管理所で伺いましょう」
「もちろん!もちろんでございます!」アンジェロ老人は慌てて振り返り、傍らの助手に二言三言言いつけると、恭しくグスタフに「どうぞ」と手で示した。「王令代行者様、管理所へご案内いたします」
「待って!あたしも事の経緯を聞きたい!」
二人が管理所へ向かおうとし、周囲の隊員たちも解散して休もうとしていたそのとき、オーロラが突然「空気のソファ」から飛び降り、足早に後を追った。
「ええと、これは……グスタフ様?こちらのお嬢さんは……あなた様のご意向は?」
突然現れたうえ、堂々と同席を求めてくる年若い少女に、アンジェロ老人は面食らった。
「構いません。同行させましょう。彼女の感知能力が役に立つかもしれません」グスタフは淡々と答えた。
「それなら、私も連れて行ってください」フリーデもそれを見るや、迷わず後に続いた。哨所が連絡を絶った真相は、自分の過去と無関係ではない——そんな直感があったのだ。
グスタフは拒まず、二人の少女を連れてアンジェロに従い、哨所の管理所へやって来た。
そこは広いとは言えないが、各種の計器と書類綴りでぎっしり埋まった事務室だった。壁際の書棚には歴年の観測データが整然と並び、隅に置かれた金属の籠の中では、愛らしい光る白鼠が元気よく回し車を回していた。
アンジェロは事務机の前へ歩み寄った。机の上には分厚い文書、観測日誌、倉庫の棚卸表が乱雑に積み上げられている。どうやらこの老学者は、最悪の事態まで覚悟していたらしい——たとえ要塞が本当に陥落しようとも、貴重な研究資料を整理して、いつか来る救援者に託すつもりで。
アンジェロは溜息をつき、椅子を引いて腰を下ろした。「さて……どこからお話しすればよいでしょうか。およそ二週間前に起きた、最初の異変からお話しいたしましょう」
「当番の管理者として、その日私はこの事務室で最新の空間波動データを整理しておりました。今年はまったくついていない、当直のせいでまた絶域城の年に一度の祭礼節を逃してしまう、などと内心ぼやいておりまして……」
「ところが、その日の午後、『第三哨所』に駐在していた十数名の研究員が、突然、全身血まみれで、慌てふためいて我々のもとへ逃げ込んできたのです。彼らは怯えながら私に告げました。自分たちの哨所は、突如として降臨した『虫の森』に、完全に占領されてしまった、と!」
「虫の森?」グスタフは眉をひそめた。
「はい。逃げてきた魔法使いたちの話では、彼らの哨所の外周から二キロほどの場所に、何の前触れもなく巨大な空間の裂け目が現れたそうです」
「初めのうち、誰もその裂け目を気に留めませんでした。何しろ無序空間などという忌まわしい場所では、空間の裂け目など日常茶飯事ですから。ところが……彼らが逃げ出す数時間前、醜悪で巨大な緑色の怪虫の大群が、突如あの裂け目から潮のように溢れ出し、第三哨所へ極めて組織的な猛攻を仕掛けたのです!」
「あまりに突然のことで、第三哨所の死傷は甚大でした。指揮を執る防衛隊長は、あの数の虫群には到底太刀打ちできないと判断し、哨所の放棄を命じて、生き残った人員を連れて逃げに逃げ、ようやく我々の第二哨所へ庇護を求めてたどり着いたのです」
「あの裂け目から溢れ出してきた怪物?そんなこと、どんな生態記録でも見たことがないわ」オーロラは怪訝な顔で言った。
「私も当時はそう思いました」アンジェロは苦笑して首を振った。「真相を突き止めるため、私は人手を三手に分けました。一つ、最速で絶域城へ戻り、市庁に報告して救援を求める者を出す。二つ、精鋭の斥候小隊を出し、密かに第三哨所へ戻って敵情を偵察させる。三つ、全員を組織して第二哨所の防御工事を全面的に強化する。残念ながら、一つ目の使者は出発したきり音沙汰がなく、おそらく無序空間を出ることができなかったのでしょう」
「何しろ、皆様もご存じの通り、無序空間の中に哨所を一つ建てるのに要する資金は、まさに天文学的な数字です!万一もう一つ哨所を失えば、報告書しか見ない王都の貴族のお偉方が、再建の予算を出してくださるとは限りません。そうなれば、私の生涯の研究の成果は、完全に水の泡でございます」
「では、送り出した斥候小隊は、最終的に何を突き止めたのですか」グスタフは核心を突いた。
そのことに触れると、アンジェロ老人の顔色は沈み、目には恐怖の色さえよぎった。「偵察に出た若者は生きて戻りました。彼は私に、あの怪物の正体をこの目で見たと告げたのです……それは、巨大な体躯に鋭い口器と鎌状の前肢を持つ、緑色の巨大蜂でした!」
「あの巨大蜂は、よく訓練された工兵のように、空間の裂け目と占領された哨所の間を絶えず行き来しておりました。奴らは口から暗緑色の軟泥を吐き出し、哨所外部のもとの建築構造を幾重にも包み込んでいく……そう、皆様が先ほど外で片付けた、あのおぞましい粘液と同じものです!」
「それだけではありません。奴らはあの軟泥を高く積み上げ、高さ数十メートルにも及ぶ巨大な巣をいくつも築き上げるのです!そしてその中で、さまざまな機能を持つ奇形の虫類を大量に繁殖させる!」
「その巨大な巣が、まるで不気味な木々みたいに見えるから、あなたたちはそれを『虫の森』って呼んでるのね?」オーロラは合点がいった。
「はい」アンジェロは頷いた。「軟泥で築かれた巨大な塔状の巣は、頂部も底部も複雑に入り組んだ網状の構造に覆われていて、まるでガジュマルの生い茂った枝葉と、地中深く張った根のようなのです。この植物に似た巣があまりに多いものですから、我々はそれらをまとめて『虫の森』と呼んでおります」
「巣の建造を担うあの緑色の巨大蜂は、我々が『護林人』と名付けました。奴らは虫の森の体系全体において最も中核をなし、最も危険な工兵兼戦闘単位であり、しかもどうやら全て、雌雄同体の単為生殖生物のようです」
アンジェロは机の上の冷めた茶を取って一口飲み、内心の恐怖を抑えようとした。「奴らの築いた領地は極めて危険です!中は致命的な毒気に満ちているばかりか、防ぎようのない寄生型の小虫が無数に潜んでいる!さらに恐ろしいのは……この『虫の森』の面積が、日ごとに驚くべき速さで外へ広がっていることです!皆様、お分かりでしょうか、これは養分に乏しい無序空間の中での話なのです!万一奴らが空間の障壁を突破する方法を見つけ、外の正常な世界へ広がったら……それがどれほど恐ろしい大災厄になるか、私には想像することさえできません!」
「私は王令代行者として、王家の書庫にある無数の極秘文献に目を通してきました。ですが断言できます。最古の神話の残巻にさえ、このような奇怪な生物体系が記録されたことはありません」グスタフは眉を固く寄せ、深い思索に沈んだ。
「これほど侵略性と組織性を備えた生物は、この世界が自然に進化させた産物とはとても思えない。奴らが創り出された目的は、ただ自らの生態体系を世界の隅々まで無限に広げ、それを阻もうとする土着の生物をすべて冷酷に抹殺することだけにあるようだ……」
澄んで冷ややかな声が、何の前触れもなく事務室に響いた。
一同が声のした方へ目を向けると、その言葉を口にしたのは、なんとずっと黙って脇に立っていたフリーデだった。
「君は……奴らのことを知っているのですか?」グスタフは勢いよく振り向き、鷹のように鋭い両の眼で銀髪の少女をじっと睨み据えた。
「いいえ……」
フリーデ自身も呆然としていた。無意識に手で唇を覆い、その目は困惑に満ちている。なぜ自分が突然そんな言葉を口走ったのか、彼女にはまるで分からなかった。あの言葉は、魂の奥底に刻まれた本能のように、ごく自然に滑り出てきたのだ。
「たしか……昔、誰かが、私に似たようなことを言った気がする……」彼女は呟いた。
「あなたが、かつて私に言ったの?……我が主」フリーデは心の中で、とうに記憶の奥底に失われたあの姿へ、黙って問いかけた。
グスタフは彼女をじっと見つめた。その眼差しは探る色と疑いに満ちていたが、結局それ以上は問い詰めなかった。やがてアンジェロに向き直り、こう言いつけた。
「状況は把握しました。我々はここに留まり、この脅威を徹底的に解決します」
「アンジェロ殿、明朝一番に、負傷者と非戦闘員を全員連れて撤退し、絶域城へ戻ってください。哨所に残る、まだ戦える魔法使いたちは……今この時をもって、全員私が強制的に徴用します。我々は討伐隊を組み、第三哨所へ赴いて、あの『虫の森』を根こそぎにします」
「承知いたしました……!あなた様が自ら乗り出してくださるなら、我々も安心です!すぐに人をやってご命令を伝え、皆に撤退と戦闘の準備をさせます!」アンジェロは感激してしきりに頷いた。
「どうやら、彼は武力でこの脅威を強引に解決するつもりらしい。それも当然だ。もし本当に、これほど強い拡張性を持つ異界の虫族を外の世界へ蔓延させてしまえば、その結果は想像するだに恐ろしい」フリーデは心の中で、グスタフの決断を冷静に分析していた。
そのとき、オーロラが突然手を挙げ、勉強熱心な学生のように質問した。
「アンジェロさん、あたしからもう一つ質問!虫の森の発生源が第三哨所で、ここから何十キロも離れてるなら、なんでこの第二哨所が虫群に囲まれて襲われたの?」
その問いを聞くと、アンジェロ老人は重い溜息をつき、顔いっぱいにやるせなさを浮かべた。
「『ランダム転移』のせいなのです」
「ここ数日の我々の運のなさときたら、極まったものです!数日前の深夜、無序空間の中で突然、小規模な空間震盪が起きました。その結果、あろうことか、第三哨所の外周にあった『虫の森』の巣の一部が、中の虫群もろとも、我々の第二哨所の門前へそのまま『ランダム転移』されてしまったのです!」
「当時は皆眠っていて、誰も警戒などしておりませんでした。警報の音で飛び起きたときには、哨所はもう、狂ったように成長し蔓延する虫群と粘液に完全に包囲されていたのです!こうして我々は、わけも分からぬまま、自分たちの拠点に閉じ込められてしまいました」
「その間、護衛を何名も犠牲にしてまで斥候を数名強引に送り出し、包囲を破って報告に戻らせようとしたのですが……彼らは出発したきり音沙汰がありません。今日、グスタフ様が捜索隊を率いてここへ来てくださって、ようやく我々は再び外界と連絡が取れたのです」
「そういうことね……あなたたちが送り出した斥候は、たぶんみんな途中で不慮の事態に遭ったんだわ」オーロラは残念そうに溜息をついた。
「なぜそんなことに?では……第一哨所の者たちは?彼らは支援や報告のために人を寄越さなかったのですか?」アンジェロは焦って尋ねた。
「第一哨所の者たちは、すでに全滅しました」
グスタフは冷ややかにそう告げると、第一哨所で不可視の「次元奪血妖」の襲撃に遭ったこと、そして哨所全体に生存者が一人もいなかった惨劇を、簡潔に語った。
「そんな……そんなことが……!」
グスタフの話を聞き終えると、アンジェロ老人は衝撃のあまり椅子に崩れ落ち、顔色は蒼白になった。




