第2話 謎の少女
帝国軍基地。
格納庫へ着陸した戦闘機から降りた兵士は、そのまま司令室へと足を運んだ。
「任務は失敗しました」
司令官の前で敬礼しながら報告する。
「理由を述べろ」
司令官は鋭い目つきで兵士を睨みつける。
「予想外の妨害です。連合国のエースパイロットと思われる機体が介入し、民間機の護衛につきました」
司令官は腕を組み、低く唸る。
「面倒なことになったな」
部屋の後方で、そのやり取りを黙って聞いている男女二人の影があった。
「……面白そうな相手じゃないか」
その口元だけが、わずかに笑っていた。
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「え? なんでよ?」
真剣な眼差しを向ける少女に、俺は首を横へ振った。
「面倒事は嫌いなんだ」
少女はぱちぱちと瞬きを繰り返す。
「こんな可愛い女の子を護衛できるなんて、普通は光栄じゃない?」
「悪いが、俺には妻と可愛い娘がいる」
「……そういう問題?」
「そういう問題だ」
少女は露骨に肩を落とした。
その様子を少し離れた場所から見ていた艦長が、大きくため息をつく。
「そこまでにしておけ」
ゆっくり歩み寄ってきた艦長は、俺の肩を軽く叩いた。
「この護衛任務、お前に任せる」
「お断りします」
「上官命令だ」
「横暴すぎません?」
「安心しろ。我々も準備が整い次第すぐ出発する」
安心材料になっているようで、全然なっていない。
俺が渋い顔をしていると、艦長は真面目な口調で続けた。
「彼女には、それだけの価値がある」
その言葉だけ残し、踵を返して去っていく。
「……分かりましたよ」
結局、軍人に拒否権などない。
改めて少女の方へ向き直ると――
「改めまして、リリーです。よろしくね♡」
その少女は、ふわりと一回転すると、可愛らしく敬礼のポーズを決めながら自己紹介をした。
人の気も知らないで……。
「オスカーだ。オスカー・アルディス大尉だ」
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戦闘機は巡航高度へ達し、安定飛行に入る。
しばらく静かになるかと思ったのも束の間。
「奥さんとはどうやって出会ったの?」
「突然だな」
「娘さんはいくつ?」
「10歳」
「どうしてパイロットになったの?」
「空を飛びたかったから」
「連合国でおすすめの料理は?」
「今それ聞くか?」
質問攻めに思わず頭を抱える。
そして今度はこちらから聞き返した。
「お前はなんでエストリアへ行きたいんだ?」
「保護してもらえるから」
「帝国軍に追われる理由は?」
「なんでだろう?」
リリーは首をかしげる。
そして悪戯っぽく笑って言った。
「可愛いから、かな♡」
「……」
「……」
(こいつ、ふざけてるのか?)
「えへへ」
笑っているその顔を見ていると、本気なのか冗談なのか判断がつかない。
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しばらく飛んでいると、リリーがポツリと呟いた。
「きれいだね」
「え?」
「空、きれいだね」
オスカーは前方を見上げ、小さく首をかしげた。
「そうか? ずっと白いだけだろう。まあ、多少の濃淡はあるから景色の違いくらいは想像できるがな」
「それでも、きれい」
(……変な奴だな)
その言葉に、俺の脳裏には幼い日の記憶がよぎった。
色彩に満ちた空。もう二度と見ることはできないと思っている青空。
ふと、疑問がわいた。
(まさか……こいつも知っているのか?
いや、まさかな。二十年以上も前のことだぞ。でも……)
「なあ、お前……もしかして――」
それを確認する前に、警報音が鳴り響く。
『敵影接近。数、八』
レーダーに次々と黒い点が映し出される。
「もう追ってきたのか」
リリーが窓の外を見つめる。
「多いね」
「問題ない」
俺は操縦桿を握り直し、口元をわずかに吊り上げた。
「これくらいなら準備運動だ」
急接近してきた帝国軍機を、一機、また一機と撃墜していく。
しかし、その中に二機だけ動きが明らかに違う戦闘機があった。
鋭く、迷いなく、まるでこちらの先を読んでいるかのような軌道。
俺は自然と笑みを浮かべる。
「……ようやく、退屈しない相手が来たか」




