第6話 帝国軍の追跡
ベルデンを出発してから数時間。
戦艦は海域を越え、果てしない砂漠を横断し、波打つような縞模様の岩肌が連なる奇岩地帯――ザウェーブへ差しかかっていた。ここを抜ければ、連合国首都エストリアは目前。あとはリリーを送り届けるだけ――そう思っていた。
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帝国軍の戦闘機が縦横無尽に飛び交い、戦艦の周囲では迎撃砲が絶え間なく火を噴く。砲撃の衝撃で巨大な船体がわずかに震え、乗組員たちの怒号と報告が通信回線を埋め尽くしていた。
「左舷上空、敵機接近!」
「迎撃班、進路を維持しろ! 戦艦に近づけるな!」
爆煙の向こうでは敵艦隊の砲火が岩肌を削り、砕けた岩片が雨のように降り注ぐ。
俺もまた、その乱戦の渦中にいた。操縦桿を強く握りしめ、敵弾を紙一重でかわす。
(リリーを戦艦に残してきて正解だったな)
ベルデンを出発する前、俺はリリーを戦艦に置いてきた。
『えーー、私もそっちがいいー』と駄々をこねられたが。
岩壁の陰から飛び出した二機の戦闘機が視界を横切る。
見覚えのあるシルエットに、俺は強く操縦桿を握りしめた。
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通信機から冷徹な上官の声が聞こえた。
「わかっているな。今回は結果を持ち帰れ」
クロは操縦桿を強く握りしめる。
『了解』
短いやり取りのあと、二人は同時に加速した。
「リゼ」
「分かってる! 今度こそ落としてやるよぉぉぉぉ!」
そう叫びながら飛び出してきたのも束の間、機銃が連続して火を吹き、弾幕が空間を埋め尽くす。俺は急上昇してかわす。だが、その死角へ滑り込む影。
もう一機。
冷静に進路を読み、逃げ場を塞ぐように射撃してくる。上下左右、どこへ逃げても挟み込まれる。
「クソッ」
息をつく暇もない。
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戦艦内。
遠くで砲撃音が響き、船体を震わせる衝撃が床から伝わってくる。通路では乗組員たちが慌ただしく駆け回っていた。リリーは部屋でみんなの無事を祈っていた。祈ることしかできなかった。
――その時だった。
どこからともなく、かすかな音……いや、声のようなものが耳に届いた気がした。
「………」
「………………」
言葉なのか。
耳を澄ませても、何を言っているのかは分からない。けれど、誰かが自分を呼んでいるような、不思議な声にも聞こえた。リリーは吸い寄せられるように立ち上がり、足は勝手に後方デッキへ向かってしまう。
その頃、戦艦のメインブリッジでは息つく暇もない攻防が続いていた。
「右舷前方、敵機接近!」
「迎撃部隊を回せ! 対空砲火を切らすな!」
艦内には警報が鳴り響き、通信士たちの報告が矢継ぎ早に飛び交う。
「艦長! 長距離ビームの発射準備完了しました! 友軍も射線上から離脱しています!」
艦長はレーダーに視線を走らせ、味方機が安全圏まで退避したことを確認すると、力強く命じた。
「よし。長距離ビーム、発射!」
轟音とともに主砲が閃光を放ち、巨大な光の奔流が敵陣へ向かって一直線に駆け抜ける。レーダー上では敵味方の光点が入り乱れ、艦長は刻一刻と変化する戦況へ矢継ぎ早に指示を飛ばし続けていた。その最中、一人の乗組員が青ざめた表情で叫ぶ。
「艦長! リリーさんが後方デッキに出ています!」
「なんだと!?」
それは敵にも気づかれた。
戦艦の周囲を旋回していた帝国軍の戦闘機が、後方デッキに立つ一人の少女へ視線を向ける。パイロットは照準装置を拡大し、その顔を確認すると口元を吊り上げる。
「こちら、ターゲットを確認」
帝国軍側でも通信機を通して情報が共有された。
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同時刻。
「くっ、二人相手はちときついな」
俺は苦戦していた。
一機の猛攻をかわしたと思えば、今度はもう一機が死角から正確無比な射撃を浴びせてくる。回避に専念するだけで精一杯で、反撃の隙がまるでない。岩壁の隙間を縫うように急降下し、そのまま急上昇。背後で弾丸が岩肌を砕き、砕石が尾を引いて宙へ舞い上がる。
「まだまだぁ!」
リゼが歓声にも似た叫びを上げ、さらに距離を詰めてくる。
「くそっ!」
機体を横転させながら辛うじてかわすが、その先にはやはりもう一機が待ち構えていた。完全に連携されている。このままでは押し切られる――。
一度戦艦の近くまで下がり、態勢を立て直すしかない。
そう判断して進路を変えた、その時。
爆炎に照らされた後方デッキの端に、小さな人影が浮かび上がった。
戦場にいるはずのない少女。見間違えるはずもない。
「リリー……何をしてる!」
操縦桿を切り、戦艦へ向かう。
しかし。
「なによそ見してるのぉぉぉぉ!!!」
帝国軍のパイロットが執拗な連射を浴びせてきた。
機銃掃射が後方デッキを容赦なくえぐる。金属が悲鳴を上げ、床材がつぶれる、ついには爆発音とともに足場そのものが崩れ落ちた。
そして。
リリーの身体が宙へ投げ出された。
「――っ!!」
考えるより先に機体を急降下させる。
「リリーーッ!」
腕を伸ばし、開いたコックピットへ彼女を引き込んだ。
間に合った。安堵する暇もなく、機体は制御を失う。
轟音とともに、俺たちは深い谷底へ吸い込まれていった。




