第3話 エースパイロットの実力
空を切り裂くようなエンジン音が響く。
レーダーには複数の敵の位置を知らせる黒い点。
その中でも、二機だけ異様な速度でこちらへ接近していた。
そして
「見つけたぁぁ!!」
一機が一直線に飛び込んできた。
「速い……!」
機体を横転させて回避する。
普通なら牽制から入る距離だ。
だが敵はお構いなしに突撃してくる。
攻撃、回避、再突撃。
「随分と血の気の多いパイロットだな」
さっきまで編隊を組んでいた他の機体とは比べ物にならない。まるで獲物を見つけた猛獣だ。
「クロ! 邪魔しないでよ! これは私が落とす!」
『好きにしろ』
冷たい返答。
それだけで通信は切れた。
一方、少女――リゼは楽しそうに笑う。
「さあ、遊ぼうよ!」
普段の落ち着いた雰囲気はどこへ消えたのか。
声色も口調も別人のようだ。
機銃弾が機体の脇をかすめた。
「危なっ!」
荒々しい攻撃は続く。だが、それ以上に恐ろしいのは迷いがないことだった。躊躇なく距離を詰め、躊躇なく引き金を引く。
「だか生憎、まだ準備運動だ」
旋回しながら背後を取る。
照準が重なる。
「もらった」
発射。
リゼの機体が慌てて回避し、姿勢を崩した。
「くっ!?」
今度は逆にこちらが背後へつく番だ。
勝負あった。
そう思った瞬間だった。
警告音が鳴り響いた。
別方向から飛来した弾丸が主翼をかすめる。
「っ!」
慌てて回避する。
いつの間にか、もう一機が死角へ入り込んでいた。 無駄のない軌道に最小限の動きで最大の成果を狙ってくる。
直感する。
本当に危険なのは、あっちだ。
俺は咄嗟に雲の中へ逃げ込んだ。
霧が視界を覆い隠す。
「これで少しは撒けるだろ」
そう思った矢先だった。
雲を抜けた先に、一機の影が現れる。
「読まれた!?」
砲火が左翼を直撃し、火花と破片をまき散らしながら翼が大きく損傷した。左翼の出力が低下し、高度計の数字も一気に下がっていく。
『機体損傷。出力低下』
警告音が鳴り止まない。
「まずいな……」
なんとか姿勢を立て直そうとした、その時。
敵の機体がすぐ目前に迫る。
ハッチ越しにこちらを見据え、そのままリリーが乗る側へ接近してきた。
「見つけた」
静かな声でクロは言った。そしてキャノピーをわずかに開き、拳銃を構えた。狙いは機体の窓ガラスだ。
「近い近い近い! あっち行って!」
リリーが慌ててシートベルトを握りしめる。
(まずい、
あいつ窓を割ってこちらに飛び移るつもりか?)
このままでは、窓を撃ち抜かれ、リリーが奪われる。
俺は歯を食いしばった。しかし、機体はもう満足に動かない。回避も間に合わない。
――くっ、間に合わない。
そう覚悟を決めた、その時だった。
遥か後方。
水平線の彼方から放たれた一筋の超長距離ビームが、稲妻のように戦場を貫く。帝国軍機の目前をかすめ、空間そのものを切り裂いた。
「!!」
それと同時に見慣れた味方の戦闘機が次々と飛び込んできた。
「待たせたな!」
「隊長! 無事ですか!」
「あぁ……助かったよ」
敵戦闘機が離れたおかげで、俺はなんとか機体を持ち直した。
後方の戦艦から長距離砲撃が放たれ、帝国軍は陣形を崩した。クロは追撃を諦め、小さく息をつく。
『撤退する』
「えー! まだ戦いたい!」
『命令だ』
不満そうなリゼを引き連れ、二機は雲の向こうへ消えていった。
静寂が戻る。
俺は大きく息を吐き、操縦桿を握り直した。
「助かった……」




