第二十七章 求婚
「こちらです、ドリス嬢!」
「ちょうど召使いをやって、あなたがもう宴にお見えになったか確かめさせようとしていたところです。あなたのその翩然たるお姿の前では、この屋敷もまるで田舎のあばら家のように貧相に見えてしまいますね」
ミードは熱っぽく歩み寄り、頬をわずかに赤らめてフリーデに言った。
その言葉を聞きつけたのか、ミードの背後から今度は穏やかな男の声がした。興味をそそられたらしく、声が少し上ずっている。
「どれ、見せてもらおうか。いったいどんな美人がミード坊やの心を奪ったのか。私が十万金券もの巨費を投じて建てた自慢の屋敷さえ及ばぬというのだからな」
ミードが脇へ退くと、フリーデの前に現れたのは、なんと端正な顔立ちの青年だった。糊の利いたスーツに洒脱な燕尾、貴族らしい優雅な風格を漂わせている。
「ドリス嬢、伯爵にご挨拶を。こちらはハインリヒ伯爵です」ミード子爵は慌ててフリーデに紹介した。
「ようこそ、ドリス嬢。ミードから話を聞いた時はまだ半信半疑でしたが、こうして直にお目にかかって、ようやく分かりました。傾城と呼ぶにふさわしい浮世離れした美しさと、慎ましやかな気品が」
ハインリヒ伯爵はさらりと笑い、軽くグラスを掲げて敬意を示した。
「やはり聞いていた通りだ。十万金券もあれば、この豪華絢爛な屋敷は建てられる。ですが、それを美女探しにつぎ込んだところで、あなた以上に傾城の美を備えた女性はきっと見つからないでしょう」
「お褒めにあずかり、ありがとうございます」フリーデは頷いて応じた。
「この宴を楽しんでいってください」青年は自然な物腰でそう返すと、他の賓客のほうへ歩いていった。
会場の主が離れていくと、ミードはひどく嬉しそうにフリーデへ話しかけた。
「ドリス嬢、お会いしたくてたまりませんでした。離れていたこの三日間、片時もあなたのことが頭から離れなかった。その表情も、その微笑みも、すべてが心に焼き付いて……!きっと私たちは心が通じ合っているのです。でなければ、こんなにも早く宴で巡り会えるはずがありません!」
「待ってください、私……」彼女が口を開きかけたところで、ミードが突然遮った。
「話は後にしましょう。今日の美酒と絶景を逃してはいけません。一緒に五階の展望台へ花火を見に行きましょう!あそこは伯爵が認めた友人しか行けない場所なんです!この街で唯一夜景を楽しめる場所と言っていい。行きたくても行けない子爵が大勢いるんですよ!」
すっかり熱に浮かされたミードは、フリーデの手を引いて階段を上っていく。頬を撫でる微風に銀髪がなびいた。どうしていいか分からないまま、彼女は手を引かれて足早に五階の展望台へと連れていかれた。
引っ張られながら、フリーデは左右に目をやり、二、三人の賓客の姿を認めた。廊下では、漆黒の裾を引いた女性がしずしずとある部屋へ入っていくのがちらりと見えた。どこかで見た光景のような気がしたが、それが誰だったのか、とっさには思い出せない。
だがすぐにその場から引き離され、展望台に出た。屋敷の五階から張り出したテラスで、清潔なタイルが敷かれ、手すりには美しい紋様が施されている。ここからなら、夜闇に咲く色とりどりの花火が一望できる。
「ここですよ。最高の眺めでしょう?言った通りじゃありませんか?」
「これ以上、こんなことを続けてはいけない」彼女はそう思った。
空間に収めてある海淵幻沫を取り出してミードに返し、すべては誤解なのだと真剣に伝えるつもりだった。そもそも最初から、この贈り物を受け取るべきではなかったのだ。そのせいで次々と誤解を招いてしまった。このままでは、断られた時のミードをいっそう傷つけるだけだ。
「私……!話を聞いてください……!」フリーデは会話の主導権を取り戻そうとしたが、目の前の男はすっかり自分の空想に酔いしれていて、出し抜けに片膝をついた。
これほど雰囲気がよく、美しい場所は、ライカベサ中を探しても二つとない。跪いたミードは熱のこもった仕草で手を差し伸べ、呆然と見つめるフリーデに向かって真摯に告げた。
「ドリス嬢、私の浮名をお聞きになったことがあるかもしれません。ですが今、私はあなたの奴隷となって、すべてを捧げたいのです。あなたが一言命じてくだされば、教廷のあらゆる戒律を守ることさえ厭いません」
その眼差しには深い陶酔と、そこから転じた狂気が宿っていた。
「あなたを見たあの瞬間、初めて知ったのです。この世には真実の愛も、一目惚れも確かにあるのだと。恋とはこれほど素晴らしいものなのだと。あなたのためなら血肉も魂魄も捧げます。心臓をえぐり出して証にしたいとさえ思うほどに……愛する人のためなら、私は何だってできる!……愛しています、ドリス嬢!」
「私の叔父ドミトリーは、まもなく『クーデター』を起こします!その後、彼は共和国……いや、王国でただ一人の至高の王となる!彼には妻も子もいない。彼が死ねば、跡を継ぐこの私が、ライカベサのすべて……共和国のすべてをもって、あなたのあらゆる望みを叶えてみせます!」
甲高い音を立てて数発の花火が夜空へ駆け上がり、まん丸に開いて明るく咲き誇った。驚きに染まったフリーデの顔の半分が、その光を受けて透き通るように輝いた。




