第十六章 宴会
「ドミニクは……私の探している人を見つけられたの?」彼女は次の目標を予備事項の中から引き出した。
「ドリス嬢、お待ちください!」
偽りの姓で呼ばれ、フリーデは足を止めた。この姓は、ウェルズが適当にサイコロを振って四を出し、頭文字をDにすると決めて、その場ででっち上げたものだ。
振り返ると、呼び止めたのは、以前彼女を舞踏会に招いた青年だった。ミード子爵といい、前進党候補ドミトリーの甥で、ライカベサ全体でも名の知られた人物である。
振り返った彼女の姿に見惚れ、青年はしばし呆然とした。やがて我に返ると、慌てて大声で怒鳴りつけた。
「この愚かな使用人どもが!ドリス嬢は賓客だと言いつけておいたはずだ!招待状がなくとも入れるのだぞ!」
罪のない従僕はそんな言いつけなど聞いた覚えもなかったが、そこは心得たもので、慌てて腰を折って詫び、続けざまに自分の頬を力いっぱい張って謝意を示した。並の者なら、この落差ゆえの格別な厚遇に好感を抱いたかもしれない。
「もう結構です。そんなことはやめてください」
だが、どれほど手の込んだ手口でも、相手を間違えれば何の役にも立たない。彼女はそんなことには一切構わず、手を伸ばして、自らの頬を打つ従僕の手首を掴んだ。従僕は、まるで鋼鉄を流し込んで固められたかのように、自分の手がぴくりとも動かないと感じるばかりだった。
「顔が腫れているではないか。それでどうやって表の顔が務まる?下がってよい。代わりの者を探して、お前の持ち場につかせろ」
ミード子爵は手を振って従僕を下がらせると、自分はフリーデを伴って宴会場へと入った。
宴はすでに始まっていた。暖かな黄色い燭光が大広間を満たし、左手の奥では四人の楽士が手にした楽器で柔らかな古典曲を奏でている。会場にはおよそ四十人余りの客がおり、誰もが着飾って全身を宝石で飾り立てていた。右手には長卓がしつらえられ、さまざまな趣向の美味佳肴が並んでいる。
「まず何か召し上がりますか?」青年は熱心に勧めたが、フリーデは周囲に視線を巡らせるばかりだった。
「お腹は空いていません」
「ここには帝国のものから教廷のものまで、あらゆる料理を揃えています。お望みとあらば、滅んだ古共和国の料理まで再現してみせますよ!」
ミード子爵は熱っぽく語ったが、彼女はそれを聞き流していた。
「ここに激能石の情報をお持ちの方がいると聞いたのですが?」
「もちろん、もちろん。これだけの人がいるのですから、その鉱石の噂を耳にした者もいるでしょう。ですが、せっかく宴に来たのですから、まずは楽しまれては?ご一緒に一曲踊って、それから一緒に探しに行く、というのはいかがです?」
「ええ」
彼女は少し考えた。ミード子爵の紹介があれば、より効率よく情報を探れるはずだ。
ちょうど一曲が終わり、ゆったりとした三分ほどの簡単な曲が流れ始めた。踊りの心得はなかったが、ステップは難しくなく、身体能力だけで十分ついていけた。
一曲踊り終えると、フリーデは激能石の情報を尋ね始めた。だが宴の客の中に、この石の最近の流れを知る者は一人もおらず、どこに在庫があるのかすら聞き出せなかった。
「実に残念です。これだけの会場で、この石を知る者が一人もいないとは。私のほうでも、部下によく探らせてみましょう」
会場中を尋ね回っても何の手がかりも得られず、ミード子爵も残念そうに言った。
「それはありがとうございます」
何の手がかりもないと見て、フリーデは宴を辞そうとした。だがその時、ミード子爵が精緻な彫刻の施された檜の箱を取り出した。
「美人には良き玉が似合うもの。ドリス嬢、この宴の記念として、どうかこの贈り物をお受け取りください」
彼女は木箱を受け取って開けた。中に収められていたのは、なんと貴重なサファイアのネックレスだった。深海のような幽藍をたたえ、光を受けると、その奥に夢幻めいた星の輝きが点々と浮かぶ。まるで水底から幾重にも立ちのぼる泡のようだった。
「私は何もしていませんから、贈り物をいただくのは気が引けます」
木箱を閉じると、彼女は眉ひとつ動かさずにそう答え、箱を相手のほうへ押し返した。
欲もなく求めるものもないフリーデにとって、宝石など何の役にも立たない。
「お気になさらず。ほんの私の気持ちですから。この手の宝石なら、うちの倉庫にまだ五、六個も転がって埃を被っていますよ。あそこで錆びさせておくより、あなたに差し上げたほうがいい。どうかお納めください」さりげなく富をひけらかし、子爵は得意げに言った。
彼が宝石をこれほど安物のように言うので、フリーデはさほど貴重な品ではなく、金券数枚で買える程度の物なのだろうと思った。それに、むやみに人の申し出を断るのも良くないと考え、頷いて受け取ることにした。
「では、いただきます」
「ドリス嬢……!」立ち去ろうとした彼女を、ミードが呼び止めた。
「何でしょうか?」
「もう一つお尋ねしたいのですが」彼は少し照れくさそうに笑った。「ここ数日のうちに、お時間はありますか?ぜひ私の両親と一緒に夕食を、と思いまして」
これは情報を得る格好の伝手になりそうだと考え、フリーデは承諾した。
「構いません」
ちょうど宴の従僕が御者と馬車を呼んできた。木箱を手にした彼女は自分の馬車まで来ると、乗り込んで帰路につこうとした。
「このネックレスを売ったら、ウェルズに知っていることを話させるだけのお金になるの?」揺られる馬車の中で、フリーデはそう考えた。
「たぶん、無理なんじゃないか」
彼は金で買収できるような人間には見えなかった。




