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空間魔導書と少年魔法使い  作者: atu78963254
ライカベサ編
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第三十七章 復讐

「ただちに各地へ降伏を伝令しろ。全兵士は戦闘を停止せよ……!」


ウェルズが跪いて降伏した数名の伝令兵にそう告げると、彼らは一刻の猶予もならぬとばかりに立ち上がり、馬に乗って去っていった。


本営の外の戦闘も、兵士たちが戦意を失ったことで終息した。指揮官が討たれたのを目にした反乱軍はそれ以上戦おうとせず、武器を捨てて降伏し、騎兵隊の手で陣営の縄を使って一人ずつ縛り上げられていった。


「あなたたち……やりましたね……!本当にクーデター軍を打ち破ったんですね」


全身血まみれのグロスが、剣を杖にしてゆっくりと歩み寄ってきた。傷だらけの体で目尻を拭い、成功の甘い涙を流している。傍らに残る兵士はもう十数名ほどしかおらず、馬さえ失った者も少なくなかった。


「ああ……そうだな、実に素晴らしい」


ウェルズはかすかに笑みを浮かべたが、その笑顔はなぜか見る者の背筋を寒くさせた。


「武器を捨てろ、さもなくばその場で斬り殺す!」「クーデター軍の指揮官はすでに討たれた!」


数分のうちに、前線から差し向けられた二十数名の騎兵も反乱軍の本営に到着し、戦いが終わったことを告げた。陣営内に残っていた数百名の兵士も、わずか数名の兵によって次々と縛り上げられていく。


戦意を失ってしまえば、どれほどの精鋭だろうと豚と変わらない。処分を待つだけの肉塊にすぎないのだ。


抵抗の芽がことごとく摘み取られると、陰影騎士がウェルズのそばへやって来て、無言で彼を見つめた。


それが何を求めているのか承知しているウェルズは、鷲魔の眼球を一つ取り出し、報酬として念動力で放ってやった。


眼球を受け取ると、それは空間門を開いて陰影次元界へと帰っていった。


「おい、グロス。お前の騎兵から馬を一頭借りるぞ。構わないな」傍らの青年を見つめて、ウェルズは言った。


「もちろんです」長剣を地に突き立て、石畳に腰を下ろして休んでいたグロスは、疲れきった様子で頷いた。


彼と同じく血にまみれた兵士が、すぐに駿馬を一頭引いてきた。そのたてがみには、先ほどの血戦の跡まで残っている。


ウェルズは馬に跨がると、陣営を駆け去った。置き去りにされたフリーデは、遠ざかっていく彼の背中を目にした。


「どこへ行くの?」気づいたフリーデは声をかけてみたが、その問いはなしのつぶてで、何の返事もなかった。


それを見て、彼女はすぐさま振り返って声を上げた。


「グロス、私にも馬を貸してもらえる?」


「もちろんです」いくらか訝しみながらも、グロスは兵士に馬を引いてくるよう命じた。


こうしてフリーデもすぐに馬に乗り、去っていったウェルズの後を追った。


馬で街を駆けながら、彼女がまず目にしたのは、クーデター軍を接収している民兵と政府軍だった。時折、家屋を占拠して抵抗を続ける残党の姿も見える。ほどなく主戦場に差しかかると、一面に戦死者の骸が転がり、それを片付ける者たちがいた。その先には、不安に怯える市民と、戦火を免れた街並みが広がっていた。


「いったいどこへ行くの……?」フリーデは再び尋ねたが、やはり応えはなかった。


答えてくれない以上、何度尋ねても無駄だと分かっている。彼女は自分で考えるしかなかった。


ウェルズが理由もなく去るはずがない。きっと何かを追っているのだ。彼が陰影標記を持っていることは知っている。つまり、陰影標記が標的の位置を教え、彼はそれを追っているということだ。


やがて彼女は西の城門からライカベサを出た。城門には番をする者もおらず、城外の煉瓦道には、クーデターのせいで人影ひとつ見当たらなかった。


標的はどうやらライカベサを離れようとしているらしい。傷んだ煉瓦道を抜けると、真新しい車軸の跡が見えた。それも、かなりの重量のものだ。


相手の速度は、増速魔法をかけた馬に比べれば明らかに遅い。車軸の跡はみるみる新しくなっていき、標的へ急速に迫っていることを示していた。


ついに、ウェルズが追跡を止めたのを感じ取った。追いついた彼女の目に映ったのは、月光に照らされた一台の馬車と、その前に立つ彼の姿だった。


重い車軸は走るたびに「ガタガタ」と軋んでいた。積み荷があまりにも重すぎたのだ。


おかげでウェルズは、戯法で易々と車軸を焼き切ることができた。車軸を壊すと、彼は立ち往生した馬車の前へ馬で回り込み、地面に降り立った。


「まだお出ましになりませんか、伯爵様?」彼は慇懃な態度で馬車の中へ問いかけた。


馬車の幕を開けたのは、髭を蓄えたやや太り気味の中年男だった。


幕の隙間から、何段にも積み上げられた箱と、母親の腕の中に隠れる愛らしい少女の姿が、ウェルズの目に映った。


「ずいぶんと贅沢だな。これほどの黄金を抱えて逃げるつもりか」


出てきた男は卑屈に懇願した。噂に聞く、抜け目なく有能なボドナ伯爵とは似ても似つかない。


「そこの御方……この中の黄金は……すべてお持ちください……私の空間の指輪の中身も差し上げます。ですから、どうか我々を見逃してください……!」


その声を聞いて、ウェルズは謎が解けたとでもいうように、面白がる笑みを浮かべた。


「あの時、俺の両親が同じことを言ったら、お前たちは見逃してくれたか?」


「あ……あなたは……!?……坊ちゃん、あなたはもう……?」


その言葉を聞いた中年男は驚愕に顔を引きつらせ、すぐさま魔力で指輪を砕くと、三階の火球術を瞬時に発動してウェルズへ放った。


火光がウェルズの眼前で炸裂した。天を衝く炎に伯爵の衣服がはためき、その爆音に馬車の中の少女は声を上げて泣きじゃくった。


だが火光が収まった後、残り火の中に立つウェルズの姿は、何ひとつ変わっていなかった。


「おっと、悪いな、死に損なった。煉獄から這い戻って、お前たちに復讐しに来たんだ」


彼の手にはめた防護の指輪の宝石が一つ、夜風に吹かれて灰となって散った。ウェルズは涼しい顔でそう言った。


ボドナ伯爵はそれを見てすぐさままた魔法を詠唱しようとしたが、魔法の腕ではウェルズのほうがはるかに上だった。魔導書が掌に収まるや、その補助を受けて、いくつもの戯法がすでに彼の手の中で結ばれていた。


「戯法だけでもお前を殺せるんだが、まだ抵抗する気か?」


「お前の娘をじっくり焼き焦がすのが、楽しみでならないんだがな」


ウェルズは春の日差しのように穏やかに微笑んだ。


「お願いです……坊ちゃん……!私をどう切り刻んで殺そうと構いません、どうか娘には手を出さないでください……!」


中年男はたちまち咽び、膝から崩れ落ちた。両膝が地面を打って鈍い音を立て、声を上げて泣き伏した。


「ウェルズ……」ちょうどこの光景に行き合ったフリーデは、馬を降りると、ためらいがちに傍らに立ち尽くした。


「ははは……!」遠い記憶の中に埋もれていたその呼び名を聞いて、ウェルズは朗らかに笑い声を上げた。「俺が誰だか覚えてたのか?俺自身、忘れかけてたってのにな!」


「六年前のあの一件は実に手際がよかったな。一年かけて必死に探しても、お前という尻尾を掴むのがやっとだった」


「坊ちゃん……あの件には、私は本当に関わっていないのです……!どうか我々をお見逃しください……!」


「その言葉、お前自身は信じているのか?響浪公国(きょうろうこうこく)がなぜ一瞬で滅んだ……!お前たちが教廷と王国に通じていたからだろうが……!そしてお前たちは……本来俺が手にするはずだった満ち足りた暮らしを壊し、妹も両親も殺した!お前は略奪した富で今の地位を手に入れた……!そして俺は、汚れた路地裏で毎日を過ごすしかなかった……!」


その目には深い憎悪が宿り、言葉には歯ぎしりが混じっていた。それでも顔に浮かんでいたのは笑みだった。もっとも、それは冷酷な笑みだったが。


「私も強いられたのです……!」


「今になって命乞いか。自分が赦されると思っているのか?」


彼は口調を和らげ、深い眼差しをふっと虚ろにして、最後にこう言った。


「あの件の関係者を全員言え。楽に死なせてやる」


「だ……駄目です……!」地に跪いた中年男は身震いした。「言えません……彼らに、口外するなと命じられているのです……!」


それを聞くや、ウェルズの傍若無人な哄笑が夜の静寂を破った。高ぶった魔力が形を成し、その瞳には解放の喜びが浮かんでいた。


「いいぞ……最高だ、実に素晴らしい!!万一お前が承知したらどうしようかと思っていたところだ……!」


「それじゃお前を永遠に苛んでやれなくなるだろう?」


「お前が大切にするものすべてを、力の限り壊してやる。お前が隠したいことも、何ひとつ隠し通せはしない。それがお前にふさわしい末路だ……!!」


その凄まじい言葉が途切れた瞬間、彼は不意に掌を突き出した。放たれた一条の風刃が中年男の首を刎ね、血が三尺も飛び散った。


だがこれで終わりではなかった。魔導書の書頁が燃えるように金の光と化し、灰色の門扉がウェルズの傍らに開いた。無数の灰色の影が重なってできた手が、吐き気を催すほどびっしりと伸び出て、首のない骸を陰影の門の中へ引きずり込み、血だまりの中の頭だけを残した。


これは五階の「陰影契約」である。死者を意のままに従う陰影の生物へと変え、永遠に解放されることを許さない。


「くくっ、はははは……!」その笑い声には、心からの歓喜がこもっていた。額を押さえる。これほど爽快な気分は、生まれて初めてだった。


復讐を遂げた瞬間、湧き上がる快感は、まるで世界のすべてを掌握したかのような全能感をもたらした。

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