第十四章 後始末
「前に言った通りだ。俺たちが協力すれば、こいつなど何ほどのこともない」
顔を上げると、自信に満ちた笑みを浮かべたウェルズが歩いてくるところだった。もっとも、やや青ざめた顔色のせいで、その言葉はいくらか説得力に欠けていた。とはいえ事実は彼の言う通りで、彼らはすでにこの悪魔を打ち倒したのだ。
「顔色が良くない」
「お前が吸い上げる魔力を少し減らしてくれれば、自然と良くなるさ」
「だが今回は、確かにずいぶん助かった」ウェルズはそう言った。最後のほうでは、フリーデの魔力はすでに尽きており、吸い上げていたのはすべてウェルズのものだったのだ。
フリーデは、彼が書類を手にしていることに気づいた。
「手に持っているのは何?」
「終末救贖者についての報告書だ」少し間を置いてから報告書を書類袋にしまうと、彼は尋ねた。「どうやってドミニクに本当のことを吐かせたんだ?」
「どうやって?」
彼女は過去の情報をたどり、自分が騙されたあの日に起きたことをかいつまんで話した。
「なるほど。馬鹿正直さが幸いして、浮浪児の警戒心を解いたわけか。たまには少し抜けているのも役に立つものだな」ウェルズは彼女の話の顛末に声を上げて笑った。
「それは純真って言うの。他の女の子のことを、もっと優しい言葉で言えないわけ?」片手を腰に当てたサンドラは、見ていられないとばかりにウェルズの毒舌にため息をついた。
ウェルズは鼻を鳴らしただけだった。
「少なくとも俺は、彼女から金を取ったりはしない。お前が無駄にした分は情報料ってことにしておく。こうなると分かっていたら、『イチゴジャム』にあれほど払うこともなかったな。役に立つ情報は一つもなし、まるごと無駄金だ」
「イチゴジャム」は抗議の声を上げた。「私の情報って、調べるのすごく大変なんだからね!」
「そのくせ、こいつが狂化することすら掴めていなかっただろう。俺が奥の手を残しておいたからよかったものの、でなければ今日はどうなっていたか分からんぞ」
「じゃあ君は悪魔の血液検査なんてできるわけ?それに、君が残しておいた奥の手って私のことでしょ。だったら奥の手を残しておいたのは私のほうじゃない?」
二人がしばらく言い合っているうちに、周囲の安全を確かめ終えたジョージは、もう彼らに別れを告げようとしていた。
「そろそろ頃合いですね。私の仲間たちが、もうじき斬り込んでくるはずです……」
そもそも彼は、ウェルズたちと道を同じくする者ではないのだ。
「私が彼らを引き離しますから、君たちはその隙に逃げてください」
茶髪の少年は、次第に小さくなっていく外の戦闘音に耳を澄ませた。仲間の安否もかなり気がかりなのだろう。皆の返事を待たずに身を翻し、門扉へと駆けていった。
「今回は見逃してあげますが、覚えておいてくださいよ!次に会った時は手加減しませんからね!はっはっはっは……!」
遠ざかっていくジョージの声は、それでもしっかりと捨て台詞を残していった。
「待って……私、用が……」フリーデは手を上げて呼び止めようとしたが、少年はすでに大広間から遠く離れていた。彼女の魔力では、敵に追いつくこともできない。
「あの修道士、なんで悪役みたいな台詞吐いてるわけ」サンドラはその背中を見送りながら、そう評した。
「知るか」ウェルズは肩をすくめた。
聖職者たちが来る前にと、ウェルズは大広間にある値打ちのありそうな物を回収し始めた。
「お前の剣は綺麗だな……散り星をちりばめたような幽藍の光を放つとは」
物色しながら、ウェルズは傍らの銀髪の少女に声をかけた。
「幽藍の光?」彼女は剣を握る自分の手に目を落とした。「これは空間掌握の応用。斬撃に小範囲の空間の歪みを付加して、殺傷力を高めるもの」
過去の戦闘経験を思い返しながら、彼女は手短に説明した。
「昔、まだ九階の実力があった頃は、実体を持つ幽空燦光を凝集させて、あらゆる攻撃に鎧も護盾も無視させ、敵を直接傷つけることができた。斬撃を転送したり、凝滞させたり、複製したりもできたし、今から思えば信じられないようなことをいくつもやってのけていた」
「そいつは悪かったな。俺の能力を全部使っても、お前に四階の力を与えるのがせいぜいだ」
フリーデはそこで言葉を切った。
「あなただけのせいじゃない。私の魔力補充機能もかなり損傷しているから。でも、いちばん重要なのは……」
言い終えぬうちに、その麗しい顔に戸惑いの色が浮かんだ。
「いちばん重要なのは?」ウェルズもつられて首をかしげた。
「魔力が薄くなった」
その言葉に、ウェルズは何気なく呟いた。
「どうやら、いわゆる『超凡衰弱』は本当らしいな」
ひとしきり物色したところで、ウェルズはまだ壊れていない低級の杖を二本見つけた。杖を使えば、環位も魔力消費も上げずに法術を超魔化できる。この二本なら金券十数枚にはなるだろう。
鷲魔の死体自体も、極めて価値のある素材だった。切り刻まれた心臓はともかく、眼球は薬剤の代用品になり、脳は儀式の供物に使える。彼はそれらを切り取り、密封箱に収めた。
そのとき、不意に魔力の痕跡が生じた。振り向いた彼らの目に映ったのは、陰影騎士が自ら召喚門を開き、陰影次元界へ帰っていく、まさにその瞬間だった。
「自分で門を開けられるなら、なんで俺に開けさせたんだ?」あの時はフリーデの空間制御力まで借りて、召喚門を無理やりこじ開けねばならなかった。それを思い出し、ウェルズは内心でぼやいた。
ただその一方で、ウェルズは自分がこの陰影騎士に印記を刻まれたことにも気づいていた。目を閉じて浅い瞑想に入ると、その印記が魂の内に潜んでいるのが分かる。どうやらこれに触れさえすれば、召喚の際にこの陰影騎士を呼び出せるらしい。
「面白いじゃない……初めて見た」サンドラは腰に手を当てて門扉を眺めていた。
ジョージを呼び止めようとして果たせなかったフリーデは手を下ろし、皆の視線を追った。去っていく陰影騎士の姿と、次第に閉じていく召喚門。ふと、ずっと前にウェルズと出会った時、彼が陰影護盾という魔法を使っていたことを思い出した。
「陰影……陰影魔法……」
忘れ去られていた何かの記憶が、水面に浮かび上がろうとしている気がした。
「陰影魔法を使う条件……確か……」
演算を続けていた彼女が、唐突に一瞬固まった。
「陰影と契約せし者は、死して陰影に帰す」




