第4話 束の間の休息
帝国軍との戦闘を終えて無事帰還したが、機体は損傷が激しく、飛行継続が困難と判断された。
「修理には最低三日は必要だ」
整備士の報告を聞き、オスカーはため息をつく。俺の相棒は修理のため、最寄りの整備基地へ回されることになった。
その基地がある町の名は――ベルレン。
俺が幼い頃から暮らし、今も妻と娘が住む故郷だった。石畳の坂道と、温かな煉瓦造りの家々が並ぶその町は、戦場の緊張を忘れさせてくれる美しい町である。
「久しぶりに帰れるな」
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思わず足取りが速くなった。
見慣れた石畳。色こそ失われている世界だが、何十年歩いても忘れない故郷の景色がそこにあった。
家の扉を開けた瞬間。
「パパーっ!」
小さな娘が勢いよく飛び込み、そのままオスカーの胸に抱きつく。
「ただいま」
自然と笑みが浮かぶ。
娘もにっこり笑顔をこちらに向ける。
(あぁー、幸せだな)
そしてその横から、ひょこっとよく知る少女が顔を出した。
「おじゃましまーす!」
元気よく手を振るリリー。
固まるオスカー。
「……なんでいる?」
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事情を聞けば艦長に――
『せっかくだから泊めてもらいなよ。ついでに観光案内もしてもらいな』と言われたらしい。
通信機越しに抗議するオスカー。
『細かいことは気にするな。仲を深めるのも任務だ』
「任務に家庭訪問は含まれてません!」
『では頼んだ』
プツンッ
一方的に通信は切れた。
結局折れたオスカーは、深いため息とともに客間へ案内する。
「好きに使っていい。ただし夜更かしは禁止だ」
「はーい!」
返事だけは立派だった。
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夕食の席は久しぶりに賑やかだった。
妻のエレナの手料理を囲み、娘は終始笑顔を浮かべている。
「パパいつまでいるの?」
「三日くらいかな」
「やったー!」
無邪気な歓声に、リリーは思わず頬を緩めた。
こんなふうに誰かと食卓を囲み、笑い合う時間は久しぶりだった。
胸の奥が、ほんのり温かくなる。
すると、娘のソフィーが今度はリリーに向かって
「ねえねえ」
「なぁに?」
「リリーおねえちゃんって呼んでいい?」
少し驚いたあと、リリーは優しく笑う。
「もちろん」
「やったー!」
ソフィーは両手を上げて喜ぶ。
「ねぇ、リリーおねえちゃんもパイロットなの?」
「うーん、私は違うかなー」
リリーがいる分、いつもより食卓が賑やかになった。
そして翌日はゆっくり休養を取り、その翌日に町を案内する約束をした。
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翌々日
今日は町をリリーに案内する日だ。
その話をしたら「私も行く!」と、娘が言い出して三人で行くことになった。
俺は玄関前でソフィーとリリーを呼んだ。
「ソフィー、リリー、そろそろ行くぞ」
『はーい』
二人仲良く返事が返ってきた。
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パシャッ、パシャッ。
ソフィーは首から下げたお気に入りのカメラを構え、石畳や道端の花壇、店先の看板へ次々とレンズを向けていく。このところ写真を撮るのが彼女のマイブームらしく、外出すると必ず持ち歩いているのだ。
「何を撮ってるの?」
リリーが不思議そうに聞くと。
「うーんとね。いろいろだよ。
おやつに食べたケーキとか、ママとお買い物に行ったときに見つけたニャンコとか。見たものいっぱい残せるから、楽しいよ!」
リリーは少し羨ましそうにカメラを見つめ、ふっと笑った。
「ねぇ、私も撮って」
「うんっ」
ソフィーは嬉しそうに答えた。
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市場が開かれた広場は、多くの人でにぎわっていた。色のない布や果物が並ぶ景色でも、人々の笑い声だけは鮮やかに響く。
娘はリリーと手をつなぎ、あちこちへ駆け回る。
「リリーお姉ちゃん、何見たい?」
「お腹空いてない?」
「アイス食べよう!」
「あっちのお店も行こ!」
ソフィーはすっかりリリーに懐いていた。
すると突然、娘が声を上げた。
「あれ見て!」
指差した先には、一枚の大きな絨毯。
そこには巨大な翼を持つ怪物と、剣を掲げた人影が織り込まれていた。
「この大きな翼の怪物って何だろう?」
「これはドラゴンだよ」
店主が優しく教える。
「連合国に古くから伝わる伝説さ。
昔々、人々を苦しめたドラゴンを勇者が討ち倒したという話でね。この剣を持った人物がその勇者だ」
娘は目を丸くする。
「ほんとにいたの?」
「さあねえ。伝説だから誰にも分からないさ」
オスカーも興味深そうに絨毯を見つめる。
「連合国にそんな伝説があったとは知らなかった」
隣を見ると、リリーは何も言わずその絨毯を静かに見つめていた。
表情は穏やかなままだったが、どこか遠くを見るような目をしていた。
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帰り道。
今度は娘が俺と手をつないで歩いている。幸せな時間だ。
「ドラゴンってどれくらい大きいのかな?」
「空を飛べるくらいだから、家より大きいかもしれないな」
「なんで悪いことしたの?」
「さあ……何か理由があったのかもしれないな」
父と娘の他愛ない会話が続く。
そして、少し後ろを歩くリリーはその背中を黙って見つめていた。
家の前まで戻ったところで、娘が突然声を上げる。
「そうだ! みんなで写真撮ろう。ママ呼んでくるね」
ソフィーがバタバタと家の中に入り足音が遠ざかっていく。
その姿を見送りながら、俺は何気なく口を開いた。
「すまんな、うるさくて」
「いえ、賑やかでとても楽しいです」
「そう言ってもらえると助かるよ。そういえば、リリー、家族は?」
「…………」
「リリー?」
「秘密です♡」
しばらくして妻とソフィーが家から出てきた。
近所の人に頼み、俺と妻、娘、そしてリリーの四人が並ぶ。
「はい、動かないで」
パシャッ
小さな音とともに、一枚の写真が切り取られた。
「現像できたら、リリーおねえちゃんにもあげるね!」
「うん。ありがとう」
リリーは嬉しそうに答えた。




