表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dragon Night  作者: -満月-
PR
5/6

番外編① 連合国軍最強部隊?

 帝国軍との戦闘を終えた戦艦は、静かに海を進んでいた。

 波も空も雲も、すべてが淡い白と黒の世界に溶け込み、景色だけ見れば平和そのものだった。


 格納庫の静寂に、工具の金属音だけが響いていた。

 その一角で、オスカーは自分の機体を見上げていた。

 装甲は各所が砕け、左肩は大きく抉れている。


「いやー、見事にボロボロだな。その機体」


 振り返ると、副隊長のカイルが笑いながら歩いてきた。その後ろには、部下のリオンが申し訳なさそうについてきていた。


「うるさい」

「褒めてるんだよー」

「どこがだ」


 オスカーが呆れたように返すと、カイルは肩をすくめた。


「で、どうだった? 帝国軍の最新型は」

「最新型?」


 その言葉に、オスカーは眉をひそめる。


「なんだ。気づいてなかったのか」


 カイルは苦笑した。


「お前が相手してた二機、あれ帝国軍の新型だぞ」

「……そうだったのか」


 戦闘中は目の前の敵を落とすことしか考えていなかった。性能が高いとは感じていたが、まさか最新鋭機だったとは。


「さすが世界屈指の軍事国家だよ。怖いもの作るねぇ」


 軽い口調とは裏腹に、カイルの表情は真剣だった。

 オスカーは機体から視線を外さずに尋ねる。


「それで、何しに来た?」


 少し不機嫌そうな声音に、今度はリオンが一歩前へ出る。


「艦長がお呼びです。メインブリッジまで来てくださいとのことです」

「……分かった」


 オスカーは短く返事をすると、そのまま格納庫を後にした。


 ——————


 慌ただしく動き回る乗員たちの中で、艦長だけはその場に留まっていた。そしてメインブリッジの扉が開くと同時に振り返り、待ち構えていたような笑みを浮かべる。


「ご苦労だった、オスカー」

「ありがとうございます」


 その隣には、保護対象であるリリーが静かに立っている。大型スクリーンには進路が映し出され、戦艦は修理拠点の都市ベルデンへ向けて航行中だった。


「損傷した機体の修理も兼ねて、しばらくベルデンへ寄港する」


 艦長は続ける。


「久しぶりに、家族に会ってくるといい」

「……本当ですか!」


 今まで表情の薄かったオスカーの顔が、目に見えて明るくなった。

 そんな姿を見たリリーは、小さく呟く。


「……家族」


 その一言は誰にも届かず、静かなブリッジの空気へ溶けていった。


 ——————


 昼食時。


 珍しく機嫌のいいオスカーの向かいに、カイルとリオンが当然のように座る。


「家族にお会いするのは、いつぶりですか?」

「半年くらいかな」

「いいなー。僕も早くチョコに会いたいです。

 この間、姉がテディベアカットにした写真を送ってくれて――ほら!」


 端末を差し出すリオン。

 そこに映っていたのは、クリーム色の毛並みにくりくりとした大きな黒い瞳が愛らしい小型犬。チョコはリオンの実家で飼われているポメラニアンだ。溺愛しているせいで、オスカーも何度となく写真を見せられていた。

 

「わぁ〜、かわいい~」


 …………?


 すぐ隣から聞こえた声に、オスカーは飛び上がった。


「っ!? ……いつからいた!」

「ずっといたよ?」


 何事もなかったように答えるリリー。

 その様子を見たカイルが吹き出した。


「家族に会えるって聞いて浮かれてたから気づかなかったんだろ」


 オスカーは咳払いをして椅子に座り直す。


「それで、この子が例のお姫様?」

「保護対象のリリーだ」


 ばっさりと訂正する。

 リリーは姿勢を正して小さく頭を下げた。


「リリーです。よろしくお願いします」

「よろしくね♪俺はカイル。アルディス隊の副隊長だよ」

「リオンです。よろしくお願いします」


 挨拶を終え、四人はそのまま食事を続ける。


 しばらくして、案の定というべきか、カイルが口元に笑みを浮かべながらリリーへ身を乗り出した。


「リリーちゃんは運がいいよ。俺たちに護衛されるなんて、そうそうないからね」

「え?」


 首をかしげるリリーに、カイルは得意げに胸を張る。


「実は俺たち、連合国最強の部隊なんだ」


 ――始まった。


 オスカーは無言でスープを口に運ぶ。


(自分で最強なんて言って、恥ずかしくないのか)

 そんな心の声など気にも留めず、今度はリオンが真面目な表情で続けた。


「そうですよ。特に隊長は、優れた戦果を挙げて何度も勲章を授与されています。それに、この艦も一度たりとも撃沈されたことがありません」

「二人とも、余計なことを言うな」


 オスカーが低い声で制すると、カイルは肩を揺らして笑う。


「またまた。帝国の最新鋭機に機体をボロボロにされたくらいで落ち込むなって」


 ぴくり、とオスカーのこめかみに青筋が浮かぶ。


(……こいつ)


 隣では事情の分からないリリーが、きょとんとした顔で二人を見比べていた。その後も他愛のない会話は続き、食堂には久しぶりに穏やかな笑い声が響いていた。


 ——————


 報告書を書き終えたオスカーは、一人で外部デッキに立っていた。

 風が髪を揺らし、波を切る低い振動だけが足元から伝わってくる。白黒の海を風が切り裂き、戦艦だけが静かに進んでいく。


 脳裏によみがえるのは、帝国軍の新型二機。

 正確な射撃。

 高速機との連携。

 そして、あの冷静な判断力。


「次に会ったら……勝てるか」


 独り言のように呟いた、その時。


「あっ、見つけた!」


 聞き慣れた声に、オスカーはため息をつく。

(うるさいのが来た)

 

「何してるの?」

「考え事だ」


 リリーは手すりに寄りかかり海を眺めた。


「綺麗だね」


(また適当なことを。色のない海のどこが綺麗なんだ)

 そう思いながらも口にはしなかった。


「それで、何しに来た?」

「あっ、そうそう!」


 リリーはオスカーの方へ向き直り、少し照れくさそうに笑う。


「ちゃんと言ってなかったから。

 守ってくれて、ありがとう」


 予想外の言葉に、オスカーは目を瞬かせた。


「……お前、何か企んでないか?」

「えへへ」


 リリーは可愛く笑ってごまかすだけだった。


 そして後になって、オスカーは知ることになる。

 ――あの時の嫌な予感は、見事に的中することを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ