第九章 回復
レシナの温かいもてなしを受け、フリーデはもう一晩、彼女の家に泊まった。
翌朝、オーロラの具合を見舞うため、フリーデは雲雀事務所へ足を向けた。
階段を上って部屋の扉を押し開けると、目に飛び込んできたのは、もう自力でベッドに身を起こしているオーロラの姿だった。顔色はまだ少し青白く弱々しいが、虫の息だった先日までと比べれば雲泥の差だ。
「オーロラ、あなた……もう大丈夫なの?」
「フリーデ?来てくれたの?」
声はまだ少し頼りないものの、そこに滲む喜びは隠しきれていない。
「もうずいぶん良くなった気がするの!見て、今はもう自分で起き上がれるんだから……!あいたっ……!」
両手でぐっとベッドを押して立ち上がろうとしたものの、半ばまで身を起こしたところで力尽き、またベッドにへたり込んでしまう。
「お嬢さん、まだお体がだいぶ弱っているんですから。無理はなさらないでください」
そばにいた看護師が慌てて駆け寄って彼女を支え、厳しい口調でたしなめた。
「ごめんごめん」オーロラは恥ずかしそうに頬を赤らめた。
フリーデが顔を近づけてみると、左頬に広がっていたあの恐ろしい蛍光紫の斑が、目に見えて小さくなり始めているのが分かった。
「顔の汚染の痕……」
「小さくなったでしょ!」オーロラは得意げにピースサインを作ってみせた。「あとで代謝を促す軟膏を塗るつもりなの。効くかどうかは分からないけど、医学書に、代謝を上げれば体の毒素が早く抜けるって書いてあったのよ!これでこの天才美少女様の綺麗な顔も、すぐ元通りってわけ!」
すっかりいつもの元気を取り戻したその様子に、フリーデはようやく肩の荷が下りた。
「一昨日の夜は新しい薬を一切使っていないのに、斑の進行がひとりでに止まりました。生命徴候はひとまず安定していますが、体力の回復には少なくともあと一週間の静養が必要です」そばの医師が律儀に念を押した。その声には、本人にもうまく説明のつかない困惑がかすかに混じっていた。
「はいはい、この一週間はおとなしくベッドで休んでるから。フリーデももう心配しなくていいからね!」
七日後、フリーデは再び事務所へオーロラを訪ねた。
今度扉を開けると、目の前にいたのは、カジュアルなシャツにセーター姿のオーロラだった。病室を埋め尽くしていた医療団はもう見当たらず、手首の栄養点滴も、首に掛けていた生命の護符も、すっかり外されている。
いつも好んで穿いていた可愛らしいミニスカートは、両脚を隠すふんわりとしたロングスカートに替わっていた。
「おはよう」彼女はいつもと変わらない調子で、さらりとフリーデに挨拶した。
「お医者さんや看護師さんたちは?」
「帰ってもらったわ。あんなに大勢が一日中あたしの事務所に詰めてるんだもの、落ち着かなくて」
「じゃあ、体の具合は……?」
「体力ならもうほとんど戻ったわ。今すぐ依頼を受けて戦いに行っても問題ないんだから……!」
「それにね、あの医師たちを雇う費用は市政府持ちなのよ。早めに帰ってもらえば、市政府の出費も浮くってわけ。完璧な『美少女』たるもの、常に社会全体のことを考えなくちゃね」彼女はもっともらしく語った。
「美少女って、ずいぶん悩みが多いのね」フリーデは思わず突っ込んだ。
「当然でしょ!外見が美しいだけじゃなく、心も純潔で高貴でなくちゃ、美少女と呼ばれる資格はないんだから!」
「回復、おめでとう」
フリーデは彼女の顔をじっと見つめた。頬に残る蛍光紫の痕は一週間前よりずいぶん小さくなっていたが、まだはっきりと目につき、完全には消えていない。
オーロラ自身も、そのことはよく分かっているらしい。机の上から精巧な半面の仮面を取り上げてそっと着けると、左頬に残る痕がちょうどきれいに隠れた。
仮面を着けた彼女は、わざと声を低くして、もったいぶった口調で言った。
「これがあたしの新しいスタイル——神秘のオーラをまとった『ミスティ美少女』……!」
華麗な半面の仮面にふんわりとしたロングスカートという取り合わせは、確かに彼女にどこか妖しい美しさを添え、これまでとは違う大人の女性の色香を漂わせていた。
半分冗談のようなその物言いに、フリーデは苦笑するしかなかった。こちらが乗ってこないと見るや、オーロラは悪戯っぽく舌を出した。
「でも、ちょうどいいところに来てくれたわ。一緒にルーンさんのところへ行きましょ。あたしたちに話があるみたいなの」
「分かった」
二人の少女は肩を並べて事務所を出ると、賑やかな通りを歩いていった。
フリーデが怪物の事件を解決してからというもの、街の至る所に貼られていた外出禁止令の告示はすべて剥がされ、絶域城はかつての華やかな賑わいを取り戻していた。
「ひとつ聞きたいことがあるんだけど。あなた、リエンリス王立学院の学生よね?」フリーデが不意に切り出した。
「もちろん!しかも去年の学年首席なんだから」
この年齢で三階魔法使いの実力を持ち、最高学府で首席を取ったのだから、才色兼備を自称するだけのことはある。
「じゃあ、学院にいた頃、『セリーナ・メリセノ』という学生の名前を聞いたことはない?成績もかなり良かったはずなんだけど」
その名を聞くと、オーロラはわずかに眉を寄せて考え込んだ。
「ううん、そんな名前は聞いたことがないわ」
「あなたより何期か下かもしれない」フリーデは付け加えた。
オーロラはやはり首を横に振った。
「全然覚えがないわ。毎学期の初めには、全学年の成績順位表を必ずチェックしてるのよ。なんたって『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』、首席や上位の人たちは、将来みんなこの天才美少女様のライバルになるんだから!」
きっぱりとしたその言葉に、フリーデの目つきが沈み、胸の奥の疑念がじわじわと膨らんでいく。
フリーデの眉がかすかに寄ったのに気づき、オーロラは少し言葉を濁して付け加えた。
「でも、あたしの記憶違いかもしれないわ。順位表を見るときだって、名前をいちいち覚えようとしてたわけじゃないし」
「でも、どうして急にそんなことを?知り合いなの?」
「友達の妹なの。最近どうしているか知りたくて」
「なるほど!暇があったら、王都の昔の同級生に手紙で聞いてみるわね。手土産を送りたいなら、ついでに渡してもらえるよう頼めるし」
話しているうちに、二人は壮麗で広々とした大理石の建物の前に着いた。正面には荘厳な学者の彫像がいくつも並び、中央では華麗な噴水が清らかな水を噴き上げている。
「ここは……?」
いかにも上流階級の社交場といった場所へ連れて来られ、フリーデは少し戸惑った。
「ここは『魔法使い集会所』。聞いたことはあるでしょ?研究や依頼で絶域城に来た魔法使いは、みんなここで情報や研究の知見を交換するのよ」
「ちょうどあなたには三階魔法使いの実力があるでしょ。それだけの階級なら、推薦状なしで直接入会を申請できるのよ!」
「ここが集会所だったのね」
雲雀事務所に来る前、フリーデはどうやって集会所に入り、そこにある無序空間の知識を手に入れるかで頭を悩ませていた。それが思いがけない巡り合わせで、すんなりと片付いてしまったのだ。
オーロラはフリーデを連れて集会所の中へ入った。この学術交流の場は高級クラブのような形で運営されていて、正門には数名の守衛が立っている。顔なじみのオーロラが案内しているので、衛兵が呼び止めて誰何することはなかった。
ホールに入ると、受付嬢が二人に気づき、にこやかに歩み寄って挨拶した。
「いらっしゃいませ!オーロラさん、しばらくお見えになりませんでしたね!こちらの方は……?」
「こちらはフリーデ、三階魔法使いよ。今日は集会所への入会を申請しに来たの」
「そうでしたか!では、こちらのお嬢様はまずこちらに身元情報をご記入ください。百万新貨の入会金をお納めいただきますと、一年間のクラブ会員資格が付与されます!」
「百万……?」フリーデはその天文学的な数字にぎょっとした。
「大丈夫、あたしが払うわ」
意外なことに、オーロラは瞬きひとつせず、空間の指輪から分厚い札束を取り出してカウンターに叩きつけた。
「このお金も……これからのお給料から引かれるの?」フリーデはしばしぽかんとしてから、思わず尋ねた。
百万新貨!週三万の給料で計算すれば、まるまる三十三週分も差し引かれることになる。半年以上ただ働きをするも同然だ。
「いいのいいの!」支払いを済ませたオーロラは豪快に手を振って笑った。「あなた、このあとすぐあたしに返せるだけのお金が入るんだから!今は立て替えてるだけよ」
「私に……このあとお金が入る?」フリーデには何のことやら分からなかったが、無事に集会所へ入って資料を調べられるのなら、と深くは尋ねなかった。
「もちろん!早く身分証明を書いちゃって!」
オーロラに急かされ、フリーデはペンを取って基本情報を書き込んだ。用紙を受け取った受付嬢は、手元の魔導機器で手早く専用の身分カードを作り上げた。
「カードに魔力を注いで、身分の紐付けを完了させてください。会員資格の期間は一年間で、その間は集会所内のほとんどの施設とサービスを自由にご利用いただけます」
カードには彼女の名前が印字されている。受け取ったフリーデは、言われたとおりにわずかな魔力を注ぎ、認証を済ませた。
「それでは、お二方は本日、集会所で何かご予定がおありでしょうか?」手続きを終えると、受付嬢が丁寧に尋ねた。
「乙三の個室に行くわ。もう人が待ってるはずなんだけど」オーロラが言った。
「はい……?」受付嬢は手元の予約表を確認した。「乙三の個室は、今のところどなたもご利用になっていませんが」
「じゃあ、遅れてるのかしら?とにかく先に入って待ってるわね」
「かしこまりました。お二方を乙三の個室へご案内して」
受付嬢の呼びかけに応じて、制服姿の女性給仕が恭しく歩み寄り、二人を個室へと案内した。
集会所の内装は典雅で豪奢だった。道すがら、フリーデはビリヤード室や高級レストラン、宴会場、さらには室内プールといった施設も目にした。行き交う客の数は多くないが、誰もがなかなかの魔力の波動を漂わせている。
「これは典型的な帝国式の経営スタイルで、普通は東大陸でしか見られないのよ」
フリーデの目に浮かぶ好奇心を見て取って、オーロラが自分から説明した。
「あなたたちのところには、こういう場所はないでしょ?聖アトランテの魔法使いは、みんなそれぞれ勝手にやってるって聞いたわ」
「ええ」フリーデは頷いた。
やがて二人は、人目につかない奥まった個室に通された。室内には柔らかな本革のソファが数組置かれ、中央には広いローテーブル、隅には専用のバスルームまで備わっている。
「お二方、こちらが乙三の個室でございます。お食事やサービスのご用命がございましたら、テーブルの魔導電報機で直接フロントへご連絡ください」
二人を案内し終えると、給仕は恭しく一礼して、静かに扉を閉めた。
常連のオーロラは遠慮なくソファにどさりと身を投げ出し、テーブルのメニューを掴んだ。いつも自信に満ちたその瞳が、今は捕食者のような飢えた光を宿している。
「ああ……お腹ぺこぺこ!この天才美少女様の病み上がりを祝って、今日は思いっきり食べるんだから!」
「暴飲暴食は体に良くないよ」フリーデは親切に注意した。
「あらあら、そんな興醒めなこと言わないでよ、フリーデ!」それを聞いたオーロラは大げさに眉をしかめ、ぶんぶんと首を振った。「そんなこと言ってたら、一気に何十歳も老けこんで、ぶつぶつ小言ばかりの口うるさいおばさんみたいに見えちゃうんだから!」
「美少女の座右の銘は、自然体で、ありのままの自分でいること!」
オーロラは屁理屈をこねながら、素早くメニューに目を走らせた。決まったらしく、顔を上げて尋ねる。
「フリーデは何か食べたいものある?」
「ここの料理って持ち帰れる?」
「手作りパンなら包んでもらえると思うわ」
「じゃあ、パンを持ち帰りにする」
「はーい、一緒に頼んでおくわね!」
メニューを置くと、オーロラは指先を軽く動かし、一階の「念動の手」を放った。魔力でできた見えない手が、離れたところにある電報機を素早く叩き、注文を送信する。
二人は個室で、ここ数日の他愛ない出来事を話して過ごした。ものの数分で、給仕がワゴンを押してオーロラの注文した「仔牛ステーキのクリーム煮」を運んできた。濃厚な肉の香りが個室いっぱいに広がり、食欲をそそる。
「いい匂い!いただきます!」
オーロラは見た目こそ貴族令嬢のように優雅な食べ方を崩さなかったが、その速さは驚くほどだった。あっという間に、白磁の皿はきれいに空になった。
「うーん……まだお腹の半分も埋まってない感じ」彼女は唇を舐め、またメニューを手に取って次の料理を物色し始めた。
こうして、注文しては平らげることが十回近くも繰り返された。
個室のローテーブルには、空き皿の小山ができあがっていた。運び込まれた料理はひとつ残らず、平らに見えるオーロラのお腹へと消えたのだ。何度も料理を運んできた給仕でさえ、ぎょっとした驚きの色を隠しきれずにいた。
「ああ……この紋頸肉の香ばしいロースト、ほんとに美味しいわ……!」
「いくらなんでも……普通の人間が食べる量じゃないでしょう?本当に体は大丈夫なの?」この「食事ショー」を始終そばで見ていたフリーデが、とうとう心配になって尋ねた。
「平気平気、ちょっと食欲が出てきただけだってば!」彼女はまるで気にする様子もなく手を振った。運ばれてきたばかりの皿を空にしても、まだ「あと十皿はいける」とでも言いたげな顔をしている。
そのとき、ようやく個室の扉がふたたび開いた。今度入ってきたのは料理を運ぶ給仕ではなく、書類鞄を提げたルーンだった。
「大変申し訳ありません!今日は市庁の会議が急に長引いてしまいまして、遅くなりました」
ルーンは入ってくるなり何度も頭を下げた。だが顔を上げ、テーブルに小山のように積まれた空き皿を目にした途端、その場で固まった。
「こ……これ、全部お二人が食べたんですか?まさか、こんなに食欲旺盛だったとは……」
「全部オーロラ一人で食べました」フリーデは容赦なく暴露した。
「いったいどれだけ食べたんですか?このままじゃ集会所が食い潰されて破産しますよ?」ルーンは顎が外れそうなほど驚いていた。
「あたしは病み上がりなのよ!たくさん食べて精をつけるのは当たり前じゃない?」オーロラは物足りなさそうに、ソースのついた紅い唇を舐めた。どこか貪欲なその仕草は、顔の半分を覆う神秘的な仮面と相まって、背筋が寒くなるような奇妙な妖艶さを漂わせていた。
「こほん……とにかく、報酬の話をしましょう。今日お二人に来ていただいたのは、そのためですから」ルーンは咳払いをして、強引に話を本題へ戻した。
「報酬は多いんですか?」フリーデは訝しげに尋ねた。
「くれぐれもこの件を甘く見ないでくださいよ!」ルーンは表情を引き締めた。「怪物の残骸を解析したところ、研究員がその中から、この世界でいまだ発見されたことのない未知の物質を抽出したんです!国の中央研究院はすでに試料をすべて回収するよう命じました。そして、お二人が怪物を討伐して試料を提出し、連続失踪事件を解決した褒賞として、市庁から特別に多額の報奨金が出たんです!フリーデさんの探知方程式の論文については、集会所の審査がまだ終わっていないので、懸賞金は別途お支払いします」
「多額の報奨金!?」フリーデの金色の瞳がかすかに輝いた。お金がもらえると聞いて真っ先に頭に浮かんだのは、これでようやくレシナにきちんと恩返しができる、ということだった。
「ええ、その総額は……」ルーンはわざともったいをつけ、二人の少女をじりじりと焦らした。
「早く言ってよ!」オーロラは不満げに口を尖らせて急かした。
「なんと五百万新貨です!」ルーンはついに答えを告げた。
「五百万……!そんなに!?」オーロラは驚いて口を覆った。
「五百万新貨……金券五百枚分……」フリーデは頭の中で素早く換算した。百万新貨もあれば、絶域城の市街地にそこそこの一戸建てが買えるのだ。
ルーンは書類鞄をテーブルに置くと、「かちり」と留め金を外した。
中には真新しい紙幣の束が五つ、整然と並んでいた。いずれも一万元札を百枚束ねたものだ。
「このお金は、半分ずつ分けよう」
事件解決の最大の功労者であるフリーデが、真っ先にそう切り出した。オーロラは戦闘で実際の働きこそなかったものの、この高リスクの依頼はそもそも彼女の営業許可証があったからこそ受けられたのだから、手数料を取るのは当然だ。ましてや、彼女はこの件で命を落としかけたのである。
「そんなのだめよ!あの怪物はフリーデがたった一人で片付けたんだから、筋から言えば、あたしがもらえるのはせいぜい事務所の仲介手数料の十パーセントだけよ!」提案を聞くなり、オーロラは慌てて首をぶんぶんと振り、さらさらの金髪がそれに合わせて揺れた。報奨金の半分なんて絶対に受け取れない、と彼女は頑として譲らなかった。
「それなら、お互い一歩ずつ譲ろう。あなたが二百万、というのはどう?これからの後遺症の検査や療養にかかる医療費だと思って。それに、服を買ってくれた分と、今日立て替えてくれた集会所の入会金も含めて」フリーデは少し考えてから、折衷案を出した。
「天下一優しくて、しかもこんなに綺麗なフリーデがそう言うなら、この天才美少女様、ありがたく受け取っちゃうんだから!」オーロラはようやく笑顔になり、あっさりと承諾した。
分配が済むと、フリーデは席を立って一階の受付へ行き、集会所の蔵書目録を一部もらってきた。一方オーロラは個室に残り、まだ食べ足りないとばかりに注文を続けた。
魔法使い集会所には当然、市立図書館よりもはるかに豊富で奥深い文献が揃っていた。とりわけ「無序空間」と「空間魔法」に関する研究は、目移りするほどだ。ただし、高階の魔法理論や歴史の秘話はどれも、高額な料金を払わなければ閲覧権限が得られなかった。
フリーデは惜しげもなく三十万新貨を払い、急いで調べたい文献を数冊借り出すと、満ち足りた気分で集会所を後にし、レシナの家へと帰った。
二階の部屋に戻ったフリーデは、すぐさま読書に没頭した。夜の帳が下り、街に灯りがともる頃になって、ようやく階下の玄関からドアノブを回す音が聞こえてきた。
その音に、銀髪の少女は本を置き、階下へ迎えに降りた。
作業着姿のレシナが、外の冷たい風を締め出そうと、玄関の扉を力いっぱい押し閉めているところだった。両手をごしごしと擦り合わせ、手のひらにしきりに白い息を吹きかけている。ずいぶん冷え切っているようだ。
それを見たフリーデは指先に魔力を集め、こっそり小型昇温術を放った。たちまち屋内が暖かくなる。
「ありがとう……フリーデ!」春のように暖かくなった室内に、凍えていたレシナは心地よさそうに息をついた。「いつもなら、今頃はとっくに布団にもぐって震えてるところですよ!」
「今日はどうしてこんなに遅かったの?」
「外出禁止令が解除されたからですよ!だからまた普通に夜勤に入れるようになったんです!」
レシナはそう言いながら台所へ行き、自分の簡単な夕食を用意した。温かいスープを手に食卓へ戻ってくると、笑顔で今日の出来事を話し始めた。
「今日、紡績工場の機械がまた詰まっちゃって、隣の台のおじさんが三十分近くも修理してたんです。私もその隙に、こっそり三十分よけいに休んじゃいました!こういうトラブルがあると、ちょっと後ろめたいのに、内心つい喜んじゃうんですよね!」
彼女は自分用に、安物の砕けた茶葉でお茶を一杯淹れた。暮らしは苦しくとも、かつて良い躾を受けた彼女の立ち居振る舞いには、今もゆったりとした優雅な気品がにじんでいる。お茶を淹れる合間に、こうした暮らしのささやかな幸せをフリーデに話すのが、彼女の楽しみだった。
「フリーデのほうは?今日は何か面白いことがありましたか?」
「今日は『魔法使い集会所』へ行ったの」
「魔法使い集会所……?市の中心にある、あのすごく綺麗な白い建物ですか?お祭りの休みに、一度遠くから見たことがあります!いつか私も中に入って、見聞を広めてみたいです」彼女は熱いお茶を両手で包み込み、憧れのまなざしを浮かべた。
「それと、今日は市庁から事件解決の懸賞金も出た。私の取り分は三百万新貨」
「わあ!フリーデはやっぱりすごいですね。こんなに早く、そんな大金を稼げるなんて!」
「そのうち百万を、あなたに贈るつもり」フリーデはこの上なく平然とした口調で、とんでもない爆弾を落とした。
「ひゃ……百万!?」レシナは驚きのあまり、手にした茶碗をひっくり返しそうになった。「そ……それって、私が紡績工場で何年も働いてやっと稼げるお給料ですよ!だめです、絶対に受け取れません……!」
「これは私の感謝の気持ち。どうか受け取って」
「いえ……いくらなんでも、多すぎます……!」
「どうしても受け取りにくいなら……これからここに住まわせてもらう家賃だと思って」
「家賃にしたって、それだけあればここに十年は住めますよ!」レシナはしきりに手を振り、それでも大金を受け取ろうとはしなかった。
「あなたが受け入れて、導いてくれなかったら、私はここに住むこともなかったし、あの怪物の潜伏場所を突き止めることもできなかった」フリーデは彼女の目をまっすぐ見つめ、きっぱりと言った。「この手柄には、間違いなくあなたの分もある」
「そこまで言うなら……ひとまず私がお預かりしておきますね」決して引こうとしないフリーデの真剣な顔を見て、レシナもとうとう折れ、渋々そのお金を受け取ることにした。
「そういえば、あと何日かで『祭礼節』ですね!」紙幣を大切にしまい終えたレシナが、ふと嬉しそうに言った。
「祭礼節?」
「この国ならではの記念日なんですよ!ずっと昔の九月二十日に恐ろしい災厄が起きて、たくさんの命が奪われたんだそうです。その亡霊たちを鎮めるために、この国では毎年この日に盛大な祈りの儀式を行うんです」
「この日はちょうど国の休日でもあるんです。そのときは、フリーデも一緒にお祭りに行ってくれたら嬉しいです!」
「ええ、約束する」
銀髪の少女は迷うことなく、小さく頷いた。




