第三十三章 都市への進攻
「速度を上げて攻めろ……!」「二倍速前進、構え、撃て!」「大砲を押してこい、中層区の城壁を砲撃しろ!」
下城区では、夜の闇も進攻をいささかも鈍らせなかった。第三軍団の攻勢は火の手のように勢いづき、不意を突かれた敵はわずかに抵抗しただけで持ち場を捨てて逃げ散った。瞬く間に下城区の東部はクーデター軍の手に落ち、彼らは当然のように攻勢を強めて中城区の城壁へと迫った。城門では、血なまぐさい戦闘がいよいよ最高潮を迎えようとしていた。
城壁の上からは、十六人一列、計二列のクーデター軍兵士が大通りを進んでくるのが見えた。寸分違わぬその足並みは、まるで機械のようだった。
対する政府軍は官道にいくつもの障害物を築き、兵士六名を一組としてその陰に身を潜め、射撃を加えていた。
クーデター軍の兵士は速足で前進する。戦列歩兵の歩調のうち、攻撃専用に用いられる二倍速だ。射程に入ると足を止め、一斉に銃を構えて発砲する。前装銃の弾は半数近くが外れるものの、当たりさえすれば致命傷となる。
発砲後も、弾込めにかかる十数秒のあいだ前進を続け、装填が済めば再び立ち止まって撃つ。隣の戦友が倒れようと、その屍を無情に跨いで進み続けるのだ。
距離が詰まり、障害物まで残り三十メートル余りとなったところで、兵士たちは銃剣付きの小銃を構えて突撃した。
銃剣を着けた前装銃がぶつかり合う。数に物を言わせ、クーデター軍は掩体の陰に潜んでいた政府軍の散兵六名を白兵戦で仕留めた。政府軍に残る臨時の防衛線はあと二本。それを抜かれれば、城門の真下まで攻め込まれる。
それを見て、城壁の上にいた数名の魔法使いが一斉に灼熱光線を放ち、迫り来る一列の兵士を烈焔で焼き殺した。
だが、第三軍団の新手がまたも城壁へ迫ってきた。見えるだけでも優に七列、さらに後方には進発を待つ主力隊が控えている。魔法でまとめて狙われぬよう、彼らは一定の間隔を保っていた。
前進する兵士たちは、地に倒れた屍を踏み越えていく。政府軍もクーデター軍も、この血みどろの一進一退の攻防で、おびただしい死傷者を出していた。
「魔力が尽きた……!」「なら早く下がれ!」
「支援はまだか?電報はなぜまだ返事がないんだ!?」
差し迫った状況に、城壁の上の魔法使いたちは撤退すべきかどうか、苛立ちまじりに言い合っていた。
一方、小銃の射程よりさらに後方では、第三軍団の重砲数門がすでに配置についていた。激能石から精製した弾薬を装填すると、魔力が砲身内で圧縮され、臨界点に達した瞬間に一気に撃ち出される。狙いは、この中城区の城門だ。
砲弾が一発命中し、天を揺るがす爆発が城楼の一部を吹き飛ばした。黒雲が夜空へ噴き上がり、砕けた石が降り注ぐ。重砲はなおも撃ち続け、二十一発目でついに城門をまるごと打ち崩した。瓦礫が出入口を埋め尽くし、城楼は山崩れのように崩れ落ちた。
「城門が……城門が破られた!」「早く撤退しろ……!」
形勢不利と見るや、なお掩体に潜んでいた政府軍は慌てて城楼の残骸を乗り越え、市街へと退いていく。クーデター軍はそれを鹿狩りでもするように狙い撃ち、少なからぬ兵士が弾を受けて倒れ、二度と起き上がらなかった。
城門を破ると、第三軍団は勢いに乗って押し進み、大軍が中城区へとなだれ込んだ。建物の中に身を潜めた住民たちは、震えながらその戦いを見つめていた。
「我々が第三軍団に攻撃されているだと?選挙の日に?」「クーデターだろう!こっちに発砲してきたんだぞ!」「ほかに追随している部隊はあるのか?」「まずは城門の状況を確かめるべきでは?」
総司令部では、各級の官員たちが焦りもあらわに論じ合っていた。元帥の席では老将が白い髭を軽く撫でている。きつく寄せられた眉根には、乾いた樹皮のような深い皺が刻まれていた。
司令部の扉を押し開け、儀礼用の軍装をまとった青年が入ってきた。
「戦況はいかがですか?」グロスが将官に尋ねた。
「芳しくないな。電報局に問題が起きて連絡が取れん。今は騎兵に命令を運ばせるしかない」老将官は重々しい声で言った。「予備役と警察、それに城防軍にはすでに集結を命じてある」
「ですが……兵力を集めても、八千余りがせいぜいでしょう。第三軍団は内通者を合わせれば一万五千にのぼるかと」幕僚の一人が汗だくになって言った。
そこへ、一人の兵士が金縁の文書を手に司令部へ入ってきた。
「ほ……報告します。第三軍団は我々に直ちに抵抗を放棄して降伏するよう要求しています!大統領の諭令まで持ち出して……」
「あり得ん……!」彼は目を剥き、白い髭を逆立てんばかりに息巻いた。「ドミトリーもその取り巻きどもも、とっとと失せろと伝えろ!奴が国王になる前に、まず私の屍を越えていけ……!我らが共和の栄光を、あの僭主に踏みにじらせはせん!」
そこへ、別の幕僚が切り出した。「では、ひとまず首都を離れて亡命することもお考えになっては?元帥。第一・第二軍団の駐屯地へ移り、あらためてライカベサの奪回を図るという手もございます」
「それでは全面的な内戦になるだけです」グロスはため息まじりにそう言った。
「顧問殿は……何か返答を?こちらについてくだされば、まだ勝算はあります。五階魔法使いの力があれば、数の差など覆せましょう」さらに別の幕僚が言った。
「首席顧問は、内政には関与せず、外敵のみを禦ぐと」
連絡役の兵士が言いよどみながら答えた。範を示すべき首席顧問がそう表明した以上、ほかの顧問たちもわざわざ面倒を背負い込んでどちらかに与するはずがない。どちらが勝とうと、彼らの地位は変わらないのだから。
「ご立派な中立だな!義務を放り出し、普段はあれだけ手当を受け取っておきながら、肝心な時には何もせんとは!」
その罵声に、誰も応じようとはしなかった。この老人は曲がりなりにも三階の持魔者で、将校たちの間でも名望が厚い。五階の宮廷導師を罵れるだけの裏付けがあるのだ。だがほかの者には、そこまでの後ろ盾はなかった。
「ほかの顧問はどうした!?」老人はなおも憤然と問い詰めた。
「ほかの二名の三階魔法使いも、同じく中立を表明しています……肉親を誘拐され、脅されているそうで」
「忌々しいドミトリーめ……とうにクーデターを計画していたのか!?」
彼はひとつ息をついて、平静を取り戻した。
「いずれにせよ、電報通信の回復が急務だ。特勤総監、君の隊はまず電報局へ向かい、現地の反乱軍を掃討せよ」元帥は顔を上げてグロスにそう命じ、グロスは敬礼で応えた。
「承知しました!」
「以上が、私がここへ来る前の経緯です。お三方には電報局を奪回していただき、心から感謝しています」
グロスは、先ほど総司令部で起きた一部始終をウェルズたちに語っていた。
つい先刻、彼は随員を引き連れて電報局に到着し、ウェルズたちの働きを知るや馬を降りて礼を述べたのだった。
「国家お抱えの宮廷導師など、昔から日和見ばかりの連中だ。国から潤沢な手当をせしめて研究や昇階に励みながら、まともな仕事は何一つしない」ライカベサの顧問が内戦への介入を渋っていると聞いて、ウェルズは冷ややかに切り捨てた。
「誰が政権を握ろうと、あの人たちの地位は変わらないもの。正義への信念がなければ、ああいう体たらくになるのよ」ラロリアも同調した。
「この先はどうするつもりだ?」ウェルズは彼が率いる精鋭部隊に目をやった。少なくとも百人以上はいる。
「兵を十名割いてこの電報局の守りにつかせ、残りの隊は前線に投入します。私個人の力は微々たるものですが、命惜しさに国を裏切るような真似はできません」わずか二階のグロスだが、その眼差しは決然として、一片の迷いもなかった。
「もしお三方が……政府軍に力を貸してくださるなら、戦後に相応の報酬を求められることを、私個人として必ず後押しします」そこまで言って、彼はそう持ちかけた。
「その言葉を待っていた」ウェルズはかすかに笑みを見せ、懐からあらかじめ用意しておいた手紙を取り出した。
「この手紙には、クーデター軍についての調査情報と、俺個人の頼みがいくつか書いてある。総司令がこれに目を通して要求を呑んでくれるなら、そちらの陣営に加わろう」
「ご要求を拝見してもよろしいですか?権限の範囲内であれば、この場でお応えできます」グロスは手紙を受け取り、礼儀正しく尋ねた。
「どうぞ」
青年は封を切ると、すぐさま文面に目を走らせた。わずかに瞳を細め、手紙を元どおりしまい込む。
「この件は総司令に諮らねばなりません。ですが、曲がったことが大嫌いなあのご老人なら、あなたに反対はしないでしょう」
返答を終えると、グロスは騎兵を一人呼び寄せ、手紙を託した。
「この手紙を直ちに総司令官へ届けろ」
「なら、心置きなく戦えるな」ウェルズは魅力的な笑みを浮かべた。彼がこれほど心からの笑顔を見せることはめったになく、フリーデは思わず興味を引かれて尋ねた。「手紙には何が?」
「戦後の罪人の処罰方法について、少しな」彼はさらりと答えた。




