第二十四章 死体
「ここに死体が……」彼女が小道の出口を空けると、背後のウェルズにも路傍の様子がはっきり見えた。
「何袋もある……!」彼女は手を振り回して念を押した。
ウェルズの目に、隅に積まれた死体袋が映った。死体を詰め込んだ厚手の布袋が数袋、防御用の土嚢のように積み重なっている。生地は厚いのに、数人分の血はそれでも滲み出し、入りきらなかった硬直した手が二本、袋の口から突き出していた。まるで息絶える間際に助けを求めているかのようだった。
「これは……共和国の中級将校ね。少なくとも尉官級」制服の図案と袖口の紋様から、ラロリアは死者たちの身分を見て取った。
「制服も脱がされていない……血痕から見て、死んで間もない」ウェルズは素早く分析した。
「どういうこと?」金髪の少女は驚きを隠せなかった。「要塞が終末救贖者に襲われたの?私たち以外にも潜入者がいるの?」
「あり得るが、まだ断定はできない」ウェルズは視線を戻した。
「将校の死体、行方の知れない兵士、それに邪教徒の軍需品……どうも、この裏には根深い陰謀が潜んでいる気がする」
ラロリアは地面の血痕を見て、ふと足を止めた。
「あんたは先に一人で兵站記録を調べて。この小道をまっすぐ行って、二つ目の交差点を右に曲がれば、倉庫と軍需管理所が見えるはず。私はこの血痕を調べる!なんだか、すごく大事なことのような気がするの!」ラロリアの顔には不安の色が浮かんでいた。
立ち去ろうとする彼女を、ウェルズが呼び止めた。
「俺が行く軍需管理所には魔法錠があるはずだ」
ラロリアは錠開けの巻物を取り出してウェルズに手渡すと、血痕の出どころを追って去っていった。その背を見送った彼は予定通りに進み、ほどなく倉庫前の広い道と、その脇に建つ軍需管理所が見えてきた。
「なんてこと……ここにも死体がいくつか、ゴミみたいに縛られて道端に捨てられてる。ここでいったい何があったの?」
ラロリアの驚きの声が意識を通して伝わってきた。
「そっちの状況はどう?」
ウェルズは軍需管理所と記された建物を見上げた。中から明かりは漏れておらず、話し声もしなかった。
「軍需管理所には誰もいないようだ。魔法で扉を開けて、そのまま入るつもりだ。駄目なら空間魔法で直接転移する」
音もなく管理所の扉の前まで来ると、「窺秘の眼」で建物の内部をはっきりと見通した。確かに中は無人だったが、書架にはいくつか魔法の罠が仕掛けられており、入口の扉には三階魔法使いの手による魔法錠が掛かっていた。
それを見て、ウェルズはラロリアから渡された巻物を取り出した。
羊皮紙を広げた彼は、思わず目を見張った。巻物に描かれた魔法文字は、思いもよらない形で配列されている。明らかにある種の秘法だが、今は研究している場合ではない。小声で起動の呪文を唱えると、手の中の巻物は火に焼かれるように右上の角から消えていき、跡形もなくなると同時に、魔法錠も解除された。
扉を押し開けて中に入る。簡単な探知法陣がいくつかあったが、ウェルズの鋭い目を欺けるはずもない。慎重に罠を避けながら周囲を見回し、一番近い書棚へ歩み寄った。
「この書架の本は兵士の給与記録、こっちは経費総計記録、廃品管理記録……あった、これが物資管理記録だ」
彼はすぐさま手近な一冊を抜き取り、素早くめくって最後の数頁を開いた。記されていたのは、まさしくこの二週間の物資の出入りだった。
「本月度の糧食を購入、ロット番号は一七二三年第七号、入庫済み」
「攻城演習で損壊した四十二挺の銃を補充、ロット番号は補充第七号、入庫済み」
「一七二三年第七号命令の軍需物資検査、低級火炎増効の杖三本は試験中の故障により部隊へ配給せず、損壊品は廃棄済み」
ウェルズは一頁ずつ丁寧にめくっていき、いくつかの手掛かりを見つけた。あの火炎の杖は、やはりこの要塞から流出したものだったのだ。おそらく軍需官が軍需品の一部をこっそり損壊品として処理し、名目上は廃棄されたはずの品を闇市に流して金に換えていたのだろう。
「そっちはどう?血痕の……出どころが、なんと総司令部かもしれないの。慎重に近づいて様子を見てみる」
ラロリアの張り詰めた声が届いた。
「照合できる資料をいくつか見つけた。杖がここから流れ出たことを示す証拠だ」
「そこは間違いなく警備が厳重だ。気をつけろ。お前が見つかったせいで俺まで窮地に陥るのはごめんだからな」
そう返してから、ウェルズはさらに帳簿をめくっていった。
「二二七号命令の事前準備、激能石を購入、在庫の血ダイヤを売却――ボドナ伯爵の献金より支出」
「二二七号命令の事前準備、帝国製の重攻城砲二門を購入――ボドナ伯爵の献金より支出」
「こんなに資金が……?」ウェルズはわずかに目を見開いた。
これだけの物資を新たに買い入れるとなれば、莫大な出費になる。とりわけ重砲は、東方から間を隔てる海を越えて運び、陸揚げしなければならない。帝国は常に軍需産業の最先端を走ってきたが、その武器をライカベサまで運ぶなど、費用対効果は皆無と言っていい。
一方、ラロリアは自分の動きを報告してきていた。
「司令部の中に……人がいる。それもかなりの数。変ね、声を聞く限り全然慌ててない。まるで死んだのがここの人間じゃないみたいに」
「何か企んでるみたい。第二二七号命令って、かすかに聞こえた……」
「……!!」
「話している内容が……これは!まずい……!見つかった!?」
「私に構わないで……絶対にこのことを外に伝えて……!これは……」
ちょうどその時、ウェルズは最も重要な情報が記された頁に行き当たった。その頁を目にした瞬間、真相はすべて明らかになった。その裏に潜む陰謀に、彼は瞳を縦に細めた。
「すべて……終末救贖者の帳簿に記録された資源のすべてが、この軍隊の中にある。二二七号命令は大統領が直接下した命令だ……」
彼は衝撃の色を隠せなかった。
「二二七号命令、それは……」




