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Dragon Night  作者: -満月-
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番外編② 父親として

 休息三日目の朝。


 窓から差し込む柔らかな陽射しとは裏腹に、食卓にはどこか重い空気が流れていた。

 原因は分かっている。明日、俺が部隊へ戻るからだ。


「ソフィー、お菓子でも買いに行くか?」

「いらないっ!」


 ぷいっと横を向かれた。


「じゃあ、久しぶりに本でも読んであげようか」

「自分で読むもん!」


 ぴしゃりと返され、俺は苦笑いするしかない。

 向かいに座る妻は肩をすくめ、その隣のリリーも困ったように目を丸くしていた。


「……いつも、こうなんですか?」


 小声で尋ねるリリーに、俺は小さく頷く。


「出発の前日は毎回こんな感じだ。気にしないでくれ」


 妻がソフィーの頭をそっと撫でる。


「ソフィー、パパを困らせちゃ駄目よ」

「だってやだもん……」


 小さく漏れた本音に、食卓が静まり返った。

 リリーは何か声を掛けようとして、結局何も言えず口を閉じた。


 ——————


 夕暮れ。


 俺はソフィーの部屋をそっとノックした。

 返事はない。

 扉を開けると、ベッドに座ったソフィーが窓の外を眺めていた。


「ソフィー」

「…………」


 隣に腰を下ろすと、しばらく沈黙が続く。

 やがてソフィーがぽつりと呟いた。


「行かないで」


 その一言だけで、十分だった。

 幼い娘が何を思っているのか、痛いほど伝わってくる。俺はそっと頭を撫でた。


「パパは軍人だから、お仕事をしなくちゃいけない」

「やだ」

「国を守るのが仕事なんだ」

「でも、ソフィーはパパにいてほしい」


 胸が締めつけられる。

 それでも、伝えなければならない言葉があった。


「パパが一番守りたいのは、ソフィーとママなんだ」


 ゆっくりと言葉を選ぶ。


「国を守ることは、この町を守ること。そして、この家で待っていてくれる二人を守ることなんだよ」


 ソフィーは黙ったまま俯いていた。


「大丈夫。またすぐ帰ってくる」


 小さな手が、おずおずと俺の服の袖をつかむ。


「……ほんとに?」

「ああ、約束だ」


 その言葉を聞いて、ようやくソフィーは小さく笑った。


 ——————


 翌朝。

 まだ夜明け前の静かな時間、俺は眠るソフィーの枕元へ歩み寄った。

 規則正しい寝息を立てる娘の髪をそっと撫で、その額に静かに口づけを落とす。


「行ってくる」


 返事はない。

 それでも、その寝顔を見るだけで十分だった。

 静かに部屋を後にし、階段を降りると、旅支度を終えたリリーが待っていた。

 玄関の扉を開ける。夜明けの冷たい空気が街を包み、通りにはまだ静寂が残っていた。

 家族の待つこの家へ、必ず帰ってくる。

 その決意を胸に、俺はリリーとともに再び空へ向かうのだった。

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