第五章 専制派の宴
夜はすっかり更けていた。
この辺りの通りには平らな白石が敷き詰められ、両側に並ぶ店のショーウィンドウが、魔宝石と高価な織物のきらびやかな光を照り返していた。
ウェルズはよく知っていた。この華美な光景がもたらす直截な衝撃は、帝都に出てきたばかりの田舎者なら誰であれ心を奪われるに十分だ。だが束の間の眩惑が過ぎれば、彼らの多くは階級という名の見えない壁の前で、底知れぬ絶望へと落ちていくのだと。
「身分に見合わぬ欲望は、人に破滅を招く」ウェルズは馬車の窓辺にもたれ、流れ去る街の賑わいを眺めながら、低く呟いた。
この都市では世の中のあらゆるものが買える。金さえあれば、の話だが。
馬車はクラブの堂々たるアーチ門の前で止まった。赤い絨毯を敷いた階段の上では、糊の利いた制服の従僕が数名、薄氷を踏む思いで貴賓をもてなしている。驚いたことに、最前列で客を迎えているのは、胸に輝く勲章を下げた男爵その人だった。
「下級貴族に接待をさせるとは……専制派のやり方は、確かに並外れている」ウェルズは内心で冷笑した。
彼は襟を整えて階段を上った。時間から考えて、フリーデはもう中にいるはずだ。
ウェルズが魔法の波動を少しばかり漂わせて身分を示そうとした矢先、男爵のほうが目ざとく歩み寄ってきた。その熱っぽい視線は、ウェルズの手首に釘づけになっている。
「おお!あなた様の腕時計は、まさに稀世の逸品ですな!」男爵は興奮気味に声を上げた。ウェルズの袖口から何気なく覗いた腕時計の文字盤では、微細に彫り込まれた赤い竜が、噛み合う歯車の合間で炎を吐いているかのようだった。「炎の真竜シリーズでしょう?この火を噴く赤竜の彫りからして、間違いなく名作『極怒竜嚎』!あなた様のような貴賓をお迎えできるとは、当クラブの誉れにございます!」
ウェルズは悠然と笑みを返した。相手が目利きの貴族なら、かえって手間が省けるというものだ。
「この時計、それほどの品なのですか?大切な友人から贈られたものでしてね」彼は眉を上げ、気のない調子で尋ねた。
「もちろんですとも!帝国では、身分の象徴といえばまず腕時計、次いで銃です。ただ時計は眺めるだけで、面白みに欠けるのが難点でして。どうぞ中で何発か的を撃っていってください!」男爵は熱心に手で中を示した。「ここには世界中の最高級の銃器が集まっております。それどころか……奇械の聖階が造り上げた名銃『破砕年華』まで収蔵しているのです!都市一つを滅ぼせる、奇跡の銃ですぞ!」
「ほう?それほどの武器とは。ぜひご紹介いただけますか?」ウェルズは渡りに船とばかりに水を向けた。
男爵は声を低め、目に畏敬の色を浮かべた。「破砕年華は、寿命を削ることに特化した銃です。その弾丸『歳月の精華』は、五階の時間魔法で繰り返し鍛え上げねばなりません。銃口が吐き出すのは硝煙の炎ではなく、混沌とした時の乱流。一瞬で都市一つ分の人間を老いさせることさえできる……普通の弾を込めただけでも、撃たれれば寿命を強制的に奪われるのです。防ぎようがない——だからこそ崇められているのですよ」
ウェルズは内心わずかに身構えた。寿命を狙う攻撃は極めて高階の魔法領域だ。通常の防御を無視するこの手の攻撃手段なら、なるほど鎮国の宝と呼ぶにふさわしい。
とはいえ、彼は的を撃ちに来たわけではない。二言三言適当にあしらうと、ウェルズは連れのシャーロットを伴って応接間へ足を踏み入れた。
彫刻を施した沈木の扉を押し開けると、芳醇な酒と高級煙草の香りがむっと押し寄せてきた。
贅を尽くした穹窿の大広間だった。黒白のメイド服の侍女たちが銀盆を手に行き交い、盆には帝国各地からかき集められ、芸術品のように切り分けられた珍味と、とりどりの銘酒が並んでいる。
大広間の両側には柔らかな虎皮のソファが置かれ、豪奢な装いの男女が深く身を沈めて、気怠げに戯れ合っている。彼らのまとう華やかな衣装は灯りを受けて魔法鍍金の光をきらめかせていた。両側の壁には精緻な彫刻を施した胡桃材の陳列箱が掛けられ、値もつけられぬほどの魔法銃器がずらりと並んで、ビロードの敷き布の上で冷たい金属の光沢を放っていた。
少年はその光景を見渡した。このクラブが指の隙間からこぼすほんのわずかな屑だけで、下城区の住民何千何万を養えるだろう。これが貴族というものだ。無限の権力と極度の頽廃、その具現。
ウェルズは素知らぬ顔で隅の席に腰を下ろした。
大広間の中央では巨大な真鍮の自動ピアノが休むことなく動き、鍵盤がひとりでに水の流れるように上下して、心を撫でつけるような優雅な旋律を奏でていた。
「美しい旋律だ……この音色には、まず間違いなく情緒を安定させる魔法が仕込まれているな」ウェルズは胸の内でつぶやいた。
行き交う人影の合間に、フリーデの姿が見えた。見知らぬ女冒険家と連れ立って、少し離れた席に座っている。
フリーデは端然と腰掛けており、彼女をここへ誘った連れのビアンカもその隣にいた。
「わあ!ここってまるで貴族の見本市じゃん!一番上なんて侯爵までいるし!」ビアンカは目を輝かせてきょろきょろと見回し、肘でフリーデを小突くのも忘れなかった。「結婚は女にとって二度目の生まれ変わりなんだから、あんたもしっかり算盤はじかなきゃ!金持ちの婿を捕まえれば、残りの人生は寝て暮らせるんだからね!」
「……」フリーデはそっと目を伏せたまま、しばらく黙っていた。
その時——
ピアノの音が、ふつりと途切れた。
自動ピアノの鍵盤が、華やかなパッセージの途中で不意に凍りつく。最後の一音は宙に吊られたまま、いつまでも落ちてこなかった。
大広間の談笑はまず一拍途切れ、それから潮が引くように見る見る静まっていった。誰が静粛を求めたわけでもないのに、皆が申し合わせたように口をつぐむ。ある夫人はグラスを唇に当てたまま動きを止め、ある子爵の手は、知らず腰の装飾用の短銃を押さえていた。
名状しがたい胸騒ぎが、誰の心の底からも音もなく滲み出してくる。
「諸君、聞こえましたか?」
低く耳に心地よい声が、ピアノの傍らから響いた。いつの間にか、シルクハットをかぶり右目に片眼鏡を掛けた紳士がそこに立ち、白手袋の片手をそっとピアノの蓋に載せている。
「私が申し上げているのはピアノの音ではありません」彼は親しげでありながら底の知れない微笑みを口元に浮かべて、場内を見回した。「音が止まった後、諸君の心の底に浮かんだ、あの一抹の……不安のことです」
人々は顔を見合わせた。
「先ほどの旋律には、安定心神の魔法が混ぜてありました」紳士はあっさりと認めた。罪のない手品の種でも明かすような口ぶりだった。「それが止まった途端、皆さんは自らの本当の鼓動を聞いたのです——警戒、値踏み、隣にいる見知らぬ者への疑い。先ほど銃把を押さえた御方、あなたの直感は実に正直だ。恥じることはありません」
名指しされた子爵がばつの悪そうに手を引っ込めると、押し殺した笑いがさざめいた。だがその笑いには、隠しきれない気まずさが滲んでいた——あの一瞬、武器に手を伸ばしたのは決して彼一人ではなかったのだから。
「自己紹介をお許しください」紳士はシルクハットを脱ぎ、人々に向かって優雅に一礼した。「第一皇子のクラブへようこそ。私はそのイデオロギーの宣揚者、ホッブズです。今夜、諸君とお話ししたいのは、まさに先ほどの一抹の不安、その正体です」
彼は身を起こすと、片手を上げて大広間の両側をゆっくりと薙ぐように示した——その手振りが、壁一面に並ぶ銃器の上をなぞっていく。百挺を超える名銃が、灯りを受けて冷ややかに光っていた。
「諸君は考えたことがおありですか。なぜ人は大金を投じてまで、こうした人殺しの道具を集めるのか?『暗黒森林』にまつわる伝説を、諸君は耳にしたことがおありでしょうか?」
ウェルズはソファにもたれたまま、わずかに手を上げた。「大きな鳥と、高い鳥と、小さな鳥の話ですか?」
「その童話も面白いのですが、私がお話ししたいのはそれではありません」ホッブズは穏やかに首を振った。その声がコントラバスのように大広間に響き渡る。「法の支配のない暗黒森林の中では、猟師は誰もが弾を込めた銃を握り、息を殺して忍び歩いている。己の存在を晒した生命は、何であれたちまち暗がりの銃口に引き裂かれる。あの森では、『地獄とは他人のことだ』というのが永遠の鉄則なのです」
大広間の灯りが、いつの間にか誰かの手で幾分落とされていた。周囲を見回した人々は、遅ればせにぞくりと寒気を覚えた——
自分たちは今まさに、正真正銘の暗黒森林の中に座っているのではないか?壁の銃は、どれも弾を込められるのだ。
「では、この伝説の背後にある法則が何なのか、皆さんは考えたことがおありですか?」ホッブズの視線がゆっくりと場内を撫でていく。「もっと単純な場面に置き換えてみましょう。国家が生まれる前の荒野で、見ず知らずの野人が二人、出会ったとします。さて、彼らにとって最善の付き合い方とは何でしょうか?」
場内は静まり返り、声を上げる者はいない。
ウェルズの目つきが鋭くなり、すぐさま口を開いた。「最善の方策は、相手を殺すことです」
「パチン!」ホッブズは嬉しそうに指を鳴らし、ウェルズに賞賛の眼差しを送った。「こちらの方は、まさしく正鵠を射ておられる!」
「どうしてですか?」フリーデがはっと顔を上げ、澄んだ金の瞳で壇上の男を見据えた。「彼らにとっての最善は、分業して協力し合い、一足す一を二より大きくすることのはずです!」
「はっはっはっは、おっしゃる通り!分業と協力は、確かにパイを大きくしますからね」
ホッブズは段を降りた。革靴が木の床に小気味よいリズムを刻む。まっすぐフリーデの前まで来ると、上から彼女を見下ろし——次の瞬間、何の前触れもなく手を伸ばして、彼女の手から白い絹の手袋を平然と抜き取った。
誰ひとり反応できないほどの早業だった。
フリーデはかすかに眉を寄せた。「返してください。それは私の手袋です」
「返さなかったら?」ホッブズは手袋を指先で弄びながら、二歩後ろへ下がった。「美しいお嬢さん、さて、どうなさいます?」
「警察に届けます」
「ほう?」ホッブズは眉を跳ね上げると、くるりと振り返り、両腕を広げて満場の貴族に向かって朗々と問いかけた。「諸君!私は衆目の前で、このお嬢さんの持ち物を奪いました!この場に義侠の士はおられませんか。立ち上がり、彼女のために公道を通そうという方は?」
居並ぶ紳士淑女。
杯を掲げ、興味深げに見物する者。口元を隠し、意味の知れない忍び笑いを漏らす者。それ以上に多くは、虎皮のソファに身を預けたまま、オペラでも観るような目つきでこの一幕を眺めていた。
立ち上がる者は一人もいなかった。
「ご覧になりましたか、お嬢さん」ホッブズは向き直った。その声は残酷なまでに優しい。「警察は遠く扉の外、法は人の心の中までは入ってこられない。今この瞬間、この大広間は荒野なのです——荒野には警察もいなければ、義を見て動く通りすがりもいない。いるのは観客だけ。さて、この手袋は誰のものでしょう?」
フリーデの眼差しが冷えた。「なら、奪い返します」
「その通りです」
ホッブズはふっと笑みを消すと、白い絹の手袋を両手で恭しく差し出し、深々と頭を下げた。「あなたの暴力による威嚇が功を奏しました。ですから、手袋はお返しします」
彼は身を起こして場内に向き直ると、一段と声を張り上げた。
「つまるところ、諸君は何を根拠に、ある物を自分のものだと主張するのか?手を放した途端、政府なき荒野では、いかなる道徳法則もその所有権を守ってはくれない。唯一の保障は——あなたの物を奪おうとする者がいれば、その喉を力任せに絞め潰すこと!これこそが、所有権の血塗られた真相です!」
「そして諸君が今夜ここに安んじて座り、財産や名誉、さらには自分自身の身体を所有していると主張できるのは、ただ一人の最高の仲裁者が、諸君に代わってあらゆる潜在的な盗人の喉を絞めているからに他なりません。このすべては、統治者の恩沢なのです」
「一理あるようには聞こえます」フリーデは手袋をはめ直したが、指先にはいつもより力がこもり、声にはまだ反発の色が残っていた。「でも、まだ説明していただいていません。あの二人の野人にとって、なぜ殺し合うことが最善なのかを」
「荒野には監督者がいない。だから財産は保障されず、当然、協力に必要な信頼の土台もないのです」ホッブズのレンズに冷たい光が走った。「荒野で互いに近づいたなら、最善の策は死闘です。眠っている間に、用を足している間に、振り向いた隙に、相手が刃を突き立ててこないと誰が保証できます?先手を取れば、安全を確保できるだけでなく、相手の資源も奪え、将来の競争者を一人減らすこともできる。これが『自然状態』です。まさかあなたは、あの荒野で見知らぬ者に無防備な背中を晒したいとでも?」
フリーデは言葉を失った。
魔導構体である彼女は、飲食も睡眠も必要としない。だが脆い人間に置き換えてみれば……不意打ちの利益は無限大で、不意打ちされる代価は死だ。この極端な囚人のジレンマの下では、どれほど善良な人間でも屠殺の刃を振り上げるほかない。
人間とは、これほどまでに恐怖に縛られた卑劣な生き物なのか?仲裁者がいなければ、人間の生は孤独で、野蛮で、短いものにしかなりえない。魔力で駆動する彼女の論理思考は、人間ならではのこの残酷な推論に、とっさに反駁できなかった。
「じゃあ……その状態から抜け出す方法はあるの?」シャーロットが手を上げ、無邪気に沈黙を破った。
「いい質問です」ホッブズは褒めるように笑ったが、すぐには答えなかった。
彼は手を上げ、大広間の奥へ向かって軽く指を鳴らした。
重い側門がゆっくりと開いた。礼服をまとった二人の銃工が、厳粛な面持ちで黒檀の長い箱を担いで入ってきて、自動ピアノの上にしっかりと据えた。箱の蓋が開いた刹那、魂が震えるほどの魔法の威圧があたりに満ちた——
深紅のビロードの敷き布の上に、全身銀灰色の長銃が静かに横たわっていた。銃身には糸のように細い時の乱流が流れ、目に映るたび、その紋様は老いと新生の間を巡り続けているかのようだった。
「破砕年華……」誰かが思わず低く声を漏らした。
先ほどまで見物を決め込んでいた貴族たちが、一斉に息を呑んだ。最も近くにいた数人などは、思わず身を引いたほどだ。一瞬で都市一つを朽ちさせ、灰に変えてしまう奇跡の銃なのだから。
「諸君、緊張なさる必要はありません」ホッブズの指先は銃身の一寸ほど上に浮かんだまま、決して触れようとしない。「皆さんに一つだけ伺いたい——都市一つを滅ぼせるこの銃は、今この瞬間、危険でしょうか?」
死のような静寂。
「危険ではありません」ホッブズは自問自答し、一語一語区切るように言った。「なぜなら、これは一挺しかないから。なぜなら、これは諸君の誰の手にもないからです」
彼はついに種を明かした。その声が大鐘のように穹窿の下に轟く。
「これこそが今夜の主題——専制王権が存在することの必要性です!唯一の特効薬は、人々が自ら殺人の権力を差し出し、復讐の権力を差し出し、千万の人の手に散らばった千万の銃を鋳潰して唯一の一挺とし、絶対的な第三者に譲り渡すこと。そのすべての暴力を受け取った者こそ、最初の君主なのです!」
「自衛まで差し出すの?」シャーロットが彼の耳元で小さく尋ねた。「じゃあ誰かが私を殺そうとしたら、抵抗しちゃいけないの?」
「あいつの本ではできる」ウェルズは手首の腕時計を回し、目は壇上から離さなかった。「死刑囚が刑場に引き出されて、もがこうが逃げようが、不義にはならない。人が契約を結ぶのは生き延びるためだから、契約の中に『生き延びることを放棄する』とは書けない——あいつが自分で引いた線だ」
「じゃあ、あの人は今……」
「あの一節を呑み込んだのさ」
シャーロットは目を瞬かせた。「どうして?」
ウェルズは答えず、顎をしゃくって、満場の仰ぎ見る視線を一身に集める壇上の男を示した。
ホッブズの声が再び高まった。「この譲渡は不可逆です。さもなければ、社会はたちまち血塗られた荒野へと崩れ落ちるでしょう。主権者はすべてを決断する力を持ち、人々は互いに契約を結んで共に主権者の意志に服し、互いの履行を監督する——これは万人の万人に対する集団的な約束なのです!」
ウェルズは隅から冷ややかに口を挟んだ。「必ずしも君主制である必要はないでしょう?議会や民選政府でも、同じ役目は果たせますよ」
「主権は唯一でなければならない!」ホッブズはきっぱりと言い切り、黒檀の箱に手のひらを重く押し当てた。「そちらの方、あなたはこの銃を鋸で三百に切り分けて、三百人の議員に一切れずつ握らせるとでも?権力が分かれれば、内部に亀裂と内輪もめが生じる。抑止力がひとたび弱まれば、人民は政府に守ってもらえないと感じ、ついには主権が解体して、殺し合いの自然状態へ逆戻りするのです!」
フリーデには分かった。ホッブズの言外の意味——人民はただ盲従すればよく、疑ってはならない、ということだ。
「……あまりにも馬鹿げています」少女は眉を固く寄せたが、反撃に適した言葉が見つからなかった。
ホッブズは彼女のためらいを見抜き、手を上げて窓の外、帝都の方角を指した。「馬鹿げていますか?今の帝都の混乱こそ、何よりの証明ではありませんか?主権が切り分けられ、帝位を狙う者たちが互いに足を引っ張り合い、帝都にはすでに無政府の兆しが現れている。速やかに唯一の主権者を降臨させなければ、自然状態の全面的な復活は目前に迫っているのです!」
彼はフリーデに向かってかすかに笑った。「主権者の決断は正しくある必要はなく、ただ存在すればよい。たとえ暴政を敷いても、その害は万人の万人に対する果てしない戦争よりはるかに小さい。ましてや帝国がこれほど長く統治してきて、人民が一斉に立ち上がって覆したことはない。それは彼らがこの秩序を黙認している証ではありませんか?」
フリーデは口を開いたが、声が出なかった。
最悪の秩序でも、無秩序よりはまし——その言葉が一本の釘となって、まだ形にもならない彼女の反論をことごとく喉の奥に打ちつけた。
社会契約を破り捨てたらどうなるか、彼女は想像してみた。世界はきっと自然状態に逆戻りし、誰もがいっそう悲惨な殺し合いに陥るだけだろう。
「では、私の講演はここまでといたしましょう」
ホッブズは長い箱の方へ優雅に手を振った。銃工が蓋を閉じ、威圧が消える。ほぼ同じ瞬間、真鍮の自動ピアノが再び目を覚まし、安定心神の旋律がまた流れ出した。
大広間の張り詰めた空気が、見えない手でゆっくりと撫で伸ばされていくようだった。貴族たちは肩の荷が下りたように息をつき、続いて熱烈な拍手が沸き起こった。口々に語り合っては、惜しげもなくホッブズの学識を褒めそやす。
誰も気づいていない——一度失い、再び取り戻したこの安心こそが、あの男の理論一式に、最も完璧な注釈を添えていることに。
ウェルズは暗がりで鼻で笑った。応策局と帝国警察が麻痺していなければ、こいつがここで人心を惑わす出番などあるものか。
人心を惑わすといえば——終末救贖者の狂徒どもがすでにこの都市に潜り込んでいる、そんな気配を彼はぼんやりと感じていた。もしそうなら、連中が誰と手を結ぶのか、今のところ見当もつかない。
彼の考えはさらに及んだ。「第一皇子は皇帝から後継者に指名されてこそいないが、継承順位は筆頭で、貴族との関係も良好だ。即位すれば、この至高無上の君権を借りて財閥や学者、賤民を押さえつけ、貴族の欲望を満たしてやるのだろう」
ウェルズはホッブズの言説をさらに突き詰めた。といっても、「鋸で三百に切り分ける」という比喩を胸の内で裏返し、その裏側をちらりと見ただけだ。
銃を鋸で切る必要はない。三百人で引き金を引く一人を共に推すこともできるし、撃つ時機をただ一つに取り決めることもできる——それでも銃は、一挺のままだ。
この点は、『リヴァイアサン』にもはっきり書かれている。主権は一人に帰することも、一つの合議体に帰することもできる。議決の後に口を開くのが同じ一つの声でありさえすれば、主権は依然として完全なのだ。著者は君主制の必要性を一度も証明していない。自分は君主制を好む、と述べただけだ——君主の私利と国家の利益が最もよく一致すると考えたからである。
好み。それを今夜、あの男は必然と言い換えてみせた。
「ウェルズさん」シャーロットが耳元で小さく尋ねた。「その三百人は、一緒に同じ一挺の銃を握れないの?」
ウェルズは首を傾けて彼女を見やった。白竜の直感はいつもこうだ。煩雑な修辞をすべてすり抜け、一足飛びに一番柔らかいところを踏み抜く。
「握れる」彼は声をぎりぎりまで落とした。
「じゃあ、どうしてあの人は言わないの?」
「ここが第一皇子のクラブだからだ」
表向き、ウェルズは今も共和派の人間ということになっている。この集まりに共和派の目が紛れているかは分からないが、疑いを招かぬよう、ひとまず好奇心から傍聴に来たただの客を装い、理論に気分を害して憤慨したふうを見せながら、シャーロットを連れてその場を後にした。
一方フリーデは、元の席に座ったまま、眉間に晴れない霧を漂わせていた。
講演が終わると、貴族たちは従僕に案内され、意気揚々と射撃場へ銃を選びに向かった。時折、くぐもった銃声と笑い声が聞こえてくる。ビアンカもとうに貴族の輪に紛れ込み、身振り手振りを交えて冒険譚を語っていた。山場に差しかかると小さく悲鳴を上げ、さりげなく隣の紳士の腕に手を添える。
ホッブズはひとり、少し離れた一人掛けのソファで、悠然と赤ワインを味わっていた。
フリーデは深く息を吸うと、意を決して立ち上がり、彼のもとへ向かった。
それに気づいたホッブズはグラスを置き、立ち上がって作法どおりの紳士の礼をした。「こんばんは、美しいお嬢さん。まだお名前を伺っておりませんでしたね」
「フリーデとお呼びください。ホッブズさん、いくつか伺いたいことがあります」
「喜んで。あなたのような傾国の美女の関心を引けたのは、今夜の講演にとって何よりの光栄です」ホッブズは快く頷いたが、腰を下ろそうとはせず、身を横に向けて射撃場のほうを手で示した。「ただ、立ったまま空論を語るのはスコラ哲学者の悪い癖です。せっかく銃器クラブに来たのですから——何発か付き合っていただけませんか?」
射撃場は大広間の側翼にあり、細長い廊下の突き当たりに陶製の的がずらりと並んでいる。硝煙のかすかに苦い匂いが、ここでいちばん濃い。従僕が華麗な装飾の燧発式短銃を二挺、恭しく差し出した。ホッブズは慣れた手つきで銃身を検めると、一挺を銃把を向けてフリーデに渡した。
「先ほどあなたは、人々は死を免れるために主権を差し出すとおっしゃいました」フリーデは銃を受け取り、単刀直入に切り出した。「では、君主が平民の処刑を命じたらどうなるのです?生命を守るという主権の意義は、すっかり崩れてしまうのではありませんか?」
「ちっちっち」ホッブズは指を振ると、腕を上げて狙いを定めた。流れるような動作だった。
「バン!」
遠くの陶製の的が、乾いた音を立てて砕け散った。
「すべては君主に帰する」彼は銃を下ろし、硝煙の中で底知れぬ笑みを浮かべた。「あなたが生きて飢えと恐怖を免れているのは、すべて君主の賜物です。命を与えたのが君主である以上、それをいつ取り上げようと君主の自由。しかも寛大にも、遺産はあなたの身内に残してくださる——これを仁君と呼ばずして何と呼びます?」
この「君が臣に死ねと言えば、臣は死なねばならぬ」という論理に、フリーデは強い拒絶と隔たりを覚えた。
彼女はすぐさま反駁した。「それなら、専制君主制だけが唯一の合法的な制度ということになってしまいませんか?たとえあなたの言う通りだとしても、仁君と暴君、賢君と暗君の間には大きな差があります。人々がより小さな代価で愚かな暴君を倒し、慈悲深い賢君を迎えられたなら、君主制の統治はかえって強固になるのではありませんか?」
「主権は冒瀆を許さず、主権を揺るがすことはそのたびに主権そのものを踏みにじることだ——と私が言っても……あなたはきっと受け入れないでしょうね」
ホッブズは正面からは答えず、フリーデに銃を構えるよう促すと、自分は半歩下がって、世間話でもするような口調に変えた。
「フリーデリカさん、狙いをつけながら、ひとつ考えてみてはいかがです——ある『想像上のより良い制度』のために、『辛うじてまだ回っている現在の秩序』を打ち壊すことに、価値はあるでしょうか?」
フリーデは銃を上げた。照星の先で、白い的は微動だにしない。
「旧制度を壊せば、必ず暴力と流血と混乱が生まれ、今を生きる人々の幸福は損なわれる。歴史が証明しています。秩序が入れ替わるたび、新しい秩序が訪れる前には必ず混乱期が来る……そしてその混乱期は、おぞましい恐怖に満ちている。想像の中に『あるかもしれない』というだけのより良い暮らしのために、そんな代価を支払う価値があるでしょうか?それどころか——新しい制度が旧制度よりもさらに暴虐非道である可能性も、十分にあるのです」
照星がかすかに揺れた。
フリーデは思わず真剣に考え込んだ。未来の人々のより多くの幸福のために、今の人々のより少ない幸福を犠牲にする——それは正しいのだろうか?
ホッブズはじりじりと詰め寄り、その声が蛇のように彼女の耳へ潜り込む。「たとえ価値があるとおっしゃるにしても、あなたに彼らの代わりにそれを決める資格があるのですか?静かな暮らしを望み、進歩の代価になどなりたくない人もいる。あなたの大義のために身を捧げろと、彼らに強いるのですか?あなたが歴史の車輪を押して旧制度を轢き潰すなら、彼らは無関係ではいられず、車輪に一顧だにされず轢き殺されるだけ。では、彼らを死なせたあなたに罪はないと?そんな選択をしたあなたが、なおも無私の正義を名乗れるのですか?」
「バン!」
銃声が炸裂した。弾は的の縁をかすめて大きく逸れ、後方の防護壁に当たって、ぱっと火花を散らした。
フリーデは銃を握ったまま、いつまでも下ろさなかった。銃口から細く立ち昇る硝煙が、視界をかすませる。
彼女には答えられなかった。ほかならぬ彼女自身が、かつてこの手で車輪を押し、シルヴィを轢き殺したのだから。
「手が震えていますよ」ホッブズの口調には嘲りのかけらもなく、むしろ穏やかでさえあった。「気を落とさないでください。ついでに言えば——今を犠牲にして未来を得るよりも、人はその逆のほうがずっと得意なのです。未来のより多くの幸福を犠牲にして、今のより少ない幸福を手に入れる。たとえば財政という道具を使って、永遠に返せないほどの巨額の借金をし、後の世の子孫が知恵を絞り、衣食を切り詰めて返してくれるのを当てにする、といった具合に」
「なぜですか?」フリーデは衝撃に金の瞳を見開いた。「人はどうしてそんなことを?」
ホッブズは直接には答えず、手にした短銃を持ち上げた。銃口を上に向け、黒々とした施条を彼女に見せる。
「フリーデリカさん、政治の実践において、人の価値は何で決まるか、ご存じですか?」
「どれだけの利益を生み出したかで決まります」フリーデは反射的に答えた。
「もちろんです。ですが、まだ続きがある——」ホッブズは銃身を軽く叩いた。「どれだけの破壊を為しうるか、でも決まるのです。銃の価値が、その口径で決まるように」
「そして未来の子供や赤子、まだ生まれていない人々——彼らの口径はゼロです。破壊する力など何ひとつ持たず、その権益は今を生きる者の良心に委ねるほかない。民選政府は今日の有権者に責任を負えば済むのですから、喜んで先の分まで食い潰すでしょう。だが長く政権を握り、まして代々受け継いでいく専制君主は、かえってそうはしない——将来の臣民もまた自分の臣民であり、今日借りた金は、結局自分で返すことになるのですから。どちらかを厚く遇してどちらかを薄く扱うこともできず、長期の利益を重んじるしかないのです」
彼女はうつむいた。金色の瞳が明滅している。何かを考え込んでいるようだった。
ややあって、彼女は再び顔を上げ、魂の奥底にずっとまとわりついていたあの問いを口にした。
「ホッブズさん、あなたは正義とは何だと考えますか?」
それは彼女がずっと追い求めてきた目標だった。ほかの人の答えを聞いてみたかった。
ホッブズはしばし彼女を眺め、ゆっくりと首を振って苦笑した。「その問いは大きすぎます。率直に申し上げて——あなたはご自分がどの正義について問いたいのかさえ、まだはっきりしていないのでしょう。ですから、最も広いところからお話しさせてください」
「自然状態には、正義というものは存在しません。我々が今口にしている正義とは、本質的には、他人があなたに下す評価なのです」
「正義とは、法が定められた後、君主の法に従う行いのことです。法律、道徳、正義——これらはみな政府ができてから生まれたもので、自然状態には存在しない。だからこそ——統治者の利益にかなうものが正義となる。必ずしも、それほど神聖なものではないのですよ」
「ただ、最も原始的で、誰もが認める広い意味での正義なら、確かにあります」ホッブズは手にした短銃をゆっくりとビロードの敷き布に戻した。「歯には歯を、目には目を。殴られたら殴り返す。これは自然法が我々に授けた権利です。そしてこの正義——あるいは復讐と言ってもいい——こそが、人々が自然状態から抜け出すことを可能にするのです」
少女の胸に、激しい嫌悪がこみ上げた。白い絹の手袋をはめた両手にかすかに力を込め、先回りして問う。「どうしてですか?」
「たとえば、Aという人にBという子がいて、CがAを殺したとしましょう。最も理性的に考えれば、子Bは復讐を諦め、憎しみの渦に巻き込まれるのを避けて、理性的に生きていくべきです。しかし普通なら、BはきっとCへの復讐を選ぶ。そしてそれを見越したCは、そもそもAにうかつに手を出せない」
「これが最初の主権者が執行した法の範型であり、聖階の魔法使いが好き勝手に振る舞えない理由でもあります。人は完全に理性的にはなれない——ですが、起こりうる復讐を予期するからこそ、犯罪の確率は下がるのです」
「そして、人々から復讐の権力を取り上げ、主権者が代わってそれを執行する。これこそが私の著作『リヴァイアサン』の主要な命題です。ですから、私は修復的司法には賛成しません」
言い終えると、ホッブズは不意に半歩踏み出し、白手袋の手で、銃を握るフリーデの手首をそっと支えた。わずかにずれていた照星が、的の中心へと戻される。
「肩の力を抜いて。息を止めて」
「バン!」
遠くの陶製の的が粉々に砕け散り、破片が灯りの下で雪のように舞った。
「お見事」ホッブズは手を放して一歩下がり、少女に向かって小さく笑った。
「正義への憧れは良いことです。僭越ながら申し上げますと——あなたと私は、同じ種類の人間です。ただ、あなたはまだ蒙昧の中に閉じ込められている。大胆に予言しておきましょう。その道を歩き尽くした時、あなたは私のような人間になっているはずです」
硝煙がゆっくりと散っていった。
呪いめいたその予言に、彼女は骨の髄まで凍るような寒気を覚えた。手の中で冷えていく銃身よりも、なお冷たかった。
あの夜、彼女は果たしてウェルズを止めるべきだったのか?
もしウェルズの復讐の行いが、専制派の目に映るあの歯には歯をという正義の体現だったのなら……彼女は、果たして彼を止めるべきだったのか?
彼女の正義は今なお空中楼閣のままで、理論の支えを何ひとつ持たなかった。
葉巻と芳醇な酒と権力の傲慢に満ちたこのクラブに、彼女はもうこれ以上留まる気になれなかった。
平静を装ってホッブズとビアンカに別れを告げると、フリーデは一人、帝都の夜の闇へ歩み出した。
クラブの重い扉を押し開けると、外の蒼穹はすでに一面の灰色に沈んでいた。
冷たく細かな雨が音もなく降り、上城区の豪奢なネオンの光をぼんやりと滲ませている。
フリーデは階段の上に立ち、白い絹の手袋をはめた右手をゆっくりと差し出した。
冷たい雨粒が柔らかな布地を打ち、見る見るうちに濃い染みを幾重にも広げていく。彼女は顔を上げ、泣いているかのような灰色の空を視界いっぱいに受け止めた。冷たい魔法の身体の奥から、かつて覚えたことのない、人間のものである無力感が湧き上がってきた。
「使命が語る正義とは……いったい、どんな姿をしているのだろう?」
雨音がしだいに強まり、少女の低い呟きを呑み込んでいった。




