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空間魔導書と少年魔法使い  作者: atu78963254
絶域城の旅編
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第十二章 無序空間の探索へ

祭典が終わって三日後、フリーデはいつものように夜明けに目を覚ました。


「さようなら」


フリーデは枕元の子熊のぬいぐるみをそっと撫で、すぐに身を翻して階段を降りた。


この家を見るのは、これが最後になるかもしれない。ここにあるすべてを、丹念に見回す——一階の木のテーブルも、少し剥げかけたかまども、隅の飾り物も、何もかもが深く目に焼きついた。この家には、この世界に来てから得た、最初の、そして最も温かい思い出が詰まっていたからだ。


早起きのレシナは相変わらずあの古い作業着姿で、紡績工場へ出かけるところだった。フリーデが降りてきたのに気づくと、きちんと畳んだマフラーを両手に抱えて歩み寄ってくる。


「これ……私からあなたへの、お別れの贈り物です」彼女は優しく微笑んだ。


フリーデはマフラーを受け取って広げた。片面には、先日自分が練習で刺した黒い曼陀羅華。もう片面にも同じく黒い曼陀羅華が一輪咲いていたが、こちらはレシナの熟練した見事な手並みで刺されたものだった。二枚の布は細かな絹糸の目で完璧に縫い合わされ、まるで寄り添う二つの心のようだった。


「あなたの練習作と私の刺繍を縫い合わせたんです。これからの旅路で、私の代わりにあなたのそばにいてくれますように」レシナは小さな声で言った。「絶対に、私のことを忘れないでくださいね!」


セリーナのことが喉元まで出かかって、フリーデはまた飲み込んだ。オーロラの手紙にはまだ返事がない。証拠もない推測一つと引き換えに、レシナの顔からこの笑顔を消したくはなかった。自分が戻ってから、手紙が届いてから、それから話せばいい。


「ありがとう。私たち、きっとまた会えるから」


フリーデはその贈り物を大切に受け取り、白い首にそっと巻いて結んだ。


魔導書の化身である彼女に、本当の寒さは分からない。それでも、マフラーが首を包んだその瞬間、心の底まで届く温もりをはっきりと感じた。


フリーデは身を翻してレシナの家を後にした。戸口で足を止め、最後にもう一度振り返ってから、集合地点へ向かって歩き出した。もう振り返りはしなかった。


絶域城の北城門の外では、捜索隊がすでに出発の準備を整えていた。


虹湾王国全体を見渡しても、これほど豪華な精鋭はそうそういないと言える顔ぶれだった。率いるのは四階の持魔者が一名。これに三階魔法使い四名と二階戦闘要員十名が随行する。


彼らがこれから向き合うのは、この世界でも指折りの危険な禁区——「無序空間」である。一行の目的は空間の奥深くへ入り込み、前線観測哨所との連絡が途絶えた真の原因を突き止めることだった。


「諸君、無序空間に入ったら、各自の『防護水晶』の魔力消耗には常に気を配れ。空間内のランダム転移現象には何の規則性もない。短時間で水晶のエネルギーを搾り取られることも十分にあり得る。ひとたび防護を失えば、お前たちは一瞬で空間乱流に引き裂かれる」


隊列の先頭を歩く茶髪の男が、冷ややかな声で警告した。


旅人たちは物資の大半を空間の指輪に収めていた。見た目こそ軽装のピクニックのように気楽だったが、誰もが神経を張り詰めている。携えた水晶には絶えず魔力を注ぎ続けなければならない。道半ばで、空間の異常現象に命を奪われないように。


行進の途中、フリーデの隣を歩くオーロラが声を潜め、あの隊長の来歴を教えてくれた。


「あの人はグスタフ・アウグスト。王都から来た四階の王令代行者で、数々の高階剣術技能に通じてるの。あたしは小さい頃、あの人が魔獣を討伐した武勇伝を聞いて育ったんだから!今はもう四十近いはずよ。辺境貴族の出で、王室の血まで一筋引いてるって話」


「四階の持魔者としての象徴能力は『守禦剥奪』——戦闘中に、相手の防御手段を強制的に剥ぎ取れるの」


四階の持魔者は、生命としての本質がすでに変質している。寿命は常人の二倍にも及び、容貌の老化も大幅に遅れる。そのためグスタフは、今も二十歳過ぎの冷厳な青年に見えた。


「『王令代行者』っていうのは、ただ格好よく聞こえる肩書きじゃないのよ。国王の代理として全国を巡って、治安を守って、重大な危機を解決する重責も担ってるんだから」オーロラは付け加えた。


「なるほど」フリーデは考え込むように頷いた。


無序空間はランダム転移の危険に満ちているが、先人が残した木の道標や踏み跡は、そう早く空間の法則に消されはしない。隊はこの微かな手がかりを頼りに、見渡す限りの荒野で方角を見分けていった。


四時間歩き続けたところで、フリーデは顔を上げて空を見た。濁った空は灰色の濃霧にすっかり覆われ、一筋の陽光すら差し込んでこない。


足元の大地は暗く沈み、地表は乾いてひび割れていた。見渡す限り、荒れ果てた死地のほかには何もない。


「第一哨所まで、あと二時間くらいかな」肩を並べて歩くオーロラは、手にしたジャムパンをかじりながら時間を見積もった。


「前にもこの道を歩いたことがあるの?」フリーデが尋ねた。


「うん。専門研究のために、学院の調査隊についてここに来たことがあるの。でも、あたしが行ったのは手前の二つの哨所までよ。一番奥の哨所なんて、一年のうちほんの数か月しかない安定期に、高階の魔法使いが行くくらいだもの」


二人が話していると、少し前方の地面から、ダブルベッドほどの広さの土がふいに「消えた」。


切り口は、目に見えない巨大な刃で一瞬のうちに断ち切られたかのように平らだった。フリーデの鋭い目は、断面の縁で哀れにも真っ二つにされた干からびた虫の死骸まで、はっきりと捉えていた。


「これが『ランダム転移』現象よ」オーロラが低い声で言った。


切り取られた土がどこへ転移したのかは分からない。数キロ先の荒野かもしれないし、どこかの上空に浮かんで、今にも落ちてくるところかもしれない。


「全員注意……異常な気配が近づいている!」


先頭を歩く隊長のグスタフが不意に足を止め、表情を険しくした。


警告を聞いた隊員たちは武器を抜き、素早く陣形を詰めた。


次の瞬間、一同が見守る中、ひび割れた地面から二つの漆黒の霧の影がゆっくりと浮かび上がってきた。


「『霧影幽魂(むえいゆうこん)』よ!三階の魔物なのに、一度に二体も出るなんて!」オーロラは杖を構え、詠唱の準備を整えた。


フリーデは図書館の古書で、この魔物についての記述を読んだことがあった。霧影幽魂は、死にきれぬ怨念の魂と魔力が結びついて生まれた怪物である。霧状の体には極めて強い生命力吸収の性質があり、触れられれば、成人男性でも一分以内に全身が麻痺し、五分以内に干からびた屍へと吸い尽くされる。


さらに厄介なのは、この魔物が無序空間のランダム転移の害を無視できることだ。霧状であるため、体の半分を空間乱流に切り取られても、その行動にはまったく支障がない。


生きた人間を見つけた二体の幽魂は凄まじい叫び声を上げ、隊へ向かって襲いかかってきた。目の前の生者を、自分たちと同じ亡霊に変えようというのだ。


「副隊長!お前は後方の随行魔法使いを守れ!不測の事態があれば、お前が指揮を引き継げ!」


グスタフは腰の長剣を抜き、ためらいなく陣形から飛び出しながら、冷静に命令を下した。


「カペリオ!君とその連れは、直ちに増幅魔法で援護してください!この二体は私が一気に片付けます!」


命令を聞いたオーロラは杖を掲げ、「増速致勝(ヘイスト)」を放った。淡い緑の光が隊の前方にいる者たちを覆い、その反応と移動速度を大幅に引き上げた。


同時にフリーデも手を上げ、グスタフの長剣に三階の力量増幅をかけた。


グスタフ自身も刃に神聖属性の光を灯した。幽魂のような不死者には、壊滅的な威力を持つ光だ。


魔法の加護を得たグスタフの姿は稲妻のように速かった。幽魂の致命的な爪撃をたやすく躱すと、返す刀で重く鋭い「裂風斬」を横薙ぎに放つ!


神聖な光をまとった剣気が一体目の幽魂を胴から両断し、刃に込められた高熱と祝福の力が、たちまちその黒霧を跡形もなく蒸発させた。


一体を斬り伏せたグスタフは、空中で激しく身をひねり、手にした長剣を投げ槍のように全力で投擲した。


「ヒュッ——!」


空を裂いて飛んだ長剣は、もう一体の幽魂の核を正確に貫いた。神聖な光は黒雲を貫く烈日のように気流を巻き起こし、この三階の魔物を一瞬で蒸発させた。


名を聞くだけで震え上がるような三階の魔物二体も、四階の持魔者の前ではひとたまりもなかった。これが、階級の間に横たわる越えがたい実力の溝である。


「よし、危機は去った。隊形を戻せ。前進を続ける」


グスタフは冷静に右手を上げた。遠くの地面に突き立っていた長剣が、呼び声に応えるかのようにひとりでにその手へ飛び戻ってくる——明らかに、高階の「回手(リターン)」の付与が施された武器だ。


隊は再び態勢を整え、この荒れ果てた大地を歩き続けた。


しばらく歩いたところで、クッキーをかじっていたオーロラが急にフリーデの服の裾を引き、遠くを指さした。


「フリーデ……あれ見て!」


指さす先を見ると、乾いた大地の上で、ゼリーのような漆黒のスライムが一塊、ゆっくりと蠢いていた。


「無序空間のスライムって……黒いのね」


「この荒れた大地では、黒い砂を巻き込んだ強風が時々吹き荒れるから、長い年月のうちに、ここのスライムは黒く進化したの」フリーデは本の内容を思い出しながら言った。「それにスライムもランダム転移の害を恐れない。体の一部を空間に切り取られても、スライムにとっては分裂して増えるだけのことだから」


「それもそうね!ランダム転移の範囲が十分大きければ、そのまま別の場所に引っ越しさせてもらえるかも。こんな極端な環境に適応できるのって、だいたい粘液状か、霧状か、群れで組み直せる生き物だもの」オーロラが気楽に話を継いだ。


「作戦行軍中は静粛に!任務に関係のない無駄口は慎み、常に警戒を維持してください!」


先頭を歩くグスタフが、冷ややかな声で二人の少女の会話を不意に遮った。


「……すみません」フリーデは謝った。


「はいはい、分かってますって」オーロラは平気な顔で、またパンを一口かじった。


「それから、君もです」グスタフは振り向き、鋭い目でオーロラを見据えた。「食事は控えてください。食べ過ぎれば血液が胃に集まり、警戒心と反応速度が落ちます。それに、君の胃は底なしですか?出発してほんの数時間で、もう六つもパンを食べているでしょう。私の記憶違いでなければ、そのうち二つがハチミツ味、三つがイチゴ味、残りの一つがチョコレート味です」


彼はため息をつき、高階戦士としての、恐ろしいほど鋭い観察力を見せつけた。


「報告します、長官!この天才美少女様はまだ成長期なので、常に十分な栄養を摂らないと、祖国で一番美しい花に育てないんですから!」オーロラは堂々と言い返した。


このやり取りを聞いて、隊の随行員の何人かが笑いをこらえきれずに声を漏らした。グスタフは呆れたのか、それ以上は何も言わずに向き直り、先導を続けた。


さらに一時間余り歩くと、ようやく人工の建物の輪郭が地平線の彼方に現れた。


そこが、第一観測哨所だった。


長い年月の跡を刻んだ環状の石壁が、一同の前に姿を見せた。高さ五メートルに及ぶこの防壁が、哨所の施設全体を囲い込んでいる。


しかし、本来なら難攻不落であるはずの石壁は、今や犬にかじられたように、至るところが欠け、断ち切られていた。欠けた部分はさまざまな奇怪な幾何学的形状をなし、壁全体はまるで型を手当たり次第に押しつけられたクッキー生地のように、無残に崩れていた。


「全員、最高戦闘態勢に入れ!哨所の『域安定錨』はすでに停止している。中にはもう生きた者がいない可能性が高い!」グスタフは長剣を抜き、全員に指示を下した。


「『域安定錨』は、膨大な魔力で空間結界を築き、哨所をランダム転移の影響から守る中核の魔導装置だ。哨所の運営を支える根幹であり、どれほど緊急の事態が起きようとも、駐留員はその稼働を保証せねばならない。その安定錨が止まっている以上、中の者はまず助かるまい」


警告を聞いて、フリーデは表情を引き締めた。虚空に向けて軽く手を握ると、魔力がたちまち集まり、まばゆい光を宿した長剣が一振り、何もない空中からその手に具現した。


一行は防御陣形を保ったまま、ゆっくりと城門に近づいた。グスタフはあの重い金属の落とし門を上げる仕掛けを探したが、この門は内側からしか開けられない造りになっていた。


そこで彼は迷わず長剣を振るった。鋭い剣気が分厚い金属の門に三本のまっすぐな裂け目を刻む。歩み寄って軽く押すと、「ドン」という音とともに切り取られた金属塊が重々しく倒れ、四人が肩を並べて通れるほどの穴が開いた。


一同は列をなして哨所の内部へ入った。


目に入ったのは、ゆったりとした小広場、いくつかの頑丈な平屋、そして中央にそびえる三階建ての魔導観測塔だった。


この哨所は百名を超える研究員と護衛が住める規模で、倉庫、宿舎、食堂、実験室と何でも揃っていた。しかし今、この区域全体は物音一つなく静まり返り、巨大な墓のように死の気配に沈んでいた。


「意思の疎通のできる生存者がいれば、直ちに声を上げて答えてください!」


「私は王令代行者グスタフ!我々は市庁から派遣された、連絡途絶の原因を調べる捜索隊だ!」


グスタフのよく通る声ががらんとした哨所に響き渡ったが、何の応答もなかった。


隊は警戒しながら広場の中央へ進んだ。いつ影から未知の怪物が飛び出してきてもおかしくない——誰もが張り詰めた面持ちで周囲を見回していた。


「本当に、誰もいないの……?」フリーデが小さく呟いた。


その時、フリーデの隣を歩いていたオーロラの顔に、突然ひどく苦しげな表情が浮かんだ。


「どうしたの……?」異変に気づいたフリーデは気遣わしげに尋ねながらオーロラに身を寄せ、自分の防御範囲の内に彼女をかばった。


「な……何かが近づいてる……」なぜか、大粒の冷や汗がオーロラの青ざめた頬を絶え間なく伝い落ちていた。彼女は両手で苦しげに頭を押さえ、弱々しいうめき声を漏らした。


「何かが?」フリーデは静まり返った哨所を見回した。だがどう見ても、敵の姿は一つも見つからない。哨所に入る前に、彼女は確かに自分へ「不可視看破《シー・インヴィジビリティ》」の法術をかけていたというのに。


しかし次の瞬間、その場にいた全員が同時に、身の毛もよだつような奇怪な音を耳にした。


それは、粘り気のある液体が滴り落ちるような、途切れることのない「ぽたり、ぽたり」という音だった。フリーデが耳を澄まして聞き分けると、その音がまったく異なる四つの周波数の重なりだと、鋭く察知できた。


「気をつけて!!あいつらが来た!」


激痛に耐えていたオーロラが、突然悲鳴のような声を上げた!


その声が響いたのと同時に、フリーデは二筋の鋭い烈風が、左右から自分の脇へ襲いかかってくるのを感じた!


「ガキィン——!」


フリーデは人ならざる反射神経で剣を振るって防いだ。長剣は空中に半月形の軌跡を描き、刃には何か強靭な肉塊を斬りつけたような、鈍い手応えが伝わってきた。


不可視の攻撃を受けたのは、フリーデ一人ではなかった。先頭を歩くグスタフも同じく奇襲を受け、隊の最後尾からは二つの凄惨な悲鳴まで上がった——二名の二階隊員が反応する間もなく、目に見えない鋭い爪に引き裂かれたのだ!


「『不可視看破』でも見破れない偽装だと……!?」グスタフは顔色を変えた。


背後のオーロラを守るため、フリーデは「盲闘」の態勢に切り替えた。両目を閉じ、気流の変化と殺意だけを頼りに敵の位置を感じ取る。巨体の怪物が一体、巨大な爪を振り回し、狂ったように自分へ猛攻を仕掛けてきているのがはっきりと分かった。


彼女は花々を縫う蝶のように、見えない爪の影の間をかいくぐりながら、絶えず長剣を振るって反撃を仕掛けた。


一方、隊の後方では、引き裂かれた二名の隊員の死体が、不意に不気味にも宙へ浮かび上がった。続いてその血肉は、目に見えないミンチ機に呑み込まれるかのように、一片また一片と空中で消えていった!


「これは……食べている……?」


攻撃を躱しながら、フリーデはこのおぞましい光景を目にした。そして新鮮で温かい血肉を貪り食った後、その不可視の怪物はもはや偽装を保てなくなったのか、ついに皆の前に、その吐き気を催す正体を晒した!


それは直方体をなした真紅の肉塊だった。表面には増殖する腫瘍のような肉瘤と、先端に吸盤のついた無数の線状の触手がびっしりと生えている。奇形の骨と肉を寄せ集めたような一対の巨大な爪は醜悪極まりないが、恐るべき力を秘めていた。今、それは引き裂いた死体の欠片を、体の中央にある鋭い牙だらけの大きく裂けた口へ、貪るように押し込んでいた。


この真紅の魔物の全貌が皆の目の前に晒された時、その場の全員が思わず息を呑み、足元から頭のてっぺんまで寒気が駆け上がった。


「いったい何の怪物だ……!?」百戦錬磨で見聞の広いグスタフでさえ、これほど猟奇的な生物は見たことがなかった。これまで目を通してきたどの魔物図鑑にも、このような奇怪な敵は記されていない。


しかし、今のフリーデには他人の驚きに構っている暇はなかった。


彼女を攻撃している怪物は、まだ血を吸っていないため、依然として不可視のままだった。


鋭い烈風が再び襲いかかる。フリーデは踏み込んで横へ躱し、その流れで一太刀を振るって、虚空に一筋の傷を切り開いた。躱したその瞬間、さっきまで立っていた地面に見えない巨爪が叩きつけられ、二本の深い溝が刻まれた。


続けて、巨爪が暴風をまとって横薙ぎに迫った。フリーデは風に舞う柳絮のように軽やかに跳び上がり、空中で一回転すると、長剣を凄まじい勢いで叩きつけた!


「ブシュッ——!」


鋭い刃が不可視の巨爪を深々と切り裂き、幽藍色の奇怪な血が噴水のように噴き出した。


フリーデは極限の感知能力を頼りに、躱しながら反撃を続けた。だがすぐに気づいた。相手はどうやら、彼女が人間ではなく、体内に喰らうべき血肉などないことを察したらしい。そこで怪物の攻撃の型が変わった——もはやフリーデを殺そうとはせず、巨大な力で彼女を押し退け、その背後に隠れて誘うような血の気を放つオーロラを襲おうとしているのだ。


相手の意図を察して、フリーデは歯を食いしばった。


襲いくる触手を数本斬り落とした直後、息の詰まるような圧迫感が突然四方八方から押し寄せた。その烈風は左、右、そして頭上までも覆っていた。


「巨体を活かして、私を完全に包み込んで押し潰すつもり……?」フリーデの目に決意が浮かんだ。「それなら、正面から貫くまで!さっきの手応えからして、あの肉体はとても強靭……でも、力を一点に集めれば、試す価値はある……!」


四方から覆い被さる怪物の包囲に対し、フリーデは退くどころか前へ出た。両手で長剣を握って胸の前に水平に構え、正統な突きの姿勢を取る。


精神を集中して両目を閉じる。視覚では前方の姿を捉えられないが、あの巨大な怪物が両腕を広げ、自分へ向かって激しく閉じ合わせてくるのがはっきりと感じられた!


鋭い爪より一歩早く届いた烈風が、彼女の幼い頬をかすかに痛ませる。この危機一髪の瞬間、フリーデは燦然と輝く金色の瞳をかっと見開いた!


「今……!」


「螺旋風刺、放つ——!!」


フリーデの姿が、弦を離れた攻城弩の矢のように弾け飛んだ。全力で繰り出された長剣は高速回転しながら、実体を持つかのような肉を挽く暴風を巻き起こした。


荒れ狂う剣気は怪物が閉じ合わせた包囲網の中心を正確に貫き、極めて暴力的な形で、怪物の躯体に血肉の飛び散る大穴を力ずくで穿った。高速回転の風圧が怪物の汚れた血と肉片をすべて吹き飛ばし、一滴もフリーデの襟元を汚すことはなかった。


しかし、フリーデのこの必殺の一撃も、この怪物の命を即座に奪うことはできなかった!


体に大穴を開けられてもなお、その異常なまでに強靭な生命力が行動を支えていた。怪物は狂ったように前へ突進し、胸を貫いて抜けたフリーデを無視して、傷ついた巨爪を高々と振り上げ、後方の無防備なオーロラへ向かって激しく叩きつけた!


「しまった!」


怪物の躯体を貫き抜けたばかりのフリーデは、はっと振り返ったが、もはや守りに戻るには間に合わなかった。


血の臭いを放つ巨爪が、今にも金髪の少女を叩き潰してミンチにしようという、その時——


「この天才美少女様を……甘く見ないでよね……!」


怪物が攻撃を仕掛けた瞬間、頭痛で動けなかったはずのオーロラが、突然歯を食いしばった。頭の中の激痛に耐えながら、膨大な魔力を杖の先端へ一気に集める。


「ドォン——!!」


灼熱の爆炎の火球が唸りを上げて飛び出した。火球は寸分違わず、フリーデがさっき怪物の体に開けたあの血の穴へ飛び込んだ。


火球は怪物の体内で炸裂し、荒れ狂う炎が堤を切った洪水のように四方へ広がって、瞬く間にこの不可視の怪物を巨大な真紅の松明へと燃え上がらせた。


この醜悪な異界の魔物は凄まじい断末魔の叫びを上げ、烈火に焼かれて苦しげに何度かもがいた後、ついに重々しく地に倒れ、炭の塊と化した。


「ふう……やっぱり、どんなに醜い怪物でも、火は怖いのね」オーロラは弱々しく額を押さえ、大きく息を切らしながら言った。


隊の先頭では、グスタフも豊富な戦闘経験と四階の力で押し切り、交戦していた怪物を斬り伏せていた。それぞれの相手を片付けたフリーデ、オーロラ、グスタフは隊の後方の援護に向かい、被害がさらに広がる前に、力を合わせて残りの二体を仕留めた。


この突然の遭遇戦はようやく幕を閉じた。最初の奇襲で命を落とした二名を除けば、隊の負傷は二階隊員二名の軽傷だけだった。未知で致命的な脅威を前にして、これは不幸中の幸いと言えた。


「もう他の気配はない」フリーデは目を閉じて注意深く気配を探り、安全を確かめてから、ようやく手の中の長剣を解いた。


グスタフも同じ判断だった。武器を収め、冷静に命令を下し始めた。


「お前は戦死者の遺体を収容しろ。副隊長、お前は二人連れて周囲の建物を捜索し、生存者がいないか確かめろ。何か危険に遭ったら直ちに広場へ退け。深追いはするな」


命令を受け、隊員たちは行動を開始した。残りの者は全神経を周囲の警戒に注ぎ、それぞれが召喚した魔導生物や元素精霊も、法術の持続時間が尽きるまで、主人の傍らにぴたりと寄り添って守っていた。


その時フリーデは、グスタフが重い足取りで、まだ息を切らしているオーロラのもとへまっすぐ歩いていくのに気づいた。


彼は青ざめた金髪の少女の前で足を止め、見下ろした。その鋭い眼差しには一片の憐れみもなく、冷ややかな詰問だけがあった。「さっきのは、どういうことですか。隊の火力支援でありながら、なぜ襲撃を受けた瞬間に戦闘態勢に入らなかったのです。君がもっと早く役目を果たしていれば、後方の二人は死なずに済んだかもしれない」


「……」グスタフの厳しい非難を前に、オーロラは下唇をきつく噛み、黙り込んだ。


「これほど危険な環境で、戦場の呼吸に馴染めず、いつしくじるか分からない者は、隊全体のお荷物にしかならない」グスタフの口調には一片の揺らぎもなく、まるでこの上なく当然の事実を宣告するかのようだった。「君はあの二人の軽傷者と一緒に絶域城へ戻りなさい。ここはいつ人が死んでもおかしくない前線であって、君たち学院生がスリルを味わいに来る登山ツアーではない。隊についてこられない小娘の面倒を見る義務は、私にはありません」


叱責されて言い返せずにいるオーロラを見て、フリーデは思わず前に出た。


「オーロラだって、さっき全力で怪物を一体倒しました……!」


「君が口を挟む余地はありません」グスタフは冷ややかにフリーデを一瞥し、その無関心な眼差しで彼女の言葉を封じた。


言い終えると、グスタフは身を翻して立ち去ろうとした。背中のマントが風に翻る。


しかし、このまま追い払われることに納得できないオーロラが、突然その背中に向かって大声で叫んだ。


「あの怪物は……『次元奪血妖(じげんだっけつよう)』よ!」


「……?」


この聞き慣れない言葉に、崩れたことのないグスタフのポーカーフェイスが、珍しく眉をひそめる形にゆがんだ。


彼は足を止め、振り返った。


「理由は説明できないけど、あたしにはあいつらの存在が微かに感じ取れるの!精神を集中すれば、隠れてる位置を正確に突き止められる!ただ……無理にあいつらの波動を感じ取ると、ものすごく苦しくて、まるで虫が頭の中で狂ったように暴れ回ってるみたいで……」


「私は王家の書庫にある魔物図鑑をすべて繰りましたが、その名を記したものは一冊もありません」グスタフの口調は相変わらず起伏がなく、オーロラが戯言を言っていると思っているようだった。


「本にあるわけないでしょ。それはあいつら自身の呼び名なんだから。あいつらは、他の生き物の血を吸って生きる異界の生物よ!」


オーロラは苦しげにこめかみを押さえ、続けた。


「さっき頭が割れるように痛んだのは、あたしの脳があいつら同士の目に見えない精神のやり取りを受信したから。あの『言葉』を感じ取るのは死ぬほど辛かったけど、おかげでいくつか情報を盗み聞きできたの!」


「あいつらのやり取りの中で聞いたの……あいつらは『他の世界』から来た種族だって!タンポポの綿毛みたいに、数えきれない次元界の間を漂い流れてきた。そして最近、この世界の『次元晶壁』に脆い裂け目ができたのを見つけて、その裂け目を伝って、この無序空間に侵入してきたのよ!」


オーロラは耳を疑うようなこの情報を一気に語った。荒唐無稽に聞こえる話ではあったが、青ざめて張り詰めたその表情を見て、フリーデは直感した——オーロラは嘘をついていない。


「最近この無序空間で起きてる数々の異常は、次元晶壁を突き破ってきたこの異界の怪物たちのせいである可能性が高いわ」オーロラはグスタフの目をまっすぐに見据え、きっぱりと言った。


「あいつらは他の次元界の法則を身に帯びてるから、この世界の探知魔法が効かなくて、隠れてる姿を見破れないの。でもあたしが隊にいれば、生きたレーダーになって、あの怪物たちが近づくのを先に感じ取れる。もう二度と奇襲は受けさせない!」


グスタフは黙って目の前のオーロラを見つめた。その深い瞳に、複雑な光が一瞬よぎった。


「君の言い分は、考慮しておきます」


結局、彼はこの曖昧な一言だけを残して、身を翻して去っていった。


今の彼にとって、怪物の来歴を追及することよりも重要な任務は、やはりこの哨所の状況を明らかにすることだった。


ほどなく、建物の捜索を担当していた副隊長が小隊を率いて戻ってきた。


「報告します、長官!哨所内の建物をすべて捜索しましたが、生存者の痕跡は見つかりませんでした。現場には乾いた血だまりがいくつか残っているだけです」


「なんて痛ましい……ここに駐留していた人たちは、みんなあの怪物に食べられてしまったみたい」寄せられたグスタフの眉を見ながら、フリーデは胸の内で静かにため息をついた。哨所全体に生存者なし。これは間違いなく最悪の状況だった。無序空間の危険は指数関数的に跳ね上がっており、この先、軽々しくここへ足を踏み入れる学者はもう現れないだろう。


「物資の状況は?」グスタフは冷静に尋ねた。


「哨所の倉庫に備蓄されていた食料は、あの怪物どもに残らず食い尽くされています。冷蔵庫の分厚い扉にも、力ずくで壊された跡がありました。ただ妙なことに……食料以外、実験室の器具や魔導物資にはまったく手がつけられていません」


「食料と血肉にしか興味のない獣、か……」グスタフはしばし考え込んだ。


「直ちに倉庫に残っている高階の巻物と価値ある物資をすべて持ち出せ。それから隊を組み直し、第二哨所へ進む。望みは薄くとも、あそこに生存者がいるかどうか、私はこの目で確かめねばならない」


「はっ!」


グスタフの号令で、隊は速やかに再編を始めた。軽傷を負った二名の隊員は、二人の仲間の遺体を護送して、一足先に絶域城へ引き返す手はずとなった。


隊が再び出発する前、フリーデは、グスタフがオーロラの前まで歩み寄り、冷ややかに一言投げかけるのを見た。


「君は、当面隊に残りなさい。警戒を担当してください」


利害を秤にかけた末、この冷酷な王令代行者は結局、オーロラの「レーダー」能力を信じることを選び、彼女の同行の継続を許したのだった。


隊に戻ったフリーデは、隣の金髪の少女を心配そうに見た。


「オーロラ、そんなに無理をする必要はないのに」


「あの怪物を感じ取るのが本当にそんなに苦しいなら、やっぱり負傷者と一緒に城へ戻ったほうがいい。この先の道は、もっと危険になるだけだから」


しかし、オーロラの顔から苦痛の色は薄れていたものの、その眼差しはかつてないほど張り詰めていた。彼女は灰色に濁った空を見つめ、きっぱりとした口調で答えた。


「ううん……フリーデ、あたしには今、この隊と一緒に進まなきゃいけない理由ができたの」


「ついさっき、ものすごく危険な予感がしたの……この無序空間の一番奥で、もっと恐ろしい災厄が、ひっそりと芽吹こうとしてるみたいなの」


「予感……?」


フリーデには精神感応というものは理解できなかったが、オーロラの真剣な表情を見て、友の判断を無条件に信じることを選んだ。


全員と物資の準備が整ったことを確かめると、凄惨な緒戦を経たこの捜索隊は、再び重い足取りで、第二哨所へ向かう未知の旅路へと踏み出した。

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