第三十五章 内戦
かくして、第三軍団の前に立ちはだかるのは、もはや手薄な政府軍だけではなくなった。都市の各地から動員された万余の民兵が加わったのだ。訓練こそ受けていないものの、彼らには家と国を守る熱意と、死をも恐れぬ勇気があった。ライカベサ三百万の人口のうち、出動したのはわずか三百分の一にすぎないが、それでも想像し難い数である。さらに多くの平民が、正規軍の手助けに回っていた。
もともと兵力の薄かったバリケードはたちまち民兵で埋め尽くされ、人手が増えたことで、防衛線の縦深も急速に築かれていった。
「あなたたちは……市民なのか?」「守るべき人々に助けられるとは……面目ない」
「気にするな、俺たちがやるべきことをやってるだけだ。人民のために!共和国のために!ライカベサのために!」「負傷者は臨時病院へ運べ、看護学校の学生が手当てしてくれる!」「鍛冶屋の親父、このボロ銃、全然当たらねえぞ。おまけに不発ときた」「うるせえ、そいつはもう軍用規格の品だぞ!」
バリケードの上では、民兵と数少ない正規兵が肩を並べて戦っていた。密集した銃陣が一斉に火を噴き、隊列を組んで迫るクーデター軍がばたばたと薙ぎ倒される。クーデター軍が突撃してこようものなら、防御側は白兵戦で優位に立つうえ、数の上でも押し返した。
「数が合わない。敵は予備隊を投入したのか?」「そんな……平民が政府軍に加わっているだと?それにしても数が多すぎる!」
この時を境に、第三軍団は一歩進むごとに、これまでとは比べものにならないほど惨い代価を払わされることになると思い知った。
「ほ……報告……」一人の兵士が総司令部へ駆け込んだ。その声を聞いた元帥の老いた顔に、いっそう濃い愁いが差した。届くのはいつも悪い報せばかりで、とても聞く気になれなかったのだ。
「言え」
「平民が民兵を組織して我が政府軍に加わりました……!」兵士は顔をほころばせて続けた。「国立技術大学、研究学院などいくつかの学校も学生と見習い術者を出してくれて、我々の戦力は一気に膨れ上がりました……!」
「素晴らしい……」「平民まで動員できるとはな……!」
「人民を守るのが我ら共和国軍の義務だというのに、この期に及んで守られているのが我々とは、責めを免れんな」その声を聞いて、老人は喜びつつも嘆息を漏らした。
「では側面の道路は彼らに任せる。新たに集結した我々の部隊はいくつかの官道へ回せ。最も血なまぐさい戦場は我々が受け持つ。上城へ通じる道は必ず守り抜き、政庁を反逆者どもの手に落とすな……!」
「はっ……!」
新たな作戦指示を終えると、元帥は両手の指を組み、長いため息をついた。
「早くすべてを終わらせてくれ、グロス。こんな同士討ちを、これ以上続けさせるな」
まだ戦火の及んでいない東門から、六十騎近い騎兵の一団が出撃し、通りを駆け抜けていた。馬上の兵士たちは白い衣に身を包んでマントを翻し、手には可変形小銃を提げている。半数以上が魔力の持ち主であることが、その光景をひときわ圧倒的なものにしていた。
この隊を率いる青年こそ、グロスだった。自ら先頭に立ち、十六人からなる前隊に身を置いている。その後ろに主力たる三十人の中央隊が続き、ウェルズとフリーデリカは尾隊の騎兵十二名に守られていた。
この陣形が意味するのは、他の者は皆捨て駒だということだ。任務はただ一つ、ウェルズら二人を敵軍の指揮官の前まで送り届けること。そのためなら、いかなる代価も厭わない。
「我々の突撃が……!ライカベサの運命を決める!」
騎兵はほどなく手薄な側翼に到達した。ここは都市の中でも比較的人の少ない区域で、配置された第三軍団の兵も多くない。間もなく、第三軍団の百余名からなる分隊が一同の前に姿を現した。騎兵隊を目にするや、その指揮官は即座に布陣と構えを命じた。
「栄誉ある先祖たちが教廷に立ち向かったように!前進……!」グロスは、狭き道で相まみえれば勇者が勝つという道理を知っていた。歩兵が銃を構えて方陣を組んでしまえば、それを越えるのは天に登るより難しい。今この瞬間に突撃を仕掛けるのが最善の策だった。
「私の号令を待て……」騎兵の姿を認めるや、歩兵の指揮官は即座に結陣を命じていた。適切な距離で撃ってこそ、騎兵に最大の損害を与えられるのだ。
十六名の騎兵が突撃を仕掛けた。馬蹄の響きに路面の敷石がかすかに震える。だが歩兵は静かにこの瞬間を見据えていた。巨体がみるみる迫ってくるのを見据えながら、恐怖をねじ伏せ、手にした銃を構えた。
「撃て!」
前列十数人の小銃が一斉に火を噴く。撃ち終えると彼らは素早く片膝をつき、第二列の仲間に後を継がせた。銃声が幾重にも重なり、弾丸が薙ぎ払うように飛ぶ。ほんの一瞬で五人が落馬し、息絶えた。
だが、ここからが騎兵の見せ場だった。彼らはまだ締まりきらない歩兵の陣形へ馬ごと突っ込み、最前列の不運な者を撥ね飛ばした。騎士たちが長剣を振るうたびに血の雨が舞い、瞬く間に死傷者が積み上がっていく。
少なからぬ歩兵が斬り倒された。グロスの太刀筋は鋭く、魔力の優位を活かして束の間に三人を片付ける。続いて中央隊の騎兵も敵陣へなだれ込み、蹄に踏みにじられて、まだ形を成していなかった歩兵の陣形は完全に瓦解した。兵士たちは四方へ潰走していく。
「逃げる者に構うな……半速で隊列を整え、前進を続けろ……!」
騎兵の突撃が鋭い刃のように敵陣へ突き刺さり、歩兵の陣線を撃破したのを見て、グロスは剣を前方へ振りかざし、号令をかけた。騎兵隊は素早く陣形を組み直し、再び前中後の三隊に戻って街路を駆け続けた。
「この部隊、よく訓練されているな。攻撃の鋭さといい、陣形を立て直す速さといい」ウェルズは胸中でそう評した。
だが、彼らの足がいかに速くとも、伝令兵の速さには及ばない。魔法の印符を通じて、指揮所の敵はたちまち状況を把握した。
「何……東部に騎兵隊だと?もう第一陣を撃破したのか?」「城防軍の騎兵部隊か?騎馬警官か?」「いや、この速さは……特勤局だ……!」
「第二陣の印符が……また光った。東部に現れた騎兵が第二陣の分隊まで撃破したのか?この速さで?」
「何だと……?」「正面の支援へ向かうはずだった増強中隊を回して支援させろ……!」
奇襲の優位を活かし、道中の支援分隊はことごとくグロスの騎兵に同じ手口で撃破された。だが彼らもまた惨い代価を払っており、今やウェルズたちを守るのは三十騎余りにまで減っていた。
ほどなく、第三軍団の兵站集積地が一行の視界に入ってきた。前進党の旗が立てられている。こうした要所に守りがあるのは当然で、周囲には簡易な柵が仮設されていた。
敵の歩兵はすでに防衛線への展開を終えており、行く手に立ちはだかるのは、二百二十人にも及ぶ増強中隊だった。
「早く防御陣形を組め……!」「敵が来るぞ!」「早く向きを変えろ……正面から敵に向かえ!」
これほどの差を前にしては、もはや打つ手はないように思われた。だが敵の失策が、彼らに希望をもたらした。
部隊の陣形を変えるのは容易なことではない。クーデターへの加担を拒んだ下級将校が少なからず殺されていたため、中核となる指揮官を欠いた分隊は命令を迅速に実行できず、指揮官の命令はかえって陣線を混乱させた。
「好機……!」グロスの目は素早く敵陣形の左側の隙を捉えた。背後の、もう幾らも残っていない部隊と、隊の護りの中で無傷のままの、彼らの希望とを見やる。
「続け……!最後の突撃をかけるぞ……!」
ウェルズは騎士たちが一人、また一人と傍らを離れていくのを見つめていた。前方では数十挺の銃が一斉に構えられる。それでも彼らは飛んで火に入る夏の虫のように何ものも顧みず、全身全霊で密集した銃口の林へと突っ込んでいった。
「バン……!」
銃声が一斉に轟き、硝煙が立ち込めた。馬上の兵士たちが次々と倒れていく。だがこれが最後の反撃の機会だった。騎兵は陣線へ突っ込み、大勢の兵士を蹴散らし、踏みにじった。左側の防衛線を突破し、指揮所への道を切り開く。だが騎兵も無傷では済まず、歩兵の銃剣に突き落とされた者も少なくなかった。
「陣形が開いた……行くぞ、このまま指揮所へ突っ込む……!」ウェルズはすかさず馬を駆り、混戦の陣線を越えた。傍らに付き従うのはフリーデリカだけだった。
眼前には簡易な柵に囲まれた陣営があった。指揮中枢の広場はもともと下城区の野外舞台で、子供たちがサーカスを観るための座席は取り払われ、代わりに積み上げられていたのは人の命を奪う高性能爆薬だった。
ウェルズは手の中に魔力を集め始めた。立て続けの戦闘で魔力はやや心許なくなっていたが、それでも速やかに凝縮して形を成していく。
「と……止まれ……!」歩哨の兵士数名が銃を構え、迫り来る二人を撃とうとしたが、魔法の威勢に圧されて一発も当たらなかった。
その間にも、彼は天幕のすぐ近くまで迫っていた。呪文の詠唱の最後の一語を紡ぎ終えると同時に、手の中の火球を、重砲の弾薬を運ぶ車両へと放つ。灼熱の火球は隕石のように落ちていき、車両に命中したその瞬間、車内の爆発物に引火して天を衝く爆発を引き起こした。
炎は広大な一帯を呑み込んでほしいままに燃え盛り、天を衝く火柱は噴水のように雲間まで噴き上がった。車両にいた兵士は言うまでもなく木っ端微塵となり、恐ろしい炎に怯えた他の兵站兵たちは、慌てて散り散りに逃げ出した。
爆発音に驚いた馬が足を止めると、ウェルズは手綱を引いて馬を御し、別の場所へもう一つ火球を投げつけた。
「もう一発!」
瞬く間に、陣営の戦略物資の大半が爆発で吹き飛んだ。そこへ天幕にいた二名の魔法使いが遅ればせながら、十数条の風刃をウェルズへ放つ。だが風刃は罪もない馬をずたずたに切り裂いただけで、その背にいた彼はすでに宙へ身を躍らせていた。




