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空間魔導書と少年魔法使い  作者: atu78963254
ライカベサ編
20/92

第十九章 グロス

ヴァージニアが礼を述べていると、応接室の扉が開き、茶髪の青年が一人入ってきた。共和国の儀礼用軍服に身を包み、どこか鋭い気配を漂わせている。


だが、芳醇な茶の香りを嗅いだ途端、青年の鋭さは跡形もなく消え、代わりに心底惜しそうな顔になって、長々とため息を漏らした。「ヴァージニア、また私の秘蔵のブルディア茶葉を飲んだな。東の帝国から輸入した高級品なんだぞ!」


「あら、ブルディアの茶葉は、あそこで飾り物にしておくより、飲んだほうがずっといいですもの。『茶葉の精霊』だってきっと賛成してくれますわ!」


「飾り物なんかじゃない」青年は苦笑した。「あれはブルディアの山の民が一葉一葉手で摘んだ茶だ。帝国はあの山地を国境の要地と見なしていて、関所を出るたびに何重にも税をかけられる。一年に数箱も運び出せないんだ」


今日はことのほか上機嫌な彼女を見ると、可愛い妹相手ではどうにも強く出られず、礼帽をかぶった青年はお手上げだった。


「こちらのお客様は?」


「こちらはドリス。新しくできたお友達です」


「珍しいな。お前が友達を家に連れてくるとは」


「たまには、ですよ……!」


「ドリス、こちらは私の兄です。グロスと呼び捨てにしてくださって結構ですよ」兄と挨拶を交わし終えたヴァージニアは、傍らのフリーデにそう言った。


「はじめまして、グロスさん」フリーデがそう挨拶した。


「美しいお嬢さんに名を呼び捨てにしていただけるとは、光栄です」


ちょうどその時、制服姿の警官が数名、応接室に入ってきた。その場に青年がいるのを見るや、彼らはすぐさま敬礼した。「特勤総監殿!」


青年は頷き、淡々と礼を返した。「私の家に何の用だ?」


「実はこういうことでして……」警官たちはヴァージニアが襲撃に遭った件を一通り話した。途端に青年の顔に驚きが浮かんだ。「そんなことがあったのか!?」


続けて警官の一人が切り出した。「少々お邪魔いたします。当時の状況について、調書を取らせていただきます」


警官たちが進み出たが、ソファに腰を下ろしたのは調書係の記録官一人だけで、残りは皆かしこまってソファの脇に立っている。記録官は二人に当時の状況を尋ね、その答えを紙に書き留めていった。


「当時、何か異変はありましたか……?」「相手が使ったのはどんな魔法でしたか……?」「今、お体の具合が悪いところはありませんか……?」


調書が終わると、警官たちは暇を告げて去っていった。


彼らの姿が見えなくなると、途端に青年はため息をついた。「ヴァージニア……ここ数日は出かけるなと言っただろう?」


ヴァージニアはきまり悪そうに笑うだけで、何も答えなかった。


「遊びに出るなら、大統領選挙が終わってからにしろ。今は前進党の連中が、選挙に負けそうだからとまるでおとなしくしていない。あちこちで暴力的なデモを起こして、警察はもう手が回らなくなっているんだ」


「前進党?」初めて耳にする話に、フリーデはわずかに興味を示した。


「申し訳ない。選挙のことで、よそからいらした方にお見苦しいところをお見せしました。このところ街が物騒なのも、すべてこのせいなのです」


「どうやら、選挙というものがあまりお好きではないようですね?」


「いえ……もちろん選挙は尊重しています。軍人の義務は人民の意志に従うことであり、選挙はその意志の体現です。私の言葉に選挙を汚すような響きがあったのなら、謝罪させてください」彼は厳粛な面持ちで言った。


「軍人でいらしたんですか?」


「お恥ずかしい話ですが、私は特勤局の局長です。特勤局は共和国の警察組織の中でも特殊な部署で、危険度の高い犯罪の処理と秘密結社の足取りの調査を専門としています。半ば軍の流れを汲む、いわば軍事組織でして、所属する者は皆、軍の階級を持っているのです」グロスはしみじみと言った。


「現大統領ドミトリーは部下の汚職スキャンダルで批判を浴びており、再選はまず望めないでしょう。それで前進党の支持者が街頭で抗議しているのです」


「共和国には八つの省がありますけど、現大統領を支持しているのはもう筋金入りの二省だけ。ドなんとかって人は、もう目がありませんね」ヴァージニアはティーカップを手に取り、そう一言評した。


「それでドリスさん、ここにはどのくらい滞在されるおつもりで?」そう言ってから失言に気づいた青年は、自分の頭を叩いて舌打ちした。


「しまった。つまりその、召使いにあなたの分の夕食も用意させるべきかどうか、という意味でして。私の言葉にご不快な思いをさせるところがあったのなら、謝罪させてください」彼は手を下ろし、厳粛な面持ちでそう言った。


「必要ありません。すぐにお暇します」


「どこへ?」ヴァージニアが尋ねた。


「ドリスのところへ……」彼は二人を見ながら答え、うっかり言い間違えた。「こほん、言い間違いだ……私には大事な用があって、政庁に行かねばならない」


「では、お二人のお喋りの邪魔はしないでおこう」グロスは暇を告げると、踵を返して立ち去った。


彼が出ていくのを見送ると、ヴァージニアはばつが悪そうに頬を掻いた。


「兄は自分の気持ちを言葉にするのが苦手で、よく言い間違えるんですよ」


「構いません。本当に、もう帰るところでしたから」


「ヴァージニア、ライカベサの貴族たちには詳しいですか?」


「ええ、ライカベサの社交界のことなら詳しいですよ。何かお聞きになりたいことでも?侯爵様から、押し合いへし合い這い上がろうとするお金持ちまで、たいていの方はよく存じていますよ!」ヴァージニアは自信たっぷりに小さな胸を叩いて請け合った。


「ボドナ伯爵のことをご存じですか?」


「ボドナ?かなり有名な伯爵ですよ」ヴァージニアはすぐに人差し指を立てて答えた。「あの人の人生って、なかなか励まされるんですよ。魔法の技と家産を頼りに、わずか数年で伯爵にまで上り詰めて……まあ、陰口を叩かれがちな婿入りのおかげではありますけど、今では十二伯爵家でいちばん有名な人なんですから!」


「もしかしてドリスさんは、ああいう人がお好みなんですか?禁断の恋がお好きなんですか……!?」ヴァージニアは突拍子もないことを言い出した。


「あの方のことを、もっと知りたいんです」


「もっと深く、ですか……?」ヴァージニアは少し考えた。「そうですね……昔、伯爵は北方の国の貴族の私生児だという噂がありました。当時は北方の訛りがあったそうですけど、もちろん今では分かりませんね」


ウェルズに関わるかもしれない情報は得られたが、フリーデには宴会で耳にしたことについて、まだ幾つか疑問が残っていた。


「共和国の貴族には、公爵の位はないんですか?侯爵は耳にしましたが、公爵というのは聞いたことがなくて」


「ええ、公爵の位は護国公アトランテ様のために取ってあるんです。あの方が跡継ぎを残さずに亡くなられてからは名誉称号になって、名誉ある功績を挙げた共和国大統領だけが、議会からこの称号を授けられるんです。前大統領は威望が足りなくて、議会で提案を否決されてしまいました」


「ライカベサの貴族の爵位が一段低いからといって、私たちを見くびらないでくださいね!他の国の公爵と我が国の侯爵は、実力でいえば同格なんですから!」この話になると、ヴァージニアは真剣な顔で言った。


「なるほど。護国公という公爵の位があるから、共和国の貴族は等級が一つ少ないわけですね?」


「そう考えていただいて間違いありません。聖アトランテがこの制度を推し進めたのは、貴族の数を減らして、貴族勢力が膨れ上がって共和国の政体を揺るがすのを防ぐためなんです。あの方が設計した体制では、貴族院が衆議院の法案を否決できるのは、三分の二の票を集めたときだけ。でもですね、効果はいまひとつで。何しろ今では貴族免死権法案まで通ってしまいましたから!たとえ国家反逆でも、高級貴族は死刑にならないんです!」


「では、これが私の最後の質問です」


フリーデは礼を述べてから、ミード子爵から贈られた小箱を懐から取り出した。そっと宝石箱の蓋を開けると、中に収められた華麗な宝石が姿を現した。


「この宝石にどれほどの価値があるのか、私には分からなくて。ヴァージニアさん、鑑定していただけますか?」


「お任せください。宝石についても、私なりに研究していますから!」


ヴァージニアが白い手で箱を開くと、中から深い青の美しい光があふれ出した。ネックレスの中央で輝く宝石を見つめた彼女は、最初こそ呆然としていたが、すぐに驚嘆の色を浮かべた。


「この宝石……相当な値打ちものですよ……!」ヴァージニアは怪物でも見るような目でフリーデを見た。


「中央に嵌め込まれているのは『海淵幻沫』。少し前の競売で、七千金券という高値がついた装飾品です……!」


七千金券あれば、平民一人がぶどうの小作農と田畑、屋敷を備えた伝統的な荘園を買い取れる。無一文の平民を、たちまち上流階級の騎士爵へと押し上げるほどの額だ。


「どこで手に入れたんですか?ドリスさん……?あなた、そんなにお金持ちだったんですか?」


「いえ……これは人からいただいたものです」ヴァージニアの話に、フリーデも内心小さく驚いていた。今の彼女の稼ぎでは、巻物を六年書き続けて、ようやくこの宝石一つ分になる計算だった。


「誰ですか……!こほんこほん……」その話を聞いて、噂話好きのヴァージニアは飛び上がらんばかりになったが、すぐにはしたないと気づき、慎みを取り繕うように軽く咳払いした。「失礼を承知でお尋ねしますけれど、ドリスさん、一体どなたがこんな贈り物をぽんと贈れるほどの度量をお持ちなんです?兄のように堅物で礼儀にうるさい人でも、結婚のときにこれほど高価な指輪を贈れるかどうか……!」


「ミード子爵です」


ヴァージニアは顎が外れんばかりに驚いた。


「あの人が……これをあなたに?」


「はい。私も驚いています。何もしていないのに」フリーデもいささか困惑した様子だった。


もっとも、彼女の疑問に答えが返ってくることは、当然なかった。

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